コミックナタリー Power Push - 犬上すくね「恋愛ディストーション」

心くすぐる日常系恋愛マンガのマスターピースに 描き下ろし&未収録エピソード入り新装版!

ネタからエピソードへ、エピソードから物語へ

──それにしても、恋愛しながらその恋愛のことをマンガにするって、どんな感覚なんでしょうか。

いや、別に実名をさらすわけでもないし、これ実体験だよって告白することもなかったので、たいして気にならないですね。まあこのインタビューが世に出たら実体験だってバレるわけですけど、でも特に恥ずかしいとは思わないです。「みんなもすんだろ、これくらい」って思いながら描いてますから。

──でも彼氏に読まれたりしませんか、掲載誌が届いたりして。

インタビュー写真

読んでましたけど、嫌がった人はいないですよ。かといって嬉しがるでもないし……、「ああ、あれ書いたんだ」っていう感じ。あ、あと忘れてるのかもしれないですね、自分が言ったことを。作品になるまでタイムラグがあるから、作中のセリフが自分の言ったことだと忘れてて気づかないのかもしれない。

──なんだか犬上先生の恋バナを聞いている気分になってきました。

私、担当さんとの打ち合わせとかも恋バナばっかりですよ(笑)。

──それだけ身の回りの出来事をネタにしてるってことは、普段から書き留めたりしてるんでしょうか。ネタ帳みたいなのがあって。

ネタ帳って作れないんですよ。私みたいに実体験からマンガを描くタイプなら、ネタ帳は作ったほうが絶対良いんでしょうけど、なんか三日坊主になっちゃうんです。日記も続いたことがなくて。

──では実際に描くときは、話を考えながらネタを思い出す感じですか?

いえ、やっぱりネタありきですね。メインのネタを決めて、そこから肉付けして話を膨らませていく。

──ネタから話を膨らますっていうのがちょっと一般人には難しいんですけど、頭の中では、いったいどういう作業が行われてるんでしょう。

例えば描きたいネタがあったとして、そのやりとりが行われるということは、このふたりは何をしてるんだろう、どういう関係性なんだろう、どうしたらこのキャラの魅力が出せるかな、っていう具合に質問を広げていくんです。その答えが積み重なると、ストーリーとして形ができていく感じですね。「アリモト・チェインソウ」なんか、そんな感じでヒントがあって。

ディストーションっていうのは歪みのことだから

恋愛ディストーション

──マンガ家の小向井くんが、まほさんに想いを寄せている有元さんにチェーンソーで切り刻まれる夢を見るっていう。

元ネタになったのは、ナンバーガールの「イナザワ・チェインソー」という曲。ちょうどその頃よく聴いていて「チェインソー」という単語が、ガチってはまったんですよ。

──はまったというのは?

ディストーションっていうのは歪みのことだから、「恋ディス」はつまり「ねじ曲がった愛情表現」ということですけど、チェーンソーで切り刻むという行為はまさにぴったりだなって。しかもチェーンソーで切り刻むけど、右腕だけは残してあげて「マンガを書きなさい」って言うんです。それは自立した女性としての有元が見せる優しさかなと。チェーンソーというネタにそこまでの想いを込めることができたのは、なかなかよく合致したなって自分でも思いました。

──たしかに有元さんのキャラクターがよく伝わるエピソードだと思います。

恋愛ディストーション

とにかく「このシーンが描きたい」って思っちゃうんです。「ハイスクールガールバイバイ(新装版3集収録予定)」もその典型で、有元が1回だけ男の子と関係を持つという話なんですが、相手の男の子が押し倒した有元の目に彼の涙が落ちて、まるで有元も泣いてるかのように見える。そのシーンがとにかく描きたかったんです。有元は泣きたいんだけど、泣くほど弱い女ではない。でも心では泣いてるんだよっていうのを、男の涙によって表現したかった。そのシーンだけハッと思いついて、そこから膨らまそうって考えて描いた話ですね。

──ネタやエピソードに合わせて、キャラクターを表現していくんですね。

私、キャラクターを最初から作り込むタイプじゃないんですよ。以前、知り合いの作家さんに「犬上さんはキャラが育っていくタイプだよね」って言われて、ああその通りだなあと思ったんです。性格も設定も決まってなくて、ただ描きたいエピソードを重ねていったら、この子はこんなキャラだったんだっていうのがわかっていくことが多くて。キャラ設定とかキャラ表とか作ったことないですしね。

「恋愛ディストーション ①」 / 2011年3月18日発売 / 630円(税込) / 小学館 サンデーGXコミックス

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「恋愛ディストーション ②」 / 2011年4月19日発売 / 630円(税込) / 小学館 サンデーGXコミックス

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作品解説

未完の傑作が新装版で復活! 多くの読者をヤキモキさせた恋愛群像劇が、SUNDAY GX COMICS(通称ジェネコミ)の新レーベル「SUNDAY GX COMICS EXTRA」から蘇る! 新装版となった『恋ディス』には、各集、描き下ろしエピソード「日常を生きる」シリーズを収録!

「あいかぎ ②」 / 2011年4月19日発売 / 560円(税込) / 小学館 サンデーGXコミックス

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作品解説

胸キュン必至の連作短編集、第2集登場! 悩める人の心のカギをガチャンと開ければ、そこには「素敵なこと」が待っているはず!? 「素敵なこと」を探す少女・きいと、カギに変身できる能力を持った不思議な少年・ケン、2人の旅の行方は…!?

犬上すくね(いぬがみすくね)

プロフィール写真

11月11日福岡県生まれの女性。同人誌活動を経て、1992年ファンロード(ラポート)にて「水晶夜曲」でデビュー。以降短編を中心に活動するが、1998年ヤングキングアワーズ(少年画報社)に読み切りが掲載されたのち、同年ヤングキングアワーズLITE(少年画報社)にて「恋愛ディストーション」を連載開始した。2組のカップルの日常をほのぼのと描き注目されるが、2002年に同誌が休刊したのち、掲載誌を転々とした末の2006年に連載を休止した。一方でサンデーGX(小学館)にて「ラバーズ7」「エンジェル高校」を、まんがライフオリジナル(竹書房)では「ういうい♡days」を連載。思春期の初々しい恋愛を描き好評を博している。現在はサンデーGXにて「あいカギ」を連載中。