ラーメンは“面”で食べないとわからないことがある
──SUSURUさんは好きなキャラクターはいますか?
SUSURU 共感するのは間違いなく小泉さんですね。めっちゃいいこと言ってるんですよ。「ラーメンは食べたいときが一番の食べ時です」「深夜だろうと関係ありません」とか、わかるわー!って(笑)。あと、「動機や切っ掛けが何であれ 自らが美味しいと思えるラーメンに出会えたなら それはそれで僥倖です」ってセリフ。
鳴見 行列店の回ですね。
SUSURU そうそう。ラーメン屋さんを知るきっかけっていろいろあるけど、僕も「美味しいラーメンを食べてくれたらいいなー」くらいの気持ちでやっているのですごく共感できるセリフです。あと、小泉さんは本当にしっかり食べてますしね。リスペクトしちゃいます。
──「しっかり食べてる」って褒め言葉、生まれて初めて触れたんですが、どういう意味なんでしょう?
SUSURU 要点を押さえて食べているというか。ラーメンの話をするときに、先輩たちなんかはよく「点ではなく面で食べる」って言うんです。例えば、この地域のある有名店は行ったことがあるとしますよね。それは点で食べているということ。そこだけじゃなくて、周りのお店でも食べることによってその地域の雰囲気が掴める。
鳴見 わかるー!
SUSURU ラーメンってエリアごとに個性が出てくる。その地域性を理解するのが、面で食べるということです。鳴見先生も遠征とか行ったときに点でなく面で食べていると思うんです。だから、にじみ出てくるラーメン好き感がある。
鳴見 地域を代表する有名店だけ行ってもわからないんですよね。
SUSURU そう。いろんなお店を知ってるから偉いなんてことはないですけど、周りのお店まで食べないとわからないことがある。「小泉さん」の大阪遠征の話なんかはまさにそうですよね。あれはめっちゃ大阪を面で食べてる。
──確かに、あの回を読むと大阪のラーメン事情、ラーメン文化が見えてきますよね。
SUSURU そうそう、この回で登場した悠ちゃんのいとこの絢音さんもいいんですよね。年上の女性でフレンドリー。で、ノリよく付いてきてくれるじゃないですか。
──一緒にラーメンを食べに行くと楽しそうですよね。
SUSURU そうそう。しかもちゃんと食べてくれるでしょ? 僕も小泉さんと同じように、3軒とか4軒とか回ることあるんで、あんなに楽しそうに付き合ってくれる人がいたらうれしいです。
普通の感性を持ったキャラクターの大事さ
──鳴見先生はどうですか? 描いていて楽しいキャラクターは?
鳴見 やっぱり一番ナチュラルに描けるのは小泉さんです。楽しいというか、個人的に好きなのは担任の山田先生。本当はもっと出したいです。
SUSURU そうなんだ。
鳴見 唯一普通の感性を持ったキャラクターなので。
SUSURU 主要キャラはみんな変わってますもんね。
鳴見 そうそう。普通のリアクションができるのがいいんです。主要キャラはどうしても小泉さんに影響されて、少しずつラーメン道に染まっていく。そうじゃない、普通の人が新しいラーメンに触れたときの反応ってやっぱりすごく新鮮なんですよね。
──どのジャンルでもそうですよね。詳しくなるほど、いわゆる一般の人の感覚を忘れてしまうし、かけ離れてしまう。
鳴見 長く描いているとどんどんマニアックになってしまう。だから、普通の感覚に引き戻してくれるキャラクターって大事なんです。北海道から転校してきた乃愛ちゃんって子がいるんですけど、彼女は東京のラーメンをまったく知らない。そういう子が新しいラーメンに出会うときの反応とか。そういうキャラクターがいないと、新しい人が入ってきづらくなってしまう。
SUSURU でも、僕はうらやましいと思うこともありますよ。「小泉さん」って学園ものでもあるじゃないですか。学校ってほとんどの人が経験しているから、それだけで小泉さんたちに親近感が湧く。僕はよくも悪くも大人になってしまったから、高校生に扮したり、学生ノリを再現しようとしてもできないし、無理にやっても寒いものになっちゃう。キャラクターとしても「毎日ラーメンを食べている男」としてやっているので、親近感が湧くようなタイプではないんですよね。小泉さんは高校生っていう誰でも入りやすいキャラクターだから、ライトなラーメン好きも読みやすいし、ラーメン界の間口を広げてくれていると思います。
鳴見 私もYouTubeがうらやましいと思うことはありますよ。例えば、トッピングの全部載せとか。SUSURUくんもやってたよね?
SUSURU 最初の頃はやってましたね。最近もちょっとやりました。
鳴見 全部載せって大人じゃないとできない。日常の中では基本的にやらないじゃないですか。小泉さんのお金の出どころってけっこう謎なんですけど(笑)、それでも高校生という設定は大事にしているので、大人のようなお金の使い方はできないんです。小泉さんがチェーン店でトッピング全部載せをやるとしたら、きっかけは何だろうってなって悩んでしまう。こういう企画感のあるものはYouTubeならではだなと思います。
小泉さんはラーメン好きの“概念”
──新装版の刊行も始まりましたが、読み返すといろいろ懐かしかったり面白かったりすることもあるんじゃないでしょうか。
SUSURU ラーメンのトレンドもいろいろ変化がありましたしね。10年くらい前というと、煮干しを使った淡麗系がすごく流行った時期。きれい系のラーメンが900円くらいで出されるようになって、当時は高い!って言われてましたけど、今なら普通になりましたね。
──ああ、初期の頃の話を読むと、店内に描かれた値段見て驚きますよね。安い!って。
SUSURU そこが一番大きな変化かも知れないですね。安くてボリュームがあるラーメンもまた盛り返してきましたけど、いい素材を使った質の高いオーソドックスなラーメンを提供するお店も多くなった。
鳴見 あと、10年経ってるのでファッションの変化が……。
SUSURU ああ! 平成ファッションじゃなくなってる。
鳴見 まず女子高生は靴下の長さが変わってるので。実は今回、新装版は加筆修正でちょっと直してます。気になっちゃって。
SUSURU 今ってどんな感じなんですか?
鳴見 今は当時と比べると短いです。修正したものも今の着こなしからするとまだ長いんですが、直しすぎるのもどうかなと思ったので、ある程度にしました。女子高生のファッションは気になって仕方ないですね。
SUSURU それだけ聞くとおじさんの発言みたい(笑)。
鳴見 スマホなんかも全然違いますからね。同じアプリでも画面が変わっていたりするし。あえて直さなかったところもありますけど。
──それだけ長い間連載してきたんですもんね。10年経っても愛され続ける魅力ってどんなところにあると思いますか?
SUSURU やっぱり僕は小泉さんの魅力が大きいなと思っています。鳴見先生が憑依したかのような、1人でスパスパッとラーメンを食べに行く姿がいい。僕は読むときは勝手に鳴見先生の姿を重ねてしまってます。
鳴見 小泉さんって一応女子高生ではあるんですけど、年齢も出身地もわからないし、なんなら人間かどうかも怪しいところがある(笑)。
SUSURU ミステリアスですよね。
鳴見 ラーメン屋さんの一客として小泉さんを描くと最初から決めていたので。モブではないですけど、ラーメン屋さんで隣で食べているお客さんというような存在。ラーメンが好きな人だったら誰でも、性別も国も問わず共感できるような存在にしたいと思ってるんです。
──ラーメン好きの「概念」という感じですね。
鳴見 そう、まさに「概念」ですね。
SUSURU だからこそ共感するし、リスペクトできるんだと思います。
プロフィール
鳴見なる(ナルミナル)
マンガ家、イラストレーター。2013年にまんがライフSTORIA(竹書房)で、代表作となる「ラーメン大好き小泉さん」の連載をスタート。2019年に竹書房のWebマンガサイト・ストーリアダッシュ、2024年に月刊少年チャンピオン(秋田書店)へと連載の場を移す。「ラーメン大好き小泉さん」は2015年に早見あかりを主演に迎えドラマ化。2018年にはアニメ、2020年には“二代目”として桜田ひよりを主演に迎えたドラマ第2期が放送された。また2014年にヤングエース(KADOKAWA)で連載開始し、2015年から2023年まで月刊ヤングマガジン(講談社)で連載されていた「渡くんの××が崩壊寸前」は、アニメ化が決定している。
SUSURU(ススル)
青森県弘前市出身、ラーメンYouTuber。ラーメンのレビューを中心に投稿するYouTubeチャンネル「SUSURU TV.」を運営。“毎日ラーメン健康生活”をテーマに、ラーメンをすする動画を毎日配信している。厳選したラーメンを集めたフードフェス「SUSURUラーメンフェス」を過去3回、富山、福井、愛知で開催。過去に訪れたことのあるラーメン屋を検索できるマップ「SUSURUラーメンMAP.」を公開中。