コミックナタリー Power Push - 鳴見なる「渡くんの××が崩壊寸前」

ラブコメの主人公に猛烈アピールするヒロインたち!その行為は◯?×? 恋愛カウンセラー・アルテイシアが紐解く

「ラーメン大好き小泉さん」で知られる鳴見なるが描くラブコメ「渡くんの××が崩壊寸前」。かつて裏切られた幼なじみ、憧れの同級生、小学4年生のブラコン妹の3人に振り回される男子高校生・渡直人の姿が描かれている。ヤングエース(KADOKAWA)から月刊ヤングマガジン(講談社)に発表の場を移し、このたび2巻が発売された。

コミックナタリーでは主人公の渡直人に時にさりげなく、時にエキセントリックに愛をアピールするヒロインたちに注目。恋愛カウンセラーのアルテイシアを招き、彼女たちの行動が本当に異性に有効なのかを判定してもらった。

取材・文 / 三木美波

登場人物

渡直人、渡鈴白
渡直人(わたりなおと)
シスコンで何事につけても妹が最優先。妹の世話をするため、部活にも入っていない。両親は2年前に他界したため、叔母の家で生活している。
渡鈴白(わたりすずしろ)
お兄ちゃんが大好きな小学4年生。直人がほかの女性と一緒にいるのが許せない。
館花紗月
館花紗月(たちばなさつき)
直人の幼なじみで、最近信州から直人と同じ学校に転校してきた。子供の頃、直人が大切にしていた畑をめちゃくちゃにしたせいで嫌われている。
石原紫
石原紫(いしはらゆかり)
男子生徒が憧れるマドンナ的存在。直人と同じ美化委員。直人に気があるが、いまひとつ積極的になれない。

恋愛カウンセラー アルテイシアはどう読む?

普通のハーレムものとは一線を画すラブコメ

──本日はマンガやアニメが大好きという恋愛カウンセラー・アルテイシアさんに、「渡くんの××が崩壊寸前」(以下、「渡くん」)のヒロインたちの過激な行動について語っていただければと思っています。その前に作品の感想をお伺いしたいのですが、お読みになっていかがでしたか?

渡直人と館花紗月。

面白かったです。幼なじみの女の子、クラスのマドンナ、かわいい妹に好かれる主人公、と聞いていたので普通のハーレムものかと思いきや、それとは一線を画すマンガだと思いました。

──それはどういった面で?

ハーレムラブコメって、平々凡々で冴えない主人公がなぜかかわいい女の子たちからモテモテでウハウハ、という図式があると思うんです。でもまず、主人公の渡くんはモテていないんですよ。

──えっ、でも幼なじみの紗月はエキセントリックな行動で渡くんに迫りますし、マドンナの石原さんも渡くんと仲良くなろうとがんばりますし、妹の鈴も超ブラコンですよね。

鈴は100点のテストを隠して30点のテストを見せたり、ギャン泣きしたり駄々をこねたりと“お兄ちゃんがいなければダメ”な自分をアピールしますが、10歳の少女が両親と死に別れた挙句に兄と一緒に親戚中をたらい回しにされたら、こうなるよね、と理解できます。やっぱり生きていくためには自分に関心を持ってくれる人、つまり兄の渡くんが命綱になるので。渡くんと鈴は共依存の関係ですね。

──なるほど、鈴の渡くんに対する思いは恋愛ではないというのはわかります。石原さんはどうですか?

石原さんは、トラウマが原因で渡くんを理想化、神聖化してると思います。美少女で巨乳、小さい頃から男性に性的対象として見られ続けてきたトラウマで、なんらかの怖い経験もしたみたいなので……。妹思いな渡くんのことを、一切の煩悩を抱かない聖人君子だと勘違いしている。渡くんに恋をしているわけじゃなくて、現実とは全然違う、理想化した渡くんに恋しているんです。

渡直人と館花紗月は幼なじみ。6年前、なぜか紗月は渡の家の畑をめちゃくちゃにして姿を消した。

──では、紗月はいかがですか?

今後、渡くんと紗月が高校に入って再会する前のエピソードが明かされると思いますが、紗月は何か理由があって渡くんに執着してる。今のところ、恋とは違うんじゃないかと思いますね。「渡くん」は不特定多数の女性にモテるハーレムものとは違って、3人の女性から狂信的に執着されてる話なんです。モテているのは渡くんの友達の徳井で、「徳井くん今日ヒマー?」「あそぼー」とかクラスの女子に言われてますけど、渡くんはそんなこと全然言われてないですし。

「渡くん」は魅力的な人がモテない、ラブコメに対するカウンター

──渡くんが少しかわいそうに思えてきました……。

風邪をひいた渡のお見舞いに、2人の美少女が押し寄せる。

でもね、ハーレムラブコメの主人公って、「なんでこの人がモテるの?」と思うことも多いじゃないですか。「渡くん」のすごいポイントは、渡くんがちゃんと魅力的という点です。大人の女性が読んでも、ラブコメの主人公である渡くんの言動にイラつかない。でも作中ではモテていないんです。「渡くん」は魅力的な人がモテない話なんですよ。

──なんと……。アルテイシアさんは、渡くんのどこが魅力的だと思いましたか?

まず苦労人なところですね。高校生で親戚中をたらい回しにされても、ちゃんと妹の世話もして友達もいる。そして自分の環境を恨んでいないし、自分のなかで納得して懸命に生きてる。普通だったら引きこもりになるか、盗んだバイクで走り出すかですよ。私が16歳で、こんな子がクラスにいたら好きになっちゃいます。

──そうですね。

渡の死んだ父の妹である多摩代。彼女には渡兄妹を引き取った理由が……。

叔母の多摩代さんに「一緒に住んでてオレらに普通に話しかけてくれたの 多摩代さんだけだったから」と言うところ、普通にホロっと来ちゃって……。あと渡くんはまだ高校生なのに、鈴がいるからだと思いますがとても父性的。包容力もあって、なおかつ家事育児能力も高い。現代女性にとってのベストパートナーの条件を満たしています。

──ちょっと鈍感なところもありますよね?

ええ。石原さんにテスト勉強に誘われても「会話の流れの社交辞令だよな」とか、看病に来てもらっても「なんで俺なんかに親切にしてくれるんだろ」とか……まあ鈍感属性はラブコメ主人公の必須スキルです。現実でもこういう草食系男子はいますけど、「謙虚でよし!」ってときもあれば「フラグをこんなにへし折りやがって……」ってなる場合もある諸刃の剣なので、そこは渡くんにも経験を積んでいってほしいですね。

──あはは(笑)。渡くんが魅力的だという理由がよくわかりました。

「渡くん」はサラッと読むと普通のラブコメなんですが、深読みしてこそ面白いと思います。なんの取り柄もない主人公がモテる話ではなく、モテモテでもおかしくないくらい魅力的な渡くんが実はモテていないという、逆転構造なんです。ラブコメに対するカウンターだと思いました。

鳴見なる「渡くんの××が崩壊寸前(2)」発売中 / 講談社
渡くんの××が崩壊寸前(2)
650円
Kindle版 / 540円

妹を言い訳にして女性とつき合うことを避けてきたシスコンの高校生・渡直人。このままではダメだと自覚し、同級生の石原さんとつき合おうとする。ある日、直人は風邪をひいてしまい自宅で寝込んでいると、幼なじみの紗月がお見舞いにやってくる。また時を同じくして石原さんもお見舞いにやってきた。紗月を布団の中に隠して、石原さんを家にあげてしまったことで、直人は絶体絶命のピンチを迎える!!

鳴見なる(ナルミナル)

東京都出身。「JA ~女子によるアグリカルチャー~」など。現在は月刊ヤングマガジン(講談社)で「渡くんの××が崩壊寸前」、まんがライフSTORIA(竹書房)で「ラーメン大好き小泉さん」を連載中。「ラーメン大好き小泉さん」は早見あかり主演でテレビドラマ化も果たした。

アルテイシア
アルテイシア

作家。夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った「59番目のプロポーズ」でデビュー。同作はテレビドラマ化・マンガ化もされた。著書に「オクテ男子のための恋愛ゼミナール」「ゼロから始めるオクテ男子愛され講座」「恋愛とセックスで幸せになる官能女子養成講座」「オクテ女子のための恋愛基礎講座」など。「5人の恋プリンス~ヒミツの契約結婚~」など、ゲームの原作脚本も多数手がける。超実践的なアドバイスが人気を集め、多くの悩める男女の恋愛・人生相談に乗ってきた。