考察が好きなのかも。今気づきました(をの)
──をのさんとしては、今回の「パーフェクト グリッター」はどういった着想から生まれたんですか?
をの 担当編集さんとの打ち合わせのときから、「結局『明日カノ』じゃん」と言われないような内容にしようという話はしていました。作家としての幅を狭めず、寿命を長くするためにも別のジャンルに挑戦してみようと。「じゃあ何が描けるだろう?」と考えたときに、やっぱりキラキラとした青春ものとか、ラブストーリーとかは、私はたぶん描けないだろうなと思って。結果的にサスペンスになったのですが、最初からサスペンスを描こうと決めていたというよりかは、「こういう話がいいよね」「この話ってジャンルとしてはなんだろう?」「サスペンスが一番近いのかな?」という流れで、方向性が決まっていきました。
──齊藤さんもおっしゃっていたように、をのさんの描くキャラクターってすごくリアルで、現実にいそうじゃないですか。
齊藤 います!
──そう思わせる登場人物がどういうふうに生み出されていくのかがすごく気になっていて。今回はどんな取材をされたんですか?
をの 今回の取材は、探偵さんと……。
齊藤 あ、探偵さん! あの人もきっといい人ですよね! あのおぢ!
をの (笑)。探偵会社さんに仕事内容を伺ったり、あとは、インフルエンサーに詳しい会社の方にフォロワーの伸び方とか、これくらいのフォロワーのときは事務所に入っているのかとか、そういった素人ではわからない部分の話を聞きましたね。
──なるほど。業種としての描写にリアリティを持たせるための取材であって、人物を描くための、人間に迫る取材を積極的に行っているというわけではないんですね。そうなるとますます「をのさんはなんでそんなにみんなのことを知ってるんですか?」と思ってしまうんですが。
齊藤 うんうん。
をの よく言われるんですけど……。でも皆さん、作品を読んで「わかる」と言ってくれるじゃないですか? その「わかる」を描いてるというか。なんて言えばいいんだろう?
──SNSはけっこう見てますか?
をの SNSは見ますね。
齊藤 ツイッタラーですか?
をの 最近はあんまり見てないですね。作中によく出てくるので最近はインスタをよく見ています。
齊藤 インスタの描写もTikTokの描写もすごいなって思います。
をの あ、本当ですか! よかったです。
──モモがパーティで知り合った「ご当地マンホールから地名を当てる動画クリエイター」っていうのも、そんなの見たことないんですけど(笑)、絶妙にいそうなインフルエンサーなのが面白いなと思いました。
をの 今いるインフルエンサーの人と被らないようにしようと思って、「マンホール」で検索したら数千万件の動画が出てきたんですけど、「ご当地マンホール」だったらどうだろう?と思って調べたら1万2000件くらいに絞られたので。ご当地マンホールを当てるインフルエンサーだったらいてもおかしくないかもしれないなと(笑)。
──そういう設定部分もそうですし、常に私たちが「わかる!」っていうものを描かれているのが、本当にすごいなと思っています。
をの 自分ではどうやって描いているのか、あまりわかっていなくて……。(担当編集者に)どうやって描いてるんですか、私は?
担当編集 最近だと、それこそ取材でパーティに行きましたよね。
をの そうだ、最近パーティに行きました。インフルエンサーや業界人が集まるパーティに行って、そこでの会話を聞いたり表情を見たり。みんなどういう立ち振る舞いをするんだろうとか、こういう場において何を考えているんだろうとか、そういうのは見ていましたね。
齊藤 へええ!
をの でも確かに、さっき「ツイッタラーですか?」って聞いてくださいましたけど、ちょっと変わったことを発信してる人がいたら、その人のアカウントを見に行って、考察しちゃいます。「この人ってどういう人生を歩んできて、どういう生き方をしてきて、どういう投稿をしているんだろう?」って。自分の中で、予想を立てるじゃないですけど、「この人ってたぶんこういう性格で、こうでこうだろうな」と想像して、アカウントを見に行って。それが当たってると「当たってる!」と納得する、みたいな。
齊藤 すごい! 人間観察が好きなんですかね?
をの 好きなのかなと思いました、今。
齊藤 考察が好きなんだ。
をの 考察が好きかもしれないです。今気づきました。考察が好きなのかも。
──好きじゃないとそこまで掘り下げて読み解けないでしょうからね。
齊藤 絶対にそうですね。
イチカは自分に依存させているけど、自分も依存している(齊藤)
齊藤 あと私すごく気になっている子がいて。イチカに紹介してもらった、シュンとミユっているじゃないですか。ミユ、めっちゃ嫌だなって。
──(笑)。
をの ミユ、読者の方からも嫌というコメントをけっこういただいていて驚きました。感じが悪いからですかね?
齊藤 なんか……「何?」って思っちゃいます(笑)。シュンもちょっと嫌だ。シュンはどういうスタンス?って思います。シュンとミユも、シュンとイチカの関係も気になります。でもやっぱり一番は、モモちゃんがどうなっていくのかですね。モモちゃんってもともと自己肯定感が低い子で、イチカがいてくれたことで自信を持てる状態になっていたと思うのに、イチカが急にいなくなってしまって。イチカをがむしゃらに探しているモモはどうなっちゃうんだろう?って。モモの今後がめちゃめちゃ気になってます。
をの 一応主人公的なキャラなので、そこを気になってもらえているのはうれしいです。
齊藤 (マンガをめくりながら)あ、私このイチカめっちゃ好きなんです!
──最近の言葉で言うと「女狂わせ」って感じの雰囲気がありますよね。
齊藤 女狂わせですよね。イチカの過去も気になってます。今までどういう人生を歩んで、こうなったのか。たぶん、愛されて育ってきていたら、こうはならないとも思うんですよね。モモたちのことを自分に依存させているけど、自分もモモたちに依存している気がするんです。だからもう……本当に続きが気になる。
をの ……今、ちゃんと描いていかなきゃいけないなっていうことを改めて感じました(笑)。
齊藤 楽しみです!(笑)
私、ファンの人に対して重いタイプなんです(齊藤)
──モモがイチカに憧れているように、同性のインフルエンサーやアイドルに憧れている女性ってすごく多いですよね。それこそ齊藤さんにも、そういったファンの方がたくさんいらっしゃると思うのですが。
をの すごく多そうですね!
──イチカに会うときに、モモが「少しでもイチカにかわいいって思ってもらいたい」って身なりを整える姿も、きっと齊藤さんに会いに行くためにおしゃれをするファンの方と重なるところがあるんじゃないかと思っていて。同性のファンの方に憧れられる側として、齊藤さんは何か感じていることはありますか?
齊藤 私、女の子のファンが7、8割くらいで、ほとんど女の子なんです。
をの あっ、そうなんですね。
齊藤 この間チェキ会をやったときも、来てくれたのがほぼ女の子で。みんなすっごいかわいくして来てくれて、それこそ少し年下の10代の子も来てくれますし、小さい子だと4歳とか、私のことをプリキュアみたいに思ってくれている子もいたりして。本当にいろんな女の子が応援してくれていて、「こうなりたい」と思ってくれる存在になれているのかなと思うと、めちゃくちゃうれしいです。自分が人生でそうなるだなんて思っていなかったので、ただただ幸せだなと思います。
──私も女性アイドルが好きなのですが、同性ファンの姿をSNSなどで目にしていて、「誰々ちゃんのようになりたい」という見返りのない純粋な気持ちで応援している子もいれば、モモからイチカに対する少し重たさのある感情というか、愛が深すぎるがゆえに、執着心や信仰心が強くなっている女の子もいるなと思うんです。齊藤さんもそういうふうに感じることはありますか?
齊藤 あっ、でも私のほうがたぶん重たいので! 私、ファンのみんなに対してもですし、人に対してもけっこう重たいタイプなので、向けてもらう感情も全然「重い」って感じたことがないんです。
──それこそ直接「なぎさちゃんが生きる理由だよ」と、切なる思いを伝えてくれるファンの方もいるのかなと思うのですが。
齊藤 めっちゃうれしいです! 「一緒に生きようね!」って思ってます。
──すごい、齊藤さんのファンはすごく幸せですね。今の言葉も、齊藤さんの表情や発せられるパワーから、一切嘘がないんだろうなと感じました。自分が神格化されすぎているんじゃないかとか、そういうふうに考えたことはないですか?
齊藤 全然ないです! でも例えば、何か決めつけられることがあったらしんどいなとは思います。芸能活動をしていると、どこか完璧なように見られることもあるんですけど、人間だから完璧じゃないし、知らないこともあるし、できないこともある。神格化じゃないですけど、何かを決めつけられたり完璧だよねって言われたりすると、少ししんどさを感じるかもしれないです。でも私のファンの方って「そういう抜けてるところも好きだよ」とわかってくださる方が多いので、安心しています。
──表に立っている人だからこそ、それぞれの理想が膨らんでしまう部分はあるかもしれませんね。をのさん自身には、モモからイチカに対する同性への憧れのような経験ってあるんですか?
をの 女子校に一瞬通っていたので、そのときはやっぱりありましたね。女の子への憧れみたいなのは。
齊藤 ありますよね! 私、小学校から中学2年生まで女子校だったので、そういうのばっかりでした。「先輩大好き!」みたいな。
をの そうですよね。女子校ってそういうのありますよね。
齊藤 私も女の子のアイドルが好きなんですけど、そもそも私、イチカみたいなタイプがめっちゃ好きなんです! ずっと山本彩さんに憧れていたのと、=LOVEの野口衣織ちゃんも好きで。私、イチカを見たときに「あ、衣織だ!」って思ったくらいで。
をの ああ、なるほど。そうだったんですね! うれしい。
齊藤 だから私、イチカみたいな子がビジュアルからもすごく好きで。理想なんです。
「パーフェクト グリッター」のメディア化、ぜひお願いしたいです(をの)
──ちなみに「パーフェクト グリッター」の連載開始時に、をのさんはいくつかのメディアのインタビューに答えられていて、そこで「メディア化を目指したい」と発言していました。「明日カノ」のドラマ化が発表されたときには「映像化は夢のまた夢…と思っていました」とコメントされていましたが……。
をの 「夢のまた夢」とは言いつつ、内心「ぜひともお願いしたい!」とは思っていました(笑)。
──(笑)。今回は最初から「メディア化を目指したい」とはっきり明言されているのは、「明日カノ」のドラマの成功があったからなのかな、なんて思いました。
をの もちろん、「明日カノ」をあんな素敵なドラマにしてもらったので、それもあります。またぜひお願いしたいです。
齊藤 わあ、してほしい! 出たい!
をの えっ、出てほしい!
──何役がいいですか?
齊藤 ええっ!?(うれしそうに跳ねる)
をの (笑)。
齊藤 (悩みながら)でも……モモがいいですけど。
をの モモ、合いそう! 見たい!
齊藤 え、うれしい! なんでもやります。やりたいです、ぜひ。ちょっと練習しておきます。
をの ぜひ! お願いします。
──そんな期待も込めつつ(笑)、これから「パーフェクト グリッター」を読んでみようかなと思っている読者に向けて、齊藤さんから見どころを、をのさんからメッセージをそれぞれいただけますか。
齊藤 まず、第1話読んでほしいと思います! 第1話を読んだらわかると思います。読む手が止まらないというか、本当に惹き込む力がすごいんです。マンガを読んでるんじゃなく、自分も物語の中に入ってるような感覚になる。キャラクターに感情移入もするし、どういう展開になるの?ってハラハラドキドキもする。何より絵柄がかわいいので、見ていて楽しい! あと、考察もオススメです! 「明日カノ」でも(ゆあの友人の)みぽつが矯正していたのは、親がお金持ちだからじゃないか?とコメント欄とかでも考察されていて。をの先生の作品は、そういう1つひとつに理由や背景があるのもすごく面白くて楽しいので、「パーフェクト グリッター」も、隅から隅まで見逃さずに読んでいただきたいなと思います!
をの ありがとうございます……! 前作の「明日カノ」から引き続き読んでいただいてる方も、前作を知っているけど、今作はまだ読んでないという方もいらっしゃると思うんですけど、ちょっとテイストを変えて、また前作とは違う楽しみ方をしていただけるようにがんばっているので、ドキドキハラハラしながら、読んでいただけたらうれしいなと思います。
プロフィール
をのひなお
2019年にサイコミで連載を開始した「明日、私は誰かのカノジョ」でマンガ家デビュー。同作は2022年に実写ドラマ化され、2023年に第68回小学館漫画賞の少女向け部門を受賞した。2024年11月からはサイコミで「パーフェクト グリッター」を連載している。
齊藤なぎさ(サイトウナギサ)
2017年、指原莉乃プロデュースのアイドルグループ・=LOVEのメンバーとしてデビュー。2022年4月、MBS/TBS“ドラマイズム”枠「明日、私は誰かのカノジョ」に優愛役で出演し、女優としても注目を集めた。2023年1月にグループを卒業後、映画「恋を知らない僕たちは」でヒロインを務め、テレビ朝日「私たちが恋する理由」、映画「あたしの!」にも出演するなど、女優として活躍の場を広げる。実写版「【推しの子】」では星野ルビー役を務めた。2025年4月からはドラマ「パラレル夫婦 死んだ“僕と妻”の真実」に出演中。
齊藤なぎさ (@saitou_nagisa) | Instagram