「片田舎のおっさん、剣聖になる」佐久間Pも弟子に推されたい!“理想の中年”に共感して憧れる、おっさんのための王道ファンタジー (2/2)

回転斬りはアニメが一番派手

──「おっさん剣聖」の話に戻りますが、佐久間さんにはアニメ放送前に第1話と2話の映像をひと足早くご覧いただきました。いかがでしたか?

ベタな感想になっちゃうんですけど……王国騎士団副団長のヘンブリッツに模擬戦を申し込まれて、ベリルが圧倒するシーンあるじゃないですか。あれって言ってみれば水戸黄門が印籠を見せるみたいなシーンだから(笑)、やっぱりワクワクしちゃいましたね。ヘンブリッツの回転斬りのシーンは、アニメならではの表現で竜巻みたいに描かれていて派手だったな。小説でもマンガでも読んだシーンですけど、アニメが一番派手でした。

第1話より。ベリルの実力を疑うレベリオ騎士団副団長のヘンブリッツ・ドラウト(CV:石川界人)が、ベリルに手合わせを申し込む。
第1話より。ベリルの実力を疑うレベリオ騎士団副団長のヘンブリッツ・ドラウト(CV:石川界人)が、ベリルに手合わせを申し込む。

第1話より。ベリルの実力を疑うレベリオ騎士団副団長のヘンブリッツ・ドラウト(CV:石川界人)が、ベリルに手合わせを申し込む。

──ベリル役・平田広明さんの演技はいかがでした?

イメージにぴったりでしたね。個人的には平田さんというと「ONE PIECE」のサンジ役の印象が強いですけど、その平田さんの声で「俺には荷が重い」みたいな弱気なセリフを聞くとゾクゾクしちゃうというか。だって、平田さんの声で弱いわけないから。

──確かに(笑)。原作ファンとして「この展開を早くアニメで観たい」というシーンなどはありますか?

特別討伐指定個体ネームド(※)とのバトルを早く観たいですね。やっぱり戦いのシーンこそアニメでどんなふうに表現されるのかが楽しみだなと思うんで。観させていただいた第2話までの段階だと、まだネームドの存在自体が明らかになってないですけど。

※討伐が困難もしくは不可能とされる、名称が与えられた特別なモンスター。

──ベリルたちが戦い始めそうな雰囲気すらまだないですよね。

そうそう、原作を読んでたときもそこにびっくりしたんだよなあ。「あ、こっち行くんだ?」って。最初はもうちょい日常系のお話が続いていくのかなと思ってたんだけど、どんどん本格バトルファンタジーに突入していくから、アニメで初めて観る人もびっくりするんじゃないですかね。残酷さもどんどん増していくし。

──どうやら第3話でネームドの存在に初めて言及されるようです。TVアニメの世界では3話目がとても重要だと言われていまして……。

へええ、そうなんですか。

──途中離脱させないために、3話目にフックとなる展開が用意されることが多いんです。佐久間さんのお仕事でもそういう考え方はありますか?

話数の限られた配信バラエティだとそういうことを意識する場合もありますが、通常のバラエティでは「長くやりながら、どう企画を当てていくか」という考え方なので、ちょっと異なりますね。ただ僕はドラマを作ったこともあるんで、ドラマの場合は確かに3話までをどう見せて、いかにキャラクターを好きになってもらうかが大事だというのはわかります。それはアニメでも同じということなんでしょうね。

佐久間宣行

佐久間宣行

──このアニメを人にオススメするとしたら、どんな人にどのようにオススメしますか?

基本的には誰でも楽しめる作品なんで、どんな人にもオススメではあるんですが……敷居が低いにもかかわらずどんどん本格的なバトルファンタジーになっていくという意味では、僕みたいに「かつてはファンタジー小説が好きだったけど、最近あんまり読んでなかった」という人にオススメしたいですかね。

──最近のファンタジー作品にアレルギーがある人にこそ観てもらいたい?

そんな感じはしますね。めちゃくちゃカッコいいおじさんが主人公ということで、かわいい女の子がたくさん出てくるタイプのファンタジーアニメを観慣れていない人でも観やすいと思いますし、逆にそういうのが好きな人が観てもちゃんと楽しめると思うんですよ。かわいい女の子キャラクター自体はたくさん出てくるんで。どんな嗜好の人にとっても敷居の低い、いろんなものの入門編になり得る作品かなと思いますね。

──具体的に、「あの人は楽しんでくれそうだな」という顔が誰か浮かんだりはしますか?

そうだなあ……麒麟の川島(明)さんとか。川島さんはいろんなマンガを読んでるけど、そこまでファンタジーを好んで読んでるイメージもないんで、アニメから入ってもいいんじゃないかなと思います。しかも彼自身、おじさんになってからもう1回見つかった人ですし。

──確かに、相方の田村裕さんが「ホームレス中学生」で有名になって、麒麟と言えば田村さんの名前が先に出るような時期もありましたね。

はい。それがいつの間にか日本全国に見つかっちゃって、今や誰よりもテレビに出てる人なんで。僕と同じような感じで、ベリルに感情移入できるんじゃないかと思いますね。

エンタメの摂取はマッサージやサウナと一緒

──ちなみに、アニメーションというメディア全体にはどんな印象をお持ちでしょうか。

今のアニメーションのハイレベルさには、もうびっくりしちゃうんですよね。どの作品を観ても作画から演出までみんなすごいですし、日本が世界に出せるエンタメの中で今一番強いものがアニメだというのは間違いないと思います。

──作り手として、アニメ制作者をうらやましく感じることもありますか?

もちろん! 描くのがめちゃくちゃ大変だというのは承知のうえで言いますが、実写で撮ろうと思ったらとんでもない予算がかかるようなシーンだったり、人間では演じられないようなキャラクターだったりが作れてしまうのはアニメのすごさですよね。アニメやマンガのすごさ。表現としての自由度の高さは純粋にうらやましく思います。

──逆に、「アニメがもっとこうだったらいいのに」とか「俺ならこうするのに」と感じることは何かありますか?

不満というほどのことではないんですが、最近のアニメは主題歌がカッコよすぎるっていうのはちょっと思いますね。僕が子供の頃に観ていたアニメって、けっこうトンチンカンな主題歌も多かったんですよ(笑)。それはそれでよかったなと思っていて。

佐久間宣行

佐久間宣行

──まったく同感です(笑)。今のアニソンはちょっと完成度が高すぎて、隙がないんですよね。

そうそう。それはもちろん基本的にはいいことなんですけど、ときどき息が詰まるというのはある。たまにはもうちょっとしょうもない主題歌も聴きたいなあ、と思うことはありますね。

──ということは、佐久間さんは最近のアニメもよくご覧になっているんですか?

そんなにめちゃくちゃ観てるわけじゃないけど、それでも毎クール1、2本は観てますかね。

──毎クール何十本もの作品が放送されますが、その中からどんなふうに観る作品を選んでいますか?

好きで読んでいた原作のものは少なくとも1、2話は観ますね。それとオリジナルアニメの先がわからない感じも好きなんで、3話ぐらいまでは試しに観てみるようにしてます。あとは、有識者にオススメを聞くこともありますよ。ハライチの岩井(勇気)とか。

──岩井さんはマンガやアニメに詳しいですもんね。

彼は本当にたくさんの作品を観てるんで、各クール3話目くらいのタイミングで「何かオススメある?」というふうに聞いて教えてもらったりしていますね。実際に岩井から教わってハマった作品がいくつもあります。

──アニメに限らず、佐久間さんはあらゆるエンタメをめちゃくちゃ観てらっしゃるイメージがあります。

さすがに最近はバタバタしてるんで、一番ヒマだった時期に比べたらだいぶ減っちゃいましたけど……それでもまあ、昨日と一昨日もレイトショーの映画を観てから帰宅しましたし、そういう生活ではありますね。

──とてもそんな時間がありそうには見受けられないです。

時間はね、全然ないです。嘘をついて観に行く時間を作るか(笑)、飲み会をキャンセルして行くとかですね。

佐久間宣行

佐久間宣行

──そうまでしてインプットしないと生きていけない、というような感覚?

いや、インプットという意識ではないですね。僕にとって映画や舞台を観ることというのは、マッサージやサウナと一緒の感覚なんです。要はスマホを手放して2時間、誰かの作った世界に浸るという時間がないと、おかしくなっちゃう。

──生活の中になくてはならない時間なんですね。でもいろいろな作品を観ようとする気持ちを持ち続けられるのもすごいなと思います。

確かに……でもそれは、僕にゴルフとかそういう趣味がないからかなと。ゴルフ自体は面白そうだなとは思うんですけど、誘われて断れなくなっちゃうのが嫌で避けてきたんですよ。芸能人とゴルフに行くディレクターも多いと思うんですが、僕はプライベートではできるだけ仕事関係の人との連絡を絶ちたくて、芸能界とは関わらないように生きてきたんで。

──となると、その中でも関係性のある方というのは、ごく限られた人だけ?

いや、仕事で関わった人と仕事以外でつながることは一切ないですね。小説家だけかな。小説家の友人たちとは30代の頃たまにメシ食ってましたけど、本当に芸能界の人とは付き合ってこなかった。最近になって“芸人とメシを食う”という趣旨のYouTubeチャンネルを始めたんですけど、あれは終活なんで。

──終活(笑)。

さすがに引退するまで一切誰ともメシ食わないのもなあ、と思って。

──その感覚は面白いですね。先ほどの話でいう「この業界で成り上がってやろう」という野心のあるディレクターだったら、積極的に芸能人と関わっていこうとするでしょうから。

そうかもしれないですね。もちろん、人生の全部を芸能界にベットできるタイプの人もそれはそれで幸せだろうなと思います。僕はちょっと無理だった、というだけの話で。

──佐久間さんの番組には「何かほかの番組と毛色が違うな」と感じることが多いんですが、今その理由が少し垣間見えた気がします。

そういう意味で言うと、僕の番組にはいわゆるバーターとかコネとかで入ってくる要素はほぼないんじゃないですかね。なんでかというと、僕が芸能界と付き合ってないから(笑)。

──そういうパワーゲームの外でやっているから。

そうそう(笑)。

佐久間宣行

佐久間宣行

プロフィール

佐久間宣行(サクマノブユキ)

1975年11月23日、福島県生まれ。1999年4月から2021年3月までテレビ東京に勤務。現在はフリーのテレビプロデューサーとして「ゴッドタン」「あちこちオードリー」「トークサバイバー!」を制作している。自身が企画、出演、プロデュースを手がけるYouTubeチャンネル・佐久間宣行のNOBROCK TVでもさまざまなコンテンツを展開中。同チャンネルで公開した「罵倒村~もしも日本に住民全員が罵倒してくる村があったら~」は、2025年にNetflixでも製作・配信される。ラジオ番組「佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)」にはパーソナリティとして出演中。