藤井健太郎が手がける新コンテンツ「大脱出」の配信がDMM TVでスタートした。この「大脱出」は安田大サーカス・クロちゃんをはじめとする芸人たちがさまざまなシチュエーションに放り込まれ、その場からの脱出を目論む“脱出系ロケバラエティ”だ。
同じDMM TVでは佐久間宣行の「インシデンツ」が一足先に配信中。お笑いナタリーでも特集記事(参照:地上波では流せないコント番組「インシデンツ」)を掲載した。
先日、藤井と佐久間の合同取材会が実施され、自身の番組はもちろん、互いの番組を観た感想を語ってもらった。テレビを主軸に長年バラエティを作り続け、交流もある2人は互いの配信コンテンツをどう見たのか。
取材・文 / 成田邦洋撮影 / 小坂茂雄
ワクワクと不安がちりばめられる藤井作品
──佐久間さんは「大脱出」、藤井さんは「インシデンツ」と、お互いの作品をご覧になったとのことで、まずはそれぞれの感想を語っていただければと思います。
佐久間宣行 「大脱出」は1話を観たときに「どういうふうにするんだろうな?」と思って、2話でルンバ(ロボット掃除機)に関係するものが出てきて、すごくワクワクしました(笑)。「さすがだな。たぶん何かあるんだろうな」と。いろんなワクワクする要素と不安の要素がちりばめられているのが藤井さんの作品だなという感じがしました。
藤井健太郎 僕は佐久間さんの作品の中で(オムニバス形式のコント番組)「SICKS」(テレビ東京系)が一番好きなんです。「インシデンツ」はそれとは似て非なるものだと思うんですけど、大きく分けたら近いジャンルで、楽しく観せてもらいました。ストーリーの部分が本格的で複雑でもあるし、集中して観ることも求められる。まさにテレビじゃない、こういう配信メディアに向いている作品。全6話を観ていろいろとわかることもたくさんあります。
──シチュエーションごとの芸人さんや役者さんの組み合わせも面白さにつながる。「このシチュエーションとこの人の組み合わせが面白かった」というような発見はありましたか?
佐久間 「大脱出」で「(きしたかの)高野をもう使っているんだ」というのはすぐに思いました。僕もきしたかのがすごく好きで、「青春高校3年C組」(テレビ東京系)のオーディションでもすごく面白かったし、「ゴッドタン」にも何回も出てもらったんですけど、正直自分の番組でバチっとハマった企画が用意できなかったんです。結局きしたかのは自分たちのYouTubeで注目された。「大脱出」に出てきたときに「藤井くんが使ってる!」と思ってビックリしました。
藤井 「水曜日のダウンタウン」の「若手芸人ドッキリ仕掛けられた怒りよりも水曜日のダウンタウンに出られた喜びが勝っちゃう説」で、ほとんど無名の高野とザ・マミィ酒井を使っているんですよね。ちゃんとそういうドッキリを食らう人になったなと。あと、僕は「インシデンツ」の野呂佳代さんの役どころがすごく好きです。
佐久間 それは言われて本当にうれしい(笑)。野呂佳代を辛抱強く愛する人間として。
藤井 「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)でも活躍していますし。
佐久間 昔、「ゴッドタン」のアシスタントを松丸(=松丸友紀アナウンサー)が産休のときに野呂と朝日奈央にやってもらって。その前に「私の落とし方」という企画の1回目に出てきた野呂さんのコントがめちゃくちゃ面白かったんですよ。それで「インシデンツ」で大家族のちょっといやらしいお母さん役があったので「これは野呂しかない」と(笑)。
──お二人とも地上波で人気の番組を作ってこられた中での配信の番組。どういうところから番組作りがスタートしたのでしょうか?
佐久間 最初DMMさんにお話をいただいたときに、どういう顧客層を取ろうとしているのか、などをよく聞いた上で8つぐらい企画を持っていったんです。その中には芸人の賞レース……と言ってもめちゃくちゃ“狭い”ものとか、芸人が関係ない企画を持っていった中で、初めから「地上波で放送できないコント番組」として「インシデンツ」を入れてあって、DMMさんに選んでもらいました。
藤井 僕は「クロちゃんを首まで埋める」というのをずっとやりたくて(笑)。地上波には適合しなかったんですよ。そこに肉付けしていって、ちゃんと6話を通しての“見終わり感”だとか、少しストーリーがあるものを、というところで考えました。
みなみかわは面白さとスケジュールのバランスがいい
──「大脱出」と「インシデンツ」にみなみかわさんが共通して出られています。「今、みなみかわさんを出したい」と共鳴されるものがあるでしょうか?
佐久間 なんだろう、この複雑な気持ち(笑)。結果的に「みなみかわをめちゃくちゃ買っている」みたいなニュースになっちゃうかもしれない。いや、買ってはいるんですけど。ずっと面白いから。
藤井 面白いですし、「面白さ」と「スケジュールの空き具合」のバランスが非常にいい(笑)。
佐久間 そういう時期のタレントさんっているんですよ。「ここから先だと、もうちょっとスケジュールがタイトな企画じゃないとできなくなるな」とか。僕の場合は、(キャスティングを)さらば青春の光とヒコロヒーをまず決めて、森田にだけ全体像の説明をしに行ったんですよ。恵比寿の喫茶店に森田と僕と(構成・脚本の)オークラさんの3人で集まった。そのときに森田から「これ、みなみかわさんは入れられませんか?」と言われたんですよね。森田と話し合って決めたという感じです。
──地上波と配信の番組で作り方やコンセプトに違いがあるかと思います。今回の番組について「ここは一番挑戦したな」と感じる部分は?
佐久間 ドラマみたいなカット割りのコントは、ツッコミを入れると笑いづらかったりするんだけど「森田のツッコミならいいかな」と。ドラマとコントの間くらいでやってみて、編集で苦労したものもあるけど、撮ったときの面白さがそのまま出せたものもあるなと思っています。大家族のコントは芝居がうまい人だけを入れて、明確にツッコミを入れないコントにしたら、そっちのほうがうまく回ってよかったです。
藤井 基本は「大脱出」も地上波テレビの延長線上にあるものだとは思うんですけど、意外と地上波ではできないことばかりをやっています。いわゆるの“地上波NG”とかってことじゃなく、地味なルール違反ばっかりですが。
佐久間 あとは何より、“尺”が自由だもんね。
藤井 そうですね。尺出し(編集上の時間調整)の作業がないので、気持ちいいところで終われる、というのはある。
──お互いの作品をご覧になって「自分だったらここはちょっと真似できないな」というところは?
佐久間 僕は全然真似できないです。そもそもダウンタウンに会ったら緊張しちゃうと思うし。基本的には上の世代との仕事でも、ちょっと上の加藤浩次さんや東野幸治さんくらいまで。あと藤井さんとは好きなものの文脈が全然違う。僕は演劇やアニメなどのカルチャーが好きで、そういうものに寄っていくんですけど、藤井さんは格闘技やヒップホップとか。謎解きとかミステリーも……それに関しては得意なスタッフが多いのかな?
藤井 何かを作るときは、そういう“謎解き風”なものが入ることが多いですね。
佐久間 そのあたりのゲーム性のある企画に近いものは、僕はたぶんできないです。「水曜日のダウンタウン」の「新元号を当てるまで脱出できない生活」も、情報出しの適切さみたいなことがよくわからなくて。ルール作りみたいなものが、たぶんそんなにできないと思う。
藤井 確かにルールはよく考えています。
──そのルールが「大脱出」の各シチュエーションにもありますよね。
藤井 電話やラジオを使った脱出にはルールがちゃんとありますが、クロちゃんの脱出には特にルールがないです(笑)。佐久間さんとは逆に、僕はコントをちゃんとは撮ったことがないです。「ドリームマッチ」をやったり、芸人さんと一緒に何か考えながら作ったりしたことはありますけど。大枠で「インシデンツ」のようにお話作りをしたことはない。佐久間さんの作品だと(シチュエーションコメディの)「ウレロ☆」シリーズみたいなパターンもあるし、大きく言えば「キス我慢」もそうですし、半分強ぐらいはストーリーのあるものですよね。
佐久間 “名探偵津田”(「水曜日のダウンタウン」でダイアン津田がミステリードラマの世界に巻き込まれた回)は? あれは津田のスケジュールを待って撮った理由がわかる。
藤井 あの企画は、ある種(「ゴッドタン」の)「キス我慢選手権」的かもしれないですね。
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ルールやシステムが美しくて整合性が取れている