「魔術士オーフェン」|森久保祥太郎、20年連れ添ったオーフェンを大いに語る

オーフェンの魅力は、その未完成さ

──それだけ深く関わってこられた森久保さんに改めてお聞きしたいのですが、ずばり一言でまとめると、「魔術士オーフェン」シリーズの魅力、ならびにオーフェンというキャラクターの魅力はどこにあると思いますか?

森久保祥太郎

難しいですね……作品全体については、はっきりとした勧善懲悪ではないところが魅力ですかね。ひとつの事件、ひとつのドラマの中で人間関係が動くところが、作品としての面白さになっているように感じます。オーフェンに関しては……「完璧じゃない」という点はやっぱり大きいのではないかと。強力な魔術が使えて、格闘もできて、とても強いんだけど、あの世界のキャラクターたちの中で、圧倒的な腕っぷしを誇るわけではない。精神的にもまだ未熟な部分がある。伸びしろがまだいっぱいあるところが魅力。それでいて「プレ編」で描かれる子供時代から、本編である「はぐれ旅」で描かれるまでの間に、何があったんだろう?とこちらに想像させるくらい、背負った何かがあるんですよね。それを心の闇……なんて言葉で語っていいのかはわからないですけど。何かを背負っている男であり、背負ったものを軽々と運べるほど熟してない、未完成な感じがいいんじゃないでしょうか。

──高い実力はあり、人生経験も年齢の割に豊富で、達観したような雰囲気もあるけれども、どこか未熟で熱いところもある。

そうなんですよ。達観せざるを得ない環境にいただけであって、根っこはまだ熟しきれてないというか、まだかわいい「キリランシェロ」の部分が残っている。それを「オーフェン」という名で包んで、やっていくしかないと考えている。その包んでいるものがときどき見え隠れするのが、魅力なのかな。オーフェンって、揺らいでるんです。もちろん、純粋にカッコいい部分もありますしね。これは想像ですけど、僕がオーフェン役にキャスティングしていただけたのは、当時、僕自身も未完成の、駆け出しの立場だったからだとも思うんです。演じる前、素の自分がオーフェンと立場的に似ていて、そこで役との周波数がうまく合ったのかな、と。

──オーフェンは結婚してすら女性はいまいち得意になりませんしね。

ですね(笑)。案の定、クリーオウの尻に敷かれてるっぽい。

──そういう、女性関係の部分には共感するところはありました?

森久保祥太郎

確かに僕もあんまり女性の気持ちがわかるタイプじゃなくて、20代の頃の自分を振り返ると、そこもシンクロしてたのかなっていう気はします(笑)。あとやっぱり、オーフェンみたいにはっきりとした目的がある20代の男って、僕もそうだったけど、仕事なんかやっててもまだ何者でもない、自分が形成されていく時期なんです。となると、どうしても「自分がしっかりしなきゃ、強くならなきゃ、成長しなきゃ……」みたいなほうに、最初のモチベーションが向かってしまう。女性とのお付き合いはその次になっちゃってたんだろうな、と。こうやって考えてみると、オーフェンの女性への態度は非常に共感できますね(笑)。

──自分の話をしてしまうのですが、「オーフェン」シリーズを熱心に読んでいたのは中学生や高校生の頃だったんです。アラフォーになった今、読み返してみると、当時は気付けなかった作品の深みがすごくあると感じたんですよね。例えば、アザリーやチャイルドマンといった大人のキャラクターたちが、なかなかストレートに自分の気持ちを出せない感じだとか、それなりに歳を重ねた今だからこそ理解できる部分があります。今お話いただいたような、オーフェンの未熟さもそのひとつで。

当時中高生の方からすると、オーフェンはちょっとカッコいい大人のお兄さんですよね。

──まさにそうなんです。アニメになってからも、また森久保さんの声は、絶妙な「少し年上のお兄さん感」がありましたし。

ははは(笑)。だけど、僕は演じていたとき、ことさらに「お兄さん感」を出そうとは思ってなくて、すごく等身大な気持ちで演じていたんですよ。さっき話したような、熟してない感じも意識してなかった。今、ボイスブックの収録で改めて小説を読んでいて、オーフェンという男について今の年齢だからこそ感じることがいっぱいあります。だから、僕と同世代だったり、もっと若いみなさんが、改めて原作を読んだり、ボイスブックを聴いたりして、「オーフェン」の世界に触れてもらうと、またちょっと新しいオーフェン像を感じ取ってもらえるんじゃないでしょうか。面白いと思うなあ。

マンガになって、さらに面白さが凝縮された

──最近では「はぐれ旅」本編に、短編の無謀編、そしてプレ編と、3本のコミカライズ展開もあります。

コミカライズ版「魔術士オーフェン 無謀編」イラスト

無謀編は、「オーフェン」という作品の中にあるギャグ要素をジュッと抽出した感じの作品ですよね。それがまたマンガという形になったことで、さらに面白さが凝縮されていると思います。プレ編は逆に、まだ「キリランシェロ」だったころのオーフェンが印象的ですね。本編の頃とはまったく違う、本当にどうやったらやがてオーフェンになるのかわからないくらい、純朴でいい子。シスコンでね(笑)。アザリーとレティシャ、2人の年上の女性にすごくかわいがられている様子が垣間見える。それを思うと、キリランシェロからオーフェンになって、ひとつの目的のために旅に出たときに背負ったものが、より深くわかるような。ストーリーのカラー的には、日常的な部分やコミカルな部分が目立ちますけど、そうした形でオーフェンの根幹が描かれているなと思います。

コミカライズ版「魔術士オーフェンはぐれ旅 プレ編」より。

──「プレ編」はコミカライズに続いて、富士見ファンタジア文庫版の短編集に1編ずつ収録されていたものが、ついに1冊にまとまるそうです。

本当ですか! うれしいですね。「プレ編」で面白いのは、キリランシェロの周囲で、レティシャだったり、アザリーだったり、チャイルドマンだったりといった大人たちにはこういう事情があったんだな……みたいなことがわかるところですね。どうしても僕はオーフェン目線になってしまうので、子供の頃には知り得なかったことを知っていくようでワクワクしました。

──では最後に、作品を応援し続けてくださっているファンの皆さんに向けて、一言メッセージをいただければと思います。

声優としてはもちろん、仕事を離れた1人の人間としても、「魔術士オーフェンはぐれ旅」という作品やオーフェンという存在とは切っても切れない関係だと感じてます。本当に、人生の要所で必ず出会えるような存在で、そんな「オーフェン」シリーズを、今、ボイスブック……朗読という形で、またイチからいろんな方にご紹介できる立場にいられることを、非常にうれしく思っております。大切に小説の魅力を音声でお伝えできればと思ってやっておりますので、昔からのファンの方々にも、ぜひ聴いていただきたいです。僕と一緒に皆さん歳を重ねましたので、また違う魅力を発見していただけるんじゃないでしょうか。小説も、朗読も、何度でも楽しんでみてください。

──そして、なんと「魔術師オーフェンはぐれ旅」が2019年に新たにアニメ化。森久保さんがオーフェン役を続投することが発表されましたね。

「魔術士オーフェンはぐれ旅」ビジュアル ©秋田禎信・草河遊也・TOブックス/魔術士オーフェンはぐれ旅 製作委員会

はい、そちらでも僕がオーフェン役を担当させてもらうことになりました。こんなにうれしいことはないです。声優の仕事を始めてからもうすぐ23年になろうとしていますが、ほとんど駆け出しの頃から現在までずっと演じ続けてきた役を、また新たにアニメで演じさせてもらえる。平成に生まれた「魔術士オーフェン」という作品の名を、新しい元号でもアニメ史に残せるように、精一杯演じます。こちらも、ぜひ楽しみにしていてください。アニメが始まる前に、原作小説やボイスブックで作品に触れておいてもらえると、さらに深く楽しめると思いますので、重ね重ねよろしくお願いします。

──でも本当に、20年ってすごい時間ですよね。「『オーフェン』のアニメを観て声優になろうと思いました」なんて方とお会いすることもあるんじゃないですか? 

います、います。今、そういう子たちが声優として活躍しているんですよね。きっと新作のオーディションも受けたんじゃないですかね。新しく参加するキャストの子たちは、みんな、僕より若いんじゃないでしょうか。大体、今の僕はもう、「オーフェン」の現場で大先輩だと思っていた、当時の伊倉さんや中田さんや砂記子さんより年齢が上なわけですよ。

──そう考えるとなかなかドキドキしますね。

すごいことですよね(笑)。でも、新しく仕切り直すんだから、全キャスト交代になってもおかしくない中で、オーフェン役を続投できるのは本当にありがたいです。これもひとつの「縁」ですよね。がんばって、やり遂げます。

森久保祥太郎