コミックナタリー Power Push -「ユリ熊嵐」森島明子×「少女決戦オルギア」江島絵理

百合好きマンガ家が目指す“女の子パラダイス宇宙”とは

人間が生まれてきて一番最初に食べるものは女性(森島)

──食欲……と言いますと?

森島 人間が生まれてきて一番最初に食べるものは女性……女性の母乳ですよね。女の人の体を見て触りたいとかおいしそうとか思う気持ちは、男女関係なくインプットされている、というのが私の説です。セクシャルというよりは自分が赤ちゃんになって、女性の柔らかさや優しい感じの幸福感を描けば、異性愛者の女性でも読んでくれるのではないかと。なけなしの母性を使って描いています(笑)。

「少女決戦オルギア」2巻より、もえが舞子を食感で表現するシーン。

江島 まさにデリシャスメルな女の子たち。「ユリ熊嵐」でも「食べちゃいたい」というのはテーマになっていますよね。

森島 そうなんです。幾原監督には特に言ってはいなかったんですが「伝わってる!」と思いました(笑)。江島先生の「少女決戦オルギア」でも、もえが舞子のことを「カリカリでサクサクで」とか「ふわふわのもちもちで」と表現してるのを見つけて、単行本に付箋も貼りました。

江島 このシーン、なぜ食感に例えようと思ったのかよく覚えてないです……。なぜだろう……。ただ踏み込めるだけ踏み込みたいと思ったことは記憶にあります。

森島 あはは(笑)。2巻の7話に描かれている、ナイフで刺すバトルシーンもすごい。思わずここにも付箋を貼ったんですが、もえちゃんの変態性がよくわかります。もえちゃんは殺されかけたから好きになったんですよね? 殺されるのがもえ自身の中で一番のエクスタシーだから、殺してあげるという直情型のキャラは好みだなあ。

江島 空手をやっていた影響もあるかもしれませんが、バトルシーンはがんばって描いています。「少女決戦オルギア」は元々百合というより、少女同士のバトルものという要素を前面に押していて……。「百合」というワードも、1巻ではAmazonの説明のところにちょっとだけ。でもバトルシーンと百合描写を交互に入れたくて、そこはやはり熱量が違うと思います。主人公の舞子と西見堂さんとのバトルシーンの中に百合シーンを描いたんですが、かなり気合いが入りました。私はこれを百合だと思うけど、そう思わない人がいても仕方ないと思いながら。

「少女決戦オルギア」1巻より、舞子と亜子のバトルシーン。

森島 「少女決戦オルギア」は百合だと気付かずに読む人も多いと思いますし、「ガチ百合じゃん」という人もいると思います。そこが面白いなと思って。ちなみに私はガチ百合だと思いました。

──どのようなところでそう感じましたか?

森島 百合が、当たり前にある世界観だと思ったんです。熱い友情から恋心まで、女の子同士が好きというのが普通の作風。あと「少女決戦オルギア」の女子同士の殺し合いというのは、エロスの暗喩だと思います。

江島 えっ!

「少女決戦オルギア」1巻より。

森島 付箋を貼ったこのシーン! 舞子ちゃんが「このまま夜なんて来なければいいのにな」って言うところはエロスだなと思いました。現実でも高校生って大人と子供の境目だから、同じ制服を着ていても夜になるとそういうことをしている……大人の世界に踏み込んでる子もいる。昼間は女の子同士のキャッキャッとした純粋な穏やかな日常を送っていてもね。「少女決戦オルギア」で舞子たちが戦う「ゲーム」は、夜にしか行われないじゃないですか。それで負けると死ぬ。このバトルでの死は、エロスの暗喩なんじゃないかと感じました。舞子は、夜の世界を受け入れつつも、昼間が好きなんだと。

江島 深い……! その視点はありませんでした。

森島 思春期の女の子の、二面性を昼と夜で表しているのかなあって。

江島 無意識でした。

“なんとも言えないもの”を作りたい(江島)

──ネームの神が降りてきていたんでしょうか?

江島 ネームの神が降りてきたことは1度もないです(笑)。森島先生はありますか?

森島 「追憶~ノスタルジー~」のときは降りてきましたね。

「追憶~ノスタルジー~」が収録された単行本「瑠璃色の夢」。

江島 わ、「追憶」!! 森島先生の作品の中で、一番読み返した作品です!「子供の頃は夢って未来を見ることだと思ってた。でも未来は作ることができるけど、過去は夢でしか会えないって大人になって気づいた」という主旨のセリフがあって、あれがすごい衝撃でした。「わかる!」という気持ちと、「本当のことを言わないで!」という気持ちが……。

森島 あの話は本当に降りてきたんです。思い付いたとき、別のマンガを描いていたんですが、手が勝手に「追憶」のネームをやりそうになって(笑)。友情と、家族愛と、恋愛感情がグラデーションになっているのが百合ジャンルの特徴だと思っているので、それを表現できたんじゃないかと。

江島 私は“なんとも言えないもの”を作りたいという欲求があって。「追憶~ノスタルジー~」はすべての愛情がこもっているようで、でも曖昧で、なんとも言えないんです。そういうところがすごく好きです。

森島 あくまで自分の作品の中でなんですが、「追憶」は完成度が高いんです。ある意味、ヤバい。これで満足しちゃいけないんだけど、やり切っちゃったから「私の百合作家人生、全部出しちゃったどうしよう」となりました(笑)。きっかけになった作品と言うのでしょうか、「ここで終わっちゃいけない」と思いました。

江島 納得です。

森島 でも、江島先生にもネームの神様が降りてきているんじゃないですか? この間「漫勉」(NHKのドキュメンタリー番組)を観ていたら、東村アキコさんと浦沢直樹さんが「ネーム中って寝ちゃう、夢の中で作ってる」というようなことをおっしゃっていて。たぶんトランス状態になっているんだと思うんですよ。先ほど江島先生も「ふわふわのもちもちで」って食感で表そうとした理由を覚えてないとか、昼と夜の二面性表現は無意識とか言っていたし。

江島 え、私のところにもネームの神が……?

森島 絶対来てますよ! 百合への使命感を持って、お互いがんばりましょうね。

江島 百合の存在を知った頃から読んでいる森島先生に、こんなふうに言っていただけるなんて……。森島先生、もしよろしければサインをいただけませんでしょうか……?

森島 もちろん喜んで! 誰を描きますか?

江島 キャラも描いてくださるんですか!? じゃあるる……いや、紅羽……るる……紅羽でお願いします!

森島 わかりました(笑)。

江島 うわあ、家宝にします!

江島絵理「少女決戦オルギア」 / 発売中 / 講談社
1巻 / 650円
2巻 / 650円

20年に一度、秘密裏に開催されるという「ゲーム」と呼ばれる魔法・武器・格闘なんでもありのバトルロイヤル。日本国内に100以上ある魔術団体から各1名ずつ参加する「宿主」の女子高生が、夜な夜な命をかけた戦いを繰り返していた。その参加者の1人・水巻舞子は、怪物に魅入られた親友・緋乃の命を救うため「ゲーム」で最後まで勝ち残り、最強の怪物「サンダルフォン」を手に入れる必要があった。

原作:イクニゴマキナコ 作画:森島明子「ユリ熊嵐」 / 発売中 / 幻冬舎コミックス
1巻 / 680円
2巻 / 680円

地味で存在感のない“透明な高校生”椿輝紅羽に話しかけてくれるのは、先月編入してきた美少女転校生・百合城銀子。しかし元気で明るく可愛くて人気者の銀子の笑顔に違和感を覚える紅羽は、銀子が本当は人間ではなく熊なのでは? と思っていて……。

江島絵理(エジマエリ)

2014年発売のヤングマガジン サードVol.2(講談社)にてスタートした「少女決戦オルギア」でデビュー。現在もヤングマガジン サードにて同作を連載中。

森島明子(モリシマアキコ)

anise(テラ出版)の「しあわせ絵日記」で1997年にデビュー。百合ものや4コマ漫画を多く手がけ、2015年1月放送のTVアニメ「ユリ熊嵐」ではキャラクター原案を担当。現在「ユリ熊嵐」マンガ版を月刊コミックバーズ(幻冬舎コミックス)にて連載中。著作に「半熟女子」「レンアイ★女子課」「女の子合わせ」「初めて、彼女と。」「聖純少女パラダイム」など。