「宇宙戦艦ヤマト」スタッフが贈るSF大作アニメ「オーディーン 光子帆船スターライト」の魅力とは

「宇宙戦艦ヤマト」のプロデューサーである西﨑義展が制作総指揮を執り、1985年に公開された劇場アニメ「オーディーン 光子帆船スターライト」。9月にBS10のスターチャンネルで放送され、Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」でも配信されている。

コミックナタリーでは、「オーディーン 光子帆船スターライト」の魅力を解説するコラムを掲載。「宇宙戦艦ヤマト」のスタッフが、1979年に公開された「宇宙空母ブルーノア」に続き挑んだ「オーディーン 光子帆船スターライト」について解説する。

「オーディーン 光子帆船スターライト」

2099年。鈴鹿武船長率いる最新鋭宇宙船スターライトが、木星の小惑星帯で破壊された宇宙船アルフォード号の救助に向け、若い練習生たちを乗せて出航する。そこで救出した謎の少女サラの導きにより、天王星近くで謎の宇宙船を発見。それは、遥か彼方のアルゴ座カノープス星系にあるオーディーン星から来たものだった。そこに何かあると知った筑波あきらたち練習生は、オーディーン星に向けてスターライトを発進させるのだが……。

「宇宙戦艦ヤマト」のスタッフが「宇宙空母ブルーノア」に続いて挑んだ
“第3の船”「オーディーン 光子帆船スターライト」の魅力とは?

文 / 岩佐陽一

戦艦、空母に続いて宇宙に旅発った帆船・スターライト

「宇宙戦艦ヤマト」のスタッフが宇宙に放った“第3の船”、それが「オーディーン 光子帆船スターライト」だ。タイトルのオーディーンとは、主役メカであるスターライト号が目指す宇宙の伝説の惑星名のこと。「ヤマト」におけるイスカンダル星のようなものだ。「ヤマト」、それに“第2の船”ともいうべき「宇宙空母ブルーノア」(1979年)とは異なり、最初から劇場用映画として企画され、1985年8月10日に夏休み映画として全国公開された。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

“海洋ロマン”に並々ならぬこだわりを見せる西﨑義展プロデューサーの総指揮により企画がスタート。プロモーション活動に関しては右に出る者のない同氏の肝いりでいち早く各アニメ誌やマスコミに情報が公開された。初公開時点での仮タイトルは「オーディーン 未知への冒険2099」で、その記事内容を読んだファンたちは「今度は帆船?」と多少いぶかしげに思った。「ヤマト」は第二次世界大戦、「ブルーノア」は米・第七艦隊(戦後軍事)色が濃かった2作に比べて、戦争やバトルもののカラーが薄いと感じた一般のファンは当時多かった。実際にはTVシリーズの「宇宙戦艦ヤマトIII」(1981年)~劇場公開作品「宇宙戦艦ヤマト 完結編」(1982年)でピリオドを打った「ヤマト」シリーズを新生させるための伏線で、「ヤマト復活3カ年計画」と題したビッグ・プロジェクトの第1弾だった。作品キャッチコピー「北欧神話の謎とロマン! 時空を越えて、いま…」が象徴しているように、世界観のベースに北欧神話が敷かれ、宇宙スケールでSF的に再構築して描くことが西﨑プロデューサーの企画意図であり、そのため前2作よりはファンタジー要素が強い印象を受ける。思えば西﨑氏の初アニメ・プロデュース(製作)作品である「海のトリトン」(1972年 / 原作・手塚治虫)もギリシャ神話をはじめ北欧神話をベースにした海洋ロマン作品であり、そこに「ヤマト」や「ブルーノア」の作品世界を加味した、いってみれば集大成、ある意味で西﨑プロデュース作品の到達点であったといえる。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「ヤマト」「ブルーノア」以上におとこたちが夢見る海洋ロマンを追求した作品

その内容は、2099年の未来を舞台に、重力制御による新駆動システムを搭載した新造宇宙船スターライト号と、テスト航海に乗船した若き士官候補生たちの宇宙でのめくるめく冒険を描く物語で、後半は従来の宇宙戦となるが、「ヤマト」や「ブルーノア」が2つの勢力の闘争を描くことを主眼にしていたことに対し、「スターライト」では戦いはあくまでも“冒険”の一端でしかなく、ある種15~17世紀西欧の大航海時代のロマンを描いた著名な小説「宝島」(1883年)の現代・SF版を狙っていたことがわかる。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「ブルーノア」で敵・ゴドム軍のザイテル総帥の声を演じた名優・古川登志夫演じる若き主人公・筑波あきらは、宇宙航行技術大学の航行試験にて頑固で聞き分けのない教官を殴り乗員から外された典型的な落第生だったが、“船に乗りたい”という一心で半ば密航的に乗船。今度は頭の柔軟な鈴鹿武船長(CV:加藤武)に気に入られ、乗員として迎えられる……というプロローグも「ヤマト」や「ブルーノア」的な悲壮感・切迫感はなく、昭和よりさらに古えの海洋冒険小説、海のおとこたちの物語というイメージで、西﨑プロデューサーの目指したドラマツルギーが明確に読み取れる。ある意味、この主人公像には異業種よりアニメ業界に身を投じた自身が投影されているのだろう。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「ヤマト」「ブルーノア」の精鋭スタッフたちが再集結!

西﨑自身、やはりTVシリーズ第1作目の「宇宙戦艦ヤマト」に思い入れが強く、このTVシリーズおよび初期2作の映画化時のスタッフに特に全面的な信頼を寄せており、その精鋭スタッフたちが同プロデューサーのもとに召喚された。キャラクターデザイナーの湖川友謙、高橋信也は映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」(1978年)のキャラクターデザインおよび原画を担当。監督の白土武、山本瑛一もそれぞれ第1作「ヤマト」の構成、作画監督を担当。同じく「ヤマト」シリーズには欠かせぬ、日活出身で日米合作映画「トラ・トラ・トラ!」(1970年)などで知られる名匠・舛田利雄が総監督に就任。ほかメカニックデザインの板橋克己、大倉雅彦、作画監督の金田伊功、角田紘一、遠藤政治、総作画監督の宇田川一彦、さらに設定ブレーンとして豊田有恒、山本英明、藤川桂介らが参加。そしてプロデューサーは勝間田具治、音楽は後述する宮川泰、羽田健太郎……と見事に「ヤマト」シリーズの精鋭・常連たちが要所に名を連ねている。トピックスとしては先の設定ブレーンに「ノーラ(NORA)」シリーズなどで知られるマンガ家の御厨さと美が参加していることだろう。御厨の卓抜したセンスは主にビジュアル面で活かされていた。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

ヤマト、ブルーノアに続いてスターライトに乗船した豪華声優クルー

出演声優陣も豪華かつ「ヤマト」「ブルーノア」の顔ぶれがメインで、先の古川登志夫を筆頭に「ブルーノア」で井上達也役だった堀秀行、「宇宙戦艦ヤマトIII」ルダ王女役の潘恵子、「ヤマトIII」ゴルサコフ役の玄田哲章、「ブルーノア」主人公・日下真役の古谷徹、「ヤマト2」などの若本紀昭(現・若本規夫)、「ヤマト2」山本明役の曽我部和恭、「ヤマト」「ブルーノア」の出演はないが「海のトリトン」の主人公・トリトン役の塩谷翼らが一堂に会している。極めつけは「ヤマト」の沖田十三艦長役の重鎮・納谷悟朗が蔵本正之助役とナレーターを兼任したことだろう。これで「ヤマト」のデスラー総統役、「ブルーノア」の清水忠治役の伊武雅刀も揃えば完璧といえる布陣だったが、当時、伊武はドラマ「金曜日の妻たちへII 男たちよ、元気かい?」(1984年)などで大ブレイクを果たし、タレント・俳優業が多忙になり、本作の出演はかなわなかった。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

伝説のヘヴィメタルバンド・LOUDNESSが熱唱した主題歌とシリーズ屈指の作曲家陣

本作の公開時には「ヤマト」「銀河鉄道999」(1978年)で火がつき、「機動戦士ガンダム」(1979年)や「伝説巨神イデオン」(1980年)などで一気に加熱化した一大アニメブームがひとまず収束の兆しをみせ始めた時期で、当初より「ヤマト」や「ブルーノア」ほどのムーブメントを生むには至らなかった。それでも“主題歌にLOUDNESSを起用”は当時、アニメ界隈のみならず一般社会的にも大いに話題を呼んだ。ここでも特に音楽面でずば抜けた才能を発揮する西﨑プロデューサーの卓越したセンスがいかんなく発揮された結果だ。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

LOUDNESSは今も活躍中の、伝説的ヘヴィメタル/ハードロックバンド。元LAZYの高崎晃と樋口宗孝が中心になって1981年11月25日に「THE BIRTHDAY EVE ~誕生前夜~」で本格デビュー。以降順調に新曲リリースを重ね、1983年7月9日に渡米し、全米ツアーを成功させて凱旋帰国した。そのことで音楽業界内外で一躍脚光を浴びることに。そんな彼らを主題歌に起用した西﨑プロデューサーの音楽的な慧眼には敬服するほかはない。一方で宮川泰、羽田健太郎という「ヤマト」シリーズの音楽世界を構築した功労者たちを本編の音楽に起用。「ヤマト」ファンへの配慮にも余念がなく、ここでも西﨑プロデューサーの音楽へのこだわりが生きている。

アカデミー製作の代表・西﨑義展がそれまでの歴史や培われたノウハウを重んじ、継承しつつ自身の原点に還り、そのうえでさらなる高みを目指した作品、それが「オーディーン 光子帆船スターライト」だった。その意気を感じつつ、偉大なる先人たちの仕事ぶりを改めてご堪能いただきたい。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」より。

「オーディーン 光子帆船スターライト」放送・配信情報

「スターチャンネル BS10」

「スターチャンネル BS10」

放送情報
BS10 スターチャンネル:2024年9月24日(火)21:00
※11月にも放送予定

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「スターチャンネル EX」

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配信情報
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「BSJapanext」と「スターチャンネル」がひとつに! 新しいBS放送局「BS10」が2025年1月に誕生

「BS10」

「BS10」

ジャパネットブロードキャスティングが運営するBS263ch「BSJapanext」がBS10chにチャンネルポジションを変更する。2025年1月に新しいBS放送局「BS10(ビーエステン)」が誕生し、映画専門チャンネル「BS10スターチャンネル」とのハイブリッド運営を実施。同じBS10ボタンで、無料放送の「BS10」と有料放送の「BS10スターチャンネル」が視聴できることになる。