アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」綾奈ゆにこ×武田綾乃対談、"女女の関係性"の名手が語る、MyGO!!!!!のリアル (2/2)

日陰にいる子を陽のあたる場所に連れ出してくれる女の子が好き

武田 話が「It's MyGO!!!!!」に戻ってきたので触れておくと、私の中では(豊川)祥子ちゃんがよすぎて。

綾奈 うれしいです。私もいち視聴者としてアニメを観たときに「素敵!」とは思ったんですが、脚本を書いているときはどう受け取っていただけるかわからなくて。

武田 でも祥子はみんな好きじゃないですか? 今でこそちょっと変容していますけど、私は彼女を太陽のようないい子だなと思っていて。愛音も中学校の頃の祥子みたいな明るくみんなを引っ張るような子になりたいんじゃないかなと。だから私は愛音が何かがんばろうとするたびに「それを中学生の祥子はやってたんだよな。祥子強い!」とずっと彼女のことが脳にチラついていました。そんな祥子が今やずいぶんと変わっちゃって……。視聴者の皆さんも「太陽みたいだった祥子ちゃんに一体何があったの?」って気になり続けて、たぶん祥子が好きになっていると思いますよ。

第8話より、祥子。

第8話より、祥子。

綾奈 ありがとうございます。ただ愛音と祥子の性質的な対比はあまり意識してなかったです(笑)。

武田 本当ですか。でもそんなふうに視聴者が勝手にいろんな関係性のパズルを作っていけるのも楽しいです。

綾奈 なぜ愛音と祥子が対比関係に見えるか考えると……私は日陰にいる子を陽のあたる場所に連れ出してくれる女の子が好きなんです。その連れ出す役を、中学時代は祥子、高校時代は愛音にやってもらっているから2人が重なって見えるんでしょうね。

武田 燈ちゃんにとってのポジションが重なっているから、ですね。やっぱりそういう好みって作品に出るんですね。私は人の人生を悪気なく破壊する女が好きなんですよ。

綾奈 ああ、だから祥子が好きなんですね(笑)。それは武田先生の「愛されなくても別に」を拝読した際に感じました。実は今日は、「女に人生を滅茶苦茶にされたい願望があるんですか?」と聞こうと思って……。

武田 読んでいただいてありがとうございます。誰のものにもならない子が滅茶苦茶にしていくのが好きなんですよ。誰かのものになった時点でその女は弱くなっちゃうから。宗教っぽい関係性が好きなんでしょうね。べつに神様でもなんでもない女の子が勝手に崇拝の対象にされるけど、その子は人の人生を破壊するだけして「私、神様じゃないし」と言って去っていくという。

綾奈 祥子なんだよなー!

武田 だからあの子は私にすごく刺さりました。1人の人間にそんなに重いものを背負わせるなんて本当は悪いことなんですけど、もうこれは趣味の話ですから(笑)。

女同士のドロドロギスギスは別に普通のこと

武田 やっぱり女の子のドロドロギスギスした人間関係を書くのは楽しいですよね、私も好物です。綾奈さんに今日文庫版を持ってきていただいた「飛び立つ君の背を見上げる」なんて、「ユーフォ」のスピンオフだけど吹奏楽なんて全然やってないし。

綾奈 (笑)。

武田 でも、決してドロドロしたものを書こうと思っているわけではなく、学生時代の描写をリアルに近づけようとすると結果的にそうなるだけなんですよね。ラッキーでハッピーな人間関係なんて、現実はそうないじゃないですか。

綾奈 意図して書こうとしているわけじゃないの、わかります。

武田 私はそういった方向の描きが好きなだけで。それで「ユーフォ」のスピンオフで立華高校という学校のマーチングバンドの話を書いたときは、そういうギスギスをイケイケで書いたところ、Twitterで「あまりに刺さり過ぎて手が動かなくなった」「つらくてページを進められず、前編で読むのを諦めました」みたいなリプライがけっこう届いて。

綾奈 読者の方から。

武田 それ以来、その立華高校の話が快・不快のギリギリのラインだと意識しています。「ドロドロしたものを書くぞと決めているとき以外はやり過ぎないよう気をつけよう」って。でも、特に女の子のコミュニケーションってよくも悪くも密だから、喧嘩するときも激しいし仲良いときも激しいと思うんですよ。だから私にとっては書いていることは全部普通で、「意外とこんなもんだよ」って言いたくなることがたまにあります(笑)。

「響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ」前編・後編 ©武田綾乃・アサダニッキ/宝島社

「響け! ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ」前編・後編 ©武田綾乃・アサダニッキ/宝島社

──素人質問でしたら申し訳ないのですが、その密接な関係性は女の子同士でしか書けないものなのでしょうか? 例えば男と女、あるいは男と男では描きづらいとか?

武田 性別を気にするような時代でもないので難しい質問ですが、男と男のリアルな友情描写だと考えると違和感があるかもしれないですね。定期的にバズる話題ですけど、女性同士は仲良くなるほど距離が縮まって、男性同士は仲良くなるほど無関心になる傾向がある。何も説明しないけど信頼し合っている、背中を預け合っているのが男同士のカッコいい友情、みたいな。そんな違いがあるから、同じような関係性を男性同士でやるとコミュニケーションの取り方に違和感を抱く人はいるかもしれないですね。私自身は、性別やしがらみにかかわらず、どんな関係性でも皆がそれを自然に受け入れている世界がいいなと思ってお話を書いています。

サブタイトル「信じられるのは我が身ひとつ」がポイント

──ちなみにおふたりは男性がメインキャラクターになるものも書かれていて、もちろんそちらも全力で執筆されていると思うのですが、女性がメインキャラクターのほうがテンションが上がったりするものなのでしょうか?

綾奈 魂がそこにあるので。

武田 ははは(笑)。

綾奈 女女関係は呼吸するように書けるんですよね。

武田 私も、そっちのほうが得意という感覚です。男性キャラクターを書くときは自分の中で1回調整が入るんですね。「男の人にとってこの思考は違和感があるか、ないか」みたいな。そういう距離がある対象について考える作業が常に発生するんですけど、女の子はそんなに深く考えずに「どうぞ!」って作品に送り出せる(笑)。読んだ人に何か言われても「これが普通だよ」「私の友達にいたよ」って思えるし。逆に男性の細かい感覚はわからないので、その辺りはいろいろと試行錯誤してますね。

第11話より。左からそよ、愛音、楽奈、燈、立希。

第11話より。左からそよ、愛音、楽奈、燈、立希。

──まだまだ話は尽きなさそうですが、お時間もあるので最後に1つ質問させていただきます。「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の今後の展開について、綾奈さんは注目してほしいポイント、武田さんは期待することを教えてください。

綾奈 第12話でようやくMyGO!!!!!というバンド名が決まりましたが、決着のついてない感情や関係性が残っています。果たして本当に一生バンドをやっていけるのか。そういったところにすごく思いを込めて脚本を書きましたので、ぜひ最後まで観ていただきたいです。自分の好きなものだらけでできています……!(笑)

武田 私は祥子ちゃんの活躍に期待、かな。彼女も少し不穏な雰囲気が出ているじゃないですか(笑)。ピアノはいつも学校の音楽室で弾いていたり、家には頑なに誰も入れないし、中学はお嬢様学校の月ノ森女子学園だったのに、高校からは普通の進学校の羽丘女子学園だし……。何があっても祥子ちゃんにはがんばってほしいです。

綾奈 「信じられるのは我が身ひとつ」というサブタイトルがポイントですね。

プロフィール

綾奈ゆにこ(アヤナユニコ)

脚本家。TVアニメの脚本、マンガ原作を手がける。2017年から「BanG Dream! (バンドリ!)」シリーズの脚本・シリーズ構成を担当しているほか、アニメ「電波女と青春男」「きんいろモザイク」「アイカツ!」「アイドルマスター SideM」「ギヴン」「ビックリメン」など多数のアニメ作品に参加。“百合”ジャンルへの造詣も深く、関連イベントや特集の監修なども行っている。著書に百合コラム集「ちいさい百合みぃつけた」。

武田綾乃(タケダアヤノ)

1992年、京都府生まれ。2013年、第8回日本ラブストーリー大賞隠し玉作品「今日、きみと息をする。」でデビュー。2作目の「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」がアニメ化され話題となる。2021年、「愛されなくても別に」で第42回吉川英治文学新人賞を受賞。2023年8月には、「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話」収録の短編「アンサンブルコンテスト」を原作とした中編アニメ「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」が上映され、「ユーフォニアム」シリーズのスピンオフ作「飛び立つ君の背を見上げる」が文庫化された。ウルトラジャンプ(集英社)で連載中の「花は咲く、修羅の如く」では、マンガ原作も手がける。