アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」綾奈ゆにこ×武田綾乃対談、"女女の関係性"の名手が語る、MyGO!!!!!のリアル

現在、物語の後半に突入しているアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」は、メディアミックスプロジェクト「BanG Dream!(バンドリ!)」シリーズの新作アニメ。これまでの同シリーズとは異なる少女たちのリアルな葛藤が描かれ、話数を重ねるごとに盛り上がりを見せている。

コミックナタリーでは「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」の特集を展開中。第2回は、「BanG Dream!」シリーズのシリーズ構成・脚本を務める綾奈ゆにこと、「響け!ユーフォニアム」シリーズで知られる武田綾乃の対談をお届けする。綾奈と同様、思春期を迎える少女たちの心の機微や友情を描くことに定評がある武田の目に、「It's MyGO!!!!!」はどんなふうに映ったのか。また企画のスタート時に抱えることとなった綾奈の迷いとは。そのほかキャラクターの関係性、好きな女の子のタイプ、注目してほしいポイントなどについてもたっぷり語ってもらった。

取材・文 / はるのおと

もう、ホラーですよホラー

綾奈ゆにこ まさか武田先生とお話できると思わなかったので、この対談が決まったときは「えっ!」と驚きました。

武田綾乃 そんなそんな。

綾奈 今朝も「リズと青い鳥」(武田の小説「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」前・後編が原作の劇場アニメ)を観てきました。今日は失礼なことやわかっていないようなことを言ってしまうかもしれませんが、よろしくお願いします。

「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」前・後編 ©武田綾乃・アサダニッキ/宝島社

「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」前・後編 ©武田綾乃・アサダニッキ/宝島社

武田 こちらこそ。私は「バンドリ!」に関してはゲーム(スマホ向けゲーム「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」)を「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」と一緒にやっていて、アニメは第1期しか観たことがなかったんです。だから今回の対談の話をいただいて、アニメ第1期を見直し、ゲームの1章を読み直して「青春だな~」って改めて感じたうえで「It's MyGO!!!!!」を観たら……全然違う(笑)。もう1話の始まりから「うわ、すごいギスギスしている!」と思って。第1期の主人公だった(戸山)香澄ちゃんとかのキラキラしたイメージとのギャップがすごかったです。

綾奈 日陰みたいなアニメで。

武田 でも、話がリアルで好きでした。「女子高生ってこういうことあるよね。わかるわかる」と頷いちゃうような、地に足がついた人間関係ばかりですごく面白かったです。高校生の頃って基本的に視野が狭いじゃないですか?

綾奈 ええ。

武田 仲良くなりたい相手がいたとして、大人になると物事を俯瞰して確実なルートとか「もっといいやり方がないか」とか考えちゃったりしますけど、「It's MyGO!!!!!」の子はみんなそんなことを考える余裕がなくて必死ですよね。だからこそぶつかり合うことも多いんですけど、そこがよかったです。あとアニメを観るのは第1期以来だったので、キャラクターが3DCGだったのもびっくりしました。

綾奈 「バンドリ!」は第2期からキャラクターがCGになりました。「It's MyGO!!!!!」からは一段とアニメーション作りへのこだわりが強くなっていて、感情が伝わるような表情などにすごく助けられています。

第2話より、左から愛音、そよ。

第2話より、左から愛音、そよ。

武田 表情や仕草がいいですよね。(長崎)そよちゃんが顕著で、最初のほうからずっと意味深でしたけど、案の定「あららら」って。確かに冷静に考えるとそよちゃんが言っていることっておかしいんですよね。でも(千早)愛音ちゃんも変だからスルッと流れていく。

綾奈 お互いに踏み込まないからこそ会話が成り立つんですよね。

武田 この2人で特に好きなやり取りがあるんです。そよちゃんが愛音の前で「やっぱりみんながいないと」と言うところ。

綾奈 第6話の、一緒に帰るシーンですよね。(椎名)立希ちゃんが思わずバンドメンバーに本音をぶつけちゃった後。

第6話より、立希。

第6話より、立希。

武田 そうです。そよが言う「みんな」に、愛音は自分も含まれていると当然のように思っているけど、それまでの流れや不穏な雰囲気もあって、そよにとっての「みんな」は、前に立希ちゃんたちとやっていたバンドの「みんな」だとわかる。しかもそれを愛音本人を前にして言うなんて……。「そよ、怖!」ってなりました(笑)。もう、ホラーですよホラー。

綾奈 そよちゃんは本音を隠すのがうまいから、それでも愛音ちゃんはずっと信頼していて。

武田 そう! だから「愛音、早く気付け!」って言いたくなる。そよは本音を言っているのに周りはその真意に気付かない。ああいうシーンが大好きなんですよね。あと余談ですけど、その後にバンドの練習に来なくなり、学校の机で突っ伏している立希ちゃんの上に「遅刻厳禁」という張り紙が貼ってあるところも切ない(笑)。

綾奈 「リズと青い鳥」でも張り紙を使った演出がありましたね。

武田 アニメのスタッフさんは、ああいう細かいところで演出してくれるんですよね。

「ここまでシリアスに振り切って大丈夫?」という迷いとともに

武田 そんな感じで途中までは「そよちゃん、おもしれー女だぜ」と思いながら観ていたけど、後半は彼女の言動がヤバ過ぎて「これ、視聴者が許せるラインを超えてきてない?」とハラハラしていました。

綾奈 そうですよね……。そもそも私自身は香澄ちゃんたちみたいなかわいらしい話のほうがなじみがあるので、今回の「It's MyGO!!!!!」は企画のスタート時どれくらいシリアスにするか悩んでいたんです。

武田 視聴者が引いちゃう可能性がありますからね。

綾奈 「重めのドラマをやりたい」と(ブシロードの)根本雄貴プロデューサーに依頼されたので、シリアスをやるつもりではありました。せっかく0から作れるのならと、私が当時プライベートで経験した裏切りや人間不信の時期に覚えた感情を、バンドというフィルターを通して表現しようと思って。それが(高松)燈ちゃんの「一生、バンドしてくれる?」という第1話のセリフにつながるんですけど。

武田 ええー! 恐ろしい話。

綾奈 ただ、どこまでシリアスにしていいかは迷いました。そんなときに、柿本広大監督から、もっと振り切る方針が出たので、「本当に大丈夫?」なんて思いながらもどんどん突き進んで。それでも第9話の脚本が形になったときはみんながバラバラになり過ぎて、「これ、本当にバンドになるのかな?」という思いもあって。もちろん先にざっくりとした流れは作ってあるんですけど……。

武田 喧嘩ばかりで、きちんとバンドを結成できるか怪しかったと。

綾奈 それくらい不安でした。

第9話より。左から愛音、燈。

第9話より。左から愛音、燈。

武田 でも全然そよちゃんを許せるくらい、第10話のライブシーンはすごかったですよ。あんな泣き顔でベースを弾かれたら許すしかない。ライブ映像の妙というか、絵ってすごいなと感動しました。

綾奈 すごかったですよね! コンテ・演出の梅津朋美さんを始め、関わる皆さんの情熱が詰まっていました。あの話は後藤みどりさんが脚本を書いてくださって。それから曲の発注だったんですけど、脚本会議の場で、音楽担当の方が普段はそんなことを言わないのに「曲ができたので、今聴きます?」と。いざ流してもらったらみんなで泣きそうになって(笑)。

武田 曲を作られる方は大変ですよね。完全にシナリオと連動させなくてはいけないし。

綾奈 特に「詩超絆」は大変だったかと思います。曲だけで泣けるんですよね……。

武田 燈ちゃんの歌声もいいですし。あと第10話に関してはバンドものの物語で珍しいパターンだったと思っていて。バンドものってライブをやったら大成功、それでめでたしめでたしというのが普通なのに、あの話は少しずつライブの評判が広がって動員が増えていったじゃないですか。あれもリアルでした。

綾奈 これまでのシリーズでは、ライブで気持ちが昇華されるとか物語がきれいに収まるといったある種のセオリーで作ってきたんですけど。

武田 でも「It's MyGO!!!!!」は人間関係が主軸ですよね。

綾奈 はい。ライブをやっても何も解決しないとか、むしろライブをやってこじれるとか。

武田 「なんであの曲をやったの!」とか怒り出したり(笑)。「嘘!? ライブ成功したのにー」とびっくりしましたよ。

第7話のライブシーンより、左から愛音、そよ。

第7話のライブシーンより、左から愛音、そよ。

綾奈 これまで「バンドリ!」を楽しんできてくださった方は特に驚かれたのでは。

武田 でも最初からずっと喧嘩をしていたからこそ、音楽で1つにまとまったときのカタルシスがすごかったですから。「みんなよかったね」って親戚のおばちゃんみたいになりました(笑)。

綾奈 私もそんな感じで、第10話以降の愛音とそよの関係がすごく好きで。

武田 「そよさんを『さん』付けするのをやめます」から、ですよね。女子同士のキャピキャピした関係ではなく、肩組んで「がんばろうな」みたいな感じになっていく。女の子同士でもああいう関係性ってありますけど、あまりフィーチャーされる機会がないから特にいいなと思いました。

綾奈 バンドだから成り立つ関係性かもしれません。バンドって友達ではなく、一緒に何かをやっている仲間なので。もちろんバンド以外でもあり得るでしょうけど。

武田 会社のチームに近いですよね。キャラクターが一緒に行動する理由付けが大人っぽくて、今までの「バンドリ!」は少しファンタジーっぽさもあったけど、「It's MyGO!!!!!」で描かれていることは現実世界に起こってそうなんです。当然だけど最初に作ったバンドでずっと続けることなんてほとんどなくて、みんな結成と解散を繰り返すものだし。

綾奈 そう言っていただけてよかったです。今まで、「バンドリ!」以外を含めてもここまでリアル寄りに(脚本を)描くことがなかったので、自分にとっては大きな挑戦でしたし、「ここまでやっていいんだ」というのも見えてきました。

文章に込めるニュアンスと、受け取る側の認識のズレ

綾奈 私が「バンドリ!」第1期でこだわったのは、劇中の彼女たちの間だけで成立するような生々しい会話なんです。それを「すごくいい」と言ってくださった方もいたけど、「わからない」という方もいて。私は後者の感想が目について、「『バンドリ!』はたくさんの人に届けないといけない作品だった」とすごく反省したんです。なので第2期、3期のときは広く届けられるものにしようと自分のエゴを抑えていました。でも「It's MyGO!!!!!」はそこで得た、人に届けるための作法を使って自分が書きたいものを書いているので、ある種の原点回帰なんです。

武田 無事に届きました。でも脚本は難しいですよね。同じ会話劇でも、小説だとセリフだけでなく地の文に説明を投げることができるので。

綾奈 ただ武田先生の御本を拝読すると、地の文に映像的な表現というか、人物の様子や仕草だけが書かれている文章がありますよね。それを読者がどう受け取ってもいいというか、想像させる幅が広いなと。

武田 ああいうのは、私が書くのが好きだし、説明し過ぎないほうが意外と読者はいい感じに受け取ってくれるので入れています。ただでさえ小説は説明過多になりがちなのに、そこで受け取ってほしい感情まで限定してしまうと、私の考え以外の幅が消えちゃうので。

綾奈 その余地の部分に、アニメ化にあたってスタッフさんの解釈が入りますよね。アニメは多くのスタッフで作るので、解釈を確定させなくてはいけないのは自分も経験があるので知っていますが……アニメを観てから武田先生の小説の該当する部分を読むと「こんなに解釈の余地があるんだ」と。

武田 そうですね。今は「花は咲く、修羅の如く」というマンガの原作をやっていて脚本を毎月作っているんですけど、そこで編集さんに「表情を指定してください」と言われて最初は「どういうことだろう?」って感じたんです。細かい表情って本を書いているときには考えたことがなかったのですが、絵にするときは確定させなくちゃいけないんですよね。だからト書きに加えて、セリフのあとに「(怒)」とか「(曖昧な笑み)」とか感情を表す言葉を入れています。小説だとそんな感情の指定の仕方は最悪ですけど(笑)。

綾奈 アニメの脚本でも、ここ数年はそういうものが求められてて。セリフだけでなく、どんな表情や感情で言っているかまでなるべく書いています。受け取る側と齟齬が生じないように。

第5話より、燈。

第5話より、燈。

武田 けっこうニュアンスのズレが生まれるんですよね。「ユーフォ」だと当時の部長である晴香に自分のいいところを聞かれた久美子が「優しいところ」と繰り返したせいで、「優しいなんてほかにほめるところがない人に言うセリフでしょ」と言い返されるシーンがあるんですが、私は最初は軽めのトーンで最後にバシッと決めるつもりで書いていたんです。でもアニメではずっとシリアスになっていて(笑)。「私の感覚がズレてるんだな」と反省することはよくあります。

綾奈 第1期第7話は冒頭からシリアスでまとめられていましたね。武田先生のイメージも想像すると意図がわかります。脚本の場合、そういった狙いがあれば書いておいて、コンテやアフレコ段階で確認させていただくこともあります。

武田 けっこうコントロールできているんですね。

綾奈 最終的なジャッジは監督なので全部とはいきませんが。「It's MyGO!!!!!」のコンテを見て驚いたことといえば、例えば、そよちゃんに裏があることが第2話でもう判明してしまうところですね。脚本段階では、「序盤は隠そう」って監督の方針だったので。

武田 でもそういった匂わせがないと。そよちゃんを普通に優しいお姉さんだと思っていた人は中盤で心臓が止まっちゃうかもしれませんし。

綾奈 おかげで、サスペンスっぽい楽しみ方ができるようになりました(笑)。