コミックナタリー Power Push - 鈴木信也「Mr.FULLSWING」
ジャンプの野球ギャグマンガ、文庫版に前代未聞の大量描き下ろし
ゲームのキャラクターデザインにも憧れていた
──やっぱり「ミスフル」の大きな魅力は、特徴的なキャラクターだと思います。
実は僕、マンガ家のほかに、ゲームのキャラクターデザインをやってみたいっていう夢もありまして。ゲームのキャラクターってやっぱり個性的なんですよね。黒髪でTシャツを着ているだけといったキャラデザはありえない(笑)。僕はそういうゲームの世界にすごく憧れていたので、自分でマンガを描くときもできるだけゲームキャラのように個性的なデザインにしたいと思っていました。絵的には、すごく手間になってしまうんですけど……。
──確かに、牛尾くんの髪型なんて、描くときすごく面倒くさそうです(笑)。鈴木先生は最近、ゲームでは「クロストレジャーズ」のキャラクターデザインをされていましたよね。
ええ。その話をいただいたときは、本当にうれしかったですね。やっと夢が叶ったというか。楽しくやらせていただきました。ただファンタジーRPGだったので、ずっと野球マンガを描いていた僕がちゃんとできるのか、最初は不安でしたけど。
こんなふざけた格好をしてるキャラが、普通に打つわけない
──でも「ミスフル」のキャラは、RPGに出てきてもおかしくないくらい個性的です。見た目も、とても野球をしているとは思えない(笑)。ぶっ飛んだキャラがぶっ飛んだ野球をするのが「ミスフル」の魅力だと思います。
もしジャンプじゃなかったら、もっとリアルな野球描写だったのかもしれません。……ジャンプで野球モノって、やっぱり難しいんですよね。まわりの華のあるマンガと一緒の土俵で戦うわけですから。多分相撲や柔道も、題材がそれだけだと難しいと思います。例えば「ヒカルの碁」は幽霊が出てくるという設定がありますよね。そういう風に、題材を知らない人でもスッと入っていけるよう、入り口を面白くすることが必要になってくるんですよ。
──でも野球は割とメジャーなスポーツなのでは?
うーん……、今の時代はサッカーやバスケのほうが人気ですかね。当時のジャンプでは僕が野球を普通に描いただけでは通用しないと思ったんですよね。ギャグが多くてもいいし、一生懸命野球さえやっていれば、多少見た目が野球をするように見えないキャラでもいい。「ミスフル」はドラマメインというより、野球のゲームとしてのアツさとキャラの面白さ、ギャグの面白さに重きをおきました。
──あと、トンデモ打法もありますね。
それは絶対にやりたかったんですよ。現実に存在する打法だけでは面白くないでしょ、と思って。大体、こんなふざけた格好をしてるキャラが、普通に打つわけないじゃないですか!(笑)
──(笑)。マンガならではのエンタテインメントだと思います。
ただ、いくらトンデモ打法と言っても、いきなり球が大きくなるとか手からビームが出るとかはないです。それは超能力じゃないと無理なので。どんな超人技でも、無理矢理とは言え理屈はあります。……まあ当時は「野球を知らないやつが描いてるからこんなあり得ない技が出てくる」とか、リアル志向の読者さんからお叱りを受けたりもしましたけど。
──「ミスフル」に出てくる野球は普通の野球ではなくて、「ミスフル」の世界の野球ですもんね。そこをツッコむのは野暮というか。
最初に常識を取っ払って読んでいただければ。でも確かに、野球だからこんなトンデモなことが描けたのかも知れないですね。誰でも知っている競技だからこそ、多少ズレてもみんな理解できる。多分マイナーな題材でトンデモ技をやっても、読者はどこまでが本当か気づいてくれなかったと思います。
作品解説
猿野天国は十二支高校1年生、無茶を繰り返すパワフルバカ。入学早々、野球部のマネージャー・鳥居凪に一目惚れし、野球経験がまったくないのに野球部への入部を決意。しかし、入部するには試験があり……!? 週刊少年ジャンプ2001年23号から2006年23号(集英社)まで、5年にわたり連載された野球ギャグマンガ。
鈴木信也(すずきしんや)
1975年6月11日生まれ。神奈川県出身。1998年赤丸ジャンプWINTERに掲載された「鉄条-TETSUJO-」でデビュー。週刊少年ジャンプにて2001から2006年まで「Mr.FULLSWING」を、2008年に同じく週刊少年ジャンプにて「バリハケン」を連載。その後、低年齢層向け雑誌に活動の場を移し、2009年から2010年までVジャンプ(すべて集英社)にて「クロストレジャーズ」を連載。別冊コロコロコミック2010年12月号(小学館)にて「ドラゴンバット」を発表した。