コミックナタリー Power Push - 鈴木信也「Mr.FULLSWING」

ジャンプの野球ギャグマンガ、文庫版に前代未聞の大量描き下ろし

週刊少年ジャンプ(集英社)にて、2001年から2006年までの5年間にわたり連載された野球ギャグマンガ「Mr.FULLSWING」、通称「ミスフル」。連載終了から5年の時を経た今、文庫版として刊行されることが決定した。しかも今回の文庫版ではカバーイラストのみならず、新作マンガ、キャラクター大名鑑、総扉イラストまでが、全巻描き下ろされる。集英社コミック文庫の編集部も、文庫刊行時に著者がここまでの描き下ろし原稿を加えた例はないという。

前代未聞とも言えるこの特典の量に挑む鈴木信也に、コミックナタリーはインタビューを敢行。なぜ鈴木はここまでフルスイングで文庫化に挑むのか。「ミスフル」連載当時も振り返りつつ語ってもらった結果、ジャンプという人気雑誌における競争の厳しさと、鈴木ならではの執筆姿勢が浮かび上がってきた。

取材・文/坂本恵 編集・撮影/唐木元

 
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押入れに「ミスフル」が眠っている人は引っ張り出してみてほしい

──まずは文庫版の刊行、おめでとうございます。しかし、ものすごい量の描き下ろしですね。

「ミスフル」を連載していた当時、やっぱりジャンプはすごい雑誌なので、自分も100%以上の力を出さないとついていけなかったんですよね。だから雑誌でも単行本でも、いつも本気で挑んでたんです。文庫版はそういった当時の「ミスフル」の濃度を知っている人たちが待ってくれているので、ここでもやっぱり手は抜けないな、と。

──やはり人気作家が集まっている雑誌で連載することは、並大抵のことではないんですね。

例えば「シャーマンキング」の武井宏之先生や「ONE PIECE」の尾田栄一郎先生たちと年に数回会ってマンガの話をするんですけど、そういうすごいマンガ家さんほど全く手を抜かないんです。特に尾田さんなんて、14年も連載しているのに、いまだにモブを人に任せないで自分で描くんですよ。トップを走っている人たちがあんなにみっちりやっているのに、自分が手を抜いてしまったら、読者はうれしくないだろうと思ったので。

──「ミスフル」は当時から単行本のおまけページの密度がすごいと評判でした。「ミスターフリートーク」とか、「ミスターQ&A」とか、もう文字がみっちりで……。

そうなんです。だから今回も、相当描き下ろしを入れないと「ミスフル」の単行本を知っている眠っていた人たちが、むくっと起き上がれないんじゃないかと思ったので、「やってやろう!」と。もう完全版のようなつもりで作ってます。文庫なので、カラーは収録できないですけど。

──編集の方から、たくさん描き下ろしてほしいという依頼があったんですか?

いや、最初は表紙とおまけマンガを数ページくらいの依頼だったんですけど、僕のほうからいろいろとアイデアを出して。とにかく、単行本を持っていたけど手放してしまった方、もしくは持ってるけど押入れに入れっぱなしで何年も読んでいない方に、懐かしくなってもう一度読み返してほしいですね。例えば、総扉に単行本の表紙と似ているけど少し違う絵を描いたのも、押入れに「ミスフル」をしまいっぱなしの人が見たら、「あれ、これ少し違う?」って気づいて引っ張り出してくれるかなと思ったんです。

──なるほど。文庫版1巻の総扉が、単行本1巻の表紙のパロディになっているんですね。

後半、ネタが尽きてきそうですけどね(笑)。まあ遊び心でやっているので、深い意味はないんですけど。「こんな表紙だったっけ?」と思い出してもらえたらうれしいですね。

「キン肉マン」の超人図鑑がうれしかったんです

──巻末の描き下ろしマンガはどういった内容なのでしょうか。

「ミスフル」は、紆余曲折ありましたけど一度完結しているマンガなので、やはり「あの学校に負けたのはなかったことにしよう」とか、「あの学校に勝ったけど、別の学校とも戦わせたい」とか、そういう「もしも」はできない。さらに言うと、1年後、2年後の設定も描けるんですけど、そうすると今度は上級生が野球部にいない世界になってしまいますよね。例えば、主人公の天国が2年生になってしまうと、3年生がいなくなる。でも読者が好きだったのは、天国たちが1年生で、牛尾キャプテンたち3年生がいた、あの「ミスフル」の世界だと思うので、そこで何か描きたいと思ったんです。このマンガは野球マンガではありますけど、悪ふざけ的なギャグもあるので、描き下ろしマンガでは思いっきりふざけました(笑)。

──では、この描き下ろしマンガはギャグ路線のほうの「ミスフル」なんですね。

はい、今のところは。ただ後半になると本編がシリアス展開なので、内容がそぐわないかもしれない……。なので、そのときはまた考えます。でもやっぱり笑ったり熱くなったり、そんな明るいノリで描きたいですね。

──キャラクター大名鑑は天国たちメインキャラクターだけではなく、天国をフッた女の子までいて、脇役もかなり入ってくるんですね。

多分全部で100人は超えると思います。僕、「キン肉マン」が好きで文庫版を持ってるんですけど、それに「超人図鑑」が入ってるんですよ。1枚絵で描かれていて、多分全超人を網羅してるんじゃないかな。それが当時うれしくて、自分でもやってみたかったんです。当時「ミスフル」を楽しんでくれていた方が見て、懐かしくなったり、「こんな名前だったんだ」「こいつの好きなものはこれだったんだ」って思ってくれれば。僕も本編を読み終わったらキャラクター名鑑とか舐めるように見るタイプだったので。

──大名鑑では司馬くんのiPodが新しくなりましたね(笑)。

5年経って、ちょっと今風になりました(笑)。まあキャラクターが多くなかったり、もしくはキャラクターが突出したようなマンガでなければ、ここまでキャラをもう一度読者のみなさんにお見せすることはなかったと思うんです。でも「このキャラが好き」と言って下さる方がいっぱいいたので、喜んでいただけるかなと。

鈴木信也「Mr.FULLSWING」文庫版1巻 / 2011年10月18日発売 / 680円(税込) / 集英社 / 集英社コミック文庫 / ISBN: 978-4086192798

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鈴木信也「Mr.FULLSWING」文庫版2巻 / 2011年10月18日発売 / 680円(税込) / 集英社 / 集英社コミック文庫 / ISBN: 978-4086192804

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作品解説

猿野天国は十二支高校1年生、無茶を繰り返すパワフルバカ。入学早々、野球部のマネージャー・鳥居凪に一目惚れし、野球経験がまったくないのに野球部への入部を決意。しかし、入部するには試験があり……!? 週刊少年ジャンプ2001年23号から2006年23号(集英社)まで、5年にわたり連載された野球ギャグマンガ。

鈴木信也(すずきしんや)

鈴木信也

1975年6月11日生まれ。神奈川県出身。1998年赤丸ジャンプWINTERに掲載された「鉄条-TETSUJO-」でデビュー。週刊少年ジャンプにて2001から2006年まで「Mr.FULLSWING」を、2008年に同じく週刊少年ジャンプにて「バリハケン」を連載。その後、低年齢層向け雑誌に活動の場を移し、2009年から2010年までVジャンプ(すべて集英社)にて「クロストレジャーズ」を連載。別冊コロコロコミック2010年12月号(小学館)にて「ドラゴンバット」を発表した。