コミックナタリー Power Push - モテキ

久保ミツロウ、ナタリーに襲来!

今年の課題は、「モテキ」を最高傑作にしない努力なんです

久保 や、自分が想像つかない道に行くのが楽しいって考え方って、これから人生生きてく上では、大事な考え方だと思うんですよ。望んだ道ばかり歩めるわけじゃないんだし……スチャダラの歌にそんなのあったような気がするんだけど。

唐木 “迷い道クネクネ”だ。「MOONLIGHT DISTRICT」。

久保 だから予定以外の道を迷う楽しみを見つけようっていうのは、前向きな意味としてある。でもそれを夏樹に言わせると、途端に悲しくなってしまうんです。

唐木 なんで?

久保 だってフジにしてみりゃ、自分のこと好きでかかわってくれたんじゃなかった、自分を選んでくれたんじゃなかったんだ、ってことがわかっちゃうわけじゃん。自分は(夏樹が)望んで選んだ道ではなかったんだっていう。

唐木 ああー!

久保 人生は基本的に、誰かに選ばれないんですよ。選ばれたりしない人生に自分がどう立ち向かうか、それがすごく大事。

唐木 ごめん俺いま泣きそう……。

久保 はは、あたしも喋ってて泣きそう。誰かに選ばれた人生をがんばるっていうのは、けっこう簡単にできるんですよ。私もさ、マンガでは誰かに選んでもらって、けっこう追い風があったんだけども。

唐木 ラブでは?

久保 選ばれないね……。ちょっと前に三島衛里子さんとTwitterで話してたんだけど、「久保さんもあたしも社会のひずみが生んだ何かなんですよ」って。だからあたしはどうも、ちょっと何かの変異で生まれた何かっぽいなって。

唐木 ああ、佐世保の軍港にアメリカ軍が流した毒物でね。

久保 そそ、あたし、佐世保の毒々マンガモンスターですよ。

唐木 それはもう描き続けるしかないね、命の限り。どうなの、尾田先生とか「ONE PIECE」を終わらせたらもう長期連載はしない、って言ってるじゃん。

久保 こないだ保険をね、50歳以上まで働いてないと還ってこない保険にしたんですよ。だから私はほんとに長く描いていたい(笑)。これを終わらせたら引退します、とかはないですね。今年の課題は、「モテキ」を最高傑作にしない努力なんですよ。

唐木 いいねー。誰かに言われたんでしょ、「10年後、お前はもう一度『モテキ』を描いて売れる」って。

インタビュー写真

久保 そうそう。カイジの福本さんに、「いいか、お前は次の作品絶対失敗する! これから10年、お前はずっとヒットしない!」って。

唐木 ひどい(笑)。

久保 「だけど10年後、『モテキ』を超える作品描けばいいんだ!」って。褒められてんのか? 励まされてんのか? って思ったけど、いろいろ考えた結果(笑)、次の作品を描くとき、「『モテキ』を超えねば」ってプレッシャーを捨てろってことだな、と。私は次の作品が売れなかったとしても、長く描くことが目標なんで。

唐木 うん。西炯子さんにインタビューしたとき、「失敗してもいい。その時々で失敗する姿を晒しながら描き続けてくのがプロだ」っておっしゃってた。

久保 私もあれ読んで感銘を受けた。私、西先生のとこでアシスタントやってたんですよ、ちょっとだけ。

唐木 実は下積み長いんだよね。いちばん長くいたのは誰んとこ?

久保 吉田まゆみさんですね、「アイドルを探せ」とか描いてた。ほんとに良かったと思うのは、吉田さんとこは背景が正しい。必ず写真をベースにした正しい背景を描かせるってのがしっかりしてたんで。

唐木 パース狂ってるとか厳しいんだ。

久保 厳しくは言われてないです。ただうまいアシさんが一緒にいたんで、あたしもしっかりしなきゃと。

唐木 それはいい現場だね。

背景を描く気持ち良さを覚えてもらいたい

久保 そのうち吉田さんも(週刊ビッグコミック)スピリッツで連載始めたりして、週刊連載のやり方を教えてもらったって感じ。

唐木 週刊連載になるとどうやってもアシスタントさんを使わなきゃいけないから、作画とかストーリーテラーとしての才能以外に、マネジメントとか管理職としての才能も求められるでしょ。それも吉田先生に教わったんだ。

久保 そうですね。吉田さん以外にもいろいろ臨時のも行って、勉強させてもらいました。だから私はかなり下積みをしたマンガ家だっていう自負はあります。

唐木 じゃあアシスタントさんに指示出しするのは得意なほう?

久保 得意。無茶振りはしないです。それはあたしがアシスタント時代、アシスタントがうまく背景を描けない原因は、マンガ家が指定をちゃんと伝えられてないからだと思ってたんですね。だから指定を出す側になって、仕事がうまくいかなかったらそれはあたしがイメージを伝えられてないせいだっていう。これは基本方針として持ってます。ここを勘違いしちゃうと、アシスタントの負担が大きくなる。

唐木 実際アシスタントさんにお願いする背景とかって、コスト感覚みたいなとこもあるじゃん。こういう画面がほしいけど、でもそこまで描かせたらコスト的に合わないからこんくらいで諦めなきゃ、みたいな。そういう見切りってわりと付けられるもの?

久保 付けられませんね。私はできるだけ背景描かせます。ずっと。1日じゅうかかってもいいから描けって感じで。で締切がギリギリになってきたらアシスタントのほうから「ここは限界です」みたいに言ってくれるので。最初の時間のあるうちは、できるだけ……背景を描く気持ち良さを覚えてもらいたいってのもあるんで。

唐木 え、どういうこと?

久保 背景を描くのは気持ちいいんですよ、やっぱり。アシスタントにもその気持ち良さを分かってもらえないと、マンガ描いてても面白くならない。

唐木 そうかー、そうだよね。つらいつらい、下働きだと思って描いてたらどんどん苦行になっちゃうけど、背景には背景を描く快楽っていうもんが存在する。そしてアシさんにそれを伝えていきたい、と。これは初めて聞いた。いますごい、なるほどと思うと同時にびっくりしてる……うわ帰ってきたよ。

インタビュー写真

津田 トイレで寝てたよこの人。

卓也 なに何の話? 恋を何年休んでますかー?

久保 もう……お前ら全員、首を切って死ね!

津田 頸動脈を切って?

久保 頸動脈を切って、厳かに死ね!

唐木 ロックよ……

一同 静かに流れよ!

※この原稿は、インターネットラジオ「MOK Radio」Vol.69を再構成したものです。

「モテキ 4.5巻」 / 番外編、インタビューなど大ヒット作「モテキ」にまつわる特別企画を満載した豪華な最新刊! / 2010年9月7日発売 / 定価460円(税込) / 講談社

  • 「モテキ 4.5巻」
収録内容
  • いつかちゃんのその後が読める番外編「モテキガールズサイド」60P
  • 久保ミツロウ「モテキ」の全てを語るインタビュー
  • 森山未來×大根仁×久保ミツロウ スペシャル鼎談
  • 15歳の幸世が描いたマンガ「宇宙船カマメシ号 リンダとユキヨの大冒険」

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「モテキ」あらすじ

「モテキ」藤本幸世、29歳、派遣社員。人間誰しにも訪れるという都市伝説モテ期襲来!! お声はいっぱいかかるけど、なぜか心は傷つくばかり。それでもやっぱり彼女が欲しい! 人類、必読。心に刺さる恋物語。

久保ミツロウ(くぼみつろう)

プロフィール写真

長崎県佐世保市出身。mimi(講談社)掲載の「しあわせごはん」でデビュー。週刊少年マガジンで「3.3.7ビョーシ!!」全10巻、「トッキュー!!」全20巻を連載後、イブニング(ともに講談社)で「モテキ」全4巻を執筆。「モテキ」は2010年7月にTVドラマ化された。