初稿が上がってきた段階で大感動
──歌唱ももちろんですが、メタ的なネタをちりばめながらもイベントを通して1つのストーリーを紡ぎ出した、西尾先生の書き下ろしの朗読劇には、会場の誰もが感服したと思います。内容について、打ち合わせなどされたのでしょうか?
石川 西尾先生には、細かいお願いはしていなくて、イベントの大前提の部分しか伝えていないんです。「こういうイベントをやりたいと思っています。楽曲はこれをやるつもりで、パートごとに分けてやりたいです」という感じで。なので、朗読劇に関しては西尾先生のお力と、作品の世界観でしかないんです。僕は初稿が上がってきた段階で大感動したのを覚えていますね。
──イベントで披露された朗読は、楽曲とも密接に繋がりがあったと思うのですが、西尾先生からのご提案などは?
石川 セットリストは、僕と山内(真治)という音楽プロデューサーが中心になって決めたのですが、原稿をお預かりして一番大きく変えたのが羽川翼の「chocolate insomnia」についてですね。あの曲に朗読から直接入る流れは、西尾先生の原稿から出てきたアイデアなんです。さっきの堀江さんの衣装の話につながるんですが、本来ならこの楽曲のところで衣装を転換させようと思っていて。でも、上がってきた原稿を拝見して、「これはやらないといかんな」と思い、そこに合わせて周りを調整しました。
──イベントでは開催前から映像化なしを謳っていたのも印象的でした。「〈物語〉シリーズ」の世界観も相まってすごくカッコいい決断だなと感じたのですが。
石川 もちろんいろんな事情があって映像化が難しいというのはあるんですけど、それを前向きに受け取ろうよって言うのは我々の中ではあったと思います。「映像化しないんだったら、衣装も、演出もあそこまで凝らなくてよかったじゃん」みたいに思われるかもしれないんですけど、あの日あの場、あの幕張メッセをいかに伝説的な夜にできるかに力を入れたというか。
相川 一夜限りとか、その場でしか体験できないって、とてもエモいな、と思いました。それも含めて演出の一部として楽しんでいただこうと。
──朗読劇を再収録したCD付きの公式レポートブックが発売されましたが、いちファンとしてまたあの日の感動を味わえるのはとてもうれしいです。
石川 西尾先生が書いてくださった「chocolate insomnia」への入りの部分で、暦と羽川がお互いの恋心について言及するシーンって、もう「〈物語〉シリーズ」という作品の一部というか。当然原作でも表現の方法は違えど、2人の恋心って描かれた部分ではあると思うんですけど、あのやり取りを会場に来られなかった人にもなんとか届けたいと思っていたので。
アニメの楽しみ方が読書的
──こうして、大イベントも終えたわけですが、アニメに携われている方から見た10年続く「〈物語〉シリーズ」の魅力を教えてください。
石川 僕はもう会社に入る前からファンでしたからね、「化物語」のDVDも買ってましたから。
相川 同じく、自分も入社前の大学生のとき、「化物語」でBlu-ray Discを初めて買いましたからね。宣伝担当としても5代目なので。
──そういうお話を聞くと10年の重みを感じます。
石川 だから本当に、西尾先生の原作と、その背中をいい形で追い続けてくれるシャフトさんのフィルムに尽きるとすごく思います。本とフィルムと、あとはお客さんの熱意というこの3つかなっていう気がしますね。どれだけフィルムが面白くても、それについてきてくれる人、見てくれる人、楽しんでいくれる人がいないとやっぱり10年続けるのって相当難しいことだなと思います。
相川 原作からアニメへの一方通行じゃなくて、アニメが原作に与えている影響もこの作品ではあると思っていて。それゆえに、原作から入ったファンもアニメを楽しめるし、アニメから入ったファンも作品を存分に楽しめる。その結果、より続きが楽しみになる、みたいなものを生み出しているんじゃないかと思います。僕にとってはそこが、魅力です。
──おふたりから見るとこの作品のファンってどんな印象なんでしょう?
相川 アニメの楽しみ方が読書的だなと思いました。
石川 ああ、そうかもしれないね。文学的にアニメを見ている。
相川 そういったファンの皆さんの楽しみ方を含めて、やはり唯一無二な作品だな、と思っています。
次は“昼”ならアリかなって(笑)
──最後に今後の「〈物語〉シリーズ」の展望をお聞かせください。
相川 もう10年やりたいですね(笑)。
石川 そうだね(笑)。
相川 もう10年やって、またイベントやるかって話ができたら素敵ですよね。
石川 イベント終わった後の楽屋の雰囲気も、またやりたいっていう感じだったもんね。
相川 「終物語」というタイトルのあとに、「続・終物語」というタイトルで続く作品も普通ないじゃないですか。そのあとには、さらに新しいシリーズが続けられちゃうのも、このシリーズ作品ならではだと思うので、10年後もまたアニメで大きなイベントができたらいいなと思います。
石川 相川も僕もファンから入っているので、先代の制作プロデューサーや宣伝担当が楽しいことをずっとやってくれた作品を、これからも盛り上げていきたいですね。10年楽しんできてくれたファンが「フェスで終わったんだな」じゃなくて、まだまだ作品を愛してもらえる宣伝や、今回の衣装展もその1つですけど、新しい施策を続けられたらいいなと思います。
相川 10周年はこの作品にとっては締めくくりじゃなくて通過点なのだと思います。さっきも言いましたけど、また節目を迎えたら、みんなで会える機会を作りたいなと思いますし。今回は“一夜限り”って謳ったんですけど、“夜”で区切ったので次は“昼”ならアリかなって(笑)。
石川 (笑)。
──これまでもファンを驚かせ続けてきたこの作品なら、本当にやってくれそうな気がします(笑)。
相川 そんな冗談も踏まえて、今後も長く愛される作品になってほしいですし、そうできるようにいろいろ仕掛けていきたいと思います。
ここでは、衣装デザインを務めた森俊輔が今回の衣装展のために、新たにデザインを制作した忍野メメ、神原駿河の衣装のラフ画をコメントとともに掲載。先日発売された「〈物語〉フェス ~10th Anniversary Story~ MEMORIAL ALBUM」に付属の特製ブックレットにも、当日キャストが着用した衣装の画像や、インタビューも掲載されているので、合わせて手にとってみては。
今回の衣装展のお話を聞いた際の感想
「〈物語〉フェス」が終わってから別件の打ち合わせでアニプレックスに行ったときに「森さん、衣装展やります!」って言われたときは本当にうれしかったです。当日来てくださった皆様は衣装を見ながらあの光景を思い出していただけたらなと思いますし、チケットが取れず来られなかったという方は「〈物語〉フェス ~10th Anniversary Story~ MEMORIAL ALBUM」に付いている特製ブックレットを片手に見てもらえるとより楽しめるかと思います。すべて手作業で気持ちを込めて作った衣装ですので、是非この機会に細部まで見ていただけると幸いです。
コメント
神原は活発で裏表がなくて……だからこそ逆にしっかりとドレスも見てみたいなという気持ちもありました。しかし、やはりあの日あの場所に神原がいたとしたら間違いなく楽曲の疾走感なども含めて衣装を考えているはずですし、きっと私はシースルーの生地を使ってスポーティーなモード感を提案していたと思うんです。だからあのときの空気感も含めて新たにデザインを起こしました。猿の手も包帯ではなく、ドレッシーにレースのアームバンドにするなど、「〈物語〉シリーズ」ならではの要素も盛り込んでいます。
衣装展へ来てくださる方へ向けて
スタイリストっていう仕事はそんなに注目される仕事ではないですし、演者の皆さんのテンションが高くなるように、そして見てくれるファンの方々が喜んでくれたら満足なので、まさか終わってから衣装展をやったり、インタビューを受けさせていただいたりとフィーチャーしていただけることに感謝の気持ちでいっぱいです。私は洋服が大好きで、この仕事を始めました。こうした「〈物語〉フェス」の衣装展などを通して、皆さんが洋服やファッションに興味を持つキッカケになれたら幸いです。
- 日程・会場
-
- 2020年1月11日(土)~26日(日)大阪府 アニメイト大阪日本橋
- 2020年2月8日(土)~24日(月・祝)愛知県 アニメイト名古屋
- 2020年3月7日(土)~22日(日)東京都 アニメイト池袋本店近隣施設
- 2020年3月28日(土)~4月12日(日)宮城県 アニメイト仙台
- 森俊輔(モリシュンスケ)
- クリエイター集団・Hifumi,inc.所属のスタイリスト。新潟県出身。大学で上京後、古着屋のショップスタッフやファッションブランドのプレスを経て2015年にスタイリストとしての活動を開始。現在は乃木坂46の衣装スタイリングやISETAN MEN'Sのスタイリングなどを担当。