去る2019年5月11日に千葉・幕張メッセ イベントホールにて開催された、アニメ「〈物語〉シリーズ」10周年を記念したイベント「〈物語〉フェス ~10th Anniversary Story~」。豪華キャスト陣、そしてシリーズを彩ってきたミュージシャンが出演し、生バンドの演奏によるキャラクターソングの歌唱、西尾維新による全編書き下ろしシナリオの朗読と、これまで“大ヒット”を続けてきたシリーズの節目を祝うにふさわしい伝説的な一夜となった。
コミックナタリーでは、イベントの企画・主要スタッフとして関わった、制作プロデューサーの石川達也、宣伝プロデューサーの相川和也にインタビューを実施。あの日、ファンを歓喜させるに至ったイベントまでの道のりを掘り下げていく。また本イベントにて、衣装デザインを務めた森俊輔へのメールインタビューも行い、開催中の「〈物語〉フェス」の衣装展についても取り上げる。
取材・文 / 粕谷太智 撮影 / 入江達也
「フェスをやりたいよね」って、骨子みたいなものは既にあった
──まず、おふたりは「〈物語〉フェス」にどのように関わられたのでしょう?
石川 アニメ「〈物語〉シリーズ」では、制作のプロデューサーをやらせていただいているんですが、「〈物語〉フェス」でもプロデューサーとして、主に中身のところに関わっていました。僕が中心だったのは、西尾(維新)先生に書き下ろしていただいた、朗読劇の部分ですかね。それ以外の音楽、衣装とかキャストさんのケアとかにも顔を出させてもらって、その取りまとめをやっていたって感じです。
相川 宣伝プロデューサーとしては、イベントの朗読や音楽の演奏周りの調整以外の部分で、全体的に関わらせていただきました。会場のブッキングや、キャストの皆さんのスケジュールを開催日に揃えるなども、関係各位に多くのご協力をいただきながら取りまとめさせていただきました。ほかにも衣装制作の発注や、パンフレットの企画など。パンフレットでは校了の直前で誤植を見つけるという大仕事をしました(笑)。
一同 (笑)。
──キャストや会場を見ても、単独のアニメとしては最大級のイベントだと思うんですが、企画はどのように立ち上がっていったのでしょう?
石川 アニメ「偽物語」の制作発表のときには、「フェスをやりたいよね」っていう骨子みたいなものが実はあったんです。
──2011年にニコファーレで行われた「西尾維新アニメプロジェクト 最新情報発表会」ですね。
石川 そのときに初めて「化物語」のキャストさんをほぼ全員揃えて。それがある意味、このイベントの種みたいなことではあったんです。僕は「ファイナルシーズン」の途中から、制作担当としてシリーズに関わり始めたんですが、ちょうど僕が直接担当しているタイミングで10周年が来るので、そこで本格的にやってみようとなりました。
相川 イベントのきっかけみたいなことで言うと、アニメ放送開始から10周年というのがベースにありつつ。同じタイミングで「ファイナルシーズン」が完結してアニメとして一区切りがついたっていうのも大きいですよね。
──以前アニメ「〈物語〉シリーズ」を振り返るインタビューをさせていただいた際も(参照:アニメ「続・終物語」特集 喜多村英梨(阿良々木火憐役)×井口裕香(阿良々木月火役)インタビュー)井口裕香さんが、制作発表会を一番印象に残っている出来事として挙げていたので、スタッフとしても大きなイベントだったのですね。
相川 そうですね。本当につながってますよね。
10年ついてきてくれたお客さんに感謝を伝えたい
──アイドルもの、音楽ものではない「〈物語〉シリーズ」のイベントとして、“フェス”を銘打ち音楽を前面に打ち出した内容にするということは、どのように決まったのでしょう?
石川 作品の骨子がどっしりとしてる作品で、西尾先生の原作、そして10周年という重みもある。言い方は悪いですけど、いわゆるゲームパートがあったり、トークパートがあったり……みたいなお茶を濁したイベントではなく、ほかの作品じゃできないイベントにしたいという思いがあって。
相川 そうですね。
石川 「歌物語」という音楽アルバムもかなりいいセールスを記録していたので、音楽の強みを活かして、もうそこしかないよねって。ただ、曲を全部やったら何時間かかるのみたいな(笑)。
相川 泣く泣くセットリストから外した曲もありますよね。
石川 多々ありますし、エンディングのアーティストさんにも出てもらえたら最高だなと思っていたんですけど。
──それでも、最後のエンドロールで「君の知らない物語」が流れたときは、粋な演出に鳥肌が立ちましたし、会場の盛り上がりもすごかったです。
相川 エンディングアーティストさんを呼ぶ構想もあったんですけど、今回はキャラクターとキャストの皆さんたちによるイベントでやり切ろうとなりました。一番大きな決断でしたね。
──クラムボンのミトさんを中心とした生バンドの演奏も圧巻でした。楽曲の伴奏はもちろん、劇伴も一部は生演奏ですよね。
石川 「〈物語〉シリーズ」は、音楽も神前(暁)さん、ミトさん、meg rockさん、羽岡(佳)さんを中心にすごく真摯に作ってきていて。音楽フェスをやるんだったらそこは無視したくないよねと。それで、「じゃあ生演奏でやれるところまでお願いしてみようよ」と我々の中ですごく盛り上がったんです。で、やってみたら本当に無茶なお願いをしてしまったなと(笑)。
相川 劇伴の生演奏は本当にすごかったですね。朗読と劇伴演奏と映像を合わせるのってすごく難しいんです。
石川 不可能に近い。劇伴の尺通りに朗読ができるかって、よほどリハーサルをやらないと無理なんですよ。
──あのキャスト陣と、豪華バンドメンバーの力があってこそですよね。
石川 バンドメンバーは「〈物語〉シリーズ」の楽曲でお世話になっている方も含めて、最高峰の方々ですからね。
相川 間違いないですね。
石川 ギターの西川(進)さんは、椎名林檎さんのツアーも一緒に周っていたり、山本陽介さんは“アニサマバンド”の一員だったり、パーカッションの(三沢)またろうさんも米米CLUBと一緒にやってたような……。もうレジェンド級の方々に集まっていただいて。
相川 本当にカッコよかったですからね、バンドメンバー。
石川 あのバンドメンバーで、幕張メッセっていう会場だったから、キャストさんも前向きに出てくれたっていうのもあるかもしれないです。それで出演を決めているって言うことはないですけど、我々の本気度がキャストさんにも、お客さんにも伝わってたらいいなとは思います。もちろんお金もかかってますから(笑)。
相川 見積もりを見て、プレッシャーで変な汗が出ました(笑)。
石川 10年作品が続いて、その間ずっと“大ヒット”っていうくらいの結果は残してきたので。予算度外視で、10年ついてきてくれたお客さんに対しての我々からの感謝をお伝えするための企画でした。
演者さんにも覚悟って相当必要なんです
──先ほど、生バンドでの苦労もお話しされてましたが、イベントを通して苦労されたことはなんでしょう?
相川 キャストの皆さんのスケジュールを揃えることですかね(笑)。アニメ開始からの10年、キャストの皆さん、それぞれ大きく活躍されている方々なので。スケジュールをいただくうえで、それぞれの事務所に直接伺って、「こういう内容のイベントで、僕たちはこういう演出をしたくて」というのを説明する時間をいただきました。イベント自体が各事務所さんの協力あって成り立っていますが、まずはその行程で数カ月はあったかと思います。
石川 あったあった。演者さんにも覚悟って相当必要なんですよ。イベントでは、西尾先生の原稿を生で読まなきゃいけないし、歌唱もある。西尾先生の原作って素敵だし、言葉のパワーがすごいんですけど、その分役者さんも一筋縄ではいかないお芝居を求められることになるというか。それを彼らも高いレベルで返してくれる。ただやればいいだけじゃないところまでやってくださるので。
──イベントが成立するかどうかというところから苦労があったんですね。
石川 あとは映像周りも大変でしたね。歌と朗読をテーマに構成するというのは早々に決まったんですが、最後の詰めの部分で、映像演出をどうするかという話になって。まず誰に任せるかっていうところから始まり、内容も映像チームの人と、ホテルに缶詰になって打ち合わせしましたね。まず、映像のコンセプトを作ること自体がかなり難しい作業でした。
相川 ほかのイベントだとアニメ本編の素材だけで映像演出をやることが多いんですけど、今回は各楽曲用の映像や背景をこのイベントのためにオリジナルで作っているものも多いんです。
石川 シャフトさんにもお力を借りて、アニメの素材を撮影し直したり、3Dモデルを作ったりしましたからね。井上麻里奈さんが「夕立方程式」で、歩きながら歌うところでは、手に持ったトーチに合わせてそこだけ映像が映し出されるとか。映像を手がけてくれたのが、映像制作会社STUの(渡辺)大聖さんという若い演出の方なんですけど、ファンとして「〈物語〉シリーズ」を知ってくださっていて。映像チームのアイデアもたくさん盛り込まれて、すごくいいものになったなって思います。
10分しか着ていない幻の衣装
──相川さんがイベントの中身の部分で苦労されたところは?
相川 こだわったのは衣装ですね。スタイリストの森(俊輔)さんを提案したのは僕なんです。別の作品でご一緒させていただいたのがきっかけですが、森さんは乃木坂46の衣装も担当されていて、イベント全体で統一感のある衣装製作に強い人だな、と思っていたので。お願いしたら、もともと「〈物語〉シリーズ」もご存知だったみたいなんですけど、改めて数日で100話近くあるアニメをばーっと見返してくださって。
──そうやって、作品を好きな人が携わってくれるのは心強いですね。
相川 朗読と歌唱で2着ずつ衣装を作ったんですけど、制作に入る前にコンセプトを決める作業に相当時間を使いましたね。キャラに寄せすぎてしまうとコスプレみたいになってしまうし、キャストの皆さんも1人ひとり活躍されている方々なので、キャラのテイストとキャストが持っている個性をうまく融合させていくという作業にたぶん、3分の2以上の時間は費やしたんじゃないかと思います。
石川 デザインラフもいっぱい出してもらったもんね。
相川 僕らだけじゃなくて、キャストの皆さんとも衣装の打ち合わせの時間をもらって。ご本人がこうしたいとか、僕ら側はこういう演出があるからこうしたいみたいなところをすり合わせて。場合によっては、森さんが衣装のベースを用意しつつ一部自前で持ってきていただいたものを組み合わせたり、柄まで一緒に考えてくださったり。キャストの皆さんらしさと、キャラクターの個性のバランスを出すために、その作業は慎重にやっていきました。
──全国でイベントにて使用された衣装の巡回展(参照:〈物語〉シリーズ10周年イベントの衣装展、キャストの衣装を暦たちが着たイラスト公開)も開催されていますが、注目の衣装をあげるならどれになりますか?
相川 堀江(由衣)さんが10分しか着ていない幻の衣装があるんですよ。イベントの前半、朗読のときに一度だけ着る衣装なんですけど、イベントをご覧いただいた皆さんにも気付いてくれた方がいたらうれしいなと思います。少しの出番の衣装でも、手を抜かずにこだわって制作したので。
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初稿が上がってきた段階で大感動