「MIST GEARS BLAST」|天野洋一がゲーム・マンガ・小説と大稼働 アナログのように見えるデジタル絵の作画過程を解説

描きたいけど、ここに時間使っても…

──ノンノが持っているミストギアは火縄銃風で、ほかのキャラクターのものと比べるとレトロな雰囲気ですね。

ノンノは外の世界と交流が断絶して、文明的に取り残されてしまった村の少女というキャラクターなんです。だから最新のミストギアは持っていないけど、昔のものが村に残っていてそれを使っているという設定です。

──かなり細かく作画されていますね。拡大して描いているから大きく見えますが、等倍にするとかなり小さい部分です。

作画動画のキャプチャ。

でもゲーム用の立ち絵イラストだと歯車型になっているパーツを、丸型にしたりイメージボードでは装飾を少し省いたりしているんです。

──どのあたりまで描くかという線引きはどこでしているんですか?

ノンノの立ち絵。

単純に自分に言い聞かせています。「描きたいけど、ここに時間使っても意味ないだろ」って(笑)。

──やっぱり時間が許せば描き込みたいものなんでしょうか。

キャラ1人だけの立ち絵なら別ですが、イメージボードでそこまで銃の装飾がゴチャゴチャしていたら流石にうるさいかなっていうのもあるので、そこはやっぱりバランスを見ながらですね。

天野洋一が考える“映える光”の見せ方

──続いて影をつける工程ですね。天野さんの中で“これをやると映える”という光の見せ方はあるんでしょうか。

個人的にはキャラクターに対して手前から奥ではなく、奥から手前に影がくるほうが立体感を出しやすいのでよくやりますね。

──まさに今回のイラストは奥に光源がありますね。

作画動画のキャプチャ。

ここらへんはひたすら影を入れる部分を塗っていく地味な作業ですね(笑)。僕はアナログ時代、キャラの顔を塗るのが作業工程の中で一番好きだったんですけど、デジタルだとイラスト全体で影を入れるところを決めて一括で反映してしまうので、顔だけを塗るっていう工程がないんですよね。そこが少し残念です。

──普段作画をされている際には、音楽やテレビを流していたりするんですか?

観ているというよりは聴いている感じなんですけど、Netflixの海外ドラマを流しています。楽しむというよりはお話の展開とかを勉強するという感じですね。

──アニメや日本のドラマではなく海外ドラマなんですね。

海外のドラマはエンタメに関してすごく突き詰めているというか、勢いやセンスでごまかしていない感じがあってすごくリスペクトしているんです。最近だと、童貞だけど性の知識が豊富な少年が同世代の性の悩みを解決する「セックス・エデュケーション」や、(アルフレッド・)ヒッチコックが撮った「サイコ」の前日譚の「ベイツ・モーテル」が面白かったですね。

ジャンプ作家が命を懸ける抜き線

──ちなみに先生はデジタルとアナログの作画だったら、どちらがお好きなんですか?

やっぱりアナログですね。デジタルでやるときもアナログの絵に見えるように描きたいんですよ。なのであまりCGのグラデーションっぽくなるような色の塗り方はしたくなくて、アクリル絵の具とかで塗ったように見えるのが好きです。

──そんな中でどうしてデジタル作画に移行されたんですか。

シエロの立ち絵。

これに関してはちゃんと話すと長くなっちゃうんですが、やっぱり「MIST GEARS」はゲームなのでデジタルの絵のほうが使いやすいんですよ。最初はアナログの絵を取り込むっていう提案もあったんですが、あまり開発サイドに手間をかけさせてしまうのもなと思って(笑)。デジタルだと線の美しさが出せないのでそれが一番悲しいんですけど。

──線の美しさというのはどういうものなんでしょう。

週刊少年ジャンプで連載していた時代の話なんですが、週刊のマンガ誌って印刷用の紙のクオリティがそこまでよくなくて、「原稿できれいに描けた!」と思っても雑誌で見るとめちゃくちゃ汚くなっちゃうんです。

──確かに雑誌で見ると、絵が潰れてしまっている部分もあったりしますね。

その中できれいな絵を見せる方法として、ジャンプで線にこだわっている人は線の描き終わりの抜き線に力を入れているんですよ。線を引いたときに黒からグレーにグラデーションが変わって消えていく線だと、誌面では太い線から点々で消えていくきれいな線になるんです。

──そういう線を引くためには何かコツがあるんですか?

ペン先に当たり外れがあって、外れのペン先だとまずうまく引けないので当たりが出るまで替えていましたね。大体5、6本に1本くらいが当たりのペン先ですね。

──けっこう少ないですね。

ただ外れペンを当たりペンにする裏技があるというのを聞いて、それを教えてくれるというマンガ家友達のところにアシスタントに入ったこともあります(笑)。ちょっと実際にやってみましょうか。(ペンを取り出して)これが外れペンですね。やり方は企業秘密ですけど、これを当たりペンにして線を引くとこんな感じになります。

──確かにきれいな線はグラデーションになって、失敗した線は途中で途切れてしまっていますね。

この線を出すために、みんな命をかけているんですよね。オタクっぽいことを言うと、きれいに抜けた線は手に伝わってくる振動も気持ちいいんですよ。

──なるほど(笑)。イメージボードの方の作業も終盤になってきましたが、デジタル作画での作業工程ではどのあたりが一番お好きですか?

作画動画のキャプチャ。

最後の仕上げの部分ですね。今回で言うと反射光で青い光を入れているあたりとか。もちろんアナログでもこういう色付けはしていたんですが、仕上げの工程なのでミスすると替えがきかないんですよね。でもデジタルであればちょっとやりすぎたなってときにも修正できるので。もともとイラストには反射光を入れるようにしているんです。

──それはどういった理由で?

1枚のイラストの中にいろいろな色があっても、ひとつの反射光を入れると全体がひとかたまりにまとまって見えるというか、深みが出る感じがするんです。ただ反射光が多すぎる絵はあまり好きではなくて、キャラはキャラの絵で見せたいんですよ。あくまでぱっと見たときには反射光は目に入らないで、「言われてみたら入ってるね」くらいを目指しています。

──イラストも完成間近ですが、銃弾跡から上がる煙の部分に細かく光などを付け加えていますね。

作画動画のキャプチャ。

この辺はイラストを描く前からやりたいなと考えていた部分なんです。本当はもうちょっとカッコよくなるかなと思っていたんですが(笑)、描いていて楽しかったですね。この部分の仕上げが終わったら完成です。

完成したイメージボード(「ポロウパシ編」)。

2019年3月28日更新