元ネタをリスペクトもしつつ、ギャグにもしつつ
──パロディ作家からオフィシャルの作家になって、服部さんはやはりプレッシャーを感じますか。
服部 そうですね。もっと自由にやろうと思えばできるのかもしれないですけど、「あんまりふざけすぎるのはどうなんだろう」というのはあります。
──でも4月12日に更新された花見の回は、2コマ目で「1日20分でOK!」というフレーズを入れて、残りは全然関係ない話だったじゃないですか。「やりたい放題だな」って思いながら読んでましたけど(笑)。
服部 あれはほかの人からも「宣伝ノルマをこなせば何描いてもいいのか」みたいなことは言われました。やっぱりバレますよね(笑)。
──とはいえ「自由すぎてもよくない」という感覚はちゃんとあるわけですね。
服部 歴史のある宣伝マンガですから、公共性とのバランスを取らないといけないなと。まあ最近もネタ出しのときに「ミサイルが降ってくるかもしれないなんて物騒な時代ね」的なセリフを書いて、「やめておきましょう」って言われたんですけど……(笑)。
──毎回のネタはどこから考えるものなんですか?
服部 「これを入れたら面白いんじゃないか」っていう……例えばまず「『忖度(そんたく)』っていうフレーズを入れたい」と閃いたとしたら、それをどうやってマンガに落とし込むかを考える感じですね。
──常に最新の時事ネタやパロディを入れている印象があります。
服部 おかげでストックがなくて苦しんでます(笑)。
──昔の「美子ちゃん」にも、ときどき時事ネタはあったイメージです。
服部 とはいえ過去の「美子ちゃん」に出てくるのって当時のアイドルとか巨人軍とかですよ。あとオカルトブームのときにUFOの話をやったり。月刊だったのでそれぐらいの大きなネタじゃないとマンガに出せなかったんじゃないかと思います。
──6代目はそれこそ「忖度」のような、瞬間的に流行ったフレーズを取り入れてますよね。
服部 自分は政治ネタとかやるタイプじゃなかったんですけど、「忖度」の回は描いてみたら反応がよくて「こういうのもアリか」って(笑)。せっかくSNSで連載してるわけですから、旬のネタは取り入れようと。そこは自分なりに「今風にやってみよう」と考えた結果ですね。過去に「美子ちゃん」を描かれた先生方は皆さん、キャリアの初期に描かれていたんですけど、僕はもう10年以上マンガ家やってるんで。
──自分なりの強みを出せると。
服部 それに「美子ちゃん」は歴史ある作品なので、ちょっと現代的なものと組み合わせたらギャップが生まれるじゃないですか。「美子ちゃんがVR用のゴーグルを付けてたら、その絵だけでおかしいな」とか、そういうことを考えながら描いてます。
──そこもSNS上での拡散のされやすさを意識してる部分が大きいんでしょうか。
服部 そこは意識してはいますけど、それだけでもなくて。流行は取り入れつつ、あんまり軽くなりすぎないようにしないといけない。もっといろいろやれるかもしれないけど、読者もなかなか厳しいので(笑)。「浅い」と思われたら終わりですから。
──SNSは意識しつつも、「流行ってるネタを入れてるだけじゃん」とは思われないようにしないといけない。
服部 そうですね。例えば「シン・ミコチャン」の回は反響がよかったし、元ネタをうまく消化できてたんじゃないかと思います。元ネタのファンにも怒られないように、うまくくぐり抜けたいですね。リスペクトもしつつ、ギャグにもしつつ。
──余談ですが、服部さんは日ペンのボールペン習字講座を体験してるんでしょうか。
服部 いやー、そろそろ自分もやらなきゃとは……。「美子ちゃん」に出てきたラーメン屋の看板とか、自分の手書きだったんですけど、実は学文社の社長さんの文字に差し替えられてるんですよ(笑)。
浅川 社長は日ペンの四段ですから。
服部 タイトル横に「作・服部昇大」って書いてる文字みたいな、昔の少女マンガっぽい字は書けるんですけどね。
ただ絵柄だけマネてもダメ。上っ面にならないように
──服部さんについて「美ー子ちゃん」より前に遡ると、昔は別に少女マンガ風のタッチじゃなかったですよね。
服部 そうですね。月刊少年ジャンプ(集英社)でのデビュー作とかはオーソドックスな絵で。少女マンガ風になったのはジャンプスクエア(集英社)に連載してた「魔法の料理 かおすキッチン」の原型になった読み切り「マジカル極道あざみ」からです。
──画風を変えたきっかけはなんだったんでしょうか。
服部 僕がデビューした2000年ぐらいって、新人がみんな「ONE PIECE」みたいな絵だったんですよ。そのなかで連載を狙うなら自分ならではの武器を見つけなければという試行錯誤の末、絵を変えてみたんです。もともと古い少女マンガが好きでコレクションしてたこともあり。当時、そんなに少女マンガの絵でギャグをやってる人っていなかったんで、これでやってみようかなと。担当に相談もなく、勝手に変えました。
──古い少女マンガが好きだったのはなぜですか?
服部 新人でお金がない頃に、地元の岡山に古本屋が多かったこともあって、100円コーナーにあるマンガを集めてたんですよ。安い本を買うと必然的に古い作品になるけど、古いからって面白くないわけじゃないですからね。少女マンガだけでなく、「Oh!透明人間」とか「やるっきゃ騎士」とか、80年代のエロラブコメを集めた時期もあります。友達から「服部の本棚はBOOK OFFの100円コーナーみたいだ」って言われたりもしながら(笑)。
──古い少女マンガの画風をマネするときに苦労する点はありますか。
服部 なんでもそうですけど、上っ面だけにならないようにってことですかね。ただ絵柄だけマネてもダメだと思ってます。例えば昔の少女マンガを読んでると、いかに当時の若い女の子がジュリー(沢田研二)を好きだったか、とかがわかるんですよ。そういった部分から「この時代の人はこういうのを好きだったんだ」「こういうことを考えてたんだ」と想像するというか。だから「もし自分がこの時代の少女マンガ家だったら」みたいな気持ちで、絵柄だけじゃなく、空気を再現したいと考えてます。なかなか難しいですけど。
──「美子ちゃん」もそういった気持ちで描かれてるわけですね。
服部 そうですね、研究結果と言ったら大げさですけど。自分なりの美子ちゃんを描いていきたいと思います。
──これからも自由な「美子ちゃん」を期待しております。
服部 今日もさっきまで、次回のセリフについてギリギリまで調整してましたからね(笑)。
──ちなみに今回の特集では服部さんに、中山星香さんの描いた初代美子ちゃんのイラストを使用したコラボマンガを描いてもらいたいと思ってまして。
服部 ええっ! それは緊張しますね……。僕は自分が6代目をやってるのがいまだに不思議な状態なんですよ。それがまさか中山先生という伝説的な人物とコラボさせていただけるとは……。とりあえず「モノマネしててすみません」と謝っておきたいですね。
- 初代から6代目までの原稿が集結!
「日ペンの美子ちゃん原画展」 - 日程:2017年5月16日(火)~5月30日(火)
- 時間:12:00~20:00
- 会場:墓場の画廊
- 住所:東京都中野区中野 5-52-15 中野ブロードウェイ3F
- 入場料:無料
- 服部昇大(ハットリショウタ)
- 1982年8月10日、岡山県出身。2004年、手塚賞準入選の「未来は俺等の手の中~J.P. STYLE GRAFFITI~」が月刊少年ジャンプ増刊王2004年WINTER号(集英社)に掲載され、デビュー。2007年から2009年までジャンプスクエア(集英社)にて「魔法の料理 かおすキッチン」を、2014年から2016年にはとなりのヤングジャンプにて「テラフォーマーズ」のスピンオフギャグマンガ「今日のテラフォーマーズはお休みです。」を連載。日本語ラップにも造詣が深く、Webや同人で「日ペンの美子ちゃん」のパロディマンガ「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」を発表。それがきっかけで2017年より6代目「日ペンの美子ちゃん」担当作家となる。