「NOMAD メガロボクス2」|“百獣の王”が語る、アスリートの挫折と復活 武井壮インタビュー

TVアニメ「NOMAD メガロボクス2」が4月4日にスタートする。同作は2018年に放送された、「あしたのジョー」を原案とするオリジナルアニメ「メガロボクス」の続編だ。肉体とギアを融合させた格闘技・メガロボクスに挑んだボクサーであるギアレス・ジョーの、前作から7年後の姿を描いている。

コミックナタリーではアニメの放送に合わせ、2回の特集を展開。まずは陸上・十種競技の元日本チャンピオンという経歴を持つタレント・武井壮のインタビューをお届けする。アスリートとして栄光を勝ち取った男の挫折と復活を描く「NOMAD メガロボクス2」を視聴した武井は、自身の波乱万丈な人生と重ね合わせながら、作品の魅力を語った。

取材・文 / 松本真一 撮影 / 菊池茂夫

作品紹介

肉体とギア・テクノロジーを融合させた究極の格闘技・メガロボクス。その頂点を決める大会であるメガロニアに、ギアを身に着けず生身の体で挑んだボクサーがギアレス・ジョーだ。最下層の地下リングからたった3カ月で頂点へと駆け上がり、奇跡の優勝を遂げた伝説のチャンピオンの姿に人々は熱狂し、夢を見た。

それから7年後、ギアレス・ジョーは再び地下のリングに立っていた。傷だらけの身体にギアを装着し、名を“ノマド”と変えて……。

武井壮インタビュー

荒廃した世界でも生きられるように体を鍛えていた

──武井さんは肉体派なイメージですが、実はマンガやアニメもお好きなんですよね。

武井壮

そうですね。マンガは雑誌もたくさん買ってますし、メジャー・マイナー問わずなんでも読みますよ。シンプルに娯楽作品も好きだし、スポーツものとか、戦う系のやつはほぼ全部見ている感じですかね。

──ほぼ全部!?

マンガ大好きなので。「リングにかけろ」から何から、「クローズ」「はじめの一歩」「喧嘩商売」とかも好きですね。「ホーリーランド」や「軍鶏」とかも読んでます。

──ちなみに「あしたのジョー」はお好きですか?

子供の頃からずっとアニメで観てましたよ。キャラで言うとカーロス・リベラが好きでした。

──ベネズエラ出身の無冠の帝王ですね。どんなところが?

陽気なんだけど、ファイトはダーティというか。「ルールよりも勝利」みたいなところがあるじゃないですか。

──最初は演技で弱く見せたり、試合でも反則の肘打ちを巧妙に織り交ぜたりという。

姑息だから、僕の戦い方にちょっと似てるんですよね(笑)。

──武井さんも「どんなルールでもいいならライオンにもヒクソン・グレイシーにも勝てる」というタイプの人ですよね。

はい(笑)。リング外ならどんな相手にも、小石を使ってでも絶対勝ちますよ。もちろん矢吹丈もカッコよくて好きなんですけど、ボクシングが不器用過ぎるというか、もうちょっとテクニカルに戦えばいいのになと。

──矢吹丈にそんなダメ出しをする人、初めて会いましたよ。

丹下段平の教え方が近代的じゃないんですよね。ジョーはやっぱり力石みたいなコンビネーションを打てるような教育を受けてない。あんなにいいパンチ持ってるのに、誰もが悶絶するボディが打てるのに、それが相手に入らないっていう。それにちゃんとディフェンスも勉強してれば、もっとダメージ減らして現役も長く続けられてたと思うんですよね。

──ダメ出しが具体的ですね……。さて今回、武井さんには「NOMAD メガロボクス2」というアニメを観ていただきました。前作の「メガロボクス」が「あしたのジョー」の50周年記念作品だったんですが、この「メガロボクス」はご存知でした?

残念ながら観てなかったんですよ。今回は1作目の設定だけ聞いたうえで、「メガロボクス2」を観させてもらいました。

──「メガロボクス2」から観ても全然大丈夫だと思いますが、読者のためにも改めて、1作目からの基本設定だけいくつか説明させてください。「メガロボクス」は「あしたのジョー」を原案としていますが、直接の続編とかリメイクではないんです。舞台は近未来で、巨大ビルが立ち並ぶ「認可地区」と、市民IDすら持っていない貧民が住む「未認可地区」という2つの地域に分かれてまして。主人公のジャンクドッグは未認可地区の住民で、あまり文化的ではない暮らしをしています。こういった荒廃した近未来のような世界みたいな設定はお好きですか?

僕は「幻魔大戦」とか「AKIRA」とか「北斗の拳」で育ってますから、21世紀はこういうふうになるものだと思ってた世代なんですよ。未来が今みたいに文化的になるなんて想像してなかった。1999年には核戦争が起きて、荒廃した中で生きていける場所を探していかなきゃいけないのかなって思いながら体を鍛えてたので(笑)。

──ああいう世界でも生きられるぞと。

ああいった暮らしになったら僕は強いですよね。好き嫌いとかじゃなく、文化とかなくても、戦い続けろって言われても勝ち抜けるように能力を伸ばしてきたので。

僕の人生は岐路だらけ

──そしてこの作中では、メガロボクスという、機械をつけたボクシングのような競技が注目を浴びています。主人公のジャンクドッグは生きるために八百長試合をしていたんですが、勇利というライバルに出会ったことで、市民IDを獲得し、名前を「ジョー」に変え、メガロボクスの大きな大会・メガロニアに出場して栄光を勝ち取るというストーリーです。

主人公のジョー/ノマド(CV:細谷佳正)。7年前、ギアレス・ジョーというリングネームでメガロニアに挑み、見事優勝を果たした伝説のボクサー。現在はノマドと名前を変え、地下のリングを転々としながらあてもない日々を送っている。

なるほど、「メガロボクス2」ではジョーは過去に有名だったらしい描写があったのはそういうことなんですね。

──ジューススタンドに立ち寄ったジョーが「あんた、似てるな。ギアレス・ジョーに」と言われてましたよね。そして「メガロボクス」1作目には、「あしたのジョー」オマージュが要所要所にあります。例えばキャラだけ見ても、ジョーが貧民街出身だったり、トレーナーの南部贋作という男が丹下段平っぽかったり、ライバルの勇利には力石徹の面影があったり。あと勇利は、白都コンツェルンという企業のお抱えボクサーなんですが、その白都コンツェルンの令嬢に白都ゆき子っていうキャラがいまして。

「あしたのジョー」で言う白木葉子ってことですね。丹下段平っぽいキャラも「2」の回想シーンで見たけどそういうことなんだ。

──ええ。そういうふうに、キャラだけではなく、設定や名シーンに「あしたのジョー」オマージュがちりばめられています。

なるほどなるほど、カーロス・リベラとかホセ・メンドーサをオマージュしたキャラは出るのかな、とかいろいろ想像しますよね。ジョーは最後、燃え尽きちまうのかなとか。

──「メガロボクス」1作目のキャッチフレーズは「とどまるか、抗うか— あしたを、選べ。」です。実際にジャンクドッグことジョーは序盤で八百長試合を辞めて、実現するかどうかわからない勇利との対戦を目指してメガロニアへの出場を決めることから運命が大きく動き出します。武井さんもそういった、人生における大きな岐路ってありましたか。

僕はずっと岐路だらけですね。まず子供の頃に両親が離婚して、母親が出ていって、僕と兄を引き取った父親も家に帰ってこなくなって。だからとりあえずあまりお金のかからない公立の中学校に行って、中卒で働こうかなと思った時期もあるんですけど、一発勝負してやろうと思って、私立のいい学校を受験したんです。

──それはかなりの勝負ですね。

そこは成績がトップだったら学費が免除される制度があったので。だからそこに受かって、中高6年間全部タダにしてやろうとがんばって、実際タダで学校に通えたんですよ。それで「勝った」と。

──すごい……。

スポーツ校で、プロ野球選手とかプロサッカー選手も育てている、すごくいい学校でした。いい先生にも恵まれて、今の僕と似ている考えで、その先生から教わった考え方が今も役立っています。

──考え方というのは?

体力的なトレーニングだけではダメってことですね。中学では野球部だったんですけど、顧問の先生が勉強できない人間には練習させてくれないんですよ。社会科の先生だったんですけど、1年生はまず日本国憲法の全文を暗証しないと練習ができないんです。日本人として生きるならそれぐらい知らないとダメだって。フリーバッティングしたくても、成績順に打てる本数が増えるんです。だから学年の、勉強ができる1位から9位までほとんど野球部なんですよ。

──みんな野球の練習をしたいから、勉強もがんばるわけですね。

僕は勉強でずっと1位だったので、練習もできて打撃成績もよかったので、高校にでも野球部に入ってプロ野球選手を目指そうかと思いました。でもうちの高校の野球部はめちゃめちゃキツかったから、しかも寮生活で先輩たちに雑用させられながら、成績1位をキープするのはさすがに無理だと判断して、諦めました。

──そうか、家の事情で学費が払えないから、最優先は勉強の成績で1位になることなんですね。

高校で野球部を選んでいたら、学費が払えなくなって学校に行けなくて、今の自分はないだろうなって。だからそこも岐路ですよね。

同じ日本一なのに、イチローとこんなに違うんだ

──武井さんは大学時代に陸上を始めて、十種競技では日本一になっていますが、その時代は何か「明日を選ぶ」というようなことはありましたか。

武井壮

そもそも陸上を始めたのが岐路ですよ。あのときにもっとメジャースポーツを選んでたらどうなってたのかな、とはいまだに考えます。例えばサッカーを選んだら、日本のサッカーはJリーグが盛り上がり出した頃だったので。

──Jリーガーになってたかもしれないと。

フィジカル的にはラグビーが一番向いてる競技だと思うんですけど、それを選んでたらまた人生違ってたろうな、とも思います。社会人ラグビーは日本のスポーツの中では平均年収がしっかりしているし、どんな人生になってたかなあ?

──大学で陸上を選んだのはなぜだったんですか?

偶然、陸上部の子に「うちに関西で一番速い100メートルの選手がいるから」って声をかけられたところからなんですよ。

──どうせ入部するなら、強い部のほうがいいと。

岐路をうろうろしながら偶然たどり着いたのが陸上で、でも始めたからには日本一になろうと思って。

──なろうと思って本当に日本一になったのがすごいなと。しかも競技歴2年半ぐらいなんですよね。

そうですね。そこから時期的にはアジア大会があって、次の年が世界選手権、その次の年がオリンピックっていう、3年連続国際大会が続く、チャンスの年ではあったんですよ。でもそのときに来た1番いいオファーが、年俸800万円だったんです。僕は3年までは神戸の大学にいたので、裏山にはイチローがいるわけですよ(※当時、イチローは神戸を本拠地とするオリックス・ブルーウェーブに所属)。イチローは同い年で、僕と同じ日本一の成績なのに、彼は5億円とかもらってるわけですから、こんなに違うんだと思って。しかも仮に自分があと3年を十種競技に費やしたとして、これぐらいの記録が出るだろうなっていうのを予測しても、それでも世界12位とかなんですよ。ほかのスポーツで世界12位の選手、誰も名前知らないですよね? その12位になるために3年費やすのか、でもオリンピックは1回出ておいたほうがいいかな……とか悩んで。結局、十種競技のスーパースターなんかいないだろ、もっと稼ぐにはゴルフだろ、世界のスーパースターといえばタイガー・ウッズなんだから、ってことでアメリカにゴルフ留学に行きましたけど。本当に岐路しかないですよ。岐路だらけ。