アニメ「メガロボクス」島本和彦インタビュー|「あしたのジョー」ファンのいい同窓会だった

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「あしたのジョー」は、矢吹丈という若者が突っ走っていく、一方通行の青春を描いた作品

──今年のゴールデンウィークには「あしたのジョー」の原画展が都内で開催されましたが(参照:「あしたのジョーは“文学”」梶原一騎との共作をちばてつやが述懐、原画展開幕)、リアルタイムで作品を楽しんでいた方だけでなく、若い世代の方も足を運んでいる姿を見かけました。これだけ長い間「あしたのジョー」が愛され続けている理由について、島本さんはどうお考えですか?

マンガ「あしたのジョー」より。

それは語ると長くなるんじゃないんかい!?(笑) ……そうですね、連載が終わってから10~20年後くらいまでは、名作マンガを紹介するムック本が出るたびに(読者投票で)1位を獲っていたのは「あしたのジョー」だったんですよね。最近は読んでない人もいるし、その間にいろんな名作も出てきているから今はランキングを集計しても散らばるんだろうけど、やっぱり何がすごいかっていうと、原作者とマンガ家が別々でありながら、それぞれ一生懸命やったってことだと思うんだよね。そしてどちらも真剣だった。

──当時を振り返るちば先生のインタビューを読むと、おふたりそれぞれの一生懸命さというのはすごく伝わってきます。

「あしたのジョー」が連載されているときは、マンガがいわゆる子供向けのものだけでなく劇画に移る変換期にあって、ちば先生は連載をしている中でいろんな発明をして、その時代をリードしていたと思うんです。全力で「あしたのジョー」を描いていた、ちば先生自身の生命力も作品に込められているんじゃないかなって思うんですよね。

──確かに作品からは強いエネルギーを感じますね。

梶原さんが原作を務めていた「巨人の星」は、主人公がライバルと何回も戦って、負けることもあれば勝つこともあって、お互いに切磋琢磨しながら進んでいくスタイルなんだけど、「あしたのジョー」の場合、決着がついた相手とは基本的にもう戦わないんだよね。一度決着のついた相手とは戦わないっていうところが、スポーツマンガではないなと思って。「あしたのジョー」は、矢吹丈という若者の突っ走っていく一方通行の青春を描いた作品なんじゃないかなと。それが20巻で終わるというのもすごく潔くて、素晴らしいと思うんです。

あの時代、あのホームページに集まっていた人たちが作ったイメージ

──そんな「あしたのジョー」を原案としたアニメが、「メガロボクス」です。

私がWindows 95を購入した頃、インターネット上に「あしたのジョー」の(ファンが作った)ホームページがあったんですよ。そのホームページの中に掲示板があって、作品についてファンがいろんな話をしていたんです。特に印象深かったのが、「矢吹丈は力石を超えたのか」というテーマ。要は金竜飛戦で、矢吹丈が東洋太平洋チャンピオンのベルトを獲って「お前がくれたチャンピオンベルトだぜ」って言ったあのときに、彼は力石を超えられたのかどうかという話題で議論していることがあって。

──興味深い議題ですね。

私の担当編集のササキバラ(・ゴウ)さんがその議論に参加していたんだけど、「力石の“死”は超えたけど、力石は超えてない」って説を出してたんですよ。それを見てすごい説を出すなあ!って。みんなうまいことを言うなあ!って思ってたんです。私はそんなことひと言も語れなかったから(笑)。私がこの話で何が言いたいかっていうと、そのとき掲示板に参加してた人が作ったんじゃないかっていうイメージの作品が、「メガロボクス」なの。

アニメ「メガロボクス」より。

──おお、なるほど。

みんな考えてるんだよ、「あしたのジョー」について。謎が多い話だからさ。結局、矢吹丈は力石に勝たなかったし、カーロスに勝たなかったし、ホセにも勝たなかった。つまり、金竜飛は微妙なところなんだけど、矢吹丈は彼にとって重要な相手には勝ってないの。それはなんでなんだろうっていうのが私にとって一番謎で、ずっと追い求めていたんだけど、そういう謎があるだけにいろんな深読みができて面白いんですよね。だから、深読みができるからこそ、普通は別の作品に置き換えて描こうとすると失敗するんですよ。ただ「メガロボクス」はそんなに長い話でもないのにちゃんとやれてるのはなぜだろうと。これがすごいなと思うところなの。だから「あしたのジョー」のことをわかっている人が「整理しよう」「断捨離しよう」って、大切なところばっかりの作品の中から断腸の思いで取捨選択をして、残したものだけで構成しようとするやり方がうまくいったんじゃないかなと、私は思いました。

「あしたのジョー」のいろんな可能性を見れた

──減量のエピソードの入れ方はうまかったですよね。まさかギアがその役割を果たすとは想像していなかったです。

そもそもメガロボクスっていう、ギアを着けて闘う競技だって聞いた時点で、「あしたのジョー」なんてできっこないじゃんって思ったんですよ。それがギアを外すことで、矢吹丈と同じリングで闘うために命がけで減量した力石の姿を思い出させて。「あ、しまった! そうか!」っていう。あれを考えた奴はすげえなって思った。見始めたときはギアの存在が邪魔だなと思ったんだけど、回を重ねるごとに結構いいじゃんって思ってたんですよね。それは白都のアニキ(樹生)がギアに思いを懸けるエピソードがあったからかもしれない。だからむしろ勇利にはギアを着けてやってほしかったなって思うくらい、ギア関係でもう少し展開があってもよかったなという気持ちはありました。

──それくらい効果的なアイテムに思えましたね。

アニメ「メガロボクス」より、白都樹生(CV:鈴木達央)。白都ゆき子の兄であり、自身が開発したギアを装着して試合に挑んでいる。

あとはアラガキは金竜飛をオマージュしたキャラクターだと思うんだけど、彼がジョーとの試合後に再び登場するっていうのも、見ていてすごくうれしかったんだよね。“矢吹丈のスパーリングパートナーとして出てくる金竜飛”って、意外だけどすごく好きだなと思った。そういう「あしたのジョー」では描かれなかったいろんな可能性を、新しい材料を持ってきて料理してくれるのが、非常によかったなって思いますね。セリフで一番好きだったのは、第10話のラストで、ジョーのギアを調節してくれた虻八が「なあ……俺は今夜、どっちに賭けりゃいい?」っていうセリフ。あれがすごくよくって。これは「あしたのジョー」にはないセリフなんだよね。全部観た中で、あのセリフが一番沁みた。あのひと言をいいって感じられたってことは、ジョーが八百長に身を沈めていたとこから始まったっていうのも認めていいなと思えたというか。最初はそういう設定にも違和感があったけど、違和感から入ってしまうのは仕方ないですよね。

──「あしたのジョー」を知っている以上、まっさらな気持ちで観るのはちょっと難しいですよね。

アニメ「メガロボクス」より、アラガキ(CV : 田村真)。 メガロニアの決勝戦を控えるジョーの、スパーリングパートナーを務めたアラガキ。

そう、知ってるから、どうしても初見の感じで「メガロボクス」を観ることは無理なんですよ(笑)。だからやっぱり「あしたのジョー」好きの同窓会みたいな目線で見ちゃうんだよね。それでいうと、「メガロボクス」は“いい同窓会だったな”と思う。

──素敵な例えですね。

この同窓会には参加したほうがいいですね、「あしたのジョー」好きはみんな。ただね、かなり真剣な同窓会だった! だから、にわかなファンが集まった同窓会じゃないんだよ! 本当に「あしたのジョー」で人生を狂わされた人の同窓会っていう。その狂い方が作品から滲み出てきていたから、素晴らしいなと思った。

テレビアニメ「メガロボクス」
アニメ「メガロボクス」

ストーリー

今日も未認可地区の賭け試合のリングに立つメガロボクサー“ジャンクドッグ”。実力はありながらも八百長試合で稼ぐしか生きる術のない自分の“現在(いま)”に苛立っていた。

だが、孤高のチャンピオン・勇利と出会い、メガロボクサーとして、男として、自分の“現在”に挑んでいく──。

スタッフ

  • 原案:「あしたのジョー」(原作:高森朝雄、ちばてつや / 講談社刊)
  • 監督・コンセプトデザイン:森山洋
  • シリーズ構成・脚本:真辺克彦、小嶋健作
  • 音楽:mabanua
  • キャラクターデザイン:清水洋
  • アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
  • 製作:メガロボクスプロジェクト

キャスト

  • ジョー / ジャンクドッグ:細谷佳正 
  • 南部贋作:斎藤志郎
  • 勇利:安元洋貴
  • 白都ゆき子:森なな子
  • サチオ:村瀬迪与
  • 藤巻:木下浩之
  • アラガキ:田村真
  • ミヤギ:多田野曜平
  • 白都樹生:鈴木達央
「メガロボクス」Blu-ray BOX 1 特装限定版
2018年7月27日発売 / バンダイナムコアーツ
「メガロボクス」Blu-ray BOX 1

[Blu-ray Disc]
14040円 / BCXA-1372

バンダイナムコアーツ

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特典
  • 特製メイキングブック
  • 特製絵コンテブック【ROUND1 “BUY OR DIE?”】(絵コンテ:森山洋)
映像特典
  • 新作ショートアニメ「“BEFORE THE ROUND ONE”」
  • MAKING OF MEGALOBOX 第一章 企画編
  • プレミア試写会[2018.3.28 スペースFS汐留]
  • 超特報
  • 特報
  • 特報PV2
音声特典
  • 本編オーディオコメンタリー(2話分)
    ・ROUND1【スタッフ編】
    [出演:森山洋(監督・コンセプトデザイン)、真辺克彦(脚本)、小嶋健作(脚本)、藤吉美那子(プロデューサー)]
    ・ROUND4【チーム番外地編】
    [出演:細谷佳正(ジョー / ジャンクドッグ役)、斎藤志郎(南部贋作役)、村瀬迪与(サチオ役)、三好慶一郎(音響監督)、森山洋(監督・コンセプトデザイン)]
ほか仕様
  • 森山洋(監督・コンセプトデザイン)描き下ろしイラスト仕様特製BOX
  • 清水洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット

※特典・仕様等は予告なく変更する場合あり。

「メガロボクス」Blu-ray BOX 2 特装限定版
2018年9月26日発売 / バンダイナムコアーツ

[Blu-ray Disc] 14040円 / BCXA-1373

バンダイナムコアーツ

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特典
  • 特製メイキングブック
  • 特製絵コンテブック
映像特典
  • 新作ショートアニメ「“AFTER THE ROUND FINAL”」
  • MAKING OF MEGALOBOX 第二章(仮)
  • キャラクターPV(全6種)
  • 「AnimeJapan 2018」スペシャルPV
    ほか
音声特典
  • 本編オーディオコメンタリー(2話分)
    ・スタッフ編、キャスト編
ほか仕様
  • 森山洋(監督・コンセプトデザイン)描き下ろしイラスト仕様特製BOX
  • 清水洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット

※特典・仕様等は予告なく変更する場合あり。

「メガロボクス」Blu-ray BOX 3 特装限定版
2018年11月22日発売 / バンダイナムコアーツ

[Blu-ray Disc] 14040円 / BCXA-1374

バンダイナムコアーツ

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特典
  • 特製メイキングブック
  • 特製絵コンテブック
映像特典
  • 完全新作ショートアニメ
  • MAKING OF MEGALOBOX 第三章(仮)
  • 放送中PV
    ほか
音声特典
  • 本編オーディオコメンタリー(2話分)
    ・スタッフ編、キャスト編
ほか仕様
  • 森山洋(監督・コンセプトデザイン)描き下ろしイラスト仕様特製BOX
  • 清水洋(キャラクターデザイン・総作画監督)描き下ろしイラスト仕様インナージャケット

※特典・仕様等は予告なく変更する場合あり。

島本和彦「アオイホノオ⑲」「炎の転校生」新作読み切り後編小冊子付き特別版
発売中 / 小学館
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島本和彦
島本和彦
1961年4月26日北海道池田町生まれ。本名は手塚秀彦(てづかひでひこ)。1982年、週刊少年サンデー2月増刊号(小学館)にて「必殺の転校生」でデビューし、1983年より少年サンデー(小学館)にて「炎の転校生」を連載開始。熱血マンガ風の力強い線と熱いセリフが特徴だが実のところギャグマンガ、というギャップと、ちりばめられた細かいネタが賞賛を受けた。代表作に「逆境ナイン」、「吼えろペン」など。「贋作・アニメ店長」「逆境ナイン」「アオイホノオ」「炎の転校生」は舞台、映画、ドラマなど実写化が展開された。現在ゲッサン(小学館)にて「アオイホノオ」、月刊ヒーローズ(ヒーローズ)にて「ヒーローカンパニー」をそれぞれ連載中。執筆業の傍らTSUTAYA札幌インター店・千歳サーモンパーク店・アカシヤ書房ちとせモール店、さらに株式会社ダスキン アイビックも経営。