「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」栗田貫一×山寺宏一×堀内賢雄インタビュー|銭形という男の正義感と“ルパン愛” (2/2)

小池ルパンは作画も音響も異常(栗田)

堀内 僕は完成版を観て、画とセリフのシンクロ具合にも改めて驚かされましたよ。

山寺 確かにルパンのアフレコは脚本と画に導かれる部分も大きいですね。

栗田 小池さん、異常だよね(笑)。例えば小池さんが、「こんな感じで、ざっとお願いします」と言ってスタッフに渡す画コンテって、靴の裏まで細密に描き込まれてあるんだって。そんなすごいのを渡されちゃったら、もらったほうは「ざっと」なんて作れないじゃない?(笑) そういう画コンテを、3カ月くらい家から一歩も出ずに、朝から夜までずっと描き続けているっていうんだから、まるで仙人だよね。最近も映画の制作で根を詰めていたから、このあいだ久々に外の陽を浴びたらしいよ?(笑) しかも、「これが終わったら、僕は日本を離れます」とか言ってたし。

栗田貫一

栗田貫一

山寺 それだけ籠もった後、どこへ行くんでしょうね?

栗田 ちょっと気になるよね(笑)。小池ルパンは毎回、音も本当にすごい。(本編冒頭の)空港での爆弾の爆破音もすごかったじゃない?

堀内 あのシーン、偽ルパンは若い男に変装していたんで、僕もちょっと若めの声で演じたんですけど、気づかれました?

栗田 ごめん、気づいてなかった!(笑)

山寺 (笑)。賢雄さんはアフレコが大変だったけど、作品全体も大いに楽しんでいただけたようですね。

堀内 そうそう。ほかにも帽子を被っていない銭形の姿とか、ルパンがハンチングを被った次元に向かって、「お前のセンスにゃかなわねえ」と言うシーンとか、もう大好きなポイントがたくさんありますね。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より。

銭形とは、深い闇を暴くということの重要さをわかっている男(山寺)

──タイトル通り、本作は偽ルパンと並んで銭形警部がメインの回です。

山寺 僕としてもシリーズ待望の銭形回だったし、確かに活躍させてもらいました。でも、ルパンと偽ルパンの魅力があまりにすごすぎて、いい意味で、もはや誰がメインの回かなんて関係ないようにも思えて。

栗田 いや、やっぱりこれは銭形=山ちゃんの家が建った作品だと思うよ。

堀内 僕もそう思った。銭形の「ルパンを捕まえるぞ」という、頑ななまでの執念が前面に出ているし。

栗田 ポピュラーに知られてきたルパンじゃないんだよね。ルパンも銭形を“とっつぁん”ではなく“銭形”と呼ぶし、不二子にも“ちゃん”は付けないのが小池ルパン。小池さんは最初から、次元、五ェ門、不二子ときて銭形にルパンと、最初から5軒分の家を建てるという建築基準法を定めてシリーズを始めたそうだから。しかも、この「銭形と2人のルパン」は映画「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」の前日譚でもあって。

山寺 小池監督のハードボイルド性が全面に打ち出されていて。それでいて、モンキー・パンチ先生の原作のテイストにも近くて。銭形もハードボイルドで、TVシリーズと違ってコメディ要素が一切なく、ルパンを追う執念も正義感もマシマシですよね。

山寺宏一

山寺宏一

──本作では、ルパンと銭形、ルパンと偽ルパンは、それぞれ紙一重の関係性で描かれていますね。つまり、ルパンと銭形の正義と悪は紙一重、ルパンと偽ルパンは、同じ悪でも美学があるかないかで紙一重。その対比に痺れましたし、物語の1つの肝のようにも感じられました。

山寺 おっしゃる通りですね。本来、銭形にとってはルパン逮捕が自分の使命ではあるけれど、今回はそれよりもっと許せない敵が銭形の目の前に立ちはだかる。ルパンと銭形は、「正義とは?」という信念をぶつけ合い、互いに相反しながらも、一時的に共闘していく。その背景には2つの国家が関係する陰謀がうごめいているんですが、何が正義なのかを一概に断言するのはとても難しい。「正義とは?」という課題は、今の現実社会でも大きく問われていますし。

栗田 この作品、いつ公開するんだろうと思っていたら、途中でロシア・ウクライナ危機まで始まってしまって。あまりに現実とリンクしちゃったから、「公開、大丈夫なのかな?」と気になっていたよ。

堀内 そうでしたね。冒頭、偽ルパンは情け容赦ない爆弾テロを起こしますよね。その後、偽ルパンは本物のルパンよりも凶悪で冷酷だとわかるような対比が明確に描かれ、今作で銭形が最も憎んでいるのは偽ルパンのほうだとわかってくる。2人のルパンの対比が明快なのもとても秀逸で。

堀内賢雄

堀内賢雄

山寺 本当に、今回はルパンと偽ルパン、ルパンと銭形の相反する関係を描いたいいセリフがたくさんありましたね。

栗田 今回のルパンと銭形の共闘には、命を助け合うものの、それでいて仲間にはならない。そこに男同士の、ある種のロマンのような関係性が感じられたね。

栗田貫一

栗田貫一

山寺 そうですね。そして、銭形という男は、どんな状況下でも深い闇を暴くということの重要さをわかっている男と言えるのかもしれませんね。

「これまでと違うルパンでもいいんだ」と思えた(栗田)

──栗田さんと山寺さんの中で、過去のTVシリーズと、この「LUPIN THE IIIRD」シリーズにおいて、演じ分けなど、特に気を配ってきたポイントがあればお聞かせください。

栗田 そもそも僕のルパンの声は先代の山田康雄さんのものまねから始まったわけだけど、2012年のTVシリーズ「LUPIN the Third~峰不二子という女~」はひとつ自分の中で大きかったね。監督の山本沙代さんから、「女心をくすぐるような悪いルパンの声をお願いします」と言われたとき、「これまでと違うルパンでもいいんだ」とようやく思えたというかね。だから僕も山ちゃんも賢雄さんも、小池ルパンでは、みんな自分なりの新たなオリジナルな声でいいんですよ。

山寺 本当、「峰不二子という女」は大きかったですね。ルパンも銭形も二面性が魅力の1つだと思うんですが、これは原作のキャラクター設定もさることながら、やはり初代銭形役の納谷悟朗さんが絶妙なバランスで演じていらしたからこその賜物だった。もちろん、納谷さんのイメージはずっと僕の中に残っていますが、それを尊敬しつつも、山本監督や小池監督が表現されたいと思う銭形を、僕なりに考えながらやりました。シリアス一辺倒になってもいけないから、敢えてすっと力を抜いてみたり、ちょっと巻き舌っぽくやってみたり。

堀内 僕には何もかもが新鮮なシリーズでしたよ。銭形とルパンの追いつ追われつの関係からは、男同士の愛憎に似たものさえ感じる。銭形の「ルパンは絶対にほかの奴には捕まえさせない。殺させない」という意志が見え隠れするのもじんとくるし。

左から栗田貫一、山寺宏一、堀内賢雄。

左から栗田貫一、山寺宏一、堀内賢雄。

山寺 本当に、今回は“ルパン愛”に溢れた銭形の物語ですよね。えっと、どう言ったらいいんだろう……そのアイテムがないと、一気にダメになるヒーローっているじゃないですか? 例えば顔が濡れちゃったアンパンマンとか。

栗田 ちょっとわかりにくいな(笑)。

山寺 つまり、「銭形はルパンがいないとダメなんだ」ってことを言いたかったんです!(笑)

栗田 反対に、ルパンの“銭形愛”もよく出てるしね。でも今回の前半は、「あ、こりゃ銭形さすがに死んだかな?」と思ったけどね。

山寺 このシリーズのキャラは全員タフすぎる。現実なら致命傷ですよ(笑)。本編後半の銭形はずっと重症状態だけど、それをあまり引きずると、どうしてもセリフにメリハリが与えられずドラマティックじゃなくなるので、「ここは一瞬気合いで痛みを忘れよう」みたいなシーンもあって。清水さんとも、ダメージをどのぐらいセリフに反映させるのか、けっこう話し合いながらやりましたね。

栗田 あんな痛い目に遭ったことなんてないし(笑)。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より。

「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」より。

堀内 ルパンが銭形の傷口にウォッカをかけるシーンがあるじゃないですか。あの昭和な感じが、僕的にはドハマリでしたね。すごくいいなあって。

栗田 終盤、偽ルパンの最後の爆弾がドンッ!!と爆発する前のシーンとか、「小池さんはどうしてああいう画を描けるんだ?」って思うよ。もし、まだ「LUPIN THE IIIRD」シリーズをご覧になっていない読者の方がいたら、ぜひとも、まだお元気だった頃の初代次元役・小林清志さんが出演しているシリーズ1作目「次元大介の墓標」から観ていただきたいですね。シリーズを一望してもらえば、必ず小池ルパンの世界を楽しんでもらえるはずなので。

堀内 僕が1つだけ残念なのは、映画に偽ルパンが出ないこと。本当に出たかったなあ!(笑) 本作で国家同士の戦いだった舞台が、映画では謎の島になるんですよね。さらに大きな黒幕が出てくるとしたら……ますます深い話になるのかと思うと、すごく気になりますよ。

栗田 今回の偽ルパンは謎が多い存在だったし、またどこかのシリーズで出てきちゃってもいいんじゃない?(笑)

堀内 反響次第ですね。皆さん、よろしくお願いします!!

一同 (爆笑)

プロフィール

栗田貫一(クリタカンイチ)

1958年3月3日生まれ、東京都出身。KDエンタテインメント所属。1983年に「日本ものまね大賞」でデビューして「ものまね四天王」としてものまねブームの中心的存在となり、その後テレビ、舞台など活躍を拡大する。1995年に「ルパン三世」で声優に初挑戦。「ひょっこりひょうたん島」ドン・ガバチョ役や、ドラマ「バーン・ノーティス 元スパイの逆襲」マイケル・アレン・ウェスティンの吹き替えを務める。

山寺宏一(ヤマデラコウイチ)

1961年6月17日生まれ、宮城県出身。アクロスエンタテインメント所属。1985年にデビューし、海外作品の吹き替えやアニメの声優を担当する。「それいけ!アンパンマン」のチーズ、ジャムおじさん役、「カウボーイ・ビバップ」のスパイク役、「ルパン三世」の銭形警部役を演じ、ディズニー作品ではドナルドダック、「アラジン」のジーニーなどの吹き替えを担う。洋画ではジム・キャリー、トム・ハンクス、ウィル・スミスなどの吹き替えを務める。2000年にはドラマ「合い言葉は勇気」で俳優デビューを果たした。

堀内賢雄(ホリウチケンユウ)

1957年7月30日生まれ、静岡県出身。2002年に自身が立ち上げたケンユウオフィスの代表取締役を務める。「グイン・サーガ」ではグイン役、「ふしぎの海のナディア」ではサンソン役、「ONE PIECE」では錦えもん役を演じ、「LUPIN THE IIIRD 銭形と2人のルパン」では偽ルパン役を担当。洋画では「オーシャンズ11」ラスティー・ライアンなど、ブラッド・ピットの吹き替えを多数担う。