10月6日にTOKYO MXほかにて放送がスタートするTVアニメ「デブとラブと過ちと!」。コンプレックスの塊だった主人公・幸田夢子が、謎の転落事故で記憶喪失になり、ポジティブに生まれ変わることから始まるドタバタオフィスラブコメディだ。元の性格とは正反対な夢子に、家族や会社の同僚は戸惑いを隠せずにいたが、そんな彼女のポジティブでまっすぐな姿に、周囲にも少しずつ変化が訪れていく。
原作はままかりによる同名マンガ。コミックシーモアのオリジナルマンガ編集部・シーモアコミックスが展開し、少女マンガレーベル・恋するソワレで連載中だ。2019年9月の配信開始以降絶大な人気を誇り、描き下ろし付きの特装版が電子書籍で13巻まで刊行されている。2022年には3時のヒロイン・かなで、超特急・草川拓弥のダブル主演でTVドラマ化も果たした。
コミックナタリーでは、アニメの放送を前に夢子役の遠藤綾、夢子が思いを寄せる結城圭介役の内田雄馬へのインタビューを行った。原作を読んだときの印象や役へのアプローチといった本筋の話題に加え、11年前の共演作に関するエピソードも飛び出した。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / 番正しおり
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幸田夢子(CV:遠藤綾)
お菓子メーカーの企画部に所属する24歳。自分に自信がなくコンプレックスの塊だったが、事故で記憶喪失になったことをきっかけに明るくポジティブで、自己肯定感MAXな性格に生まれ変わる。 しかし、言動や行動が行き過ぎて周囲を困惑させることもしばしば。なぜかスマホの中には結城の隠し撮り写真が大量に入っており、記憶をなくす前の自分がなぜこんなことをしたのかと疑念を抱く。
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結城圭介(CV:内田雄馬)
夢子が勤めるお菓子メーカーの若手副社長。仕事モードのときは、キッパリと意見を述べ冷静に決断を下す。そのため社員からは恐れられているが、夢子の前ではつい顔を緩めてしまう側面も。そんな彼だが社内ではよからぬ噂が囁かれている。
「ただのラブコメじゃないんだな」と、気が引き締まるような感覚があった(遠藤)
──最初に原作を読んだ際、どんな印象を抱きましたか?
遠藤綾 オーディションの前に初めて手に取ったのですが、とにかくタイトルと夢子ちゃんのビジュアルにインパクトがあって、「どんな作品なんだろう」と気になりました。実際に読んでみたら、ポップで明るいビジュアルとは裏腹に、冒頭の展開が重いことに驚いて。読んでいくうちに夢子ちゃんの生き生きした姿にどんどん魅了され、個性豊かな周りの人々が夢子ちゃんの言葉で変わっていく姿にも感情移入していきました。
内田雄馬 僕も最初は絵柄を見て楽しげな印象を持ったんですが、タイトルの「過ち」というフレーズが引っかかって。遠藤さんがおっしゃったように、シリアスなシーンから始まったことに驚きました。サスペンス的な要素もあるけど、夢子のパワーやポジティブな言葉がとても印象的で、重さを感じず楽しんで読み進められる面白い作品だと思いましたね。
遠藤 意外性に心を掴まれたよね。
内田 本当に! 一気に引き込まれました。
──おふたりが演じるキャラクターは、それぞれ二面性があるように感じます。夢子はネガティブで自己肯定感が低い過去の自分と、記憶を失ってからの底抜けにポジティブな姿。圭介は冷静でクールな副社長としての顔と、夢子の前で見せる無邪気な素顔。それぞれ演じるにあたり、どのように役作りをしていきましたか?
遠藤 夢子は明るいシーンのほうが圧倒的に多いので、私の中では二面性を演じるモードとは少し違っていて……なんというか、昔の夢子を演じるときには「ああ、そういえばこうだった!」と、急に思い出すような感覚があるんですよね。その感覚は面白かったです。
──夢子を演じながら、一緒に昔の記憶を取り戻したような。
遠藤 はい。「あ……これは!」って(笑)。普段の夢子はずっと元気で明るいので、過去のシーンでは急に現実に戻されるようで。「ただのラブコメじゃないんだな」と、気が引き締まるような感覚がありましたね。
内田 過去のシーンが出てくると、「夢子に何があったのか、早く知りたい!」と気になって仕方がないです。
遠藤 うんうん。早く知りたいけど、明るいままの夢子でいてほしい気持ちもあって。本来の夢子はどっちなんだろうな、とも思うんです。昔の記憶だって大切には違いないから、仮に記憶が戻ってからもうまく共存してくれたらいいのに……と願わずにはいられません。
──夢子のハイテンションな演技は観ていて楽しくなりますが、声の表現ではどのような部分にこだわりましたか?
遠藤 アフレコ時の台本を見返したら、「年齢を上げる!」と書き込んでいたんですよ。絵に合わせてかわいさに振り切りすぎて、最初は少し幼さがあったんでしょうね。ディレクターさんにも指摘を受けて、あくまで会社員の20代女性なので、かわいくなりすぎないようしっかりした社会人を演じるように心がけました。
──ありのままの姿を肯定して生きる夢子の姿勢にはとても勇気づけられますが、特に心に響いたセリフはありますか?
遠藤 夢子は記憶を失ってから、思ったことを素直に口に出すようになります。疑問に思ったことは「どうして?」と率直に尋ねたり、指摘するときは歯に衣着せず「それはダメよ」と伝えたり。普通は心の中で思っても口に出せずに終わってしまうことってたくさんあると思うけど、その勇気を手に入れた夢子って強いな……と思いました。特に印象的だったシーンを絞るのは難しいけど、序盤での夢子の同僚・玉井さんとのシーンはスカッとしましたね。私自身は夢子よりも玉井さんや周りの人々に近いと思うので、セリフを発しながら、自分が夢子に言ってもらえているような感覚にもなりました。
──なるほど。夢子を見ていると「私って本当にかわいい!」「あなたの太陽、夢子よ」というポジティブな言葉を「自分も言ってみたいな」と思わされますよね。
遠藤 ポジティブな言葉が次々に出てくるのは、決してそれを言おうと考えているわけじゃなくて、夢子の中に前向きな考え方が当たり前のものとして存在しているからなんですよね。背中を押されるし、うれし泣きしそうになるセリフとシーンもたくさんあるので、観た方は元気をもらえると思います。
内田 あんな言葉を直接掛けてもらえたら、すごく心強いだろうなと思います。夢子が記憶喪失になる前のことを思うと、そういう言葉は、夢子自身が欲しかった言葉でもあるのかなって。記憶を失ってから別人のようになったけど、人にパワーを与えられる素質は、夢子がもともと持っていたものだと思うんです。人を褒めたりポジティブな言葉を放つって、「能天気だと思われるかな?」と気になってなかなかできないけど、夢子は素直に言ってくれるし、裏がない。本当は自分もそうでありたいと思いました。
遠藤 心の中で思っていても「褒めていいのかな?」「私みたいな人が言っちゃダメかな?」と迷っちゃうよね。夢子みたいに、バーンと勢いで言ってもらえたら絶対にうれしいと思います。夢子の力を借りてポジティブなセリフを言っていて、「こんなに開放的な気持ちになるんだ」と思ったし、すごく気持ちよかったですね。
夢子の言葉に、結城は「自分のことをちゃんと見てくれているんだ」と救われた(内田)
──内田さんは、どんな部分を意識して結城圭介というキャラクターを表現しましたか?
内田 そうですね。職場と私生活で違う表情を持っているというのは、誰しも同じだと思うんですが、結城はなんといっても副社長ですから……。
遠藤 よっ! 副社長!(笑) 絶対に大変な立ち位置だよね。本当にご苦労さまです。
内田 ありがとうございます(笑)。上には社長、下には部下がいて、いろんな立場の人に挟まれて大変な中でがんばっていると思います。若くして副社長になった結城は、ちょっと背伸びをして役目を果たそうとしているでしょうしね。年齢的にも30歳前後と自分に近いので、共感する部分は多かったです。僕はネガティブな言葉って、ポジティブな言葉の10倍刺さると思っているんですよ。例えば「このラーメン好き」と「このラーメン嫌い」を同じ1人が言っていたとしても、後者は10人に言われたように感じてしまう。だから夢子が「私はここが好きです」と良い面をはっきり言葉にしてくれるのは、結城にとってめちゃくちゃ救いになったと思います。
遠藤 夢子は副社長の命を救ったと言っても過言じゃないもんね。初対面で彼に水を差し出してあげて(素手で水を運ぶ、原作のポーズを再現しながら)……。
内田 そうそう(笑)。「こんなんじゃダメだ」「今の自分でいいのだろうか」と考え続けると「自分はダメだ」という思考にどんどん陥ってしまうけど、夢子の言葉で結城は「自分のことをちゃんと見てくれているんだ」と、救われたと思うんですよね。
──先ほど内田さんが「職場と私生活で違う表情を持っているというのは、誰しも同じ」とお話ししたのを聞いて「ああ、確かにそうだな」と思ったんです。副社長と聞いてしまうと雲の上の存在のように感じるけど、そういう部分から結城の感情にアプローチしていったんですね。
内田 そうですね。普通の社員でも社長さんでも、社会で生きているうえでは、根本的には近い悩みを抱えているんだろうなって。管理職は下にいる人の人生を背負う立場だから、すごく大変だと思いますけどね。……遠藤さんは、もし「明日から社長です」って言われたらどうしますか?
遠藤 ええー! なんでも好き勝手にしていいわけでもないですもんね? どうだろう……(周囲を見渡しながら)今ここに、どなたか社長さんはいないですよね?(笑)
内田 (笑)。
遠藤 重圧もすごそうだし……副社長くらいがちょうどいいのかもしれない(笑)。会社勤めをしたことがないのでわからないけど、オフィスを舞台とした作品を演じる機会が普段あまりないので、同僚とのやりとりを疑似体験できてうれしかったです。役職の名前とかも、普段は口に出さないものばかりですし。
内田 確かに。収録現場では、みんなで掛け合いをしながら演じたのが楽しかったです。等身大の会話劇なので、コミュニケーションが大事だと考えていました。結城と夢子の掛け合いはもちろん、企画部のみんなのやりとりがとても楽しそうで、僕は傍から「いいなあ」と見ていました。
遠藤 結城は立場的に、そこには入れないもんね(笑)。ずっと秘書と一緒にいて。
内田 秘書とササッと去っていきます(笑)。