「ハチミツにはつこい」「青春ヘビーローテーション」などの王道ラブストーリー、「チョコレート・ヴァンパイア」「東京§神狼」などのファンタジー作品でそれぞれ読者を魅了し、夢中にさせてきた水瀬藍とくまがい杏子。そんなSho-Comi(小学館)で活躍中の両作家が、このたび画業20周年を迎える。ときめき、ドキドキ、切なさ……。コミックナタリーでは、作品を通してさまざまな感情を教えてくれる水瀬とくまがいの代表作を、名シーンで振り返り。2026年1月に開催される2人の原画展に向けて、夢中になった作品に再び浸るきっかけになれば幸いだ。なお特集の後半には、水瀬、くまがいから読者に向けてのメッセージも寄せられているので、そちらもチェックしてほしい。
文 / 熊瀬哲子
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すれ違いながらもまっすぐ君に恋をする
「なみだうさぎ~制服の片想い~」(2009年~2012年連載)
中学3年生。「いつか素敵な彼氏ができたら」と夢見る桃花は、席替えで「隣の席になったら一生彼氏ができない」と噂されるほど、地味で変わり者なクラスメイト・鳴海の隣の席になってしまう。無愛想な鳴海に怯える桃花だったが、彼の優しさや素顔を知るたびにどんどん惹かれていき……。
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幼なじみとの甘い初恋の行方は
「ハチミツにはつこい」(2012年~2015年連載)
小さな頃から当たり前に隣にいた、幼なじみの夏生と小春。高校生になった2人だが、その仲のよさはずっと変わらなかった。2人は「幼なじみ」で、それ以上でもそれ以下でもない。そんな2人の関係は、高校生活での新たな出会いによって変化していく。
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私の運命の人は、あなただけ
「恋降るカラフル~ぜんぶキミとはじめて~」(2015年~2017年連載)
小学生の頃、夏の島で出会った少年・青人に初めての恋をした麻白。4年後、転校した東京で彼と同じ名前の結城青人と運命の再会を果たすが、彼には「人違いだ」と冷たくあしらわれてしまう。迷子になった麻白の初恋だったが、クールだけれど本当は優しい青人に、次第に彼女の心は動かされていく。
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全身全霊の恋をした
「きっと愛だから、いらない」(2017年~2019年連載)
重病を患い、余命1年であることを宣告された円花。「恋がしたい」と願った円花は、学校一のプレイボーイ・光汰に突然の告白をする。恋する気持ちがわからなかった円花だが、光汰とともにたくさんの“初めて”を経験するうちに、今まで知らなかった自身の感情に出会うことになる。水瀬の「シリアスな作品にも挑戦したい」という思いから生まれた、これまでの作品とは少し雰囲気の異なるピュアラブストーリー。
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君がいれば毎日楽しいことだらけ!
「青春ヘビーローテーション」(2020年~連載中)
高校受験の日、緊張で震えていたところを助けてくれた榛名に一目惚れした奈緒。無事に高校に入学した奈緒は榛名と再会し、隣の席になれたことに心を躍らせる。しかし榛名は「自分のことを好きだという女子は嫌い」というひとクセある男子だった。それなのに毎日ちょっかいをかけてくる榛名に、奈緒は翻弄され……。水瀬にとって最長連載作となる王道ラブストーリーだ。
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天才発明家少女と総理大臣の息子によるドタバタラブコメ
「はつめいプリンセス」(2006年~2007年連載)
“歩く国宝”と呼ばれる天才発明家のしずかは、10歳のときに出会った総理大臣の息子・はじめに一目惚れ。高校1年生になった今も、はじめを振り向かせるため、発明に大奮闘する毎日を送っていた。国民を巻き込んだドタバタラブコメディが繰り広げられる。
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くまがい杏子のファンタジー作品の始まり
「あやかし緋扇」(2011年~2013年連載)
勝ち気な女子高生の未来は「男に守られるなんてありえない」、そう思っていた。しかし、突如霊に襲われるようになってしまった未来は、しがない神社の跡取り息子だという、天然なクラスメイト・陵の除霊の力によって助けられる。くまがいが初めてファンタジーに挑戦した連載作品。以降、くまがいはSho-Comiでもファンタジー作品を牽引する存在となる。
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失恋から始まるタイムリープストーリー
「片翼のラビリンス」(2014年~2016年連載)
クラスメイトの大翔に思いを寄せている女子高生の都。しかし大翔は都の姉である蛍と付き合っているのだった。そんなある日、都は謎の手紙と不思議な鍵を手に入れる。鍵を使って行き着いたのは、大翔と蛍が付き合う前の世界。もう一度恋をやり直すことになった都が選んだ道は……。
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迫力の戦闘描写も魅力のヴァンパイアラブ
「チョコレート・ヴァンパイア」(2016年~2021年連載)
幼い頃に「紅血の契約」を交わした人間の千代と、年下のヴァンパイアである雪。雪に体を操作されるとは知らずに契約を結んでしまった千代だが、自身の両親を殺したヴァンプを探してくれるという彼と契約関係を続けていた。学園の警備隊として活動する千代と、千代を翻弄する雪の“決して離れられない”ファンタジーラブ。
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最新作は「あやかし緋扇」以来の和風ファンタジー
「東京§神狼」(2023年~連載中)
物ノ怪と呼ばれる得体の知れない存在があふれる東京。物ノ怪に対抗するための力を持つ“神使”の玖音と、その力を引き出す“巫”の采は、人々を守るために戦いを繰り広げている。普段はヘタレな性格で戦いには不向きな玖音だが、巫からの力を得た瞬間に神使の力を解放。しかし玖音の宿した守護獣は“神狼”と呼ばれる、味方さえも傷つけてしまうほどの強大な力を持っていた。獣人要素が交わる、くまがいにとって「あやかし緋扇」以来の和風ファンタジーだ。
- 1恋の芽生えを感じる、ときめきシーン
- 2読者もドキドキ、ヒーローキャラのカッコいいシーン
- 3まっすぐさが胸を打つ、ヒロインの魅力が詰まったシーン
- 4こんな姿にもキュンとする、男子キャラの“かわいい”シーン
- 5こんな関係に憧れる、思いが通じ合ったキャラたちの胸キュンシーン
- 6すれ違いや届かない思いも……胸が締めつけられる切ないシーン
- 7ずっと忘れられない、作品屈指の名シーン
指先から伝わるドキドキ
「指先から心臓の音って伝わるのかな」
無愛想で変人扱いされている鳴海に最初は怯えていた桃花だったが、次第に彼の優しさに触れ、惹かれていく。彼と2人きり、「誰にも教えたくない」と思うほどの時間を過ごす。桃花の緊張感がこちらにも伝わってくるシーン。
目が合って3秒で気づいた思い
「あたしは幼なじみに恋をしたんだ」
“幼なじみ”として、ずっと隣にいた夏生。だけど今、目が合った3秒。それだけで小春は夏生に恋していたことに気づかされる。その瞬間、いつもの街の風景も輝いているように見える、恋する気持ちを表現した印象的な場面だ。
あなたが手を差し伸べてくれたから
「わたしは恋がしたいです」
余命1年、限られた時間の中で恋をしたいと願った円花。そんな円花に、光汰は優しく手を差し伸べ、円花もその願いを確固たるものにする。
からかわれて、翻弄されて
「彼女 いないんだ」
「榛名くんに彼女はいる?」。そんな噂話を、一度は聞いてないふりをしていた榛名。不意打ちの答えとともに、「今日の髪型いいね」なんて、さらっと変化に触れてくれるところに胸キュンが止まらない。
真剣な顔で……今、なんて?
「もうとっくに惚れてるからですよ」
はじめをトリコにするために、6年もの間、発明に奮闘してきたしずか。思わぬ告白に5分も呆然としてしまう。
私の知らない私に出会う
「──知りたくなかった こんな 女の子っぽい自分がいるなんて」
勝ち気な性格の未来。「しかたないですよ 好きな人のこと可愛いって思うのは」。目を見てそう伝えられた言葉で、自分でも知らなかった自分に気づかされていく。
名前を呼んだ、それだけで
「こっ恥ずかしくて死ぬ…!」
初めて名字じゃなく、名前を呼んだ。それだけで動揺して真っ赤になってしまう司に、都も思わず赤面。こちらまで顔が赤くなってしまいそうなほど、ピュアなやり取りだ。
ケンカになってしまうのもご愛嬌!
「千代…キス 嫌がらなかったよね」
不意打ちのキスに甘いひとときが訪れる……わけではなく、拳と拳を交わすことになるのも、千代と雪のかわいいところ。
くまがい杏子コメント
いろんなタイプのカップルが描きたい!と思って私はキャラを考えています。性格が正反対ゆえにヒーローがヒロインを口説くシーンがなぜかコントのようなラブコメになるのが楽しくて、そのために口説きシーンを考えてるまであります(笑)。もちろん大事なときはしっかりイチャイチャしてもらいます! 「チョコヴァン」では簡単に堕ちない千代に四苦八苦する雪が本当に描いてて楽しかったですね。千代に嫌われるように振る舞ってつらい幼少期を送ってきたので、これからは甘い生活が送れるといいね! 千代次第だけど……。
その仕草、眼差しに心奪われる
「やっぱりなっちゃんがそばにいないとだめみたい」
小春の素直な思いを聞いて、夏生は静かに小春に触れ、優しく微笑む。セリフのないページでも、こんなにドキドキが伝わってくる。
思いは目を見て、言葉でもはっきりと
「麻白が好きだ」
花火大会。青人からの気持ちをやっと聞くことができた麻白。青人は花火の音にかき消されそうな思いを、麻白の目を見て、そして耳元ではっきりと伝える。
大事なのは“今”だから
「これは今の話! 今オレが高宮とやりたいの」
光汰のバンドで歌いたい。だけど、自身の将来には期限があることを気にする円花。そんな円花に光汰は“今”の思いを伝える。その思いを受け止めて、以降も本編中では円花が“今”を大事に生きる様子がたびたび描かれる。
水瀬藍コメント
このヒーローがそばにいてくれるから大丈夫。というヒーローを描いてます。ヒロインが落ち込んだり、強がったり、人におせっかいを焼いてトラブルに首をつっこんだり……何をしても、そばには彼がいてくれる。私の描くヒーローは、いつも間に合うように描いています。そして、ヒロインにベタ惚れですね(笑)。
揺るがない、強い思い
「この命は 未来さんのためなら捨てる覚悟です……!」
命をかけて未来を守ることを伝える陵。その眼差しには、揺るがない覚悟と信念が感じられる。
その思いはずっと変わらない
「千代ちゃんは僕が一生かけて! 幸せにしたい女の子だ…!!」
幼い頃から千代を思い続けて、そして幸せにしたいと強く願ってきた雪。どれだけボロボロになっても、時間が経っても、その気持ちは変わらない。
ページをめくってこのギャップ!
「前より大人びたような…」
普段はかわいらしい反応を見せる玖音。しかしふとした瞬間に大人っぽい表情が見え隠れし、采も思わずハッとする。ページをめくっただけでこのギャップ。読者も思わずドキッとしたのでは。
くまがい杏子コメント
ヒロインを身を挺して守っているヒーローだけど、それを簡単にヒロインに明かさずに秘密にすることで、明かされたときのカタルシスを強く出すようにしています。ギャップ萌えにもつながりますし、ヒロインに認めてもらいたくて守ってるわけじゃないというヒーローの意思も読者さんに感じてもらえますので。そしてファンタジーのヒーローはそこまで愛が激重でないと!というこだわりもあります(笑)。その秘密がヒロインに明かされる瞬間を描くときはほかの何にも変え難いほどワクワクしますね。
あなたの夢は、私の夢だから!
「宇宙一のカップルは距離なんかに負けないよ」
夢を追いかけて京都に行くことを選んだ夏生。遠距離になることが寂しくてたまらない小春だが、夏生を笑顔で後押しする。2人の恋は、2人で守っていけるから。
恋してるときって、きっと
「好きな人がいる時ってね ちょっとバカになっちゃうんだよ」
本当は優しいはずなのに、女子に冷たく接する榛名。これまで榛名を思ってきた女の子たちの気持ちを代弁するように、そして自身の感情を伝えるために、奈緒は真っ直ぐな言葉を口にする。
水瀬藍コメント
私のヒロインは芯がしっかりしていて、実は「ヒーローよりも強くいてほしい」と思って描いています。感情も行動も強く動くのはヒロインで、そのヒロインが困ったとき、一番大事な瞬間にヒーローが助けてくれる。そのバランスが好きです。誰よりも強くてまっすぐなヒロインが、私の好きなヒロイン像です。
振り回されてばかりじゃない
「ばーか」
篝月家と敵対する白銀学園へと向かうことを決めた千代。必死に引き止めようとする雪に、千代からの不意打ちのキスと捨てゼリフ。翻弄されるばかりではない、千代の強かさに惹かれるシーンだ。
カッコよすぎるヒロイン
「素の玖音はちゃんと優しいじゃん」
初対面で采のことを少年だと思っていた玖音だったが、温泉の中で、実は女の子であったことを知る。獣憑きの特性を抑えようと震えながら自身に触れる采に、玖音の心は突き動かされる。
くまがい杏子コメント
「片ラビ」の都はなるべく「共感してもらえる女の子」を目指してましたが、未来や千代や采は「意思が強い憧れの女の子」を目指して描いてました。私自身の理想を詰め込んでもいます。ヒーローが溺愛系なので、溺愛される理由も自分の中で納得のいくものにしたかったですし、読者さん目線でもその部分は重要だと思っています。ひと通りのことは自力で解決できるけど、力の限界でヒーローに頼ってしまうヒロイン……このときの葛藤や心が緩んだ瞬間がたまらなく好きです! ちなみに都はデフォルメのリアクションを豊富にしてマスコット的な愛されキャラを目指して描いてました!
水瀬藍コメント
「青春ヘビーローテーション」は、自分が初めて描くからかい男子でした。いじわるじゃなくて、キュンとくるからかいのラインを考えながら描いてます。奈緒のことが好きで好きでついからかってしまう榛名が、初期の「青ロテ」の楽しんでほしいポイントです。どの連載も、「ここで読者さんにときめいてほしい!」ってところを一番大切にしています。