コミックナタリー Power Push - 「クダンノゴトシ」渡辺潤
コミックナタリー Power Push - 「ちこたん、こわれる」今井ユウ
マンガ家師弟に直撃!“引き継いだもの”と“引き継がなかったもの”
「ちこたん」は「イモリ」の連載で反省したことをぶつけてる(今井)
──今井先生は残念萌えなんですね。おふたりの新作についても伺っていければと思います。「ちこたん、こわれる」のちこたんはドローンを使って学校生活を送る引きこもり……という一風変わったキャラですが、このドローン少女を主人公にした理由を教えてください。
今井 日常ものにちょっとSFが入るような作品を描きたいと思っていて、最初はドローンじゃなくてロボットと呼んでいたんですよ。でも流行の言葉に乗っかっちゃえ!と。正確にはドローンという表記は微妙にずれてるみたいなんですが、作中でなぜドローンと言っているのかという理由も明かされると思います。
──1話目の最後でいきなりヒロインのちこたんが転落死しちゃって、すごく引き込まれました。
渡辺 ストーリーマンガらしい始まり方の1話目でしたね。そこもよかったけど、「ちこたん」の見どころはキャラだと思う。生きていると感じるキャラって、計算して出せるものじゃないから。
──渡辺先生は「ちこたん」の中でどのキャラが一番好きですか?
渡辺 やっぱりちこたん。でも好きと言っても若いときに「めぞん一刻」の響子さんに感じたような思いじゃなくて、さっき言ったみたいに子犬を愛でるようなイメージだけど(笑)。あ、ちこたんもやっぱりユウちゃんの好きな残念キャラだけど、主張や欲望は抑えているね。
今井 「ちこたん」は「イモリ」の連載で反省したことをぶつけて描いていて。
渡辺 例えば?
今井 「イモリ」はキャラの性格が偏っちゃったんです。キャラに幅を持たせないと、マンネリ化してしまうんですよね。ギャグもネタを突っ込むだけじゃなくて、素直なわかりやすい演出を心がけています。オチもエロが中心だったので、エロを使わなくてもちゃんと面白いネタを作れないかと思って挑戦していて。
渡辺 なるほどな。まあ青年誌だし、困ったときのエロだよね(笑)。でも実は僕も、「クダンノゴトシ」では幅広い人に読んでもらうためにエロを抑えてる。
初めは件じゃなくてUMAを出そうと思った(渡辺)
──「モンタージュ」ではそういうシーンも多かったですよね。新作の「クダンノゴトシ」は妖怪・件(くだん)をテーマにしたホラーですが、なぜホラーを選択されたんですか?
渡辺 常に違うジャンルに挑戦したいと思って、ヤクザマンガの「代紋TAKE2」、ボクサーを描いた「RRR」、三億円事件をモチーフにした「モンタージュ」と描いてきて。なんとなくホラーもやってみたかったんです。初めは件じゃなくてUMA(ユーマ)を出そうと思ったんですよ。
今井 未確認動物の?
渡辺 そうそう(笑)。チュパカブラとか、ツチノコとかさ。それが東京に現れて人がバンバン殺される、という展開を考えてたんだけど。
今井 シュールですね。ツチノコが出てきたらホラーとは違う意味で面白くなっちゃいそう(笑)。なんで件になったんですか?
渡辺 担当から件っていう予言をする妖怪がいると教えてもらったとき、いいなって思ったんだよね。「クダンノゴトシ」は死を意識したとき、どうやって生きるのかというテーマがあって。件から死の予言を受けた大学生7人が、それぞれどういう生き方を選ぶのかを描いていきたい。
──予言を受けてから7日後に死ぬ、という設定が絶妙だと思いました。1週間って短いですけど、いろいろできますし。
渡辺 あがくキャラもいるだろうし、ゆっくり受け入れるキャラもいるだろうし。自分はやっぱり人間ドラマが描きたいんだろうなあ。
今井 最初に件が出てきた見開きページを見たとき、生理的に「うわ!」ってなって。潤さんの本気がわかりました。あの迫力は、僕では出せない。
渡辺 だけど人間は慣れていってしまうものだから、1度はビジュアルで驚いても、その次からが難しい。ストーリーで魅せていくしかないよね。
──「クダンノゴトシ」は父親が1つの鍵になりますが、「RRR」「モンタージュ」も父親や家族を重要なポイントにした作品だなと思いました。
渡辺 ああ、そうですね。僕は仕事場と家が別で、週刊連載をしていると基本的に家に帰れないんですよ。子供たちが生まれたときも、父親なのに家に帰れなくて抱っこもしてないしお風呂にも入れてないことに罪悪感を感じて、でも家に帰ると仕事してないことに悩んじゃう。こういう意識が、マンガに反映されてるかもしれません。
今井 週刊連載はなんだか心がすり減ってきますよね。
渡辺 すり減っていくね。もう年末でしょ? 年末進行とか正月はスタッフを休ませないととか考えると、1月までのスケジュールが見えてくるじゃん。もうつらいよね。
今井 僕は来週すら見えていません……。
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- 渡辺潤「クダンノゴトシ」
- 今井ユウ「ちこたん、こわれる」
渡辺潤(ワタナベジュン)
1968年東京都生まれ。1989年のマンガ家デビュー以降、1990年から2004年まで「代紋TAKE2」、2007年から2009年まで「RRR」、2010年から2015年まで「三億円事件奇譚 モンタージュ」を連載。26年以上にわたりヤングマガジン(講談社)で活躍している。現在、同誌で「クダンノゴトシ」を連載中。
今井ユウ(イマイユウ)
1984年東京都生まれ。大学在学中より持ち込みを開始し、ちばてつや賞ヤング部門佳作を受賞後、渡辺潤のアシスタントとして「RRR」の執筆を手伝う。22歳のとき、別冊ヤングマガジン(講談社)に読み切りが掲載されデビュー。2010年よりヤングマガジン(講談社)で「イモリ201」が集中連載され、その後、月刊ヤングマガジン(講談社)で連載を開始。現在はヤングマガジンで「ちこたん、こわれる」を連載中。