「かのこ様シリーズ」の魅力からタロット占いまで…辻田りり子とあいなぷぅが完全に意気投合 (2/2)

辻田先生の悪役令嬢ものを読んでみたい!(あいなぷぅ)

──絵柄に関して、これまでのシリーズよりさらに華やかになった印象を受けたのですが、意図的に何かを変えたのでしょうか?

辻田 絵柄は意識していません。でもデジタル作画にしたこともありますし、「笑うかのこ様」「恋だの愛だの」の頃は本当にネームが遅くて、時間が足りなかったんです。今回は、より丁寧に描きました。あと「恋だの愛だの~君は僕の太陽だ~」では、平成の少女マンガをテーマにしていて。例えば最近の流行は髪の束感を意識して描くし、描線はインクだまりを残す傾向だと思います。でも今作は平成がテーマなので、流行遅れだとしても髪を細かく描いて、つるんとした線にしています。こんなふうに、私はコンセプトをガチガチに決めて描くのが好きなんですよね。

左から辻田りり子、あいなぷぅ。

左から辻田りり子、あいなぷぅ。

──先生のnoteを拝読しても、マンガについて細かく研究したり、頭の中で考え抜いたりして執筆に向かっていることがよく伝わってきます。

辻田 そうなんですよ。でも、次からはもっと画面のことをしっかり考えようと思っています。最近の少女マンガはどちらかというと、話の独創性よりも絵柄と演出で、売れるか売れないかが決まると思うんです。ビジュアルでどう演出するかが勝負になってくる。自分がこれまで少女マンガに求めていなかった部分が、主戦場になっていると思います。

あいなぷぅ 私は、辻田先生の悪役令嬢ものを読んでみたいです。異世界もので政治を絡めたりしたら、すごく面白そうじゃないですか?

辻田 うーん……悪役令嬢とか転生ものを描いてみたい気持ちはあるんだけど、私は本当にファンタジーを読んできてなくて。侯爵と伯爵、どっちが偉いのかもよくわかってないし……。

あいなぷぅ それは私もわからないけど、Wikipediaに載ってますよ!(笑)

辻田りり子

辻田りり子

辻田 (笑)。いろいろと思う部分もあるんですよね。異世界転生の令嬢ものって、転生してもあくまで脇役というか。自分が悪役令嬢で、ヒロインは別にいる設定が主流ですよね。今の中高生って、「主人公になれるのは限られた人だけで、その他大勢はモブ」という意識が根付いている気がするから、ウケる設定として秀逸だなと感心します。でも同時に、個人的には覚悟がない気がしてしまうんです。例えば、ステージに上がって主役になるとすると、失敗も自分で引き受けるということだから、しんどいことももちろんあるし、きれいなままではいられないですよね。自分が読んできた平成の少女マンガは、「スキップ・ビート!」にしても「ガラスの仮面」にしても、主人公が覚悟を持って舞台に上がる。その覚悟を持たずに、果たして手に入るものがあるのかな?って。現実逃避として疲れた社会人が読む作品ならいいんだけど、私が描く中高生ターゲットの作品においては「ウケる方向だけを向いていていいのかな?」と思ってしまうんです。だから、主人公らしくない山田を主人公に据えて、舞台に上がるキャラクターにしました。

あいなぷぅ なるほど。

辻田 何も持っていなかったモブが覚悟を決めて舞台に上がり、主人公としての器になっていく。そんな物語ってすごく美しいな、と。主人公にはちゃんと主人公として立っていてほしいし、「読者のみんなも誰だって、主人公になれるんだよ」という世界を築きたい。最初の山田はビジュアルも含めてあまりに普通すぎて「売れないだろうな」と思いながら描き始めたんですけど、それでも描かないといけない、と思っていました。

あいなぷぅ 順当に考えたら桃ちゃんとかが主役になると思ったけど、私はむしろ山田が主人公という部分に惹かれましたね。ほかのキャラクターも、みんな長所と短所がしっかり描かれていて、キャラクター描写が深いし、いい子なだけじゃない。だから、かのこにもすごく共感できたんだと思います。

あいなぷぅ

あいなぷぅ

──ちなみに、5月発売のLaLa7月号に掲載された読切「天音お嬢様の言うことには」にも、富中メンバーが登場していますね。

辻田 椿くんをスターだと思っていた山田が、今度は芸能人として中学生に憧れられている、という構図は面白いかなと。「恋だの愛だの~君は僕の太陽だ~」は平成の“マジ”な感じ、「天音お嬢様の言うことには」はその“マジさ”を茶化して消費する令和というイメージで、同じ世界線で対比させようと考えました。ペンタッチも、「天音お嬢様の言うことには」では令和を意識していますね。

M-1のネタ合わせは本番の1時間前にパセラで(辻田)

──辻田先生は昨年、「M-1グランプリ」に元担当編集のウサ村さんと「少女漫画家と編集」として参加してナイスアマチュア賞を受賞し、話題を呼びましたね(参照:辻田りり子が「M-1」に出場、元担当編集とコンビ組み「ナイスアマチュア賞」受賞)。堂々と漫才を披露されていて、すごく驚きました。

辻田 いえいえ! あんなふうにYouTubeに残るとも思っていなかったし、読者に言うつもりも一切なかったんです。でも賞をいただいて、YouTubeに映像が残って……あれが出ていなかったら、私は今日も顔出ししなかったと思います。

あいなぷぅ ええー! そうなんですか。

辻田 昭和生まれで、「マンガ家は絶対に顔出ししてはいけない」という教育を受けてきたから(笑)。

あいなぷぅ 「恋だの愛だの~君は僕の太陽だ~」で芸人を描いていますし、勉強のために出ようと思った部分もあったんですか?

辻田 いえ、ただのウサ村さんとの思い出作りです。当時、仕事と育児の両立が大変すぎて、2カ月休みをもらったんです。ウサ村さんも部署異動直後で時間がありそうで、タイムリーに芸人のマンガを描いているし、「この期間にM-1出たら面白くない?」とウサ村さんに提案したら、最初は断られて。でも作家仲間の斎藤けんさんと話しているときにその話をしたら、ウサ村さんが「断ってはないです……」って、まんざらでもなさそうで(笑)。そのまま自撮りした写真をエントリーシートに貼り付けて、締切直前に出しました。漫才のネタは健康診断の待ち時間にスマホで打って作ったし、ネタ合わせは本番の1時間前にパセラでやりました。

あいなぷぅ すごい! あ、1時間前に練習するのは、うち(パーパー)と一緒です。

辻田 (笑)。でも本当に、職業の面白さで受賞しただけですよ!

あいなぷぅ 私は漫才をやったことがないからわからないけど、舞台の上でちゃんと前を見ていて、本当にすごいなと思いました。客席を見てしゃべるって、かなり恥ずかしいと思うんですよ。

辻田りり子

辻田りり子

あいなぷぅ

あいなぷぅ

辻田 調子乗りが多い大阪出身で、しゃべりたくて仕方ない子ばかりの女子校育ちという私の性質が大きいかもしれないです(笑)。終わってから、「もっとこうできたんじゃないか」という悔いは残りましたね。

あいなぷぅ サムネだけ見たときは、ピンク髪の方が先生だと思ったから、漫才が始まったら逆でびっくりしました。

辻田 そこも意外性を意識した部分ではあります(笑)。

あいなぷぅ 今年は出ないんですか?

辻田 「新しい担当と出ないの?」と聞かれることは多いです(笑)。もし出るとしたらしっかり準備して、今回は勝ちたい。ネタに凝りたいし、練習もしっかりやって、いろんな人に見てもらって作り込みたい。

あいなぷぅ (現担当編集の男性を見つつ)男女コンビも面白いですね。……(自分を指差して)3人で出ます?

辻田 わあ! あいなぷぅさんが出てくれるなら! 1回戦は突破したいんですよ。

あいなぷぅ やります? 私はネタを書かないので、先生がネタを書いてくださるならやりますよ(笑)。

辻田 ぜひ! セリフをたくさん覚えたくなかったら、少なめにしますし!(笑)

左から辻田りり子、あいなぷぅ。

左から辻田りり子、あいなぷぅ。

当たると評判?
得意のタロット占いで、あいなぷぅが辻田りり子を占う!

取材の最後は、辻田のリクエストで、あいなぷぅが得意とするタロット占いで辻田の今後を占ってもらうことに。辻田は仕事運を見てもらいたいそうで、「時代の波に乗ってヒットする作品を描きたいので、次回作はどんな作品がいいかを占ってください!」と意気揚々と依頼した。

占いの資料を取り出し、「当たります!」と自信たっぷりに語るあいなぷぅと、少々不安げな辻田りり子。

占いの資料を取り出し、「当たります!」と自信たっぷりに語るあいなぷぅと、少々不安げな辻田りり子。

辻田が挙げた好きな番号「5」に導かれて出た最初のカードは、「運命の輪」。「めちゃくちゃいいカード!」と絶賛したあいなぷぅは、これを「チャンスが巡ってきているタイミングなので、今描きたいことがあったら、それを描くのがいいと思います!」と読み解く。すると辻田は、次作の候補として考えている2パターンを告白。しかし再度カードを引いてみても、いずれも芳しい結果のカードは出ず、あいなぷぅは「また違う作品がいいということだと思います」と第三の選択肢を示唆する。

カードの意味を丁寧に説明するあいなぷぅ。辻田りり子も興味津々の様子だ。
カードの意味を丁寧に説明するあいなぷぅ。辻田りり子も興味津々の様子だ。

カードの意味を丁寧に説明するあいなぷぅ。辻田りり子も興味津々の様子だ。

正直な胸中や、いろいろな可能性を共有しつつ、占いを続けていくも、「これだ!」という結論に行き着かない2人。ふと、あいなぷぅが「異世界ものはどうか、占ってみましょうか」と提案し、カードを引いてみると……出たカードは「THE CHARIOT 戦車」。あいなぷぅは「先生! 決まりです!」と大興奮。「これは『新しい世界に挑戦すると成功できる』というカードなんです。異世界ものを描いてください!」と訴えた。辻田は「どうしよう! 1回読切で描いてみる?(笑)」と少々困惑しつつ、「でも実際に描いてイマイチだったとしても、『あいなぷぅ先生がそう占ったから描きました!』と言える大義名分ができましたね(笑)」と語り、あいなぷぅは「私が異世界ものを読みたすぎて、引き寄せたのかな(笑)」と笑っていた。

意外な結果に戸惑いながらも笑顔の辻田りり子。果たして占い結果は作品に反映されるのだろうか?
意外な結果に戸惑いながらも笑顔の辻田りり子。果たして占い結果は作品に反映されるのだろうか?

意外な結果に戸惑いながらも笑顔の辻田りり子。果たして占い結果は作品に反映されるのだろうか?

そして最後に、今年の「M-1グランプリ」への出場についても占うことに。「スター(星)」のカードが出て、あいなぷぅは「1回戦どころじゃないかも。2回戦くらいまでいけるかもしれないですよ!」とテンション高く読み解く。その後2人は「3人組の設定は、マンガ家と編集者とファンにしますか? 応援しているようで応援してないファンとか……」と、さっそく漫才のアイデアで盛り上がっていた。果たして辻田の次回作は本当に異世界ものになるのか、2人と担当編集は本当にM-1に出場するのか。すっかり意気投合した2人の今後に注目したい。

© Luna Factory
カード名:「わたしのタロット My Tarot」

プロフィール

辻田りり子(ツジタリリコ)

大阪府出身。2006年に第41回LMGフレッシュデビュー賞を受賞した「月は東に日は西に」でデビュー。2007年にLaLaスペシャル(白泉社)に掲載された読み切り「笑うかのこ様」が好評を博し、不定期連載がスタートする。2008年に「笑うかのこ様」で第33回白泉社アテナ新人大賞デビュー優秀者賞を受賞。「かのこ様シリーズ」の高校生編として、2009年から2016年まで「恋だの愛だの」、スピンオフとして2023年から2025年まで「恋だの愛だの~君は僕の太陽だ~」を連載する。

あいなぷぅ

1994年2月4日生まれ、愛知県出身。本名は山田愛奈。2014年にお笑いコンビ・パーパーを結成。2017年7月に「あなたが選ぶ!お笑いハーベスト大賞2017」で優勝し、同年9月には「キングオブコント2017」の決勝に進出した。あいなぷぅがダメな彼女を演じ、相方のほしのディスコがそれに振り回されるというカップルコントで人気を博す。