戦いはまだこれからだ!打ち切り決定から奇跡の連載続行、「古代戦士ハニワット」を愛した人々の161日間 (2/2)

“尋常じゃなく好き”な書店員が仕掛けたフェアと「ハニワット新聞」

──読者を驚かせた武富先生の告白ツイートがきっかけとなり、ファンから打ち切りを惜しむ声が多数寄せられ、連載続行を祈念する原画展が急遽開催される(参照:武富健治「古代戦士ハニワット」の連載続行を祈念する原画展開催、色紙オークションも)など大きな反響を巻き起こしました。その結果、既刊の全巻重版が決定し、見事打ち切りを回避、連載続行が決定しました!

武富 本当にありがたいお話です……。一般的に打ち切りを事前に告知することは普通ではないし、僕も趣味じゃなかったんですが、いろいろ考えて告知することにしました。でもここまでの反響をいただけるとは……。岡田斗司夫さんもYouTubeチャンネルで紹介してくださったり、読者の方からもたくさんのご声援をいただいたりしましたが、一番大きな動きは、紀伊國屋書店さんが新宿本店でやってくださったフェアの「ドグーン祭り」だと思います。

紀伊國屋書店新宿本店で6月に行われたフェアの模様。

紀伊國屋書店新宿本店で6月に行われたフェアの模様。

紀伊國屋書店新宿本店で6月に行われたフェアの模様。

紀伊國屋書店新宿本店で6月に行われたフェアの模様。

──紀伊國屋書店新宿本店のコミック売り場では、6月に「ハニワット」のフェアが開催され、熱量の高い店頭装飾が話題を呼びました。本日そのフェアの発起人である紀伊國屋書店の上田靖昂さんと、森田優織さんにもお越しいただいています。

上田靖昂森田優織 よろしくお願いします。

──双葉社のコミック担当は森田さんだそうなんですが、フェアの発起人は上田さんです。上田さんはそもそも担当外だったとお聞きしているんですが……。

上田 はい、僕は双葉社さんのコミックに本来関係ない人間なんです。でも「ハニワット」が尋常じゃなく好きで!

左から担当編集の劔持聡人氏、武富健治、紀伊国屋書店新宿本店の上田靖昂氏と森田優織氏。(※インタビュー取材時はマスクを着用しています)

左から担当編集の劔持聡人氏、武富健治、紀伊国屋書店新宿本店の上田靖昂氏と森田優織氏。(※インタビュー取材時はマスクを着用しています)

──上田さんが「ハニワット」にハマったきっかけと、フェア開催の経緯を伺えますか?

上田 友人から勧められて読んだらめちゃめちゃハマってしまったんです。それがたぶん6巻まで発売されたタイミングで、まだ新刊出てないなと思った矢先に、先生のツイートを見て、「(打ち切りなんて)そんなことあってたまるか!」と。自分が書店員になる前は、打ち切りが覆ることなんてないと思っていたんですけど、先生のツイートを見たときに「これはチャンスでは?」と思ったんです。打ち切りが話題になることがいいか悪いかは置いておいて、これは売るしかない、こんなに面白いマンガを打ち切りにしていいわけがないと思って、森田に相談しました。確か先生のツイートから3日後には森田に打診していたと思います。

──すぐに行動に移されたんですね。

上田 はい。どうしても売りたいんだ!と森田と相談しながら進めていきました。この熱をさらに何かしらの形にしようと思って、あらすじとオススメポイント、キャラクター紹介を両面に印刷した「ハニワット新聞」も作って。(「ハニワット新聞)を取り出す)

上田靖昂氏が作成した「ハニワット新聞」。

上田靖昂氏が作成した「ハニワット新聞」。

武富 いやあ、すごい(笑)。

劔持 これ本当にすごいですよね!

上田 これは気付いたらできあがってました。新聞なんて刷ればいい話なんで、こんなコスパいいことないなと、たくさん刷って配布しまして。そこから軌道に乗って、「ハニワット」のファンや、近隣の書店で「なんかヤバいやつがいる」と話題にしていただいたみたいです。僕はただもう「ハニワット」に注目いただけたらそれでいいなと思っていました。

──森田さんは上田さんから相談されたとき、どういうお気持ちでしたか?

森田 僕、実はその頃マンガ売り場に来たてのタイミングだったんですよ。前担当から双葉社の棚を引き継いだばかりで、フェアの経験もなかったんですが、上田から相談をもらったときは何も考えずに「いいんじゃない?」と答えました。でも逆に、何も経験がなかったからこそ、軽いフットワークで作り上げることができたと思っています。

──売り場の反応はどうだったんでしょうか。

森田 めちゃめちゃ良かったです。先ほどもお話した通り、僕はフェアを実施すること自体初めての経験だったんですが、初日の時点で当初の想定を越えて、追加の発注をかけるぐらいの売れゆきでした。たくさんの人がフェアを通じて「ハニワット」に出会っているなという印象でした。

ファンと担当編集が語る「古代戦士ハニワット」の魅力

──上田さんと森田さんはいち読者として、「ハニワット」のどういうところに魅力を感じたかお聞かせください。

上田 まず私が思うのは、ほかのマンガにない重厚さ。普通マンガって読みやすいように作られていると思うんですけど、背景や設定など先生が描きたいように描いているのが伝わってくるので、読めば読むほど先生の思いの濃度が伝わってくるんです。「こんなマンガ読んだことない!」と思わせるところが、マンガ好きな人に好かれるんだと思っています。ストーリーに関しては、自分の運命に必死に向き合うキャラクターが多いことが魅力的でした。それぞれの人生に対しての向き合い方にすごく共感するので、ガハハと笑いながらいつの間にか泣いてる自分がいる。そういう緩急の付け方がほかのマンガと違うところだと思っています。

森田 僕の場合、1話読んで「何をやってるのかわからない」と思ったんですが、1巻まるまる読んでも何をやってるのかわからないんですよ。

武富劔持 (爆笑)。

森田 僕たちは部外者側の視点で読んでいて、何が起こっているのか戸惑っているんですけど、埴輪徒たちや実際に事件に向き合っている人も戸惑っているんです。その部分が共感性も強くて面白い。また、読み進めるうちに物語のピースが1つずつはまっていく気持ち良さも、熱くなれる理由の1つだと思います。

左から紀伊國屋書店新宿本店の上田靖昂氏、森田優織氏。

左から紀伊國屋書店新宿本店の上田靖昂氏、森田優織氏。

上田 そう、みんな訳わからないまんま読んでいると思うんですけど、そのわからなさに没入感があると思うんです。でも気付いたらどんどん理解が深まっていって、徐々に沼にはまって気付いたら泣いているんです。

──熱いコメントありがとうございます! 武富先生と「ハニワット」を作り上げてきた劔持さんは、編集者としてこの作品にどういう魅力を感じていらっしゃるんでしょうか。

劔持 武富さんはただのモブを描かないことを信条とされているんです。モブにも人生があるんだから、人としてちゃんと描こうという思いが、「ハニワット」にも通じているところが好きです。ちゃんと現実の世界があって、その世界の人たちを描いている物語って、実はそんなに多くないと思っていて、こんな魅力的な物語はもっと多くの人に読んでほしいし、ここからもっといろんな人に読んでほしいマンガだと思ってます。

──連載続行は劔持さんにとっても喜ばしいことだったと思います。

劔持 たぶん編集者としてはあまりよくないと思うんですが、僕は基本的にさまざまな要素が複雑に絡み合っている物語が好きなんですよ。でもそれは、マンガを作るうえでは表面的にはマイナスで。一言で説明できる、シンプルな構造で読みやすいマンガのほうが売りやすいというのはわかっているんですが、それだとあんまり楽しくないんです。そういう意味で武富さんと一緒にマンガを作っているのが楽しいので、「終わるのやだなあ……」と思っていたところに、続けられることが決まって「やったあ!」という気持ちでした。

武富 劔持さん、ありがとうございます。

左から担当編集の劔持聡人氏、武富健治。武富が作画に使用しているお手製フィギュアとともに。

左から担当編集の劔持聡人氏、武富健治。武富が作画に使用しているお手製フィギュアとともに。

「戦いはこれからだ!」今後の連載への意気込み

──「ハニワット」をこれからも描き続けられることが決まりましたが、武富先生の今の率直なお気持ちを伺いたいです。

武富 打ち切りを宣告されて、第2部で「ハニワット」を終わらせることになりかけたんですが、僕自身が物語に引導を渡さなきゃいけないのは本当につらかったです。9巻までで終わらせるとなると、アクションシーンが犠牲になりそうだったんですけど、ゆったり描けるのであれば、当初の想定通りの尺で、いいアクションシーンも描けるかな、なんて思ってます。

上田 泣きそう……。

──今後の展開も楽しみにしています! 12月27日に最新8巻が発売されますが、見どころを教えていただけますか?

武富 8巻には第2部の一番の山場にしようと考えていたバトルシーンがあるので、その結末を楽しんでほしいですね。考えに考えて作った盛り上げ場面がどうなるか、期待してお待ちいただければと。後半はさらに新展開もあり、第2部クライマックスがスタートするので、チェックしてみてください。

──ありがとうございます。それでは最後に読者へのメッセージをお願いします。

武富 既刊の全巻重版、連載続行が決まり、本当にありがとうございます。これは読者の皆さんが起こしてくださったムーブメントをなくしてはありえなかったことなので、心から感謝しています。ここまで持ってきたからにはなんとか、いっそう軌道に乗せていきたいですね。物語的にも第3部というさらなる大決戦が控えているので、「戦いはこれからだ!」ということで! 引き続き、ぜひ応援していただければと思います。

左から担当編集の劔持聡人氏、武富健治。武富が作画に使用しているお手製フィギュアとともに。

左から担当編集の劔持聡人氏、武富健治。武富が作画に使用しているお手製フィギュアとともに。

各界賞賛!「古代戦士ハニワット」書影&豪華寄稿者コメントギャラリー

プロフィール

武富健治(タケトミケンジ)

1970年8月21日、佐賀県生まれ。幼少時よりマンガを描き、精力的に投稿や同人活動を行ったのち、1997年ビッグコミックオリジナル新人コミック大賞増刊号(小学館)にて「屋根の上の魔女」でデビュー。その後各誌での読み切り掲載が続いたが、2005年漫画アクション(双葉社)で執筆した「鈴木先生」が読み切りを経て正式連載となる。2007年「鈴木先生」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。そのほか主な著作には「掃除当番」「漫画訳雨月物語」「惨殺半島 赤目村」「ルームメイト」、又吉直樹の芥川賞受賞作をコミカライズした「火花」などがある。