「鈴木先生」で知られる武富健治が漫画アクション(双葉社)で連載中の「古代戦士ハニワット」は、突如長野に現れ町を破壊し始めた謎の土偶(コードネーム・ドグーン)と、太古より荒ぶる土偶の魂を鎮めてきたヒーロー・ハニワットの戦いを描くバトルアクション。2018年に連載がスタートし、これまで単行本7巻が発売されたが、今年5月25日に作者である武富が自ら、単行本の売り上げ不振により「古代戦士ハニワット」の打ち切りが決定したことを告白し、ファンに動揺と悲しみが広がった。しかし武富のそのツイートをきっかけに連載継続を望む声が多数上がったほか、原画展や書店でのフェアが開催されるなど、大反響が巻き起こる。結果として、書店での売上増加と品切れなどにより、全巻の重版決定、11月2日に連載が無事継続されることが決定した。
コミックナタリーでは武富と担当編集者・劔持聡人氏にインタビューを実施。「古代戦士ハニワット」の成り立ちのほか、打ち切り決定の告白から奇跡の復活を遂げるまでの161日間の思いを聞いた。また、連載続行の決定に一役買った紀伊國屋書店新宿本店でのフェア担当者も登場。ファンの間で話題を呼んだ大がかりな店頭装飾の裏話を語ってもらった。
取材・文 / 佐藤希撮影 / 入江達也
「古代戦士ハニワット」とは
長野善光寺市に謎の土偶が出現。街を破壊しながら静かに前進し続ける土偶を前に、街はパニックに陥る。だが、このときを予見し、準備し続けてきた人々がいた──。人知の及ばない力で破壊と殺戮を続ける謎の存在・土偶(コードネーム・ドグーン)と、太古からドグーンに唯一対抗できる力として存在する兵主神・埴輪土(はにわど)の熱い戦いや、埴輪土に命を預ける戦士・埴輪徒(はにわと)たちのドラマを描くバトルアクションだ。
連載決定から紆余曲折あった10年間
──「古代戦士ハニワット」(以下「ハニワット」)は武富先生が子供の頃に描いたマンガがもとになっていると伺いました。どういうきっかけからできあがったお話なんでしょう?
武富健治 はい、小学生のときにテレビで観た「大魔神」などの映画に刺激を受けて描いたマンガが、そもそもの始まりでした。最初ハニワットはかなり大きいサイズだったんですが、中学生のときに仮面ライダーのような人間と同じサイズのヒーローが戦う話に描き直したんですよ。
劔持聡人 webアクション(双葉社のマンガ無料配信サイト)で「『古代戦士ハニワット』中二版」として公開したことがありましたよね。
──そうだったんですね。「ハニワット」は2018年に連載がスタートしましたが、連載開始までの経緯を伺えますか?
武富 大学生ぐらいのときに第1話だけ描いたものを他社に持ち込んだことがあったんですが、掲載には至らなくて寝かせておいたんです。そのあと双葉社さんで「鈴木先生」を連載させていただいて、その終わりぐらいに当時の担当編集と次回作のアイデアを出しあったときに、「どうせ選ばないだろうけど、(作品の)数を多く出したい」と思って提出したら「ハニワット」が通ってしまって(笑)。それが2010年でした。連載は決まったものの、紆余曲折あって始動まで8年かかってしまったんですが……。
──具体的には何があったんでしょうか。
武富 その頃の僕は「鈴木先生」の終盤で、頭がパンパンだったんですよ。だから次は原作や原案があるものを担当したいな、絵を描きたいなというモードだったので、「ルームメイト」や「惨殺半島 赤目村」など他社からの仕事をけっこうな数受けていたんです。なかなか「ハニワット」の執筆に取りかかれなくて、描けないことがだんだんプレッシャーになっていって。
──後回しにしているようで気になっていたんですね。
武富 はい。他社の仕事を順番に終えていって、いよいよ「ハニワット」に向き合わないと、という段階になったときに、又吉(直樹)さんご本人からご指定で「火花」のコミカライズの依頼をいただいたんです。このオファーは断れないなと思ったので、双葉社さんに「あと1年延ばさせてもらえないか」と土下座に近い形で謝ってお願いして……。僕にとっては連載が始まるまでのプレッシャーが大きかったですね。だから連載が始まって、肩の荷が降りたという感じで。でも普段から古代史を扱った本を読むのが好きだったので、構想を練るという意味では充実した時間でした。
──結果としては準備期間をたっぷり取れて、満を持して連載を開始することができたとも言えますね。
武富 双葉社さんにそう思ってもらえていたらいいんですけど……。
劔持 (笑)。
「評価の割には部数が出ない」を払拭したい
──大学生の頃に他社に持ち込んだ「ハニワット」が今連載されている物語の土台とのことですが、もともとのお話と現在の「ハニワット」と変わってしまった部分はありますか?
武富 ほとんどやりたいようにやらせていただいていてるので、あんまりないんですよ。双葉社さんに「こう変えてほしい」と言われるよりも、自分が自主的に変えている、というのが本当のところで。でもしいて言えば、第1部(単行本1巻~4巻収録)で僕は仁を殺すつもりで描いていたんです。
劔持 ああ、そうでした!
──仁は第1部の最初の戦いに挑んだ埴輪徒ですね。自信に満ち溢れたみんなの兄貴、という印象でした。当初仁が主人公だと思っていたので、展開に驚きましたが……。
武富 ですよね。でも連載直前ぐらいになって、劔持さんから「仁どうします? まさか死なないですよね?」と(笑)。よっぽど譲れないときは押し切ることもあるんですけど、基本的にそういう意見は聞いたほうがいいと思っているので、「じゃあ」と仁は残すことにしたんです。
──劔持さんは何か予感があったんですか?
劔持 なんか武富さんは仁を殺しそうな気がしていたんで……(笑)。純粋に彼を殺してほしくなかったから、そのとき止めたんだと思います。
武富 予感してたんだ(笑)。結果こんなに長く登場させることになるとは思ってませんでした。
──まだ読んでない方には単行本で仁がどうなるか確認してほしいですね。「鈴木先生」はヒューマンドラマで、「ハニワット」はバトルアクションなので、連載を続けるうえでご苦労される点もまったく変わってくるのではと思いました。その点はいかがでしたか?
武富 「鈴木先生」は初めての連載作で、映像化もしていただいて僕の代表作になったんですけど、あんまり部数が出なかったことが僕にとってはコンプレックスになっているんです。当時雑誌で「ヒットしたけど実は売れてないマンガ」みたいに書かれちゃったこともあり……。その記事自体は気にしていないんですけど、評価の割には部数が出ないっていうのは僕のパターンになっていたので、「ハニワット」ではなんとか部数を出したいと話してたんです。「マンガ好きの人も、マンガをあまり読まない人もかっさらっていくぞ!」というのが、連載を始めるときの誓いだったんですよ。
──そうだったんですね。
武富 特撮寄りのマンガって、そういう世界感が好きな人には受けるけど、そうでない人は遠ざかっていくような閉じた感じが出てしまうことがあるので、なんとかそうならないように苦労していましたが、打ち切りの可能性が出てきてしまって。いつも通りの感じになっちゃって、どうしたらいいんだろうな……と。
「いつ首を切られるんだろうか」と怯えながらの連載
──武富先生がSNSに投稿されたことでファンも知るところとなりましたが、今年の5月に9巻をもって打ち切りになることが発表されました。話しにくいこともあるかもしれませんが、打ち切りを宣告されたときのお気持ちを伺えますか?
武富 ついに来たかって。「鈴木先生」のときの“信用貯金”があったから、連載開始までだいぶ待ってもらえたし、「ハニワット」は長く続けていったら面白くなると思ってもらえたと思うんですけど、とにかく1巻と2巻が全然売れなくてヤバいと感じていたんです。普通の編集者は1、2巻が売れなければだいたい4巻で完結に持っていくのが仕事として当たり前ですから、そこをされなかっただけでもよかったと思っていました。それでも、いつ首を切られるんだろうかとはずっと心配していて。第2部(単行本5巻~)を描き終えるまでは言われないんじゃないかと、正直気が緩んでいたときに打ち切りの話が来たので、「あちゃー、今来たかー」と。
──連載スタート時から武富先生と一緒に走ってこられた劔持さんも、打ち切りのお話はしづらかったのではと思います。
劔持 そうですね……何より「悔しい」という気持ちが大きかったです。話すときはやっぱりかなり緊張しました。
武富 ですよねえ。
劔持 部数のことは武富さんもご自身でわかってらっしゃったので、「(打ち切りが)いつ来るか……」「いつ話すか……」っていうのはたぶんお互いに考えていたと思います。それに、当初の予定よりも第2部の構想が膨らんでいて、もともと10巻で第2部を終える予定だったものを9巻まででどう収めよう、どうしようっていう心配も大きかったです。
武富 打ち切り自体は覚悟していたんですけど、第2部の内容を詰めて描かないといけなくなったことがつらかったですね。構想が膨らみきっていたので。どうしても9巻で収まらない。珍しくけっこう先のお話までプロットを切って、なんとか9巻までで収まるようなストーリー構成を苦労して作りました。それでもやっぱり、「なんとか連載続行にならないかな……」という気持ちがありましたが。