意外な隠し味が、好きな香りを鮮明に
──制作工程で、特に楽しかった、あるいは難しかった部分はどこでしょうか。
どちらも、香料を選ぶ工程です。数を選べば選ぶほど深みは出ますが、その分、輪郭がぼやけて「何を伝えたいのか」が伝わりづらくなってしまう。最終的には、2種類に絞ることで自分らしさを表現しました。それに、自分の好きな香りだとどうしても似た系統を選びがちで、それらをいくら掛け合わせてもあまり変わり映えしないんです。でも、自分では選ばないような意外な香りをトッピングとして加えることで、ベースの好きな香りがより鮮明に引き立つという発見もあり、まさに「楽しい難しさ」でした。
──調合の比率についても、かなり悩まれていましたね。
いやあ、本当に奥が深くて……。ムスクの分量を数パーセント変えるだけで印象がガラッと変わりますし、もしトッピングのオレンジをもう少し多く入れていたら、よりフレッシュさに寄った若い香りになっていたはず。その日の体調や気分、なんなら時間帯によっても選ぶバランスは変わっていたんじゃないかと思います。最後はスタッフさんに「まもなく時間です」と声をかけていただいたおかげで、「やっぱりこれだ」と確信を持って決断できました(笑)。
──最終的には、“落ち着き”の中に“フレッシュさ”も同居した香りになりました。
そうですね。40代、50代と年齢を重ねれば、落ち着きに振り切った香りも似合うかもしれませんが、僕はまだ業界では若手。だから、レシピを見ていただくとオレンジを0.3gだけ入れています。「僕のフレッシュさはたったこれだけ?」と思われるかもしれませんが(笑)、それも含めて、今の自分にしか作れない絶妙なバランスになりました。
ここに来るなら、後の予定は詰め込まないで
──ご自身のこだわりを形にする一方で、ほかに意識されたことはありますか?
自分の好みやコンセプトも大切にしつつ、今回はその先にいる皆さんの顔を常に思い浮かべていました。改めて感じたのは、「この香りを誰に届けたいのか」「誰のための香りなのか」を考えることが、とても大切だということ。そうした真心こそが、ものづくりの醍醐味なんだと思いました。
──そんな真心のこもった香水、どんなシチュエーションでつけてほしいですか?
ムスクやフリージアが入っていて、どこか“いいホテルのリネン”を思わせるような香りなので、寝る前に気持ちを落ち着けたいとき、映画鑑賞や読書のリラックスタイムにオススメですね。逆に「仕事に集中するぞ!」というときに使うと、眠くなっちゃうかもしれない(笑)。それはそれとして、気分を切り替えるためのツールとして幅広く使っていただけたらうれしいです。
──ここまでのお話を聞いていると、「自分も香水を作ってみたい」と感じる読者の方も多いんじゃないでしょうか。実は金熊香水では、店舗だけでなくオンラインショップでも自分好みの香水作りが楽しめるようになっています。これから挑戦される皆さんに、経験者の小林さんから何かアドバイスはありますか?
ムエットにつけたときの新鮮な香りと、自分の肌にのせて体温と混ざり合った後の香りって、やっぱり全然印象が違うんですよね。オンラインだと手元に届いてからのお楽しみになりますが、店舗で作るなら、ここで過ごす時間はちょっと贅沢なものだと思って、後の予定は詰め込まず、香りの変化を感じながらゆっくり思案してみるのがいいんじゃないでしょうか。
──1人でじっくり作業に没頭するのも贅沢ですが、誰かと一緒に作るのもまた違った面白さがありそうですね。ちなみに声優仲間で、この香水作りを楽しんでくれそうな方はいますか?
うーん、西山宏太郎さんでしょうか。普段からおしゃれに心配りをされている方なので、一緒に来たら楽しそうだなと思います。静かに落ち着いて作りながら、香りを共有し合い、ふとしたタイミングで笑い合うようなイメージが浮かんできますね。
久しぶりの再会も面白い、無限に増えていくコレクション
──そもそも、小林さんが香水をつけ始めたのはいつ頃からですか?
大学生くらいからですね。それまでも柔軟剤や制汗剤で「この匂いが好きだな」と思うものがあったら、親に頼んで買ってもらったりはしていました。服やアクセサリーには興味があったんですが、香水は大学に入るまでそれほど意識していなかったです。
──そこから香水に興味を持ったきっかけは?
最初はハンドソープとかを買いに行ったときだったと思います。同じ売り場に並んでいた香水を試してみたら、想像よりずっと柔らかい香りで。香水ってもっと主張の強いものというイメージがあったんですが、意外と日常に取り入れやすいんだと気づかされました。あと、時間が経つと香りが変化していくのも面白いなと。学校に行くときと家にいるとき、香りで気分を変えるのもいいなと思って、手に取ったのが最初でした。
──今はけっこうな数をお持ちですか?
そうですね。新しく香水を購入するとサンプルをいただく機会も多いじゃないですか。ミニサイズでも2週間ぐらいはしっかり楽しめる量なので、それらも併用しているとなかなか底が見えなくて……もう、無限に増えていく感覚です(笑)。数が多い分、どうしても出番が久しぶりになってしまう香りもありますが、改めて触れてみると「意外とスパイシーだったんだな」とかの発見もあったりして、それもまた面白いですね。
──その膨大なコレクションの中から、毎日の香りをどうやって選ばれているのでしょう。
最近は中性的で甘みのある香りに惹かれることが多いですが、その時々の直感で、いろいろなタイプを使い分けています。というのも香水って、ファッションの中でも特に“自由”な存在だと思うんです。洋服だと、朝の慌ただしい時間につい無難なものに落ち着いてしまったり、気温によって「今日は寒いから、ちょっと別の服にしよう」と妥協したりする瞬間も多いじゃないですか。でも香水はそんな制約に縛られず、その日の気分や行き先にぴったり合うものを手に取れる。洋服との相性を考えながら選ぶ時間も、すごく楽しいんです。
香水は一吹きで世界を変える、唯一無二のファッションアイテム
──ご自身の香り選びをこれだけ楽しまれている小林さんですが、声優仲間へもよく香水を贈られているそうですね。
はい、誕生日プレゼントとして選ぶことが多いですね。この性格だったら、この声質だったらこういう系統の香りが合うんじゃないかとか。この前は、誕生月にちなんだ香水というものをあげました。お花が使われていたんですが、花言葉まで調べたり(笑)。
──ええ、すごい!
ただ僕、同性の先輩や同期、大学時代の友人に香水を贈ることはあっても、異性に贈ったことはないんです。やっぱり、同性のほうが相手に似合うものをイメージしやすいじゃないですか。特に同世代だと、「今はまだ少し早いかもしれないけれど、1年後にはもっとこの香りが似合う男性になっているだろうな」なんて、相手の少し先の姿を想像しながら選ぶのもすごく楽しいんです。逆に、気持ちが込もっている分、異性が相手だとどうしてもいろんな意味が生まれてしまうかなって(笑)。これだけ深く相手のことを考えて選べるのは、気心の知れた同性だからこそ、なのかなと思います。
──そうやって相手を思って選ぶことが、小林さんにとっては香水に触れる楽しみの1つなんですね。でも香水は好みがはっきりと分かれる分、贈り物としては少しハードルが高い印象が一般的にはありますが……。
香水って、選択肢が多い分にはむしろいいと思うんです。毎日つけなきゃいけないものでもないですし、半年に一度、ふとした瞬間に香るだけでも気分が変わるじゃないですか。それに、洋服と違って場所も取らないから、相手を困らせることもない。押しつけがましくはないけれど、「僕はあなたに、これが似合うと思っているんです」という気持ちを伝える手段として、すごくいいなと思っています。
──小林さんが今日作った香水も、自分用としてはもちろん、大切な誰かへの贈り物として、多くの方に手に取ってほしいですね。それでは最後に改めて、小林さんにとって香水とはどのような存在でしょうか。
ワンプッシュで生活に彩りを出せる、唯一無二のファッションアイテムだと思います。一瞬で世界がパッと変わって、自分らしさを表現できる。そんなアイテムって、ほかにはないんじゃないでしょうか。香水があるおかげで、ほんの少しですが、僕の人生も豊かになっている気がします。
小林千晃コラボ香水「CHIAKI – Voice Essence #31」
予約限定販売
販売期間
2026年2月16日(月)~3月15日(日)
販売価格
8800円(税込)
プロフィール
小林千晃(コバヤシチアキ)
6月4日生まれ、神奈川県出身。大沢事務所所属。主な出演作に「ガンダムビルドダイバーズRe:RISE」(クガ・ヒロト役)、「SK∞エスケーエイト」(ランガ役)、「地獄楽」(画眉丸役)、「マッシュル -MASHLE-」(マッシュ・バーンデッド役)、「葬送のフリーレン」(シュタルク役)、「光が死んだ夏」(辻中佳紀役)、「#神奈川に住んでるエルフ」(横浜のエルフ役)などがある。





