1回観ただけでは全部は拾えない、何回も観たくなる作品
──野沢さんの声のお芝居に呼応するように皆さんがそれぞれの役を演じられていて、より一層朗読劇に惹き込まれる感覚がありました。今回の脚本は、前半はコミカルな場面が多く、後半は雰囲気が一変しますが、実はコミカルな前半にもいろいろな伏線がちりばめられているという物語でした。皆さんはこの脚本についてはどういう印象を受けましたか?
島﨑 面白いなって思いましたね。最初は正直わけがわからないと思うんです。急に小仏やら喉仏やらがどうこうっていう、「なんだこれ?」っていう展開から始まって。でも初見だと「なんだこれ」っていう部分が、実は全部つながっていて。だから1回観ただけでは全部は拾えないよなって。何回も観たくなるような、観れば観るほど楽しめる面白い脚本になっているなと思いました。でも難しいことだとも思うんです。やっぱりわかりやすいもののほうが好まれる部分もある世の中だと思うんですけど、今回はそういう中で挑戦しつつもしっかりとエンタメをしていて。僕たちも稽古のときから「これをしっかりと伝えられたらいいな」と思ってやっていたんですけど。で、実際やってみたら思った以上に、お客さんの生の反応がよくて。受け取ってくださってるんだなっていうのを肌で感じて。それがすごくうれしかったですね。
──すでに1日目の配信を何回か観た方が、「ああ、ここはこうだったんだ」とSNSで感想を投稿されているのを拝見しました。
島﨑 ありがたいです。
前野 僕たちは最初、白と黒の台本をいただいたんですよね。
下野 そうそう、内容がまったく一緒の。
前野 まったく同じだったので、1日目用と2日目用とで分けているのかな?と思ったんですけど、ところがそうではなくて。劇中で台本を入れ替えるという演出があって、そういうところもすごく考えてくださっているなと思いました。
岸尾 あれってお客さんに伝わってるのかな。
──あそこで場の空気が変わったなと感じましたよ。
前野 そういう細かい配慮もしていただいてましたし。信長くんもおっしゃってましたけど、本当にいろんな伏線がある話なので、これはもしかしたら2回、3回とご覧いただいたほうが物語としては完全に消化できるかなっていう印象があります。そういう作りになっている作品ですので、ぜひまだ観ていない方も、パッケージで繰り返して観ていただきたいと思いました。
ぜひともパワーをください、下鴨神社!
──1日目の公演を拝見して、生きていくものと別れていくものを描いたこの物語を、この下鴨神社という由緒ある場所でやることにどういう意味があるのかなと、ふと帰りながら考えてしまって。もちろん制作側の皆さんにも意図があると思うのですが、個人的には下鴨神社という、いろんな人がいろんな願いを持って集まった場所だからこそ、こういった物語を演じる意味があるのかなと、帰ってからもストーリーを反芻していました。演者の皆さんとしてはどういったことを感じられましたか?
下野 確かに世界遺産だしすごい場所だなと思うのですが、「やっていい」というお許しをいただいている以上、全力で楽しいことをやろうというふうにしか思わなかったですね。我々の仕事はスタジオであろうが、舞台の上であろうが、こういった神社であろうが、やることは基本的に変わらないので。そういう意味では、個人的に「すごい場所でやるんだな」って感じる部分はありますが、それって演じるうえでそんなに大きなことではないんです。声優というのは、どこであろうと変わらずやることができる仕事だと思っているので。ほかにもさまざまな朗読劇に出演させていただいていますが、そういった朗読劇と同じような気持ちで挑みました。
島﨑 じっくり紐解いていくと、ここでやる意味とか、つながりとかが見えていくと思うんですけど、そういう狙いの部分を僕たちが、特に実際に生身を出して演じる人が意識してしまうとあざとくなってしまう部分もあって。だから、まさに今が理想形なんだと思います。僕らとしては観た方、聞いた方がそれぞれいろんなことを感じてもらったり考えてもらったりしたらうれしいなと思っていて。僕たちはそれぞれ何か思っていることはあったとしても、それを出したりとかはしなくていいのかなって。下野さんがおっしゃっていた通り、まずはその場を楽しんでやろうと思いましたし、世界遺産という場所で普段とは空気感も違うし、自然と肌で感じたところで表現も変わってくるんだろうなと思っていました。
前野 下野さんがおっしゃったように、僕らはどの場所であろうとプロとして全力のパフォーマンスをお届けするだけなんですけれども、場の持つ強さっていうのは必ずあると思います。僕らの表現というのを何倍にも引き上げてくれるような、何か力がある場所なんだろうなっていうのは、皆さんも感じていらっしゃっているだろうなと。1日目の公演のように風が吹いた、雨が降ったという、そういう自然現象でさえも演出に取り入れることができる、そういうフィールドの強さも感じますし。それがやっぱり下鴨神社となってくると、その風には意味があったんじゃないか、雨に意味があるんじゃないかとか、後付けですけれども、そういうふうな解釈を皆さんにしていただける、そういう未知な可能性っていうのがある場所だったんだと思います。僕らはどの場でも変わらずやらせていただきますけど、でもやっぱり世界遺産で朗読劇ができるっていうこと自体が稀有なケースですので。そこはすごくありがたいなと思いながらやらせていただいてます。
下野 本当に、ありがたいですね。
──公演が終わって、帰り道でいろいろと考える時間も楽しかったので皆さんのおっしゃっている通りだなと感じます。そんな中、岸尾さんは今回が2度目の登壇となりましたが。
岸尾 そういう意味では、特に僕はこの場に立たせてもらっているのは縁の力が大きいんだなと思っています。でもみんなが言ったように、朗読劇をお届けするっていうこと自体はいつもと変わらず、全身全霊で作品と演技をお届けして。あとはこのご時世ですから、少しでも皆さんに楽しんでもらえればと思いつつ、少し生きることとか、今後のこととかを考えてもらえるきっかけになればいいかなあと思っています。前野くんがおっしゃっていたことよりかは、もう少し“願い”に近いですけど、下鴨神社にそういうパワーがあってくれるなら、本当にうれしいなと思いますね。「ぜひともパワーをください、下鴨神社!」という、願いのもとにやっていた感じですかね。
4人が本音をぶちまける「鴨の本音トーク」?
──素敵なお話をありがとうございます。きっとご覧になった方には、そういった思いが届いていたんじゃないかと思います。それでは最後に、この公演がパッケージとして発売されるということで、会場や配信でご覧になった方々はもちろん、この記事をきっかけに手に取ってみたいと思った方々へ、改めて見どころやメッセージをお伝えいただけますか。
岸尾 「第一夜」も脚本は(山下)平祐さんで、僕は「タチヨミ」っていう朗読劇でも平祐さんの作品をけっこうやらせてもらっているんですけど、今回こそ、この“平祐節”が炸裂しまくってる作品だなと、強く感じながら演じさせてもらいました。そして何度か観ていくと「あ、ここはこういうことだったんだ」「そういうことだったんだ」とわかる作品になっていて、何度も何度も繰り返し観るたびに面白さが出てくる、スルメのような作品になっているんじゃないかなと思います。これはもう何度も何度も円盤で。噛みしめるんじゃないかなあ! 噛みしめてほしいなあ!
下野 円盤を噛みしめますか?
岸尾 ねえ! いい、もうそれでもいいよ!
下野 それでもいいんだ(笑)。
岸尾 それを肴にね、1杯やっていただければと思いますよ。ぜひこの作品を楽しんでください。よろしくお願いいたします。
下野 噛んだら映像観られなくなっちゃう(笑)。そうですね、個人的にも笑いあり涙ありというところのバランスがいい作品だなと思います。我々含め、声で出演されているベテランの方々だったり、スタッフさんの演出的な部分だったりというのもバランスよく楽しめる作品ですし。また機会があれば、僕らもこういった形で朗読劇をやらせてもらえたらいいなと思いつつ。実際に生で観ていただいたほうがより楽しめるのではないかなと思うので、また次回もシリーズとしてやれて、我々も出演できたらいいななんて思います。そんな願いも込めて皆さんにおすすめしたいなと思います。そして何度も観ていただきつつ、観る用と、酒のつまみとして噛み締める用に手元に置いていただいて。
前野・島﨑 (笑)。
下野 噛んだら見れなくなっちゃいますから。観られるやつは1枚残していただいて。そういうふうな形で楽しんでいただけたらと思います(笑)。
前野 (笑)。本編は先程もお話させていただいた通り、観れば観るほどいろんな全貌が見える作りになっているので、繰り返し観られるようにぜひお手にとっていただきたいですね。それプラス、特典でね、「鴨の本音トーク」ですか?(手を広げ大仰な表情を見せる)
下野・島﨑 あはははは(笑)。
岸尾 あざとい顔するんじゃねえよ! その顔やめろ!(笑)
前野 「鴨の本音トーク」ですか?
岸尾 2回言うんじゃねえよ!(笑)
前野 「鴨の本音トーク」という、特典なんかも収録されているということなので。そこでは我々4人が本音をぶちまけるというコーナーになっているようなので、そちらもぜひ本編のついでにご覧いただければなと思います。ぜひお手に取っていただいて、朗読劇の素晴らしさ、下鴨神社の魅力っていうのを円盤を通してでもお伝えできればいいなと思うので、どうぞ皆さんよろしくお願いいたします。
──私もぜひ特典を拝見したくなりました(笑)。
岸尾 ずるいわあ、コメントじゃなくて顔だったから(笑)。
前野 「『本音トーク』ですか?」(再び手を広げ大仰な表情を見せる)
岸尾 やめろ(笑)。
下野 そこだけフォント変えてください。
岸尾 今の顔のソロカット入れてほしい、そこに(笑)。
島﨑 (笑)。そうですね、僕も掛け値なしに面白いと思っていますし、僕ら自身もすごく楽しく演じさせていただきました。DVDやBlu-rayもそうですし、本とかもそうですけど、ものをおうちに並ばせていただけるというのも今は貴重なことだと思うんです。そうやって皆さんのおうちのどこかにずっと残って、人生に寄り添えたらいいなと。これが10年後に観てみたら感想が変わったりだとか、場合によってはそのときに家族が増えていたりとか、一緒に見る人が増えていて、その人と一緒に観たりとか。テーマが普遍的なものなので、そういうふうにいつ誰と観てもそのときどきでいろんなことを感じ取れる、受け取れるような作品になっているんじゃないかなと思っているので、よかったらぜひ末永く楽しんでいただければなと思います。ただ「鴨の本音トーク」が10年後に観てほしいかは……。
下野 そこはいいよ、もう(笑)。
島﨑 そこについては10年後に耐えうるものかは自信はないんですけど(笑)、本編も含めてよろしくお願いいたします。
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4月9日先行上映会レポート