コミックナタリー Power Push -「甲鉄城のカバネリ」総集編

次回作にもつながる“フィジカルに訴える”総集編

「ninelie」のタイトルの意味はやはり文字遊び

──映画のエンディングテーマは、澤野さんが作られたテレビアニメ版のエンディングテーマのアレンジ版「ninelie <cry-v>」ですね。

荒木 新アレンジで、曲の最後に余韻のあるところができましたが、おかげでフィルムがすごくふっくらしました。あれがなかったら最後のシーンはあんなによくならなかったかもしれない。すごくいいです。

澤野 本当ですか。一応先方からは、「素人が聴いても違いがわかるようなアレンジに」みたいな感じでお願いされていたんですけど(笑)。原曲はAimerさんとchellyさんの2人がコラボレーションして歌いましたが、今回はAimerさんだけだったので、彼女の力も借りつつ楽曲に違いを出しました。少しリズムを足したり、彼女の声に合わせてロックな要素を少し足したり。

「甲鉄城のカバネリ」のエンディングテーマ「ninelie」を収録した「ninelie EP」期間生産限定盤ジャケット。

──澤野さんは楽曲のタイトルを深い意味など入れず、遊びで付けているそうですが「ninelie」の意図は?

澤野 答えはですね……今回のバージョン名にあります。叫ぶ、泣くという意味の「cry」ですね。歌詞にもありますが、原曲を作ったときはそういうタイトルの曲でもないなって思って。それでいつもの言葉遊びで「く(=9)」と「らい(=lie)」で、「ninelie」となったと。

荒木 ファンが深読みしたくなるいい言葉ですよね。

澤野 「甲鉄城のカバネリ」には9つの嘘があるんじゃないか……なんて考えてる人もいたかもしれないんですけど、たぶんそんなものはないです(笑)。

助けた少女に弱さと名前を捨てさせ、これからは無名を名乗るよう助言する美馬。

──ファンの考察サイトでは、9話で美馬様がこれまで無名へ語っていたことは嘘だったと明かすことの伏線だったという説も見かけました。

澤野 そうなんですか!? じゃあ本編とも一致してるんですね! 結構こういう偶然があるんですよね。「ninelie」がAimerさんの9番目のシングルだったとか。これも全然知らなかったので、たまたまですけどね。

次回作にもつながる劇場版の新要素

──最後に、先日発表された次回作について伺います。澤野さんはこの場で初めて聞いたと仰っていましたが率直な感想は?

澤野 この対談の前に初めて知ったので、まだ驚いています。でも普通に観ていて、「まだ続きがあるだろうな」と思っていた作品だったので楽しみですね。あと何よりも、今、僕の前で教えていただけるってことは、とりあえずクビにはならないんだろうなって(笑)。

荒木 もちろんですよ! むしろずっとお願いできているのが本当に光栄なくらいです。

左から澤野弘之、荒木哲郎。

澤野 でも僕、どんな作品でも「続編は自分だ」とは全く思っていないんですよ。テレビアニメの最終回とかで「続編決定!」みたいな発表が知らないうちに出て、「これ、俺じゃないんだろうな」と思うこともあったので(笑)。

荒木 これからは早くにお伝えするようにします(笑)。

──次回作はどんな作品になりますか?

荒木 今言えることは少ないですが、とりあえず生駒や無名、来栖や菖蒲さんがちゃんと出てきて活躍する続編です。とりあえず「甲鉄城のカバネリ」という企画のキャパシティを全開にする、「甲鉄城のカバネリ」決定版にするという意気込みでいます。

澤野 そもそも「甲鉄城のカバネリ」は元々話の続きを考えていたんですか? それとも次回作が決まったから新しく話を考えるんですか?

カバネを倒すため自ら開発した武器・ツラヌキ筒を構える生駒。

荒木 明らかにしていない設定はありますが、どちらかというと後者ですね。もともと大きい話を用意してあって、その一部分を第1期として見せたというわけではないです。生駒という男が、少女のために命を捨て、そして生還する話。これが「甲鉄城のカバネリ」なんですけど、それは描き切りました。ただ、やり終えてみても俺は全然やり足りなかった。キャラのその後が俺自身、気になってしょうがなくなっちゃったんです。そこで「まだまだやりたいんだけど、いい?」って偉い人に聞いたら「いいよ」って言われたので。テレビの12本くらいじゃ全然満足できなかった。もっといくぞと。

澤野 へー! 楽しみですね。

──澤野さんは「甲鉄城のカバネリ」の次回作と聞いてどんなイメージの楽曲が浮かびますか?

新たな駅に到着した生駒たち一行。

澤野 どんな作品の続編を担当するときでも、自分が意識してるのはメインテーマは変わってほしくないなということなんです。メインテーマはその作品の顔として作った曲なので、シリーズになったからメインテーマを変えますよとなったら、そのメインテーマは何のための曲だったんだと思うこともあって。もちろんサブテーマとして新しいテーマが必要になるのはわかるんですけどね。だから「甲鉄城のカバネリ」のために作った曲を違う形でブラッシュアップしたり、続編の新たな要素に合わせた新曲を作ったりということになると思います。

荒木 絵も新しい要素はもちろん入れるから、それに当てる形で新しい引き出しを開けてもらうってことになるでしょうね。

──最後に、総集編と次回作に期待を寄せるファンにメッセージをお願いします。

左から澤野弘之、荒木哲郎。

澤野 総集編に関しては、映画館で迫力ある映像と音楽を楽しめるということで、「甲鉄城のカバネリ」の醍醐味がより伝わるだろうなと思います。あと今回の総集編で「ninelie」という曲に改めて向き合ってアレンジしたので、エンディングに入ったからって帰らずに聴いてください(笑)。もしかしたらエンディング後に何か映像があるかもしれないじゃないですか。

荒木 はい、スタッフロールが流れたからって油断しないでほしいです(笑)。総集編は5.1chというのがわかりやすい変更ですが、それ以外にも新規カット……というか新シーンもあります。前編と後編の1週目入場者プレゼントとなるドラマCDもですが、それらは次回作につながる話なんです。だから「カバネリ」をすでに観ていただいてる方は見逃せないですし、もちろん初めての人も……というか、完成して「これ、面白えな」ってつくづく思ったんで、みんな来たらいいじゃないですか。損はさせませんよ!

澤野 ははは(笑)。

「『甲鉄城のカバネリ』総集編」

「甲鉄城のカバネリ」公式サイト

産業革命の波が押し寄せ、近世から近代に移り変わろうとした頃、世界はカバネと呼ばれる不死の怪物に覆い尽くされる。極東の島国・日ノ本の人々は、各地に駅と呼ばれる砦を築き、蒸気機関車、通称・駿城(はやじろ)を使い駅の生産物を融通しあうことで生活を保っていた。

そんなある日、カバネを倒すための武器「ツラヌキ筒」を独自に開発する蒸気鍛冶の少年・生駒は不思議な少女・無名と出会う。その夜、カバネに乗っ取られた駿城が生駒の暮らす顕金駅へと暴走しながら突入してきた。パニックに襲われる人々の波に逆らうようにして、生駒は走る。今度こそ逃げない、俺は、俺のツラヌキ筒でカバネを倒す!

前編「集う光」2016年12月31日(土)、
後編「燃える命」2017年1月7日(土)より
それぞれ2週間限定全国公開

スタッフ
  • 監督:荒木哲郎
  • シリーズ構成・脚本:大河内一楼
  • キャラクター原案:美樹本晴彦
  • アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:江原康之
  • 音楽:澤野弘之
  • アニメーション制作:WIT STUDIO
キャスト
  • 生駒:畠中祐
  • 無名:千本木彩花
  • 菖蒲:内田真礼
  • 来栖:増田俊樹
  • 逞生:梶裕貴
  • 鰍:沖佳苗
  • 侑那:伊瀬茉莉也
  • 巣刈:逢坂良太
  • 吉備土:佐藤健輔
  • 美馬:宮野真守
荒木哲郎(アラキテツロウ)

1976年11月5日生まれ、埼玉県狭山市出身のアニメーション監督・演出家。マッドハウスに入社後、「ギャラクシーエンジェル」シリーズなどの演出や絵コンテを手がける。2005年にOVA「おとぎ銃士 赤ずきん」で監督としてデビュー。その後「DEATH NOTE」「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」「ギルティクラウン」「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」などの監督を担当。最新監督作として「甲鉄城のカバネリ」総集編前編「集う光」が2016年12月31日、後編「燃える命」が2017年1月7日よりそれぞれ2週間限定で公開される。次回作は総監督を務める「進撃の巨人 Season2」。

澤野弘之(サワノヒロユキ)

1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノア・ゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、楽曲提供や編曲をするなど精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。2016年5月にアニメ「甲鉄城のカバネリ」のサウンドトラック、6月にSawanoHiroyuki[nZk]名義でアニメ「機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096」のオープニングテーマおよびエンディングテーマを収録したシングル「Into the Sky EP」、7月にはデジタルシングル「CRYst-Alise EP」をリリースした。