コミックナタリー PowerPush - 映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」

いがらしみきお×松尾スズキ

お金恐怖症男の不思議ストーリー、実写映画化 警戒しつつも相思相愛? 作者と監督が語り合う

いがらしみきおがビッグコミック(小学館)にて2007年から2008年まで連載していた「かむろば村へ」が、「ジヌよさらば~かむろば村へ~」のタイトルで映画化された。松田龍平演じる “お金恐怖症”に陥ってしまった主人公・タケが寒村に移住し、一癖ある村人たちと巻き起こす奇妙な騒動が描かれていく。

コミックナタリーでは映画公開を前に原作者のいがらしと、監督・脚本および多治見役での出演も果たした松尾スズキによる対談をセッティング。制作秘話や思い入れを語ってもらうと同時に、元々いがらし作品のファンである松尾と、「監督は松尾さんならいいな」と思っていたといういがらしの、共通する作家性についても聞いた。

取材/唐木元 文・インタビュー撮影/安井遼太郎

 
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「僕がやらずに誰がやる」とは思った(松尾)

──最初に松尾スズキ監督のところに打診が来たとき、どのように感じられたかというところから伺えればと思うんですが。

左から松尾スズキ監督、いがらしみきお。

松尾 そうですね。ちょうどプロデューサーの方が来られたとき、僕、そろそろ映画を撮らないと、作り方を忘れてしまうという思いがあって。

いがらし 「ジヌよさらば~かむろば村へ~」は何年ぶりの映画になるんですか?

松尾 7年か8年ぶりです。それぐらい撮ってなかったので……。だから打診されて、これで原作がハマったら渡りに船だっていう思いでマンガを読みまして。それで「これがずいぶん前に描かれたものなのか」「ずいぶん現代的な問題を扱っておられるな」と。ギャグも面白くて好きなので「僕がやらずに誰がやる」みたいなことは思いましたね。

いがらし 私、監督が誰かってまだ決まっていない時期に、プロデューサーから「一流の人がいた」というのを聞いたんですよ。名前は挙げられていなかったんですが、「お芝居もやる方だ」というので、「松尾さんだったらいいな」というふうに思っていました。

──なるほど。じゃあ始まる前から相思相愛というか。

いがらし 相思相愛でしょう。松尾さんは信じていないけど(笑)。

松尾 いやいやいや(笑)。

マンガ「かむろば村へ」より。

いがらし 私は映画の感想を書く瑣末なブログをやっていたんですが、そこで松尾さんが最初に監督された「恋の門」について、面白いんだけど途中で寝てしまったとか、そんな下らないことを勝手に書いたんですね。

──(笑)。

いがらし だから松尾さんが監督をやられることになったとき、「僕でいいのか、いがらしさんに聞いて下さい」とおっしゃったらしくて。「なんでそんなこと言われるのかな」って思ってたんですけど、あとでプロデューサーから、私のブログを見ていたく傷ついてたと聞きまして。

松尾 別に傷ついてはいないですよ(笑)。やっぱり映画作りって限られた時間との戦いなので、その時間の中で眠られてしまうと何ともしようがない、というところはありましたが。

いがらし 映画を観ると寝てしまうというのは単なる私の癖なんですよ。映画は自室に置いたプロジェクターで観るんですが、部屋の電気を消すとどうしても眠りやすくなってしまって。当時、私の中のベスト1の映画を観たときも3回寝てしまいましたから(笑)。だから他意はないんです。

松尾 いえいえ、大丈夫です。

いがらしみきお

いがらし いずれ機会をみて謝らないといかんなと思ってたんですけど、この間の初号試写のときようやくそれが叶いました。

松尾 まあ僕で大丈夫かな、と思ったのは……作風からして、いがらしさんは自分にも他人にも厳しいというか、ストイックな方なんじゃないかなというのがあって。自画像はゴリラみたいなのだったし。映画化にあたって「一字一句変えたらいかん」って言われたらどうしようとか、色々考えてたんですよね。僕が大好きな「あんたが悪いっ」や「ネ暗トピア」のころの作風って、すごく怖いというか、キレッキレだったので。

いがらし 気難しいやつだと思われてたんですね。私は写真とかでお顔を見てましたけど、松尾さんのほうがすごく気難しい人なんじゃないかと思ってましたよ。

松尾 気難しくはないと思いますけどねえ(笑)。

監督というのは、相当なプレッシャーではないかなと(いがらし)

──おふたりが最初に顔を合わせられたのは、制作前の打ち合わせで?

松尾 いや、いがらし先生が撮影現場に見学に来られたときですね。

いがらし プロの方の撮影現場って初めて見に行ったんですけど、気分が全然違いましたね。いる人の数がすごく多くて、まずそれで圧倒されました。その真ん中に松尾さんがいるわけなんですが、自分の仕事を見られながらいろいろ指示を出したりするっていうのは相当プレッシャーではないかなと思いました。ああいう場合って、誰かにアドバイスを求めたりするんですか?

松尾スズキ監督

松尾 うーん、撮った映像を観てOKだった場合は別に何もないですけど……。何か映り込んでいるんじゃないかとか、そういうテクニカルな問題についてはあるかもしれないですね。

いがらし 映像に対して「問題ない」って言うのは、やっぱりセンスの必要な世界じゃないですか。特に理屈があるわけじゃないから、ものすごい自信を持って現場に臨まないとヤバいでしょ?

松尾 そうですね。

いがらし それは私なんかにはできないですねえ。

松尾 僕はカット割りを全部絵コンテに起こしてもらうんですよね。撮る前にすべて決めてから現場に入るっていう。「クワイエットルームにようこそ」のときも全カット描きました。

映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」より。

──じゃあ逆に現場で、カメラ位置について迷ったりはしない?

松尾 実際に現場に行くとそのカット割りの絵のようにはなってないから、それでアングルが変わったりとかはしょっちゅうありますけどね。撮影に使える時間ってすごく短くて、お尻に火が付いた状態でいつもやってるので、悩んでる暇がない。

映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」2015年4月4日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
映画「ジヌよさらば~かむろば村へ~」

監督・脚本・出演:松尾スズキ

原作:いがらしみきお「かむろば村へ」(小学館 ビッグコミックス スペシャル刊)

出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、片桐はいり、中村優子、村杉蝉之介、伊勢志摩、オクイシュージ、モロ師岡、荒川良々、皆川猿時、西田敏行

配給:キノフィルムズ

主題歌:OKAMOTO’S「ZEROMAN」(ソニー・ミュージックレーベルズ / アリオラジャパン)

日本総合悲劇協会vol.5「不倫探偵~最期の過ち~」
日本総合悲劇協会vol.5「不倫探偵~最期の過ち~」

作・演出:天久聖一、松尾スズキ

出演:松尾スズキ、片桐はいり、二階堂ふみ、伊勢志摩、皆川猿時、村杉蝉之介、近藤公園、平岩紙

日程:(東京公演)2015年5月29日(金)~6月28日(日)下北沢 本多劇場

(大阪公演)2015年7月1日(水)~7月5日(日) サンケイホールブリーゼ

企画・製作:大人計画

いがらしみきお
いがらしみきお

1955年1月13日生まれ。宮城県出身。1979年、漫画エロジェニカ(海潮社)に投稿した「'80 その状況」でデビュー。同年ギャグダ(竹書房)にて連載を始めた「ネ暗トピア」で支持を得る。1983年、漫画サンデー(実業之日本社)にて連載の「あんたが悪いっ」で第12回漫画家協会賞優秀賞を受賞。1986年より連載を開始した「ぼのぼの」で、1988年に第12回講談社漫画賞青年一般部門を受賞。同作はテレビアニメ、劇場アニメ化され、劇場版の監督は作者自身が務めている。1998年、月刊少年ガンガン(エニックス)にて連載された「忍ペンまん丸」で第43回小学館漫画賞を受賞。2010年からは月刊IKKI(小学館)にて「I【アイ】」を連載し、手塚治虫文化賞に3年連続でノミネートされた。

松尾スズキ(マツオスズキ)
松尾スズキ

1962年12月15日生まれ。福岡県出身。「大人計画」主宰。劇作家、演出家、俳優、コラムニスト、エッセイスト、小説家、映画監督、脚本家など様々な顔を持つクリエイター。1988年、「大人計画」を旗揚げ。1997年、舞台「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞、2001年、ミュージカル「キレイ-神様と待ち合わせした女-」で第38回ゴールデン・アロー賞演劇賞を受賞。2008年には「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。2004年、初監督映画「恋の門」がヴェネツィア国際映画祭に正式出品される。2005年に「クワイエットルームにようこそ」で、2010年に「老人賭博」でそれぞれ芥川賞にノミネート。「クワイエットルームにようこそ」は自らの脚本・監督により映画化もされた。