「付き合ってあげてもいいかな」たみふるインタビュー|特別じゃない、女の子と女の子の普通の恋愛

陽キャも細分化されている

左からみっくん、鶴田、ルチャ。

──男性キャラの個性が豊かなところも読んでいて楽しいです。

軽音部に居そうな陽キャ(陽気なキャラクター)の人、そして陽キャの中でもさらにいろんなタイプの陽キャがいるだろうと細分化していったのがバンドメンバーの3人ですね。みっくんは生まれつきの陽キャ。小さいときから運動ができて、性格もよくて、男女ともに友達に恵まれて、彼女もいて、みたいな感じ。鶴田くんは大学デビュータイプ(笑)。顔は整っているけど、中学・高校では女子に免疫がなくて、大学ではがんばろうかなと思っている。ルチャは男子校出身で、すごい明るいけど、男子校ノリだから下ネタがエグくて女子が引いちゃうみたいな(笑)。

──3人とも「いるよなあ、こういう人」と思えるキャラクターです。

リカとうっしー。

リカちゃんも根っからの陽キャタイプですね。うっしーは田舎のほうの、あまりスクールカーストの激しくないところで友達に囲まれながら過ごしてきたけど、垢抜けていないみたいな。そういうタイプの陽キャもいるなと思って描いてみました。私がもともと陽キャが好きで、よく見てたんですよ。「なるほど、陽キャの中にもこういうタイプがいるんだな」って。みわちゃんもスクールカースト上位のグループにいるけど、派手じゃない子。大人しいのに陽キャのグループにいる人っているじゃないですか。そういうタイプかなって。中学や高校に比べて、大学となるともう少し人間関係が開けていると思うんですよね。なので、気さえ合えばリカちゃんとうっしーみたいな人がつるむことも、大学生だったらあるのが面白いなと思ってます。

──人をよく観察されているなあと思うんですが、元からそういった人間観察がお好きなんですか?

そうですね。学生時代はスクールカーストがあるから、クラス替えのたびに「どこのポジションについたら、ここから1年いい生活が送れるだろう」って考えることってあると思うんですよ。特に女子の世界はそれが厳しいから(笑)。

──はい、わかります(笑)。

なので「この人はイケてるふうに見せてるけど実はそんなことないぞ」とか、「この人は陽キャのグループにはいないけど優しくて居心地のいい人だ」とか、自分が生き残るためにそういう人を見る観察力が培われたんだと思います(笑)。

──なるほど(笑)。キャラクター1人ひとりに具体的な人間像が見えているということは、細かいキャラ表など作られているんですか?

キャラ表は連載が始まる前に、編集さんに見せる用にサラッと描いたぐらいですね。そこからそれぞれ要素は増えているんですけど、脳内に留めておく程度にしています。書き出してしまうとそこからずっとその人はそういうキャラと型にはまってしまう気がして。なのであまり決めつけないようにしています。それぞれがどういうふうに過ごしてきたかとかも、頭の中で「過去にこういうことがあったんだろうな」ってぼんやり思ってるぐらいの感じです。

「いや、もう普通に男と仲良くしろよ」って思う

──女性同士を描く話ではありますが、男性キャラもしっかりストーリーに絡んで来るのがこの作品の面白いところの1つだと思います。

「百合の世界に男性はいらない、排除しろ」みたいな意見もあると思うんですけど、私はその逆で、「いや、もう普通に男と仲良くしろよ」って思うんですよね。男友達がバンド内にいて、下手すると付き合ってる相手よりも男友達のほうが自分のことを理解してくれてるとか、そういう関係が描けたら一番いいなって。そういうのってなんかいい世界だなって思うんです。

冴子とみっくん。

──女子2人と男子3人に境界線があるわけではなく。特に冴子は男子たちとノリも一緒ですしね。

たぶん冴子はみわよりもみっくんのほうが気が合うし、バンドメンバーの中では一番仲がいい2人だと思います(笑)。

──そういったキャラクター同士の関係性もそうですが、たみふるさんはキャラクター1人ひとりを生きているように描いていますよね。

その辺りも意識している部分ではあります。通っていた高校が学園祭で舞台をやるのが盛んなところだったので、私も演者として出たことがあって。そのときに「舞台に立っている以上はメインのキャラクターがしゃべっていても、脇役もちゃんとその場で演技をしていないといけない」「周りが棒立ちで聞いているのはおかしいでしょ」っていうのはすごく言われていて。それを聞いて「なるほど」と。私も作中でキャラクター1人ひとりに演技をさせるというか、意味のある行動を取らせたいと思うようになりました。なので例えば鶴田くんがコマの中に小さく登場しているときは、モブとして背景の一部になっていたとしても、冴子と仲良さそうにしているみわちゃんの姿を見てポーッと見惚れているみたいな(笑)。そういう細かなところは今後も気にして描いていきたいです。

──特別ではない存在としてみわと冴子を描きたいとお話していましたが、2人が付き合ってると知らされたとき、なんと言っていいのかわからないといった反応をしつつも、その事実を受け止めていたのが鶴田くんっぽいなと思いました。今後も作中にはみわと冴子の関係を見守るようなキャラクターだけ出てくるのでしょうか。

「付き合ってあげてもいいかな」より。

今後は2人の関係に嫌悪感を示すような子も出てきます。加減を知っていて、わざとヒヤッとすることを言う人とか。でもそれを話のメインにして、みわと冴子が苦しめられるみたいな話は描かないですね。そういう人はそういう人でいるにはいるけど、主人公側の人たちはそれを意に介さず生きていいよねと。そういう描き方をしたいなと思っています。同性を好きになることも、打算的な恋愛をすることも、性欲が強いことも、そういう世間から後ろ指を指されがちなものをなんでもないことのようにサラッと肯定的に描くことで、ちょっとでも救われる人がいるのなら、この作品を描く意味があるのかなと思っています。

──同性の恋愛の物語というと、昨年はドラマ「おっさんずラブ」が大ヒットとなり、男女のラブコメディと同じように世間に楽しまれている印象がありました。「付き合ってあげてもいいかな」もマンガワンという一般誌で発表され、性別関係なく読者に楽しまれているところあると思いますが、世間的にもそういう作品が以前よりも受け入れられやすい時代になっているのかなと感じます。

そうですね。若い人ほど同性の恋愛について抵抗感を持つ人が少ないのかなと感じることはあります。そうやって「こういう人がいてもいいよね」とか、「私は同性が好きだけどそれを悩まなくていいんだ」ってみんなが思えるようになるためには、マンガやドラマなどのカルチャーを通してポップに伝えていくことが1つのきっかけになるのかなと思います。私はこの作品を描くうえでそこまでの使命感は持たないようにしていますが、そういう希望を持てるのはいいことですよね。

冴子が××をぶっちゃける……?
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たみふる
たみふる
2012年頃より執筆活動を開始。2014年に「女神さまと呼ばないで!」で商業デビュー。2016年にはとなりのヤングジャンプ(集英社)にて「空気人形と妹」を連載。2018年8月からは小学館のマンガアプリ・マンガワンにて「付き合ってあげてもいいかな」を連載中。