「星旅少年」の坂月さかなが憧れの作家・芦奈野ひとしと対談、旅と風景を大切に描く2人の共通点とは? (4/4)

次回作と格闘している最中です(芦奈野)

──「星旅少年」はどんな人におすすめしたいですか?

芦奈野 表紙のイラストを見て「あっ」と思う方だったら、絶対手元に置いておきたくなると思いますね。ページをめくるたびにいろんな景色が出てきて、そのうちにマンガに引きこまれて、最後まで読んでしまう。私自身そういう感じだったんですけど、そういう方にオススメなんじゃないかなって思います。

坂月 私は夜が好きで描いているので、SFとか宇宙が好きっていうよりは、夜の風景に馴染みがある人とか、私と同じように夜が好きだという人に読んでもらいたいと思っています。ぜひ夜に読んでほしいとも思っていて、1日の終わりにちょっと別の世界を旅してみようかなっていう感じで、手に取ってもらえたらうれしいです。

「星旅少年」第3話より。

「星旅少年」第3話より。

──2巻、3巻と物語は続いていくと思うのですが、これから先への意気込みもいただけますか。

坂月 まだまだ見せたい景色があるので、ゆっくりやれたらいいなと思っています。謎めいた部分やキャラクターの関係とかも、これからお見せできるようにと思っていますので、そういう部分も楽しみにしてもらえたら。もっとがんばってうまくなりますので、今後も見届けてもらえるよう、よろしくお願いします。

──芦奈野さんには、次回作を楽しみにしていていいでしょうか?

芦奈野 まさにそれと今、格闘している最中でして。お待ちいただければうれしいです。

坂月 それを聞けただけで、生きる気力が湧いてきました(笑)。

──マンガに限らず、最近観たり読んだりして刺激を受けた作品はありますか?

芦奈野 最近グッときたのは、シモン・ストーレンハーグさんっていうスウェーデンのイラストレーターの「ザ・ループ」という画集ですね。日常の風景なんですけど、ちょっと異質な感じのものが入っている感じがとてもよかった。それからポーランド出身のイラストレーター、マテウシュ・ウルバノヴィチさんの「東京店構え」。中でも建物の内側を俯瞰で描いているカットがあるんですが、それがすごくいいなと思いました。

──坂月さんも、せっかくなのでイラスト集でお好きなものがあればお聞きしたいです。

坂月 正直最近はあまりインプットできてなくて……。でも井上直久さんの「イバラード博物誌」がすごく好きで、きっとかなり影響を受けていますね。画風というよりコンセプトというか、架空の世界を生活感を持って描かれているところとか、光のやわらかい感じとかに憧れます。

私のさかなっていう名前は、「ヨコハマ」からいただいたんです(坂月)

坂月 ちょっとした疑問なんですけど、先生は飛行機の運転をされたことはあるんですか?

芦奈野 ないです。だけど子供の頃から大好きで、よく眺めていました。そうすると不思議なもので、見ただけで作られた年とか性能とかがわかるようになるんですよね。だから乗ったことはないんですけど、運転もできるんじゃないかという気持ちでいます(笑)。

坂月 そうなんですね。「カブのイサキ」を読んでいると、本当に運転したことがあるんじゃないかってくらい、すごく臨場感あって。フックから受ける衝撃の描き方ひとつとっても、乗らないとわからないことなんじゃないかって思っていました。

芦奈野 私も坂月さんも乗ったことがない同士だから、通じるところがあるのかもしれません。でも、オートバイと飛行機って似てると思うんですよ。実際、操縦感覚が似ているそうなんです。これはオートバイ乗りの人も、飛行機乗りの人も言っていたんですけど。だから知ってるつもりになって描いています。

坂月 じゃあバイクでの体験を想像に上乗せして。

芦奈野 バイクに乗っているときは、高度1メートルを常に飛んでいるつもりですから。飛行機も、本当に運転してしまうと別の感情が出てくるかもしれませんね。見ているだけだから好き勝手言える部分もあると思います。でも、それが楽しいですから。

坂月 まだまだ聞きたいことがあるんですけど(笑)、歴代の担当さんとのやり取りで印象に残ってることはありますか?

芦奈野 担当さんは今までに5名いらっしゃったんですけど、ありがたいことに皆さん自由にやらせてくださったんですよね。時代もあったのかもしれませんが。「ヨコハマ」の途中で入られた2番目の方が一番長くて、今も一緒にやってくれているんですけど。覚えていることで言うと……最初の頃は私が心配症だったのかな、「こんなふうに描いて読者はわかってくれるのかな」ってこぼしたことがあったんですが、「読者を信用していいよ」って言われたんですよ。「ちゃんと見てくれるから」って。こっちで心配しているようなこと以上に、それを読み込むのが読者だから細かいことは気にしないでいい、と。あれはよく覚えています。

「星旅少年」第5話より。

「星旅少年」第5話より。

坂月 もう1個だけ、答えにくかったら大丈夫なんですが、「ヨコハマ」のアルファさんとアルファー室長って、2人とも飛行機と一体化したときの気持ちを“水の中みたい”って表現していたと思うんですけど、あれにも何か理由があるんですか?

芦奈野 そうですね……宇宙空間にしても空中にしても、感じたことを頭の中で理解するときに、人それぞれ自分なりの理解の仕方があると思うんですが、彼女たちはそれを水の中の感覚として理解するんじゃないかなって思います。これは設定としてきちんと考えているわけじゃなくて、アルファだったらこれを水として捉えるんじゃないかなとか、そういうふうな世界の捉え方をして生きているんじゃないかなと思って描いた部分です。

坂月 2人が同じように考えているのが姉妹っぽくて素敵だなって思って。すごく好きなところなんです。

芦奈野 室長とアルファは感覚が近いところがあるんですよね。後のほうに生まれた子たちは、もう少し汎用……と言ってしまうとあれですけど、お姉さんたちみたいに不安定なところがない。室長とかアルファのほうが、不思議な感覚で世界を捉える感覚を持っていると思うんです、きっと。これは設定ってほどではないですけど、そう思って描きました。聞かれないと話さないから、たぶん、初めて人に話したと思います(笑)。

坂月 本当にありがとうございます……。先生の作品からは本当にたくさんのものを勝手に受け取ってしまっていて。私のさかなっていう名前も「ヨコハマ」からいただいたんです。カフェアルファの風見魚とか、魚のイメージも強くて。風見鶏じゃなくて風見魚にしたことにも意味があるんですか?

芦奈野 アルファ自身はたぶんわかっていないと思うんですけど、命の代名詞というか、象徴みたいなイメージがどこかにあったんでしょうね。あとは水の中で生きているものだとか、そういう部分に共通点を感じたのかもしれませんね。

坂月 あの場所も、最後には波にさらわれてしまうだろうと言われていたから、いつかはあの風見魚も海を泳いで行くのかなって気持ちがあって。

芦奈野 ああ、そうですね。きっとそうだと思います。

プロフィール

坂月さかな(サカツキサカナ)

イラストレーター、マンガ家。“ある宇宙の旅の記録”をテーマにした作品を発表している。2021年4月、単行本「坂月さかな作品集 プラネタリウム・ゴースト・トラベル」を上梓。同年7月より、パイ インターナショナルのWebサイト・PIE Comic Artにて「星旅少年」の連載をスタートさせた。

芦奈野ひとし(アシナノヒトシ)

1963年、神奈川県横須賀市生まれ。1994年にアフタヌーン四季賞・春のコンテストにて投稿作「ヨコハマ買い出し紀行」が四季賞を受賞、月刊アフタヌーン(講談社)に掲載されデビューを果たす。「ヨコハマ買い出し紀行」は同年より連載化。1998年と2002年の2度にわたりOVA化がなされたほか、2007年には第38回星雲賞コミック部門を受賞した。そのほかの著作に2007年から2012年にかけて連載された「カブのイサキ」、2014年から2017年にかけて発表された「コトノバドライブ」がある。