キャスティングの決め手は年俸を言う自然さ?
──そんなおふたりの演技について、渡辺監督はどのように評価されていますか?
渡辺 おふたりに関しては、決まるべくして決まったという感じですかね。話題先行でもなんでもなくて、ガチのオーディションで決まりましたから。僕は本当のところ、あんまり最近の若い役者さんのことを広く知らなくて、もう本当に「この人がいいかな」という気持ちだけで、一生懸命に選ばせていただきました。いい人を引き当てることができて、よかったなあと思いましたよ。
──決め手になった部分はどこでしたか?
渡辺 決め手はね、いろいろありましたよ。周りの人たちからも、いろいろな意見も挙がりましたから。でも例えば落合さんだったら、年俸をいうときの“自然さ”とかね。
落合 アッハハハ。そこですか。
渡辺 年俸の「1800万円」とか、意外と言い淀む人が多いんですよ。サラッといえる人が、あまりいない。
M・A・O そういったポイントもあるんですね!
渡辺 ほかにもね、声の響きの中に、何か覚悟のようなものを漂わせられる人がいいなと思っていて、その部分が落合さんから感じ取れたという部分もあります。M・A・Oさんに関しても、声のかわいらしさにプラスして、素朴で優しい感じというか。最近の声優の方は見た目も大事なのかもしれないですけど、おふたりともそれとは関係なく、ほぼ満場一致で決まりました。本当にいい方たちにお願いできたというか、自信を持って胸を張れるところだと思っています。
──演技の内容について、監督とおふたりで根を詰めて話すようなことはありましたか?
渡辺 いやあ……ないんじゃないですかねえ。
落合 あんまりないですね。絵ができあがってないときに、「このシーンって、凡田はどんな表情をしていますか?」っていうのは、よくありますよね。
渡辺 そうそう。絵の状況について話すことはあるね。僕の個人的な思いですけど、基本的にキャラクターについては、キャスティングした時点で8割がたは完成されているので。あとは、役者さんたちが各々どういった思いを現場に持ってきて披露してくれるか、という部分だけだなと。この「グラゼニ」は、そういった信頼感を持って臨める、数少ない作品のひとつですね。凡田はもう、落合さんに任せていい。どう解釈をされても、まずはそれを僕らが受けとめるという。
落合 聞いている僕のほうが、背筋がピンと伸びます。
渡辺 まあ、落合さんはすごく真面目な方なんでね。初めてお会いしたときに、「ああ、これはいい人だ」と感じましたから。M・A・Oさんも、ユキさんがマンガからそのまま出てきたような感じの人ですし。アニメの中で、これからどんどん凡田とユキさんが近づいていくのが、楽しみで仕方がないです。
ようやく実現した「グラゼニ」のアニメ化
──ちなみに、皆さんはもともと原作の「グラゼニ」をご存じでしたか?
落合 知っていた人、はい!
3人 (全員が手を挙げる)
落合 みんな知っていたみたいです(笑)。僕はオーディションで凡田役に決まる前、「東京ドーム編」の途中くらいまで読んでいたんです。でも今はあえて読んでいなくて。
M・A・O それは役作りのためですか?
落合 そうなんです。凡田の未来に起こることは、なるべく凡田と一緒に驚きたいなと思っていて。台本をいただいて、どうしても「ここは原作でなんて言っていたかな?」「どんな表情をしていたかな?」と読み返すことはありますけど、いち読者としてはもう読んでいません。連載がどんな感じになっているかについては、なんとなく人づてに聞こえてきますが(笑)。
M・A・O 私は最初、プロ野球の技術的な面や戦いの部分ではなく、お金をメインに描いているマンガがあるという噂を聞いていました。今回アニメのオーディションがありますということで、しっかりと読ませていただいたんですけど、本当にお金の話が具体的でスゴイ!と思いました(笑)。
落合 監督はどういう印象を持っていましたか?
渡辺 「宇宙兄弟」のアニメをやっていた関係で、「グラゼニ」が始まったころからモーニングをずっと読んでいたんですよ。「グラゼニ」については、「少し変わった野球マンガがあるな」「いいところに目を付けているな」という印象でした。プロ野球のプレイヤーだけじゃなく、結局、それを構成する人たち全員の話なんですよね。
M・A・O 私も「グラゼニ」を読んで、プロ野球をさらに面白く感じることができました。
渡辺 僕は当時から、仲間うちで「これもアニメにしたら面白いんじゃないの?」という会話をしていて。主人公がすごい能力を持っているわけじゃないから地味かもしれないけど、手堅いドラマにはなるだろうなと。
落合 凡田はスーパーヒーローじゃないですからね。でもその後、本当にアニメ化されたと。
渡辺 そう! だからアニメ化の話が挙がったとき、ようやくこの作品に目を付けた人が出たかと(笑)。単行本がシリーズで20巻以上刊行されているタイミングで、やっと来たな、という感じでした。
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面白さをたとえるなら「おでんの巾着」
- アニメ「グラゼニ」
- BSスカパー!にて毎週金曜日22:30~放送中
- スタッフ
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原作:森高夕次・アダチケイジ「グラゼニ」(講談社「モーニング」連載)
監督:渡辺歩
シリーズ構成・脚本:高屋敷英夫
キャラクターデザイン:大貫健一
音楽:多田彰文
音響監督:辻谷耕史
アニメーション制作:スタジオディーン
製作:スカパー!・講談社 - キャスト
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凡田夏之介:落合福嗣
ユキ:M・A・O
田辺:二又一成
追田:乃村健次
小里:石野竜三
徳永:浪川大輔
渋谷:星野貴紀
松本アナ:松本秀夫
アニメ「グラゼニ」キャッチアップ放送
日時:2018年6月2日(土)10:30~14:30
放送チャンネル:BSスカパー!
放送話:第1話~第8話
- 落合福嗣(オチアイフクシ)
- 8月20日生まれ、東京都出身。青二プロダクション所属。主な出演作に「ちるらん にぶんの壱」(島田魁役)、「からかい上手の高木さん」(木村役)、「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」(カイ=ファニス役)など。
- M・A・O(マオ)
- 1992年2月1日生まれ、大阪府出身。イエローキャブNEXT所属。主な出演作に「まじっく快斗1412」(中森青子役)、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」(ジュリエッタ・ジュリス役)、「デジモンアドベンチャー tri.」(八神ヒカリ役)など。市道真央名義で女優としても活躍しており、主な出演作に「海賊戦隊ゴーカイジャー」(ルカ・ミルフィ/ゴーカイイエロー役)などがある。
- 渡辺歩(ワタナベアユム)
- 1966年9月3日生まれ、東京都出身。アニメ監督、アニメ演出家。代表作に「宇宙兄弟」「団地ともお」「恋は雨上がりのように」「映画ドラえもん」シリーズなど。