平松先生を怒らせたら金玉を潰されそう
──ケンコバさんがリアルタイムで触れた平松作品は、やはり「ブラック・エンジェルズ」ですか?
ケンコバ そうですね。先生にぜひお伺いしたかったんですけど、「ブラック・エンジェルズ」に羽死夢っていう、睾丸を握りつぶして暗殺をするキャラクターがいるじゃないですか。羽死夢が暗殺対象の金玉を潰したときに、なぜか水しぶきが飛ぶんですよ。あれは尿なんですかね、それとも玉の含有水分が弾けているんですか?
平松 そんなの潰したことないからわからないよ(笑)。
ケンコバ 僕は尿だと思っているんですけどね。ただ水しぶきを描いているだけでしたか。でもそういう痛みをビジュアル化する方法を思いつくという点については、子供ながらに「あっ、これを描いている人は外道やねんな」と思っていましたよ。そもそも先生はなんで“外道マンガ家”と名乗っているんですか?
平松 俺はこれまで外道をたくさん描いてきていて、「外道を描くことについてはトップクラスに上手いマンガ家」という意味で“外道マンガ家”と名乗っているんですよ。でも俺自身が外道だと思っている人もいるかもしれないですね。
ケンコバ 「外道マン」ではその字の通り外道なマンガ家として描かれているから、勘違いする人はさらに増えそうですね(笑)。平松先生はもしかしたら、マンガ家の中で一番怒らせてはいけない人なんじゃないかと思ってますよ。
平松 えーそれは本宮先生でしょ。
ケンコバ 本宮先生を怒らせたら、多分日本刀で真っ二つにされてしまうと思うんですけどね。平松先生は背後から忍び寄ってきて金玉潰すか、「ブラック・エンジェルズ」の雪藤のように自転車のスポークを頭に刺してきそう。
平松 ははは。じゃあいざというときはそうしようかな。
ケンコバ この場で言うときますよ。僕が不審死を遂げたら平松先生を疑えと(笑)。
集英社との仁義なき戦い!?
──今後、平松さんが「外道マン」で描きたいのはどういったエピソードですか?
平松 現代の伸二を描いたパートではすでに登場させているんだけど、伸二の分身として出てくる外道マンを1980年代の時間軸で描くのが楽しみですね。今も伸二はいろいろと恨みつらみを言っていますが、外道マンは集英社への悪口も含め、さらにブラックな発言をすると思うので。
ケンコバ それは先生が当時感じていた怒りということですよね?
平松 いや俺の思っていることじゃないんだよ。俺の分身である伸二の、さらなる分身である外道マンが言っているだけであって(笑)。
ケンコバ なかなかの言い逃れですよそれは(笑)。製造元一緒じゃないですか!
──(笑)。3巻に収録されている現代の時間軸に登場した外道マンも、平松さんが考えていること以外のことをしゃべっているんですか?
平松 そう。たとえば3巻の冒頭では、外道マンが「髪の毛薄くなってきてるな」っていうことを劇中の俺に言うわけ。そこは実際気にしている部分なので、本当は描きたくなかったんだけど、勝手に言い出すし、俺も入れたほうが面白いと思ったから入れてるんです。
ケンコバ 言うつもりがなかったのに、キャラが勝手に。
平松 だから今後外道マンが出てきたら、妻の美奈子さんとの性生活なんかも勝手にしゃべるんだろうなと思っていますよ(笑)。
ケンコバ 今日話していて思ったんですけど、「外道マン」って実は歴史的な本ですよね。告発要素がある本って、普通は告発相手とは別の会社から出るでしょ。でも「外道マン」は母屋を変えずに集英社でやっている。これ、先生は集英社からしたら相当厄介な人ですよ。
──2巻には「連載作家が個展を開くのに、花も送ってこない」「新連載なのに表紙に名前すらない」「校了の際にセリフを打ち忘れる」など、グランドジャンプの担当編集者に対して恨み節を言うエピソードもありましたね。
平松 そういうことが続いていたので「扱い悪くない?」とは感じていたんですけど、別にいいやと思っていたんですよ(笑)。でもちょうど「外道マン」で武論尊先生が入院したのに、編集が花も団子も持ってこないというエピソードを描いていたときで。それに合わせて現代の伸二が個展を開いたのに「花も送ってこない」みたいなことを描いたら、面白くなると思っちゃったの。そうしたら担当編集に対する怒りが、急にふつふつと湧いてきちゃったんですよ。
──そのエピソードはグランドジャンプに掲載された際、「いつかマンガの中で担当をブッ殺す」と話が締められていましたが、単行本では「地獄を見せてやる」にモノローグが変わりましたね。
平松 さすがに言いすぎたんで(笑)。
ケンコバ きっと集英社も「どうせ悪口言うんやったら、よそで言うてくれんかな」と思ってますよ。「なんでそこまで言われて原稿料も支払わなあかんねん」って。
平松 いや、この作品が集英社の雑誌に載っているということで「集英社って懐の深い会社だな」って読者に思わせたいという黒い魂胆があるから(笑)。
ケンコバ また悪口言うとる(笑)。「外道マン」は悪い前例ですよ。今ジャンプで描いているような若手の作家さんが、「キャリア重ねたら何描いてもいいんでしょ」って思っちゃうから。
タガの外れた人間の話も、単行本を通してなら面白い
──今お話にあったように「ブラック・エンジェルズ」編は、伸二の黒い部分が表立って出てくるまさに「外道マンになる」エピソードだと思うのですが、ここが最終章になるのでしょうか?
平松 いや続けられるもんなら、「外道マン」を執筆している今の自分まで描きたいと思っていますよ。
ケンコバ じゃあゴールとかは決めてないんですね。
平松 ライフワークにしていきたいと思っています。ただ読者は幸せになる伸二よりもどんどん不幸になっていく伸二のほうが見ていて楽しいと思いますので、その期待に答えられるように伸二を破滅に導いていきたいですね。
ケンコバ ホントにね、平松先生みたいなタガの外れた人間って近所にいたら困りますけど、単行本を通して読んでいる分にはこんなに面白いことはないですよ。僕はいつか平松先生と同じ時代に凌ぎを削ってマンガを描いていた人たちみんなに自伝を描いてもらって、それを擦り合わせて真実の歴史を作りたいですね。
平松 じゃあとりあえず俺は、ケンコバさんの近所に住みましょうか(笑)。
ケンコバ いや、やめてください(笑)。皆さん平松先生が近所に住んでいなくてホントによかったですね。
- 平松伸二「そしてボクは外道マンになる③」
- 2018年4月19日発売 / 集英社
平松伸二の中の悪魔「外道マン」が目覚める……!!
漫画家人生を共に歩むことになる異形の分身は、不意に現れては、伸二の心を今もかき乱す……。
1978年、24歳の伸二は恋人・美奈子と結ばれるが、彼女が処女でなかった事に動揺、落胆する。
連載は「ドーベルマン刑事」から「リッキー台風」へ。
後に大きく羽ばたく新人アシスタントが現れる……!!
- 平松伸二(ヒラマツシンジ)
- 1955年8月22日生まれ、岡山県出身。1971年に「勝負」が週刊少年ジャンプ(集英社)に掲載されデビューを果たす。その後中島徳博のアシスタントを務め、1975年に武論尊が原作を務める「ドーベルマン刑事」の連載を週刊少年ジャンプにてスタート。以降「リッキー台風」「ブラック・エンジェルズ」「マーダーライセンス牙」「どす恋ジゴロ」といったタイトルを発表し、現在はグランドジャンプ(集英社)にて、自伝的作品となる「そしてボクは外道マンになる」を連載している。
- ケンドーコバヤシ
- 1972年7月4日生まれ、大阪府出身。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。現在のレギュラー番組に「漫道コバヤシ」「にけつッ!!」など。
©平松伸二/集英社