「ふりふら」のスタートは「若さゆえの不完全さ」
──ではコラボ曲のテーマについてお話を進めていければと思うのですが、井上さんは現時点で「こんな曲にしたい」とイメージしていることはありますか?
井上 やっぱり幸せな感じの恋愛ソングがいいのかなと思うんですけど、どうなんだろう。先生は「ふりふら」を描き始めるとき、どんなことを考えていたんですか?
咲坂 メインキャラ4人とも、どこか不完全なんだけど、一生懸命がんばっているところを描こうと意識していましたね。そういう若さゆえの不完全さみたいなところが歌詞に出ると、かわいくもあるし切なくも感じるのでいいかなと思ったりするんですけど。でも私があんまり口を出してしまうのも……と思うので、そこは苑子ちゃんにお任せして。
井上 若さゆえの不完全さ……そういうのも意識したいです。あと「ふりふら」で由奈ちゃんを見ていると、「人ってこんなに一途でいられるんだ」って思えてきて。私も曲を聴いてくれる子に、同じように「歌詞の一途さに勇気をもらって告白できました!」って言われることがあるので、そういう自分と「ふりふら」に通ずるであろう部分を出していきたいですね。
──先ほど「ストロボ・エッジ」の蓮の話が挙がりましたが、曲を作っていて「ふりふら」キャラが頭をよぎることはあるんですか?
井上 理央くんが出てきます! 最近は歌詞を書いているときに少女マンガっぽさを消して、実際の人間に寄せてみようってチャレンジすることもあるんですけど、やっぱり何か出てきちゃうんですよね(笑)。
咲坂 前回の対談でも理央が好きって言っていましたよね。由奈のことを好きって自覚してからの理央はちょっとポンコツになってきているので、昔から理央が好きって言ってくれている方にどう映るのかちょっと心配だったんですけど(笑)。
井上 「あー理央くん、恋したらこうなっちゃうんだ♡」って、スーッと入ってきました。4巻の最後で描かれている、理央くんと由奈ちゃんの夢の中でのシーンもかわいすぎて。
咲坂 あのシーンには読者さんにびっくりしてもらえるような仕掛けを盛り込めたので、私も思いついたときは「やったー!」って思ったんですよ。
誰かになりきらず歌詞を書きたい
井上 先生にひとつ聞いてみたかったんですけど、マンガっていろいろなキャラの視点が出てくるじゃないですか。私が歌詞を書くときはいつも主人公が1人いて、あとはチョイ役が出てくるみたいな感じになるんです。1人ひとりの心情を細かく描いていくには、どういうことを心がけているんですかね?
咲坂 自分が誰か1人になりきらないようにしていますね。
井上 俯瞰して見るみたいな感じなんですかね。
咲坂 そう。作者として「こういうことさせたいな」って考えても、外側からみて「この子はそれは選択しないな」と思ったら、そのエピソードは没になることもある。苑子ちゃんは歌詞を書くときは、登場人物になりきっているの?
井上 そういうつもりはないんですけど……でもなりきっているのかな。
咲坂 歌詞の場合は、そういうふうに作るのが普通なのかなって思いますけどね。
井上 でもなりきらないで歌詞を書けるようになりたいですね。噂によると槇原敬之さんはなりきらないらしいんですよ。まさに先生と同じで、上から見てるって感じだそうです。
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「いつも電車だな」って言われたので
- 咲坂伊緒「思い、思われ、ふり、ふられ⑥」
- 発売中 / 集英社
- 咲坂伊緒(サキサカイオ)
- 6月8日生まれ。B型。東京都出身。「サクラ、チル」でデビュー。代表作に2007年から2010年まで別冊マーガレット(集英社)にて連載された「ストロボ・エッジ」、および同誌にて2011年から2015年まで連載された「アオハライド」。「アオハライド」は2014年7月にテレビアニメ化、同年12月は実写映画化を果たしたほか、「ストロボ・エッジ」も2015年に実写映画化された。2013年公開の劇場アニメーション「ハル」ではキャラクター原案も務めている。2015年より別冊マーガレットにて「思い、思われ、ふり、ふられ」を連載中。
- 井上苑子(イノウエソノコ)
- 神戸出身の19歳シンガーソングライター。小学校6年生時より作詞作曲と路上ライブを始め、高校入学と共に上京。2015年7月にメジャーデビューを果たす。1stシングル「だいすき。」はYouTubeで1000万再生を超え、女子中高生を中心にスマッシュヒットを記録しており、これまでのミュージックビデオの総再生回数は4500万回を突破している。2017年2月に配信リリースした槇原敬之「どんなときも。」のカバーはCMソングとして話題となり、音楽配信アプリで600万再生のヒットに。また歌手活動だけでなく、映画、ドラマ、CMなどにもマルチに出演している。12月6日には2枚目のフルアルバム「JUKE BOX」をリリースする。