2015年7月30日にリリースされ、2023年に8周年を迎えたスマートフォン向けゲーム「Fate/Grand Order(以下、「FGO」)」。同作では、主人公が失われた人類の未来を取り戻すため、正史とは異なる歴史が刻まれた7つの特異点を巡る旅路が描かれる。プレイヤーは主人公となり“マスター”として、伝説上の英雄などを召喚した“サーヴァント”と契約。ともに戦い、人類滅亡の原因となる特異点を修正していく。350騎以上登場する個性的なサーヴァントのキャラクターデザインで、羽海野チカや田島昭宇といったマンガ家も参加している。
ナタリーでは8周年を記念し、「FGO」の特集を展開している。第3回となる今回は「BLACK LAGOON」「翡翠峡奇譚」の作者で、自身も「FGO」のプレイヤーであるという広江礼威が、ゲームの魅力を紹介。キャラクターデザインを務めたケツァル・コアトル(ライダー)やククルカンの制作秘話についても、貴重な制作過程の資料を交えて語ってもらった。ストーリーのネタバレは含まないので、未プレイの方もご安心を。
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取材・文 / 伊藤舞衣
奈須さんと僕の書きたいものは似通っている
──広江さんはゲーム会社勤務を経てマンガ家になったという経歴をお持ちですが、ゲームクリエイターやマンガ家の視点から感じる「FGO」の魅力をお聞かせください。
アドベンチャーゲームとしてのクオリティが素晴らしいと思います。ストーリーのよさがほかのゲームと比べても頭ひとつ抜けているので、順次公開されていく物語を追うのが楽しいですね。
──シナリオの執筆や総監督を務めるTYPE-MOON・奈須きのこさんのお力というのは大きいですよね。
本当にそう思います。奈須さんのほかにも東出祐一郎さんをはじめとした一線級のシナリオライターが揃っているので、どのシナリオも面白いです。
──ストーリーのどのあたりで物語に引き込まれましたか?
僕は第1部の最初のほうからすぐに夢中になって、そこからずっとそのテンションを継続してプレイしていますね。ほかのスマートフォンゲームをやっていた時期もありましたが、結局長くプレイしているのは「FGO」くらいになりました。
──「FGO」のストーリーは、第1部が終了し、第2部第7章までが公開、そして現在は続編となる奏章が展開されています。好きな章はありますか?
第1部では終章の「終局特異点 冠位時間神殿 ソロモン」が好きですね。ラストバトルのあたりが面白かったなあ。第2部だと、第4章「Lostbelt No.4 創世滅亡輪廻 ユガ・クシェートラ 黒き最後の神」と第6章「Lostbelt No.6 妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ 星の生まれる刻」がよかったです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、特に第6章はそれぞれのキャラクターの配置や敵の立ち位置が素晴らしかったですね。あとはやるせない気持ちになる展開とか……。
──もしかして広江さんは絶望的な状況や、切ない気持ちになる展開がお好きなのでしょうか?
たぶん好きなんでしょうね(笑)。だから自分でもそういう話を書いちゃいますし。奈須さんと僕の書きたいものは似通っているところがあると感じているので、僕の作品を読んでくださっている方とも親和性があると思うんです。これまで奈須さんの作品に触れてこなかった人にもプレイしてみてほしいですね。
──「FGO」ではシリアスなメインストーリーのほかにも、期間限定のイベントとしてユニークな物語が展開されることもありますが、お気に入りの期間限定イベントを挙げるとしたらどれでしょう。
期間限定イベントはたくさんありますよね。みんなで湖にキャンプに行くお話が面白かったです。ホラー映画のオマージュが満載で、演出もかなりホラーだった……。
──「サーヴァント・サマーキャンプ! ~カルデア・スリラーナイト~」ですね。開催当時は「演出が怖すぎる」という感想を多く見かけました。
そうそう。開発が楽しんで制作していそうだなと感じましたね。
──「FGO」のストーリーがご自身の作品に影響を与えることもあるのでしょうか。
具体的な例を挙げるのは難しいですが、ストーリーのよさには常々感服しているのでマンガにもフィードバックできるところがありますね。人を感動させる物語を作りたいと考えたとき、「FGO」のストーリーにおけるプレイヤー感情の動かし方からは学ぶことが多いなと感じます。
じっくり見てしまう宝具の演出
──ほかに魅力と感じている部分はどんなところでしょう。
コマンドカードを使ったバトルは、戦略性が高くていいですね。カードの構成を考えたりと、戦略の組み立てがカードゲームに通じるところがあるので、カードバトル好きな人はきっと楽しくできるタイプのゲームだと思います。
──簡単ながらも突き詰めると奥が深いシステムですよね。「FGO」のバトルといえば、サーヴァントの必殺技となる“宝具”も特徴的です。
宝具を使うときの演出がすごくいいですよね。僕は好きでじっくり見ています。特に清少納言(アーチャー)の宝具はほかのサーヴァントとは演出がちょっと違う感じがしますし、最後のピースもかわいくて好きです。デザインを担当されたMika Pikazoさんの絵はすごく華がありますよね。
──それぞれのサーヴァントにクリエイターの個性が表れていますよね。好きなクリエイターやサーヴァントはいますか?
本庄雷太さんの手がけるサーヴァントが好きですね。酒呑童子(アサシン)とかかわいいです。あと最近実装されたサーヴァントだと、西藤浩樹さんがデザインしたトラロックがかわいくていいキャラだなと。キャラクター性が一番表れるのはストーリーなので、ストーリーを読んでキャラクターに愛着が湧くこともありますね。
──私はバトルによく連れて行くサーヴァントにも愛着が湧いたりしますが、広江さんはいかがですか?
プレイし始めた当初から牛若丸(ライダー)をよく使っていて愛着があります。坂本みねぢさんのデザインもかわいいですし、手に入れやすいサーヴァントですよね。その後、牛若丸とも深い縁のある平景清を手に入れたので、揃ってうれしかったです。
──キャラクターの設定や歴史的な背景として縁の深いサーヴァント同士は揃えたくなりますよね。
わかります。今手に入れたいのは酒呑童子(アサシン)です。源頼光(バーサーカー)は持っているのですが、なぜか酒呑童子が全然うちに来てくれなくて……。
──大江山の鬼の頭領・酒呑童子と、それを討伐した源頼光ですか。並べるのがちょっと怖い組み合わせでもあります(笑)。キャラクター性能的な話になりますが、これからプレイされる方におすすめしたいサーヴァントはいますか?
最初のほうは難しいことを考えずに、持っている中からレアリティが高いサーヴァントを編成すればいいのではないでしょうか。基本的にはレアリティと比例して攻撃力も高く設定されているので、純粋に攻撃しているだけで強いですからね。僕も第1部はほとんど力押しで進めましたが(笑)、第1部第7章まではあまり行き詰まることもなかったと思います。
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「翡翠峡奇譚」から始まった奈須きのことの交流