描きたかったカルナの美しい一面
──思い入れのあるサーヴァントや描いていて楽しいサーヴァントはいますか。
シュウ カルナと“山の翁”が好きです。自分はTVアニメ「Fate/Apocrypha」のカルナが活躍する第22話に原画で参加していました。そのときにカルナと出会い、カッコいいなと思いましたね。今回カルナを描くために何が必要なのかを、また最初から考えて制作することが楽しみでしたし、戦う姿だけでなく美しい一面も描きたいと思ったのは、カルナに対するこだわりというか思い入れなんです。“山の翁”は純粋にシルエットがカッコいいですよね。ヨーロッパの騎士や日本の武士とは異なる文化圏のような背景が新鮮で好きです。
──余談なんですが、私はイスカンダルと“山の翁”が大好きで、今回シュウ監督のアニメーションとして動いている姿をたくさん観ることができてとても眼福でした。
シュウ そうなんですね。実は、一番ディテールが多くて描くのが大変なのはイスカンダルなんです。描きながら「こんなに難しいキャラデザだったの!?」と思いました(笑)。
──そうなんですか!? 一見シンプルに見えます。
シュウ イスカンダルは刺繍の模様が多いので……。あと、ライダーだから馬に乗りますよね。馬を描くのも大変なんです。
福島 僕は「チェンソーマン」第5話のエンディングなどを見て、勝手にシュウさんは馬を描くのが好きなのかなと思ってましたよ(笑)。
シュウ 馬を描くのは好きじゃないんですよ(笑)。でも馬は動くとカッコいいんですよね……。だから映像をカッコよくしたい気持ちと、作画コストとの間でよく葛藤しています。今回一番多く馬が登場するのはイスカンダルの葬式シーンなんですけど、あのシーンを担当してくれたのは「チェンソーマン」第5話のエンディングで馬を描いてくれた人と同じ人なんです。「馬の動き、慣れてますよね? じゃあもう少し描きませんか」とお願いしました(笑)。描き切ってくれたことを心から褒め称えたいです。
制作陣の心を1つにしたCMの反響
──「Memorial Movie 2023」の映像の一部はCMで先行公開されましたが、ユーザーの反響はご覧になりましたか?
シュウ まだ制作の途中なので、いただいた反響がものすごく制作陣の力になっています。自分たちが描いたものが受け入れられているという確信が持てて、次のステップへの熱意につながるんです。一部のスタッフからは「ここまでやる必要があるのか」と疑問を投げかけられることもありましたが、CMの反響を見てからはそのこだわりの意味を理解してくれたようで、そういった意見はほとんど出なくなりました。難しい体制の中で制作を前に進められたのはCMの反響のおかげでもありますし、福島さんからのサポートがあったからです。本当にありがたいですね。
福島 どのカットも等しく大変な工程を踏んでいて、シュウさんが「その工程を入れないとこういう映像にならないんだ」とスタッフに説明していました。僕らも、映像が公開されて反響をいただくことで「やっぱりこの形で作らなきゃいけないんだ」と感じ、やり切る覚悟を決めましたね。CMが公開されてからは、きっと全員がそれを感じていて、全員が「自分たちはこれを作り切るんだ」という暗黙の一体感のようなものが芽生えました。
──完成版は「Fate/Grand Order Fes. 2023 夏祭り ~8th Anniversary~」の会場で公開されますね(インタビューは7月中旬に行われた)。シュウ監督と福島さんは会場でユーザーのリアクションをご覧になりますか?
シュウ はい。どういうリアクションになるか、すごく緊張しています。できる限り作品を作り込んでいますが、人の反応というものは本当に予想ができません。自分が解釈した「FGO」というテーマと、それを全力で表現した映像がどんな反響を得たか、それが合わさって1つの作品が完成するんです。ウケなかったら、今の時代にこういうものは合わなかったと思って改めて勉強させていただきます(笑)。
福島 いやいや(笑)。やっぱり「Fate」と、ある種の芸術性の相性はすごくいいなと感じています。今回それをうまくアニメーションに落とし込んでいると思うので、これまでの「FGO」になかったアプローチの映像ができていると感じますし、シュウさんの作家性も出ていると思います。僕も「Fate」の作品にいろいろと関わっていますが、周年の映像として相応しい作品になっていると思います。
シュウ 福島さんの厚い信頼が心強く、この信頼に応えていきたいと常々考えています。長い時間をかけて作っている作品は、こういった芯がないと制作途中で作品がブレてしまいます。今回は自分やCloverWorksさん、サポートしていただいた中国の大火鳥文化さんがお互いを信頼し、一丸となって制作に励むことができているのでとてもありがたいです。
「FGO」に出会った頃を思い出して
──最後になりますが、「Memorial Movie 2023」の制作を通して感じたことや、映像を観る方に伝えたいことはありますか?
福島 今回「FGO」が展開されているさまざまな地域のクリエイターを含むグローバルな体制で制作しています。これは「FGO」というゲームをアニメーションに置き換えたようなイメージで、まさに今の「FGO」を象徴しているような映像制作になったのではないかと思います。また、シュウさんとの制作で「FGO」の表現やキャラクター性は、まだまだ描けるものがあると改めて感じました。カルナのことは美しいと思いますけど、まさか目も開けないとは思いませんでしたし(笑)。
シュウ 「真の英雄は耳でも殺す」というコメントを見ました(笑)。
福島 (笑)。ああいうシーンを見てビジュアル的にもまだまだ描ける側面があるんだなと思いましたし、そしてそれが「FGO」という作品のポテンシャルでもあると感じました。まだまだ楽しめる要素がこのゲームやキャラクターにあるということを、断片的にでもお見せできたら幸いです。
──ありがとうございます。シュウ監督はいかがですか。
シュウ 自分で作ったものに対して何を伝えたいのかをまとめるのは難しいのですが……。ただ、あの映像を観て、「FGO」やキャラクターに最初に出会った頃を思い出してもらえるとうれしいです。大きなスケールで言うと、「FGO」が表現しようとしている人類史を感じて感動してもらい「現実にこんな英霊がいればいいな」というところまで連想していただき、何か別の感動を得てもらうことができれば、まさにそれが今回伝えたい、観た人に感じてほしいものですね。描きたいことはすべて表現しきれているので、1つのシーンに注目するのではなく、全体を観ていただいて自然に感じてほしいと思っています。それがすべてです。
プロフィール
シュウ浩嵩(シュウヒロマツ)
中国出身のアニメーター。中国・北京電影学院で映画の美術教育を受ける。TVアニメ「Fate/Apocrypha」や「バブル」に原画担当として参加したほか、「デカダンス」でデカダンスのデザインを手がけた。また、「チェンソーマン」第5話エンディングで絵コンテ・演出、「BLUE GIANT」ではライブディレクションを担当するなど、活躍の幅を広げている。
ひろまつシュウ (@hiromatsu_shu) | Instagram
福島祐一(フクシマユウイチ)
アニメーションプロデューサー。CloverWorksの執行役員であり、CloverWorksとWIT STUDIOが連携する企画、プロデュース会社・JOENの代表取締役を務める。TVアニメ「Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-」、アニメ「Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-」や「SPY×FAMILY」に携わった。