「衛宮さんちの今日のごはん」×「Fate/Grand Order 英霊食聞録」TAa・十駒マコト・遠藤雅司のほっこり座談会|“Fate×料理” ジャンルに、期待の新作現る! 十駒マコトは、実は「衛宮ごはん」のあの人だった…?

「英霊食聞録」には「FGO」キャラ同士の化学反応を感じる

──「衛宮ごはん」は、TAaさんがお話の流れを決めたあと、只野まことさんが料理のレシピを考え、時には実際に作ってふるまう……という流れで作られていると以前伺いました。「英霊食聞録」はどのように作られていくのでしょう。

遠藤 連載版1話(英国式カレー)を例に挙げますと、「ホームズを登場させたい」といった、出したいキャラクターのリクエストを十駒さんから最初にもらって、関連する料理を調べます。原典である「シャーロック・ホームズ」シリーズの小説にはカレーが2回出てくるので、今回はカレーにするのはどうだろう。カレーというとインド勢のイメージがあるが、ここであえてイギリスでカレーというのもギャップになるかな……と、100本ノック的にネタをお送りします。

「Fate/Grand Order 英霊食聞録」1巻収録の第1話より。

十駒 遠藤さんの資料メール、すごいんですよ……! 打ち合わせでお話してくれる内容もいつも面白い。料理イベントなどで調理の経験も豊富だから、料理の知識だけではなくて写真や作り方も教えていただけるのがマンガ家としてありがたいです。たくさんの資料をもとに、まず私のほうでネームを作って遠藤さんに送ります。

遠藤 その後、返ってきた十駒さんのネームを見るとシェイクスピアとアンデルセンが出てきたので、なるほどイギリスつながりでこう来たのか、彼らにはこういう料理エピソードがありますよ……とさらに紹介して、面白ければ盛り込んでもらっています。こちらとしては10個送って1個くらい使ってもらえるといいかなという気持ち。例えるなら料理監修として私が持ってきた食材を、十駒さんが料理にしてくれて、その料理を見て私が塩コショウをちょっとかけて味を調えたり刺身のツマやパセリを乗せたりと作っています。

TAa カレーのお話は、ホームズで、円卓がいて、さらにシェイクスピアとアンデルセンを入れて、と盛りだくさんなんですがすごく読みやすくて、この回に限らずですがマコトさんのまとめ力すごい…!と思っています。「このキャラとこのキャラが一緒にいたらどんな話をするんだろう?」というのが「FGO」の面白さのひとつだと思っているのですが、「英霊食聞録」にはそのキャラ同士の化学反応を感じます。あと、背景や料理の描き込みも細やかでクオリティが高い……! マコトさんはおひとりで描いているんですか?

十駒 基本は1人ですが、ピンチのときに心強い方に助っ人をお願いしました! 4話は真夜中にずっと村人を描き続けて、「終わらない……」と頭を抱えていました(笑)。遠藤さんがくれる“食材”がいつも豪華絢爛なので、全部使いたくなってしまうんですが、この素材を全部入れられないか、どうやったら生かせるんだろうというのを毎回考えてます。

遠藤 豆知識を全部伝えたくなってしまうので、資料別紙のボリュームがすごいことになるんです。深めの描写が必要かなと感じたポイントも一応書いておくのですが、戻ってくるネームを見るとちゃんと取り込んでくださっている。何度か原稿のやり取りをする中で、なるほど、マンガ家さんにとってこういうポイントが大事なんだな……という勘所がだんだんわかってきました。

十駒 私の料理知識は現代の和・洋・中料理なので、海外の歴史料理となると難しく、古代料理などはどんな味なのかもわかりません。そこを遠藤さんが「こんな感じの香辛料ですよ」「現代に置き換えるとこういう食材です」「残っている文献はこちら」と教えてくれています。

遠藤 一般の方から見るとスパイス専門店などのマニアックな店で食材を仕入れたりもするので、おそらくKADOKAWAさんが普段受け取らないタイプの領収書を送っていますね……。

十駒 監修する立場として、遠藤さんの言っている「ボリュームがどんどん多くなる」ことはすごくわかるんです。「衛宮ごはん」では実際に読者さんに料理を作ってもらいたいという思いがあるので、重要ポイントがどんどん増えて、TAaさんに送る資料もレシピページの文字数が膨大になってきています。1巻のときよりも明らかに文字の圧が大きくなっている……。あと、士郎の料理レベルがどんどんプロに近付いている……。

「衛宮さんちの今日のごはん」7巻収録の第48話より。

TAa 確かに、1話の頃から比べると、みんなの料理のレベルがどんどん上がっていますよね(笑)。セイバーがミルクレープを作る回(48話「イチゴのミルクレープ」)も、桜に手伝ってもらって……という形ではありますが、きれいにできすぎてしまった感もあるので、もう少し失敗したふうに描いてもよかったのかも……とも思います。

遠藤 私はミルクレープの回、すごく好きです! 焼くのに失敗した生地を、ミルクレープの中の層にしてしまうというのがステキだなと。「失敗してもいいんだ」「無駄にしないんだ」という安心感がありました。

十駒 “お店料理モード”だと失敗した生地はこうしないですよね。でも家庭料理として考えたとき、自分がどうするか考えてこうなりました。「衛宮ごはん」は割と“家庭料理モード”で作っています。

遠藤 伝わってきます。「衛宮ごはん」のレシピは、家庭になかなかない器具や材料を使うときは代用品を教えてくれているのも印象的。普段料理をしない人、一人暮らしの人でも挑戦できそうなレシピですよね。

「Fate」ならではの難しさ

──十駒さんは監修する側、される側という“両面”の立場で“Fate×料理ジャンル”に挑んでいます。面白さや難しさはどう感じますか?

十駒 「Fate」シリーズならではの難しさだなと思うのは、史実と「Fate」における歴史が異なることがあること。遠藤さんが出してくれる資料やアイデアは史実寄りのものですが、それをそのまま使うと「Fate」設定と矛盾してしまうときがあるので、その匙加減が難しくも面白いです。例えば、サーヴァントが「英霊食聞録」の中で「昔作った」と言うのはちょっと踏み込みすぎかなと。

──おお……! それは本当に「Fate」ならではのポイントですね。

十駒 「作った」「生前好きな料理だった」などの断定する形で経験や過去の思い出を語らせると、もしかしたら今後出てくる「Fate」設定と矛盾してしまうかもしれないので。

遠藤 その観点で十駒さんがすごく悩んでいたのが3話(古代オリエンタル料理)でしたね。

十駒 そうですね。イスカンダルの東方遠征のエピソードや軍略の話なんかを盛り込みたくなってしまって、編集さんに「歴史料理マンガじゃなくて歴史マンガになってるよ!」と方向修正してもらったりもしました(苦笑)。あとは料理以外でも、過去マスター&サーヴァントの関係であったサーヴァント同士や、敵対した作品があるサーヴァントをどうするかもよく悩みます。

「Fate/Grand Order 英霊食聞録」1巻収録の第4話より。

──確かに、3話のイスカンダルと孔明(ロード・エルメロイⅡ世)や、4話のロビンフッドとナーサリー・ライムなどは、読む人によって関係性の感じ方が変わりそうでした。

十駒 「英霊食聞録」では、藤丸立香が召喚したサーヴァントであることをベースに考えていて、他シリーズでの関係や因縁など前面には押し出さないようにしています。そういえば遠藤さんはロビンとナーサリーが出てくる4話では「資料がない」と嘆いていましたね。

遠藤 そう、資料がほとんど存在していない時代もあるのが監修としては難しいです。4話で扱った中世のイギリスは、料理史的には暗黒時代。庶民が何を食べていたのか具体的にわかるレシピがないんです。貴族のレシピはあるんですが、4話は村人の食がメインなので、断片的なエピソードをシェイクスピアの戯曲やブリューゲルの絵画など複数の物語で拾いつつ、「こういう感じかな?」というのを十駒さんにお送りしています。