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「素敵なダイナマイトスキャンダル」鳥飼茜×柄本佑|女の裸を商売のネタにして、不倫して、遊びまくって……そういうのってどう思う?「総じて茶番だよね」

女装をして、ブラジャーを外すときに妙に恥ずかしかった(柄本)

鳥飼 中盤に出てくるライブペインティングっぽい場面はどうでした? 体中にペンキをかぶって、深夜の商店街を走ったり転がったりしてましたけど。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」より。体に絵の具を塗りたくった末井(柄本)が、素っ裸で街に飛び出すシーン。

柄本 “ストリーキング”ですね。あれはまだ、いわゆる青春パートで。若い末井さんがピンサロの看板描きに行き詰まって、なにか情念を爆発させなきゃと必死になってる。あれも解放感がありました。ただ、撮影がえらい寒い日だったんですよ。

鳥飼 あはは(笑)、そうなんだ。

柄本 なので、素っ裸で夜の街を走り出す瞬間は気持ちよかったんですけど。カットがかかってスタッフの方がカメラ位置を変えている間は、けっこう震えてたような記憶がありますね。何度もテイクを重ねると、前貼りもはがれそうになってきますし(笑)。それら全部をトータルして、寒さと解放感を天秤にかけるとトントンかなあ……。

鳥飼 なるほどー。

柄本佑

柄本 ちなみに僕がガーッと走ってるときに、通りがかりの人が「がんばれよー」って声かけてくれてるんですけど……。

鳥飼 はい、覚えています。

柄本 あの通行人は、たまたま現場に遊びに来られていた末井さんご本人なんです。

鳥飼 へええ、そうなんですね! (文庫本「素敵なダイナマイトスキャンダル」の表紙写真を見ながら)でも、こうやってしみじみ見ると、若い頃の末井さんと柄本さんって似ておられません?

柄本 似てるんですよ。僕も今回のお話をいただいたとき、まずこの原作の女装写真を目にして「あ、なるほどね」って。自分でも納得しました。

鳥飼 ご自身で女装してみた感想はいかがでした?

「素敵なダイナマイトスキャンダル」より。柄本演じる末井の女装シーン。本人曰く、着物の下にはちゃんとブラとパンティーを着用していたとのこと。

柄本 撮影前、末井さんから「ブラジャーとパンティーは女装のスイッチだから、絶対したほうがいいよ」ってアドバイスをいただいたんですね。なので、衣装スタッフの方にバストサイズを測ってもらい、カメラには映りもしない女性ものの下着をわざわざ用意していただいて……。しっかりそれを着用して撮影に臨みました。

鳥飼 じゃあ、この着物の下にはちゃんとブラを着けてるんですね! やっぱり着けたほうが気分はアガッたりするんですか?

柄本 だと思いますよ。もともと俺って、ちょっと女性的なところがあって。妻(安藤サクラ)からはよく「うちの夫婦は、オカマと少年の組み合わせだね」と言われてますので。違和感はなかったです。1つだけ意外だったのは、ブラジャーを外すときに妙に恥ずかしかったこと(笑)。着けるときは全然平気だったのに。撮影が終わって1人で脱ぐときには、もう一方の腕で思わず乳首を隠してしまったという。

鳥飼 誰もいないのに(笑)。それにしても監督さんから「何を考えているのかわからない顔にしてください」的なことを求められて、実際それができちゃう柄本さんがすごいと思う。そういうときって、実際は何考えてるんですか?

柄本 うーん……何考えてたんだろうなあ。本当に何も考えてなかったのかもしれない(笑)。ただ、いわゆる“いい人”に見えてほしくないという気持ちは、強くあった気がします。たとえば先物取引のセールスマンに現金を渡すシーンなんかも、わざと相手がびっくりするタイミングで、机の上に無造作にお金を出したりとか。

鳥飼 うん。あの辺はたしかに、モンスターっぽかった。

柄本 そこは監督と相談をしながら。「ちょっと悪いこと、しちゃおっかな」くらいの方向では考えてたかもしれないです。

鳥飼 私の印象としては、編集者になって髪の毛が短くなったあたりから、末井さんの表情がだんだん虚無的になっていくというか。何もかも吸い込んじゃうブラックホールみたいな怖さがあって。それがこの映画を特別なものにしていると感じました。あと、末井さんの奥さんを演じたあっちゃん(前田敦子)が、とってもよかった!

柄本 あっちゃん、いいですよねー。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」より。末井の妻役を演じる前田敦子。

鳥飼 最初のキャバレーを辞めて失業してた末井さんが、2人暮らしのアパートでまた看板を描き始めるシーン。奥さんがうれしそうに「ちょっと、散らかさないでよ」って言うじゃないですか。あの“昭和の女”感がすごく印象的で。

柄本 その直前に、パタパタって走ってきた奥さんがツツーッと爪先で廊下をすべりながらやってきて引き戸を開けるショットがあるでしょう。

鳥飼 うん、あれ、めっちゃかわいかった!

柄本 冨永監督はあの“廊下すべり”をどうしてもやってほしかったらしくて。ご自分で手本を見せながら、ずっと演技指導してました(笑)。僕は今回、初めてご一緒したんですけど、たぶんあっちゃんにはそういう独特の魅力があるんですね。いろんな監督さんが「俺の思うあっちゃんはこのあっちゃん」という何かを提示したくなるような。

鳥飼 誰もが“俺色”に染め上げたくなる。でも、そんなにかわいかった奥さんが、後半は雰囲気が変わっていくでしょう。なんか、サッチー(野村沙知代)みたいな薄い色つきメガネをかけて、犬を抱いて出てきたりして。「あ、なんかマズイことになってきた……」みたいな感じがビンビンする。前半とのギャップも含めて、あのあっちゃんも特に気に入ってます。って、何かあっちゃんの話ばかりでごめんなさい(笑)。

柄本 全然。あっちゃんは最高ですから。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」
2018年3月17日(土)公開
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
ストーリー

岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。

スタッフ / キャスト
  • 監督・脚本:冨永昌敬
  • 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
  • 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
  • 音楽:菊地成孔、小田朋美
  • 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」

※R15+指定作品

柄本佑(エモトタスク)
柄本佑
1986年12月16日生まれ、東京都出身。2003年公開の映画「美しい夏キリシマ」で主演デビュー。同作で第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞などを受賞する。主な主演作に映画「17歳の風景~少年は何を見たのか」「今日子と修一の場合」、テレビドラマ「シリーズ青春が終わった日 ぼくもいくさに征くのだけれど~竹内浩三・戦時下の詩と生」「生むと生まれるそれからのこと」「おかしな男-渥美清・寅さん夜明け前」「コック刑事の晩餐会」「ROAD TO EDEN」など。公開待機作として主演映画「きみの鳥はうたえる」「LOVERS ON BORDERS」が控える。
鳥飼茜(トリカイアカネ)
鳥飼茜
大阪府出身。2004年に別冊少女フレンド DX ジュリエット(講談社)でデビュー。「ドラマチック」「わかってないのはわたしだけ」を発表する。2010年に青年誌初連載作品「おはようおかえり」をモーニング・ツー(講談社)で開始。代表作に「おんなのいえ」「先生の白い嘘」「地獄のガールフレンド」など。現在は「ロマンス暴風域」を週刊SPA!(扶桑社)、「前略、前進の君」をMaybe!(小学館)で、「マンダリン・ジプシーキャットの籠城」をダ・ヴィンチ(KADOKAWA)で連載中。
ヘアメイク(柄本佑):星野加奈子
スタイリング(柄本佑):林道雄
衣装協力(柄本佑):ジョンスメドレー

2018年3月20日更新