道具は人を幸せにするものである
──ダリヤとカルロの関係性は、久保田さんとお父様に重なる部分が大きいと思いますが、久保田さんにもお子さんがいらっしゃいますよね。鑑賞していて、ご自身とお子さんとのエピソードを思い出した部分もありましたか?
私は家で工作の試作をするときに、3人の子供たちに「お父さん何してるの?」と聞かれても、絶対に「お仕事だよ」と答えていたんです。そうしないと、お父さんが遊んでいるようにしか見えなかったでしょうから(笑)。「これは遊びではないよ」と線を引いていた。そこは自分とカルロが似ている部分かもしれないです。
──久保田さんがお父様から影響を受けたように、久保田さんのお子さんたちも、工作や創作することが好きだったんでしょうか。
次女の描く絵は発想が面白かったですね。長女はしっかりしたものを描くタイプで、長男はあまり作ることは得意ではなかった。それぞれ個性がありました。でも私はカルロと違って、子供たちに自分と同じ芸能の仕事を目指すことを許さなかったんです。
──なぜでしょうか?
私自身はこの世界を、ただただ運だけで生きてきて。努力よりも運に左右される業界だと思っているんです。だから、自分の子には同じ思いをさせたくなかった。でも、仮に“道具を作る人”になりたいというならば、許したと思います。例えば番組制作や、音響、照明や技術のスタッフ。カルロもきっと同じだったんじゃないかな。劇中のセリフにもありましたけど、「道具は人を幸せにするものである」と、私も思っているんです。
──全編を通して、そこはブレない軸として通底していますよね。
幼い頃のダリヤも、「人のために何かを作りたい」という思いが強かったですよね。そうした志が根底にあることに、とても共感しました。ダリヤは生活に必要なものを作るわけですが、モノは人を幸せにするための道具なんです。立派な物理学者であるオッペンハイマーも、人類の豊かさを追求していたのに、それがいつしか原爆の開発につながってしまった。どんなにいい道具を作っても、それをいかに使うかが大事なんですよね。今作にもいろんな道具が出てきますが、「使い方を間違えないでほしい」という、作者の方のメッセージが込められているようにも感じます。
──正しく使ってほしいという。
ダリヤがカルロと作ったドライヤーも、一歩間違えれば火炎放射器ですから(笑)。一方で私の工作は、「つくってあそぼ」というタイトルの通り、遊びのための道具。あれは「こんな遊び方もできるよ」と紹介する番組でした。だからラストシーンではよくゴロリと2人でゲームをしましたね。私はほとんど負けていましたけど(笑)、台本はなく、毎回アドリブでの真剣勝負でした。
──そうだったんですね(笑)。ちなみに、もし久保田さんがダリヤの世界の魔導具師だったら、どんな発明をしますか?
うーん、なんだろう。あ、劇中でこの先のエピソードにコンロが出てくるんですが、とてもいいなと思ったんです。ガス代も要らないし(笑)。ああいう生活に便利なアイテムを作ってみたいですね。
ダリヤの失敗を見てほしい、彼女は絶対にうつむかないから
──劇中にはほかにも魅力的なキャラクターが多数登場しますが、特に印象的だった登場人物は誰ですか?
ガブリエラさんはすごく優しいですよね。「こんな人がいてくれたらみんな助かるだろうな」と思いました。若い人が才能を輝かせられるかどうかって、やはりこういう、しっかり導いてくれる人がいるかいないかに尽きると思うんです。ガブリエラさんのような人がたくさんいたら、日本でも若い起業家がもっと活躍できるだろうなって。自分のバックにもいてほしい存在です。
──ガブリエラは商業ギルドの副ギルド長で、ダリヤをサポートする女性ですね。カルロ亡きあとのダリヤの成長に大きく貢献する、頼もしい人物です。
そうですね。2話でカルロが亡くなったあとのお墓のシーンが、すごく寂しくて印象的で……。ダリヤにガブリエラさんの存在があってよかったなと思いました。
──ちなみに声優の経験もお持ちの久保田さんから見て、「魔導具師ダリヤはうつむかない」のアニメ作品としての魅力はどう映りましたか?
画面の中で背景がすごくしっかり描かれていて、世界観に浸れました。風景を見る限り、イタリアに似た世界観なのかな? そんな想像も膨らみましたね。登場人物の描かれ方もとてもリアルで。実は今回こうしてインタビューに出させていただくにあたり、息子にも一緒に観てもらったんですよ。個人的には、物語にあまり悪役が出てこないことが珍しいなと思ったんですが、息子に「最近はそういう作品が多いよ」と教えてもらいました(笑)。
──トビアスの婚約破棄にはモヤモヤとした視聴者も多かったかもしれないですが(笑)、全体的に心がじんわりと温かくなる作品ですよね。第3話では伯爵家の息子であり魔物討伐部隊のヴォルフが登場しましたが、彼とダリヤが織りなす物語が、第4話以降の軸となっていきます。久保田さん的に、ネタバレを避けつつ、コミックナタリー読者に今後期待してほしいことを語るとすると?
ヴォルフはすごくいい男で、彼とダリヤの関係性がどうなっていくかも気になるところだと思いますが、何より個人的には、ダリヤがいろいろ考えて失敗していく部分を、しっかり観てほしいな。タイトルの通り、彼女は決してうつむかないから。失敗することは当たり前だけど、彼女がそれを乗り越えて、前を見て生きていく姿は素敵です。あと、周りの人々のさりげないセリフも1つひとつに重みがあるので、そういうところも楽しみにしてほしいですね。泡ポンプのエピソードが出てくるんですが、そこでの、ガンドルフィさんの言葉が個人的にはとても響いたので、ぜひ注目してほしいです。
プロフィール
久保田雅人(クボタマサト)
1961年生まれ、東京都出身。中学・高校の教員免許を保持するも役者の道に進むことを決意し、アニメ声優として業界デビュー。1990年4月より、NHK教育テレビジョン(現Eテレ)の工作番組「つくってあそぼ」にわくわくさん役として出演。現在は工作の楽しさを広く伝えるべく、YouTubeチャンネル「【公式】わくわくさんの工作教室」で活動している。特技は落語。