7月より放送中のTVアニメ「魔導具師ダリヤはうつむかない」は、転生者のダリヤ・ロセッティが“魔導具師”として活躍していくさまを描いた物語。ダリヤは魔導具師として、異世界の素材を組み合わせ“ものづくり”を楽しみながらも、そこに直面するさまざまな課題に等身大で向き合っていく。
コミックナタリーでは物語のテーマである“ものづくり”にちなみ、わくわくさんとして知られる久保田雅人にインタビューを実施。工作番組「つくってあそぼ」に長年出演し、番組が終了した今なおYouTubeで工作の楽しさを伝え続けている久保田が、わくわくさんの目線から作品を読み解くと、そこにはものづくりの根源的な楽しさがあった。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / ヨシダヤスシ
TVアニメ「魔導具師ダリヤはうつむかない」第2弾PV
アニメ声優から“わくわくさん”へ
──かつて声優として活動していた経歴を持つ久保田さんですが、普段アニメ作品はご覧になりますか?
あまり新作は観られてないんですが、声優出身なので常に関心を持ってはいます。一番好きなのは「銀河英雄伝説」。あと、子供たちの影響で「銀魂」や「おそ松さん」、「けいおん!」などは観ていましたね。
──わくわくさんとして活動を始める前のお話も少しお聞きしたいのですが、もともとは落語家を志望していたんですよね。
小学生の頃から高校を出るまで落語をやっていました。でも大学に行くにあたって、父親に落語を辞めろと言われて。史学科に入り、日本史の教師になろうと思って、教育実習まで行きました。そんな大学4年の頃、立ち読みした雑誌に、田中真弓さん、三ツ矢雄二さんが立ち上げた劇団の1期生募集の告知が載っていたんですね。応募してみたら受かってしまって。それがこの業界に入るきっかけでした。立ち読みで人生が変わる人って本当にいるんだ、という感じですよね(笑)。その後、「メガゾーン23」というアニメのオーディションを受けて、いきなり主演を務めることになって。
──デビュー作で主役とは、かなりの抜擢ですね。
絶対に受かるわけがないと思っていたんですけどね(笑)。あえて新人を起用したかったみたいです。三ツ矢さんも出演されていましたし、塩沢兼人さんや高木均さん……周りは名だたる方ばかり。その後三ツ矢さんが推薦してくださって、「タッチ」や「陽あたり良好!」などいろんな作品に出させていただきました。そして平成元年、田中真弓さんが推薦してくださって、NHK「つくってあそぼ」の前身番組のオーディションに応募したのが、わくわくさんの始まりです。
──工作はもともとお好きだったんですか?
我々の世代はプラモデルブームや怪獣ブームがあって、自分でいろんなものを作るのが当たり前みたいなところがあったんです。あと、私の父親は普通のサラリーマンだったんですが、大工仕事が大好きで、机を自分で作ったりしていました。だから家には道具がたくさんあったんですね。ノコギリは10種類以上、ノミなんて20本以上。そうした道具の手入れも、父は自分でやっていました。
──では、お父様と一緒に何かを作ることも多かった?
それが子供はあまり触らせてもらえなくて、そんなに機会がなかったですね。記憶に残っているのは、小学2年生の頃。何を思ったか、父が突然「凧を作る」と言い出して。まず竹ごと買ってくるんです。それをナタで割って、小刀で削って、木綿糸で縛っていく。和紙も自分で調整して貼って。できあがった凧が、畳1畳分の大きさ。
──……かなり大きいですね!
でしょう?(笑) あとは1メートル以上あるグライダーを作って、山の中まで飛ばしに行ったり。そういう父を見て育ったんです。道具が家の中にたくさんあったことは、自分にとっては大きかったですね。何かモノを作ろうと思ったら、何より大事なのは材料と道具。そういう意識が自分の中に染み付きました。だから僕は本当に、ダリヤと同じなんですよね。
ダリヤとカルロの“叱らない関係性”に親子愛を感じる
──ダリヤはまさに、魔導具師である父親のカルロのもとで育ったことで、自分も魔導具師を志すようになったわけですもんね。久保田さんは「魔導具師ダリヤはうつむかない」をオンエアに先がけて最終話までご覧になったそうですが、初めて鑑賞したときはどう感じましたか?
わくわくさんとしての視点で、楽しく観させていただきました。まず気になったのは、魔石のエネルギー源。風や火、土などの魔力が込められたもののようですが、「どうなっているんだろう?」と想像を掻き立てられましたね。あとは、ダリヤと父・カルロの親子のシーンにとてもグッときました。カルロが2話で亡くなってしまうのが悲しくて。幼いダリヤとカルロとのシーンをもっともっと見たかったです。親子の会話シーンをもう少し堪能したかったなって。
──ダリヤがドライヤーを作り出そうとしてボヤ騒ぎを起こしてしまったり……そんな一連の出来事も、親子愛や魔導具を生み出すことへの喜びに満ちていて、心が温まりましたよね。
カルロがあまり叱らない関係性が素敵でしたね。僕が工作を教えるうえでも、うまいとか下手とかは言わないようにしているんです。あとは、できあがった作品に対して「何これ?」と聞くのもよくないですね。まずは褒めて、「どうやってこれを作ったの?」と聞いてあげたい。幼いダリヤへのカルロの態度は、まさにそんな印象を受けました。おそらく幼少期のダリヤは、本編に出てきていない部分ではもっとたくさん失敗しているんだろうな、と思うんですよ(笑)。でも失敗というのは、自分が立てた仮説が間違いであったことの証明。それ自体が発見なんです。極端なことを言えば、一番失敗した科学者がノーベル賞を獲るのだろうと僕は思っています。
──久保田さんは「つくってあそぼ」の放送が終わってからも、YouTubeチャンネルなどで工作の楽しさを伝え続けていますが、どういう思いを込めて発信しているんですか?
番組が終わったあとはしばらく雑誌などで工作を紹介していたんですが、全体の工程を伝えやすいのはやはり動画かなと思い、YouTubeを始めました。YouTubeでは、番組でできなかったことを意識していますね。例えば、子供の周りにいる大人の方々に向けた説明。材料がどこで買えるかなんて、番組では言えませんでしたから(笑)。少しでも気軽に工作に挑戦してもらえるように、そうした詳しい説明を大事にしています。
──長年子供たちを見ていて、時代の流れに沿った変化を感じる部分はありますか?
飛び抜けたことをする子が減って、平均的な子が増えた気がします。でもたまに工作教室で、教えたことと全然違うものを作り始めちゃう子がいるんです。私はそれを止めないんですよ。道具と材料を目にしたときに、その子が何をしたいと思ったかが大事。想定外のことを始めても、「試しにやってごらん?」と見守りますね。ハサミでまっすぐ切ればいいところを何度も細かく切る子がいたとしたら、その子は「今自分は、ハサミという道具を使えた! 材料を切れた!」ということに感動を覚えたわけで。そういう思いを大事にしてあげたいと、いつも思っています。
次のページ »
道具は人を幸せにするものである