「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」第3回 古田丈司監督インタビュー|小ネタのすべてをつぎ込んだ「ダブデカ」ワールドの制作秘話 “知らないおじさん”……ではなく、監督が選んだ5つの名場面は?

昨年12月に最終回を迎えたアニメ「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」。全13話の物語に幕を閉じたあとも、「EXTRA」と題した新作エピソード全3話が、2月から4月にかけて配信中だ(参照:「DOUBLE DECKER!」SEVEN-Oは生き続けます!歌あり裏話ありの上映会、新作も)。

放送開始直後から展開しているコミックナタリーでの「DOUBLE DECKER! ダグ&キリル」連載企画も今回が3回目。TVシリーズの放送終了後もまだまだ盛り上がりを見せる「ダブデカ」について、監督を務める古田丈司に話を聞いた。インタビューでは刑事ものの小ネタをつぎ込んだという作中の裏話や、キャスト陣の印象を語ってもらったほか、「知らないおじさんが8倍速で観て適当に選んだ」……わけではなく、「『ダブデカ』を知らない人にも観てほしいこだわりの場面」を5つ、監督に選んでもらった。

取材・文 / はるのおと 撮影 / 入江達也

コメディだけど誰かを下げることはしない……
トラヴィスは別だけど

──監督が「ダブデカ」に参加することになった段階で、作品の方向性はどれくらい決まっていたのでしょうか?

プロデューサーの方々とシリーズ構成の鈴木智尋さん、脚本の吉田恵里香さんの間で大枠は決まっていました。バディもののコメディで、昔からある刑事ものの“あるある”をやりたいという。その頃はもう少しSF要素が強かったんですけどね。

──できあがった作品を観ても上位世界である“ニカイ”の存在やロボットのユリといったSFを感じられる要素がありますが、当初はもっとその匂いが強かったと?

第6話「密着リスヴァレッタ警察24時!」より。ダグとキリルに補導された酔っぱらいが「俺は上(の世界)から来た」と主張する。

はい。“ニカイ”ではロボット同士による宇宙大戦が行われているなんて設定や、相手の特性をスキャンしてキューブ状から変形する武器なんかもありました(笑)。ただそもそもやりたいのは刑事ものだったので、徐々にそういった要素は省略されていったんです。「ダブデカ」はオリジナル作品だったので、世界観や話作りはけっこう好きにやれたんですよ。だから、僕からはスチームパンク感のあるロンドンっぽい世界観にしよう、アクションというよりは刑事ドラマらしさを重視しようという感じで提案していきました。

古田丈司監督

──「ダブデカ」はギャグというかコメディ色の強さも際立っています。制作当初からここまで面白おかしくしようと考えていたのでしょうか?

もともと「コメディ作品は振り切らないと面白くない」とは思っていました。でも第1話のシナリオを作っているときは、演出面でもどこまでやろうか迷いましたね。結局第1話は作品の自己紹介的な意味合いが強いので思いきってコメディに振り、第2話からバランスを取っていったんですけど。

──第1話はサブタイトルからして「二つの太陽にほえろ!」なので、視聴者にとっては期待通りのテイストだったと思います(笑)。ただ本作はシリアスなシーンも時折あります。コメディ要素とのバランス調整が大変だったのでは?

新人のキリルにも頭を下げることになるなど、何かと情けない描写の多いトラヴィス。

例えば刑事・推理ものの作品だと、「あぶない刑事」や「探偵物語」、「SPEC」シリーズなんかもシリアスだけどコメディ要素もあるじゃないですか。その辺の作品のバランス感だったら大丈夫かなとは思いつつ、自分の感覚で調整していきました。でも、これは僕が過去にアイドルものを手がけていた頃から気を付けていることなんですが、コメディとはいえ、誰かを下げるような要素はなるべく入れないようにしています。まあトラヴィスだけは下げてもいいんですけど(笑)。彼は美味しい役回りのキャラクターでした。

モザイクやピー音の下にもこだわりあり

──「ダブデカ」を作るにあたって、何か既存作品を参考にしましたか?

これは自分のルーツであるアニメ「ケロロ軍曹」で学んだことですが(絵コンテや演出として参加)、パロディをするからには根っこの部分でその作品を好きでないといけないと思っています。だから「ダブデカ」の監督をやると決めてからは作業中にずっと海外の刑事・推理ものの作品を流しっぱなしにして、セリフのテンポ感や画面の切り替え方などを学びました。具体的には「SHERLOCK」や「パーソン・オブ・インタレスト」、「GOTHAM/ゴッサム」などですね。

──そういった作品の影響を「ダブデカ」のどんな要素に反映しているのでしょうか?

作中ではSEVEN-Oのビルを定点とした時間経過描写が登場する。

わかりやすいところだとカットの切り替えですね。海外ドラマだと車が迫ってきてアップになると画面が切り替わったり、タイムラプス的な表現で場面が切り替わることが多いので、そのテイストを残そうと採用しました。タイムラプスって手間がかかるからアニメだとあまりやらないですけど、時間の経過がわかりやすいんですよ。あとは刑事ものらしく、警察手帳を見せるといったお約束もなるべく入れています。

──そうした細かなこだわりが「ダブデカ」から感じられる絶妙なベタさを演出しているんですね。視聴者からの反響で印象的なものはありますか?

第6話「密着リスヴァレッタ警察24時!」に対するファンの皆さんのツッコミは面白かったですね。キャストさんにも人気だったし、ちゃんと「警察24時」をやってよかったです。あの話ではモザイクが多用されていますが、あれの下もちゃんと描いているんですよ。作画の方には「手を抜いてもいいですよ」と伝えていたのに(笑)。「申し訳ないからモザイクを気持ち薄くしようか」なんて話も出たくらいです。

──なるほど。モザイクとは異なりますが、全編通じて早見沙織さん演じるディーナはピー音の入ったセリフを多数発していました。あのピー音の下ではどんなことを言っていたのでしょう?

気性の荒いディーナは、トラヴィスに中指を立て、ピー音が入るような言葉で罵倒することもしばしば。

きちんとしゃべっていただいていましたよ。ただ、台本には「ピー」とだけ書いておいて、あとは早見さんのアドリブでした。「いい声しやがって!」とか、基本褒め言葉でしたね(笑)。

──罵倒ではなく、褒め言葉を(笑)。ほかに印象的だった声優さんはいますか?

キリル役の天﨑滉平くんは、そのままキリルなんじゃないかという方でしたね。アフレコが始まった当初は、少し緊張していて固くなっている様子が見受けられました。ただ、音響監督の木村絵理子さんの音頭で、収録後は毎週のように食事会をしていたので、徐々にリラックスして収録に臨まれていたように感じます。あとトラヴィス役の小山力也さんはよく現場を笑わせてくださっていました。アドリブも自由気ままに言っていましたし。

──配役そのままですね(笑)。あと「ダブデカ」の声優と言えば、“語り”を担当された上田燿司さんにも触れざるを得ません。

作品内でバシッとツッコミを入れて笑いを起こせる人を起用しようと考え、上田さんにお願いしました。最初のほうの語りは同じテイストで続けてもらっていましたが、途中で「少し変化を加えてください」とお願いしたら、すごいバリエーションで語ってくださって。それからは、こちらがオーダーする前からいろんなことをやってくださいました(笑)。

上田燿司の語りが多用された特別編「ソウ・シュウヘン」。

──説明役にツッコミ役にと八面六臂の活躍ぶりでした。あそこまでナレーションを多用するのに躊躇はありませんでしたか?

僕の中では、ナレーションというと「ケロロ軍曹」の藤原啓治さんのイメージがあるので多用することに違和感はありませんでした。「ダブデカ」は毎回場所や事件も変わるから説明しなきゃいけない要素が多いんですが、語りを入れるとそこを任せられるので、その分話を濃密にできる。そういう意味では上田さんには非常に助けられました。


2019年5月14日更新