「D.ダイバー」森恒二×武井壮|この作品は“三浦建太郎の形見” 大切に、そして命をかけて紡がれるダークヒーローの物語 (2/2)

もし武井壮がカグラを鍛えるとしたら?

 もし武井さんが「カグラを鍛えてほしい」と頼まれたら、どうします?

武井 カグラくんのいる現実世界と夢の中は相関があるじゃないですか。夢でやられたら現実でアザや傷になったりするので。だから夢の中でも、自分の現実世界のフィジカルの能力が関係してくる。つまりリアルを鍛えると、カグラくんの能力が夢の中で変数みたいな感じで、数十倍になって発揮される。しかも鬼になったことでさらに強化されて、掛け算のように強くなると思うんですよ。

「D.ダイバー」3巻第27話より。夢でケガを負うと現実の身体にも反映されてしまうカグラ。重い傷を受けることも。
「D.ダイバー」3巻第27話より。夢でケガを負うと現実の身体にも反映されてしまうカグラ。重い傷を受けることも。

「D.ダイバー」3巻第27話より。夢でケガを負うと現実の身体にも反映されてしまうカグラ。重い傷を受けることも。

 手の内、読まれてるなあ!(笑)

武井 そう考えると、達人にならないと強くなれないって、けっこう大変じゃないですか。時間もかかるし、恐ろしい労力を要するから。だから僕は十種競技をやるときに、達人たちに勝つのをやめたんです。人生の時間で達人を目指すと、一生かかって1つの道しか行けないって思ったんで。

 うんうん、なるほど。

武井 そこで僕はその達人たちが持っている能力は縦に伸びているから、それを横に倒してそれ以上の幅になればと考えたんです。幅を広げて、各種目のレベルを1つずつ上げていったら、僕は幅と高さの“面”で戦える。高さで負けてても「総合力では全然自分のほうが強えからな!」というのを作りたいと思ったんですよ。僕の体作りは、身体が自分の思った通りに動けば全部のスポーツができるという考えが基本。スポーツはやっぱり物理だと考えているんです。だから「〇〇秒で走るんだったら、一歩ずつ、この種類の力を使うのが一番効率的」と考えて出して、それを一番短い時間で鍛えられる方程式を、自分の体に落とし込んでトレーニングするんです。なのでカグラくんなら、彼が現実世界で手に入れたものは夢の中での能力を飛躍的に、強烈に伸ばせるので、どんなことでも学びに行ったり、トレーニングすると、どんどんいろんな敵を倒せるようになるんじゃないかと思いますね。

左から森恒二、武井壮。

左から森恒二、武井壮。

 いわゆる格闘技って力学的、物理的な面があって、踏み込んで拳へ伝える力が最大限になるためのフォームを考えるんだけども、そこまでちゃんと考えてできてる人間ってあんまりいないんですよ。単に拳に重さを出すために太る、という人も多いし。でも武井さんのようなきちんとした理解があって、それで体をアジャストしてる人だけが最大の力を発揮できるんですよね。その縦のものを横に考える、そして立体的に考えるっていうのは、あらゆることに通ずる成功、いわゆる相手に勝つ秘訣やヒントがある気がして、すごい驚きがあるなあ。

武井 スペシャリストって、隣の違う業界へ行ったらド素人じゃないですか? 格闘技もそうですよね。ボクサーが総合格闘技やってコロッと倒されることってあるし、柔道家がボクシングやって勝てるかっていうと簡単には勝てない。一見似たようなものでも、隣へ行ったらド素人になっちゃうんですよ。それってスポーツもそうだし、勉強もそうで、どれもずーっと伸ばすだけだと、その場所でしか評価されない。そうすると世界一だけが評価される悲しい世界線になっちゃう。だから縦へ伸ばした能力を横へ倒して、さらに面にする作業をすることによって、どこに行っても素人にならない、負けない自分作りになるんです。

「D.ダイバー」2巻第10話より。強靭な敵に立ち向かうため、現実世界から棒を持ち込もうと奮闘するカグラ。

「D.ダイバー」2巻第10話より。強靭な敵に立ち向かうため、現実世界から棒を持ち込もうと奮闘するカグラ。

 それってめちゃくちゃ大事な考え方ですよね。そうだ、武井さんが見る夢って、どんなのがあります?

武井 子供の頃から本当に象徴的なのは、すごい超人的な能力が自分に備わっていて、何かに追っかけられたり攻めてこられて、ビルをピョーンとジャンプして飛び移って移動できたり、駆け抜けたりしてる夢を見て、バッと起きることが多くて。すごい能力だったな、って。

 もともとの力がないと、夢でもそうならないんだろうなあ(笑)。映画の「マトリックス」でもありましたよね、「速く動こうと考えるな。速いと知れ」「心を解き放つんだ」って言うシーン。

武井 はい、そんな感じですね。だから、起きたら夢の中の能力を実践するためのトレーニングを近所でやる、みたいな。

 ヤバいわ、完全にヤバい人だった!(笑)

炎が消えそうなときにこそ、マンガを読む

武井 僕、マンガで漢字覚えてたんですよ。ホントにそれは鮮明に覚えてるんです。池沢早人師さんの「サーキットの狼」って、セリフにルビが振ってなくて、僕は「野郎」を「のろう」って読んでたんです。数年経ってから間違いに気づいて、恥ずかしいと思って。それで漢字を覚えるともっと楽しく読めるんだなと思って漢字の勉強をしたり、出てくる知らないワードを調べたりして楽しんだ結果、知識が膨大になっていきました。マンガは本当に楽しく読めて、想像力も膨らんで、自分の好きな、憧れの自分像みたいな登場人物が何人もいて、しかも知識も手に入るっていうすごいエンタテインメントなんです。本当にいい教材なんで、今の時代こそもっと読まれたらいいのにと思います。だっていまだに、僕は52歳になってもマンガ読んでるわけじゃないですか。僕の知識の大半はマンガとかエンタテインメントから得てるものなんですけど、それは作者の皆さんがいろいろ考察して、いろんな調査をして、それをマンガに落とし込んでいるから。だからマンガを読むのって、難しい本を読むのとなんら変わらない知識が手に入ったりとかするんですよね。だからマンガはこれからも僕の成長の糧です!

「D.ダイバー」1巻

「D.ダイバー」1巻

 その気持ち、大事にしたいっす!

武井 僕はマンガのキャラクターに憧れて、体を鍛えて、知識を磨いてきた人生だったんで、マンガ家の方々には本当に大きなリスペクトがあるんです。それこそ、ちばてつやさんの「あしたのジョー」だとか、子供の頃から戦うマンガとかをほぼほぼ全作品読んでいて、小学生時代に、強くなるための毎日はこう過ごすべきだ、と思うルールを自分でノートに書いて、そのルールをいまだに守ってるんです。

 もう存在がマンガから飛び出してきてる、完全に!

武井 はい(笑)。主人公みたいになりたくて鍛え出したのって、そうならないと生きていけないと思ってたんで……仕方なくやってたんですよ。僕は子供の頃に両親がいなくなっちゃって、小学校の頃にお金がなくなって。父親が借りてくれた家だけはあって、そこに兄弟2人で住んでたんですが、なんとかしてこの境遇から抜け出す能力を手に入れなければと思い、身近にあったスポーツとか格闘技とか勉強、それだけは絶対に身近にいる奴らには負けないと決めて。で、勝つためのルールをノートに書き込んで、それを守ることで自分の防波堤にしてたんです。

 本物だ! やっぱそれは完全にそうだよね、生き方としてね、強くなろうとしてルールを決めるっていうところが、もうマンガの主人公。

左から森恒二、武井壮。

左から森恒二、武井壮。

武井 ノートには「酒飲まない」「こんにゃく食べない」「キュウリ食べない」とか書いてあります。だからいまだに酒飲まないし、キュウリもこんにゃくも食べてないんです。

 酒はわかるけど、キュウリとこんにゃくはなぜ?

武井 体を作らなきゃいけないのに、カロリーのないこんにゃく食べたって、体動かないでしょ? キュウリを食べたってほぼ水分なんだから、それを食べてお腹いっぱいにしちゃったら、栄養素摂れないだろう、とかって適当に書いちゃったんすよ(笑)。昭和の子供だから情報もなかったし、本ぐらいしか見るものなくて。だからよくわからないまま、でも体強くするためなんだからっていろいろわーって書いたんです。これはしない、あれはしないって。もちろん間違ってることもいっぱいあるんですけど、マイルールなんで。

 じゃあそれは今でも?

武井 守ってます。だけどこれだけそのルールで人生を送ってくると、むしろ破るのが怖くて。破ったら弱くなっちゃうんじゃないかとか、先へ進めなくなっちゃうんじゃないかとか思って。「俺は強い」って思ってたくて、いまだにマイルールで自分を守ってるんですよね。

 ビビった。いやいや、マジで!

武井 いやいや(笑)。

  でも一流の格闘家やプロレスラーでも、そこまで行ってる人、あんまいないよね。

左から森恒二、武井壮。

左から森恒二、武井壮。

武井 この歳になると、やっぱりこう、炎が消えそうになることも多々あるんすよ。もういいかなとか、そろそろのんびりしてもいいんじゃないとか、もうだるいから今日はトレーニングいいかなって思っちゃう日もあるけど、そういう日こそマンガを読む。やっぱりマンガって、主人公が成長していく姿を見るためのものだと僕は思ってるんで。そこにはその成長を想像して描いてるマンガ家さんがいるわけじゃないですか。それを描けるってことは、マンガ家さんも知識が増えないと描けないし、描いてるジャンルを理解してないと、「なんだよ、こんなんじゃないよ」ってその現場の人たちから、全然ダメだこのマンガって思われたりもする。だけどそれを超えようとしている、そういう熱を感じるマンガはやっぱり読むし、すげえって思いながら「よし、俺も!」と思って、またジャージに着替えて外に走りに行ったりする自分がいるんです。

 なんか武井さんを見ていて気持ちがいい理由が、実際に話してみてわかりました。

武井 そうやってお互いに刺激し合うって大事ですよね。そして自分の成長の種に水をあげるように、ストーリーから僕はエネルギーを得てるから、マンガに助けられてるんですよ。だからマンガ家さんと対談させてもらえるのって、僕の大きな栄養になる。もう鳥肌が出るぐらい、燃えるものを感じられる瞬間なんで! だから「D.ダイバー」のように新たな切り口や題材で、新たなフィールドをマンガに落とし込んでくださる先生方がいることが面白いし、それに感化されたり、読んで「おっ」と思ったりしたい。なので、僕が「うわ、こんな主人公になりたい!」って思うような作品をどんどん描いてくださることを楽しみにしてます!

 ありがとうございます。がんばります!

左から森恒二、武井壮。

左から森恒二、武井壮。

プロフィール

森恒二(モリコウジ)

1966年生まれ、東京都出身。2000年よりヤングアニマル(白泉社)で「ホーリーランド」を連載。同作は2005年にTVドラマ化され、2012年には韓国でもTVドラマ化された。2008年からはヤングアニマルで「自殺島」を連載。2017年よりイブニング(講談社)で「創世のタイガ」、2019年よりヤングアニマルで「自殺島」の前日譚にあたる「無法島」を連載。2023年からはヤングアニマルで「D.ダイバー」、ヤングアニマル増刊ZERO(白泉社)で「創世のタイガ」第2部を連載中。「ベルセルク」の三浦建太郎とは高校時代からの盟友。2021年の三浦の死去により未完となっていた同作の監修を、2022年より務めている。

武井壮(タケイソウ)

1973年5月6日生まれ、東京都葛飾区出身。陸上十種競技の元日本チャンピオンで、野球、格闘技、陸上、ゴルフなどさまざまなスポーツに挑戦し続ける“百獣の王”。2015年、2018年には世界マスターズ陸上の4×100mリレーで金メダルを獲得。「武井壮のゴルフバッグ担いでください」「パラ道 スピードスター」「憧れの地に家を買おう~住んだ気になる世界紀行バラエティ」など、スポーツ番組やバラエティ番組で活躍。また俳優として、2020年の「8日で死んだ怪獣の12日の物語」や2024年のタイ映画「URANUS2324」、2025年秋のタイTVドラマ「Love Design」など国内外多数の映画に出演。YouTubeチャンネル「武井壮百獣の王国」も日々更新中。