「カッコウの許嫁」店頭装飾コンテスト 結果発表!吉河美希やマガジン編集部からのコメントも到着

「カッコウの許嫁」担当編集・乙黒和彦氏インタビュー

吉河さんは、王道をやったほうが作家としての個性や強みがより出せると思った

──「カッコウの許嫁」はもともと読み切りが好評を博し連載化され、連載当初から話題を集めている作品です。乙黒さんから見て人気の理由はどんなところにあると感じますか?

僕は「カッコウ」から吉河さんの担当になったんですが、新作を始めるための打ち合わせを1年ほどする中で「吉河さんって実はど真ん中のラブコメはまだ描いてないですよね」という話になりました。よくよく考えてみると「ヤンキー君とメガネちゃん」も「山田くんと7人の魔女」もラブコメとしてはひとクセある設定を扱っていると気付いたんです。でも、力のある作家さんほど、僕はど真ん中を描いたほうがいいと思うんです。例えば料理人でも、創作料理より卵焼きとか唐揚げとか定番料理にこそ、本来の実力が出るって言うじゃないですか。吉河さんは、王道をやったほうが作家としての個性や強みがより出せるのではないかと思いまして、「ど真ん中をやってみよう」という方向性で打ち合わせさせていただきました。

「カッコウの許嫁」1巻

──なるほど。

僕としては、むしろヒット作を何本も連載しつつも、ど真ん中を描くことが残っているという作家さんの実力にびっくりもしました。あとこれは偶然ですが、連載がスタートしたタイミングもよかったのかなと思います。ちょうど「五等分の花嫁」などの王道ストーリーラブコメが各誌で終わる時期で、ちょうど読者の求める部分にボールを投げられた部分もあったのではないかと思います。

──すでにたくさんのラブコメ作品がある中で、新しいラブコメを作り出すのは難しさもあるんじゃないでしょうか。

そうですね。週刊少年マガジンで言いますと、王道のラブコメってざっくり分けますと2パターンあるような気がしています。「ドメカノ」(「ドメスティックな彼女」)や「かのかり」(「彼女、お借りします」)など好きな子がいるのに別の子と衝撃的に出会ってしまう三角関係か、「ネギま!」(「魔法先生ネギま!」)や「五等分」といった、たくさんのヒロインと同時に出会ういわゆるハーレムものか。その王道を守りつつ、五つ子ですとかレンタル彼女ですとか、今までにないスパイス要素を入れることで、オリジナリティが出てくるんじゃないかなと思ってます。

さりげない会話ややり取りにキャラクターが出ている

──「カッコウ」も王道でありつつ、取り違えというキャッチーな要素がありますね。その設定はどこから生まれたのでしょうか。

吉河さんと新連載について打ち合わせしている中で、もともと「テラスハウス」のような共同生活ものを描いてみたいというアイデアが吉河さん自身にありました。その打ち合わせをする中で、ご実家が自営業で兄弟がいるという話で盛り上がり、「家族ものも描けそう」みたいな話が出てたんです。そこで「取り違え子」要素を組み込み、描くことは王道ラブコメでありながら、物語の要素として新鮮味のある切り口を入れることで、共同生活ものであったり家族ものであったり、いろんな展開ができそうだという期待感が生まれました。

──とてもコミカルに描かれているのであまり感じませんが、取り違えというのは、実は重いテーマですよね。

普通に描いたら暗くなるような設定ですし、描き方によってはもっとシリアスになってもおかしくない難しいテーマだと思います。ストレートに描くとしたら、例えば「そして父になる」のような物語にもなったと思うのですが、コメディが上手な吉河さんが描くことによって、キャラクターがしっかり悩みつつもバカなことをやっていて、いい意味で軽妙さがあるのが魅力だと思います。

「カッコウの許嫁」イラスト

──ご担当されていて、吉河さん作品のどんなところに魅力を感じますか?

物語を運んでいる途中のキャラの描写が抜群に上手いと思います。1話の中には見せ場があって、基本的にはそこに向かって物語は描かれると思うのですが、そこに行くまでのキャラの会話が自然かつ魅力も出ていているところに才能をとても感じます。決めゼリフとか見せ場だけではなく、さりげないやり取りの中にこそキャラクターは宿ると僕は思っていまして、吉河さんはそういった表現がとても上手で、すべてのページやコマでキャラクターらしく動いている。稀有な才能だと思います。

──なるほど。ちなみに、少年マンガ誌においてラブコメを描くうえで、女性作家さんと男性作家さんの違いは感じますか?

あまり感じることはありません。一般論にはなってしまいますが、男性作家さんは男性にとっての理想が投影された女性キャラクターになるが、女性作家さんは同性である分、丁寧に描かれているみたいな話は聞いたことがあります。

──週刊連載を続けている女性作家さんは多くないですし、とても大変なことを長くやられていますよね。

それは男女問わず本当にすごいと思います。少年マンガ誌で描きたいって思っている時点でメンタル的にも体力的にも非常にタフだと思います。しかも吉河さんは「ヤンメガ」や「山田くん」に引き続き「カッコウ」と3本連続でヒット作を出すって本当に稀な作家さんだと思います。さらに別冊少年マガジンで「柊さんちの吸血事情」を11月号から始めていただくことになっておりまして、2本同時連載となります。本当にすさまじい作家さんだと日々感じております。

王道でありながらも、家族の物語としても面白く読める

──「五等分の花嫁」「彼女、お借りします」などのヒットもあり、ここ数年はマガジンにラブコメ作品がたくさん連載されてますよね。特に最近はラブコメに注力してるのかなという印象があります。

そうですね。僕が連載を決めているわけではありませんが、「女神のカフェテラス」や「甘神さんちの縁結び」や「黒岩メダカに私の可愛いが通じない」などの好調なラブコメ作品がどんどん増えています。最近は「マガジンのラブコメって面白い」みたいなイメージができつつあるのではないかと思っております。

──現在もいろんなタイプのラブコメが連載されていますが、「カッコウの許嫁」ならではの魅力はどんなところにあると思いますか?

入り口は王道ラブコメでありながらも、2つの全然違う家族の交流が描かれていて家族の物語としても面白く読めるのが、ほかのラブコメとは明らかに違うのではないかと思います。少し前の世代ですと、中高生の恋愛に親が介入してくるのって興ざめかなと思うんですけど、今どきの子は親とも仲がよくて、親に恋愛相談する人も増えてるような気がします。映画でも「万引き家族」や「パラサイト」といった家族をテーマにした作品が注目を集めてますし、家族を描くのって現代の人に響くところがあるのかなと感じております。

「カッコウの許嫁」8巻

──では、「カッコウ」の今後の見どころについてお願いします。

ここまで四角関係という形で進んでいましたが、8巻では4人目のヒロインが登場します。幼なじみだけど離れ離れになっていた、かつて主人公が恋をしていた女の子が帰ってくるという展開です。ヒロインが増えて話も広がっていきますので、今後は五角関係に注目していただけるとうれしいです。

──最後に店頭装飾コンテストに参加される書店さんに向けてアドバイスをいただけますか?

もし書店さんの「推しのヒロイン」みたいな子がいらっしゃったら、そういう部分を押し出してくださるといろんなバリエーションが出て面白そうだなと個人的には思います。すでにいろんな書店さんが「カッコウ」のポスターや複製原画を使って盛り上げてくださってるのを見ていて、本当にありがたいなと思っております。吉河さん含めて、編集部もすごく楽しみにしてます!!


2021年11月1日更新