TVアニメ「ビジネスフィッシュ」特集 住田崇監督・永岡卓也(魚脇タイ役)・小野賢章(IKAちゃん役)インタビュー|キャストが「声・動き・表情」すべてを担当!全編モーションキャプチャーで挑んだ新感覚コメディの裏側

7月より放送中のTVアニメ「ビジネスフィッシュ」は “体は人間・頭は魚・職業はサラリーマン”な主人公・魚脇タイが、仕事に“コイ”に奮闘する日々を描いた新感覚コメディだ。監督をドラマ「架空OL日記」や多数のバラエティ番組の演出を手がける住田崇が務め、キャストに永岡卓也、武田玲奈、落合モトキといった俳優陣が名を連ねる本作は、キャラクターボイスと同時にキャストの動作や表情をモーションキャプチャーで撮影し、それを元に3DCG化するという斬新な手法で作られた意欲作。アニメでありながら実写ドラマのようでもある、新しい映像表現にチャレンジした本作の舞台裏について、住田崇監督、魚脇タイ役の永岡卓也、そしてIKAちゃん役の小野賢章に語ってもらった。

取材・文 / 柳川春香 写真 / ヨシダヤスシ

永岡くんの顔が、どんどん魚みたいになっていく

──「ビジネスフィッシュ」の魚脇タイはもともとFacebookやLINEのスタンプにもなっているキャラクターで、私も知ってはいたのですが、TVアニメになると聞いたときは驚きました。まずはどういったところからスタートしたんでしょうか?

住田崇

住田崇 最初は「このキャラクターで、モーションキャプチャーを使ったアニメをやりたい」というお話をもらったんですが、そのときは魚脇タイを使うことだけが決まっていて、あとは楽しんで作っていいと言われたんです。「じゃあオリジナルでいこう」と思って、脚本のオークラくんと「どんな話にする?」って話し合って、(コンセプトデザイン担当の)ニイルセンくんに「こんなのどう?」って言いながらキャラクターを描いてもらって。だからタイと浅瀬課長以外は、全部アニメのオリジナルキャラクターなんです。

──キャストがキャラクターボイスとモーションアクターを両方務める、という制作方法を前提としたオファーだったんでしょうか?

住田 そうですね。

永岡卓也 オーディションもモーションキャプチャー用のスーツを着た状態でやったんです。モーションキャプチャーは初めてだったので、最初は本当に「なんのこっちゃ」という感じでしたけど、やりながら「こういうことか」と徐々に理解していきました。

「ビジネスフィッシュ」より、魚脇タイ。

──永岡さん演じる魚脇タイは、頭が魚で体は人間という奇抜なビジュアルですが、最初の印象はいかがでした?

永岡 最初は絵のイメージというよりも、台本がすごく面白くて。こういうちょっとシュールな笑いというか、コントに近い世界観がもともと好きだったので、「めっちゃやりたい!」と思いました。なので、「頭が魚だから……」みたいな抵抗感はなかったです(笑)。

──自然に受け入れられたんですね(笑)。小野さんはオーディションではなく、住田監督が声をかけたとか。

住田 そうですね。僕が小野くんを提案して、正式にスタッフからオファーしてもらいました。小野くんとは別の仕事で一緒になったことがあって、「コメディが好きそうだな」って雰囲気を感じ取ってたんですよ。

左から小野賢章、永岡卓也。

小野賢章 ふふ(笑)。僕も住田監督なら絶対面白い作品になると思って、内容を聞く前から「OKです!」って感じだったんですが、さらにモーションキャプチャーで収録するって聞いて、今までやったことないやり方で面白そうだなと。しかも撮影が沖縄だったので、「沖縄も行けるしラッキー!」って(笑)。

──えっ、沖縄で撮影されたんですか?

住田 そうなんです。すごく広いスタジオが沖縄にあって。

小野 そこだと高いクオリティで作れるんですよね。

──確かに、作中でもけっこう広い空間の中をキャラクターが移動するシーンがあるので、これをモーションキャプチャーでどう撮っているんだろう?と思っていたんですが、スタジオ自体が広かったんですね。じゃあ皆さんで沖縄に何日か滞在されて?

永岡卓也

住田 20日間くらいかかりましたね。小野くんは途中参加だったので、小旅行って感じだったと思いますが、永岡くんは……地獄を見たよね(笑)。

永岡 もう、ノイローゼになるかと思いました(笑)。

──そんなに過酷だったんですか……?

住田 「ビジネスフィッシュ」はTVアニメのようなアフレコ方式ではなくて、モーションキャプチャーで役者の動きを撮影しながら声も録っているので、セリフも全部覚えて、台本を見ずに演じてもらってるんですね。永岡くんは特にセリフが膨大な量で……人生で一番覚えたんじゃない?

永岡 そうだと思います。台本が見たことないくらい分厚くて、普通のドラマだと主人公が出ていないシーンって割とあるんですけど、タイは全体の97%くらいに出ていて(笑)、しかも出ている間はほとんどしゃべってるんですよ。さらに、あとからCGを乗せるからドラマよりもカメラの台数がたくさん設置できるので、そうすると長回しして一気に撮るということができるんですね。だから今回一番長いシーンでは7分、8分の長回しがあったりして。

小野 もう、舞台ですよね(笑)。

小野賢章

住田 撮影しているうちに永岡くんの顔が魚みたいになっていくんです(笑)。目つきがどんどん変わってきて、みんな近付けなくなってたんだけど、小野くんだけがそれを知らずに普通に接していて。

小野 僕は撮影が始まって10日くらい経った頃に現場に入ったんですよ。来たばっかりで元気もあるし、沖縄だからけっこう浮かれちゃってて。ホテルにプールがあったから、永岡さんに「プール、入っちゃいます!?」って言ったら、もう全然そんなテンションじゃなくて(笑)。

永岡 カメラが回ってないときは、ずっとぐったりしてましたから(笑)。でも、賢章がそうやって接してくれたのは逆に助かりましたね。1日だけオフがあったときも、キャストの皆さんが気を利かせて外に連れ出してくれて、いい気分転換になりました。

本編を観てるとその苦労、全然伝わらない

──お話を聞いていると、撮影に関してはほぼ実写のドラマと同じようなやり方だったんですね。

住田 そうですね。ルックはアニメなんですけど、ほとんどドラマですね。

──膨大なセリフを覚えなきゃいけないうえに、永岡さんはモーションキャプチャーも初めてだったということで、その難しさもありましたか?

永岡卓也

永岡 最初はやっぱり違和感がありましたね。特に役者にとって衣装の存在ってけっこう大きくて、ドラマでも舞台でもキャラクターになるときって、衣装込みで「こういう人間」って提示があるんですけど、今回は実際見えているのは全身タイツみたいなスーツを着た状態ですから。相手がそのキャラクターに「見える」ようになるまで時間がかかりました。

住田 そうだよね、それは時間かかるよね。

永岡 あと、タイは頭部が魚なので、顔がこのへんまであるんですよ(顔から20センチくらい前を指しながら)。だから手の位置を顔のすぐ前に持ってっちゃだめだったりとか、尾びれの位置はこのへんだなって考えながら芝居をするんです。

──モーションキャプチャーを使うアニメは今や少なくないですが、人間と頭の形がここまで違うキャラクターを演じることはなかなかないですよね(笑)。IKAちゃんは頭がイカの形になっているわけですが、その点で困ったことはなかったですか?

「ビジネスフィッシュ」より、IKAちゃん。

小野 IKAちゃんは比較的人間に近いんですが、顎にイカゲソというか触手のようなものがあるので、それを逆にうまく使えないかなと思って、いろいろ試したりはしてました。髪の毛をかきあげるみたいに触手をかきあげるとか、そういうのを映像でできたらうれしいな、と思って練習したり。難しかったのは、表情ですね。リモコンで動かすんですよ。

──え、どういうことですか?

小野 コントローラーに「怒ってる / 笑ってる / 悲しんでる / 喜んでる」って4パターンくらいの表情のボタンがあって、芝居をしながらそれに合った表情のボタンを自分で押すんです。これが難しかった。

永岡 あれは無茶な要望ですよ(笑)。

住田 目の前のカメラで表情を読み取ることもできるんですが、タイとIKAちゃん、(伊勢)えびかちゃん、蛸山さんは顔が人間の顔じゃないので、リモコン式のほうがいい表情が作れるだろうと。でも小野くんはゲームに慣れている世代だから、たぶん大丈夫だったんじゃないかって勝手に思ってます(笑)。蛸山役の竹井(亮介)さんなんかは、まずジョイスティックを持つことに慣れてないから、チンプンカンプンだったみたいで(笑)。

永岡 マイジョイスティックを買って練習されてましたもんね。

──すごいマルチタスクですね……。さまざまなチャレンジと苦労を重ねてできている作品だということが、改めて伝わってきました。

住田 これをね、伝えたいんですよ(笑)。

永岡 本編を観てるとその苦労、全然伝わらないですからね(笑)。

左から永岡卓也、小野賢章。

住田 相当新しいことをやってるんですよね。

──新しい表現方法というと、監督は以前も“バーチャルYouTuberドラマ”と銘打たれた「四月一日さん家の」を手がけていましたよね。もともとCGにお詳しかったりするんでしょうか?

住田 いえ、アニメは好きなんですけど、CGアニメはそんなに観てこなかったですね。CGの仕事が増えたのは、時代の影響だと思います。あと自分のキャラクター的に、ちょっと特殊な作品のオファーが多めなんですかね(笑)。でもモーションキャプチャーという技術は面白いと思ってたし、「四月一日さん家の」をやっていたおかげである程度理解はしていて。今回は助監督やスタッフが実写ドラマのチームだったので、みんながモーションキャプチャーに慣れなくて四苦八苦している中でも、自分はある程度冷静でいられたんじゃないかと思います。