1月より連続2クールで放送中のアニメ「薔薇王の葬列」。菅野文による原作は、シェイクスピアの史劇「ヘンリー六世」「リチャード三世」を原案としたダークファンタジーで、男女2つの性を持って生まれたリチャードを軸に、さまざまな人物の愛憎劇が描かれる。
コミックナタリーでは放送を記念し、「薔薇王の葬列」の特集を全4回にわたって展開していく。第3回には同作の女性キャスト陣より、セシリー役の久川綾、マーガレット王妃役の大原さやか、エリザベス役の伊藤静、アン役の鈴代紗弓が参加。4月10日に放送開始となる第2クールに先がけ、作品の魅力やキャラクターを演じるにあたり意識したこと、印象に残っているシーンについて語り合ってもらった。
取材・文 / カニミソ
ここまでダイレクトに愛憎劇を描くことって、アニメでもあまり類を見ない(久川)
──最初に簡単な自己紹介をお願いいたします。
伊藤静 ヨーク家の長男・エドワードから寵愛を受ける、エリザベス役の伊藤静です。亡き夫の復讐に燃える恐ろしい女です。
久川綾 ヨーク公爵の妻で、エドワード、ジョージ、リチャードの母・セシリー役の久川綾です。同じく恐ろしい女です(笑)。
鈴代紗弓 ヨーク公爵の参謀役であるウォリック伯爵の長女・アン役の鈴代紗弓です。この中では比較的一般人です(笑)。
大原さやか 恐ろしい女3人目(笑)、ヘンリー六世の妻でエドワード王太子の母・マーガレット役の大原さやかです。
──“恐ろしい女”というパワーワードがすでに飛び出してきましたけれども、皆さんはそれぞれキャストに決まってから原作をお読みになったとお聞きしたのですが、まずは原作「薔薇王の葬列」のどのようなところに惹かれたかをお聞きしたいと思います。
伊藤 内容がドロッドロなところですね(笑)。息をつく暇もないほど、次から次へとドロドロした出来事が起きていくので、それが楽しくもあり、薄ら寒くもあって。「面白い面白い」と夢中になって読んでしまい、気付いたら朝でした。
──没頭して一気読みされたと。
久川 私も静ちゃんと同じで、のめり込みました。あまりの凄まじい感情のジェットコースターに「こんな世界があるんだ、すごいな」って、とにかくびっくりしましたし、ここまでダイレクトに愛憎劇を描くことって、アニメでもあまり類を見ないんじゃないかと。そこが一番のインパクトでした。
鈴代 インパクトといえば、はじめに表紙を見て、すごく絵がきれいだなって思ったんですよ。芸術的かつ繊細で、どんな物語なんだろうと思って読んだら、まあって(笑)。
一同 (笑)。
鈴代 実は世界史があまり得意ではなかったのもあって、まず内容を理解するのに、けっこう時間がかかってしまったんですけど、読み進めるごとに気付かされることや、ここが伏線になってたんだと思うところがあって、より深みが増していく感じがしました。
大原 紗弓ちゃんのおっしゃる通り、本当に絵がきれいですよね。先生の描かれる線ってとにかく繊細じゃないですか。ものすごく丁寧に描き込まれているがゆえの、恐ろしいまでの耽美さ。そことダークな世界観とのバランスも絶妙ですし、何より芸術性すら感じる絵柄に反して、とにかく内容がドロドロというところに中毒性を感じました。読んでいてつらいんですよ。なのにやめられない。あの感じはやっぱり独特ですよね。
表情に自分の芝居が負けたくないと思った(伊藤)
──母であるがゆえにリチャードを忌み嫌い殺そうとまでするセシリー、夫のヘンリー六世に代わって敵のヨーク家と戦うマーガレット、目的のためならどんなことも成し遂げるエリザベス、運命に翻弄されながらも芯を曲げずに生きるアンと、それぞれ強烈な個性を持つ女性キャラクターを演じられたわけですが、どのようにキャラクターと向き合っていったのでしょうか。
伊藤 エリザベスの心情を考えながら演じるのはもちろんなんですが、とにかく観ている人をムカつかせたいと思いました。ムカつくセリフの言い回しのパターンをいくつか考えて、実際に声に出して読んだものを録音して「ここをうわずらせたほうがよりムカつくから、こっちを第一候補にしよう」みたいな感じで、感情だけではなく、音でも探っていって。その試みがすごく楽しくて、面白かったです。
久川 楽しそう!
伊藤 エリザベスっていきなり目を見開いて瞳を点にさせたり、「ニタア」と口角をあげて歪ませたり、表情のインパクトがすごいじゃないですか。セリフを言うときの表情に、自分の芝居が負けたくなかったんですよね。まわりの人もみんな濃いから、けっこう何しても大丈夫というか。
久川 浮いたりしないっていう(笑)。私も確かに、画に負けたくないっていうのはあったかも。あとはいかに憎しみを表現するかというのを考えたときに、声のトーンを下げてねっとりと「あなたが嫌いなのよ」って言うよりは、明るく笑って「あなたが嫌いなのよ」って言うほうが気持ち悪いだろうなと思って、そう演じたんですよ。そうしたら、音響監督の岩浪(美和)さんに、「(かなりドスを利かせた声で)『あなたが嫌いなのよ』でやってください」って言われて。そっちのほうが、観ている人がイライラするからなのかな。
伊藤 私も亡き夫の領地を返してほしいとエドワードに請願したあと、弟のアンソニーに、復讐のためにそうするんだって、本心を見せるシーンがあるんですけど、岩浪さんに「もうちょっと悪い面を出して」って言われました。最初の収録だったので、そこまで悪さを出し切れてなくて。癪なので、次からはやりすぎなくらいにして、「ちょっと抑えて」って言われるようにしようって(笑)。毎回戦いでしたね、ある意味。
久川 声のトーンを気にしたりはしましたけど、とにかく憎しみをダイレクトに表現することに、迷いは一切なかったよね。
鈴代 私はアンちゃんが笑うシーンで、毎回庶民感が出てしまって。
──庶民感(笑)。
鈴代 岩浪さんから「彼女は庶民ではなく貴族の娘なので、もう少し品のある笑い方をしてください」って言われた記憶があります。そこはすごく重要だなと思ったので、毎回意識して。あとは「薔薇王」のセリフの言い回しってけっこう独特で、演劇や舞台に近いというか。そういう作品に出させていただくことが初めてだったので、変にデフォルメしすぎず伝わるようにして。尺も長かったり短かったり、けっこう差が激しかった気がするので、どうしてこの長さの尺を取っているのかを、ほかの作品より考えた気がします。
伊藤・久川・大原 (深く頷きながら)うんうん。
大原 私は一番最初に録ったのが、速水(奨)さん演じるヨーク公爵を剣でめった刺しにするシーンからだったんですけど(笑)。
一同 (笑)。
大原 あのシーンを最初のテストで演じたときに、岩浪さんから「ちょっとかわいすぎる」と言われまして。
伊藤 (かわいらしい声で)「えい! えい!」って刺したの?
大原 違うわ(笑)。あの時代の人々は今よりずっと成熟しているので、もっと貫禄を出すようにという指示を受けまして。あと、このアニメ「薔薇王」って、花弁の使い方とかシルエットの見せ方とか演出が本当に舞台的なので、そういうある種のシェイクスピア悲劇の持つ独特の雰囲気をほのかにお芝居に取り入れようと、セリフの言い方を工夫したりもしました。そして何より、マーガレットの心の中の炎は絶対に消さないようにということを意識して。彼女はメラメラと燃え続ける炉のようなものをずっと抱えながら生きていて、おそらくその存在を忘れられたことがないのだろうなあと……なので、静かなセリフも激しいセリフも常にその炎を感じながら演じていましたね。