歌と魔法と絆の物語「アルマギア」すべての始まりを描く姉妹の物語──「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」レポートとキャストインタビューで舞台を追体験

“歌姫音楽プロジェクト”「アルマギア-Project-」の2.5次元舞台「魔法歌劇アルマギア~The Cursed Melody~」が、10月1日から5日にかけて東京・築地本願寺ブディストホールで上演される。前作の舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」では、マンガ「アルマギア」の前日譚に当たるエピソードが描かれた。「魔法歌劇アルマギア~The Cursed Melody~」では、歌と魔法が兵器となった世界で、戦争の真実に気づいた少女たちの絆と戦いの物語が繰り広げられる。

コミックナタリーでは新作公演の上演に合わせ、2023年に東京のシアター1010で披露された舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」を振り返る特集を展開。キャスト陣の熱演と迫力の歌声、美麗な映像演出が融合した舞台の魅力を、レポートやギャラリー、キャストコメントなどを通じて紹介していく。後半にはティアとミアをはじめとする舞台オリジナルキャラクターを演じたキャストのインタビューを掲載している。新作舞台に備え、まずはこの特集を通して前作の世界に触れてみては。

取材・文 / 粕谷太智(P1舞台レポート)、佐藤希(P2ミニインタビュー)

「アルマギア-Project-」とは?
マンガ「アルマギア」1巻

「アルマギア-Project-」は、2014年に発足された“歌姫音楽プロジェクト”。久保ユリカ、小倉唯、徳井青空らを起用したキャラクターソングCD、フルカラーで連載中のマンガなどを通して、歌うことによって魔力を注ぎ込むことのできる“ディーヴァ”と、その魔力によって変身し歌を戦闘力に変える“マーギアー”を軸にした歌と魔法の物語を紡いできた。2023年7月には、総勢13人のキャストが朗読劇、トーク、ライブで観客を楽しませた「朗読歌劇アルマギア」を成功させるなど、「アルマギア」の世界は着実に広がりを見せている。

そんな「アルマギア」が次に踏み出した大きな一歩が、2023年11月に上演された舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」。謎多きディーヴァ・アカネの素性、反乱軍アルマギア誕生の秘密などマンガ版へと連なる“始まりの物語”が、松多壱岱の脚本・演出のもと展開された。前作から約2年を経て、今年10月1日には新作舞台となる「魔法歌劇アルマギア~The Cursed Melody~」が開幕。10月3日にはwebアクションで、水月とーこ作画による舞台のコミカライズ「アルマギア Episode.0」の連載がスタートする。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」あらすじ

優秀なディーヴァの生まれやすい国、イクタル。

その才能を認められた姉妹・ティアとミアは、
イクタルの伝統に則り、次期女王として王家へと迎え入れられ、
教育係のマーブルとケラによって育てられていた。

その頃、隣国のオリジアース帝国はディーヴァを軍事利用し、
近隣諸国を次々と征服していた。

さらなる力を求める帝国では
兵器としての力を持つ“人口ディーヴァ”の開発も実施。

研究の末にできあがったのが、
0号ディーヴァと呼ばれるクラウンテール、そしてアカネであった。

そんな中、帝国軍大佐・ガノインは、
優秀なディーヴァの力に目を付け、イクタルへの侵攻を計画する。

帝国兵であるバジスとラミノーズは、
ディーヴァの軍事利用に反対していたため、捕らえられてしまう。

やがて、帝国のイクタル侵攻が始まる。

立ち向かうティアとミア、マーブルとケラ。

だが圧倒的な戦力の違いに、イクタルは蹂躙されていき……。

舞台公式サイト

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」レポート

「アルマギア」始まりの物語が開幕

重厚なコーラスを伴った不穏な楽曲が、舞台の幕開けを告げると、まず目に飛び込んできたのは、長谷川里桃演じるケラ・ジュリィと、小山璃奈演じるマーブル・ハチェットの姿。優秀なディーヴァの生まれやすい国・イクタルの女王が倒れたとの知らせを聞く2人の表情からも、これが国の存亡にも関わる由々しき事態であることが伝わってくる。ディーヴァを軍事利用し、近隣諸国を次々と征服するオリジアース帝国の魔の手から自国を守るため、2人は女王の後継を務められる強大な力を持った、ディーヴァとマーギアーを探し出すよう言い渡されることに。そして場面は1年後へ。そこには王家に迎えられたティアとミアという双子の姉妹の姿があった。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。左から、マーブル・ハチェット、ケラ・ジュリィ。
舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。左から、ティア・イクタル、ミア・イクタル。

快活で妹を引っ張るディーヴァのティアを天真爛漫に演じるのは太田奈緒。ミア役の高井千帆は、なぜ自分が戦闘を行うマーギアーの力を持つのかと思い悩む彼女の繊細さを細かな表情の変化で観客へ伝えていく。「戦って誰かを傷つけるなんてできません」と下を向くミアへ、その気持ちはみんな同じだと説くのは、マーブルとともに2人の教育係となったケラ。同じマーギアーとして、この力は“守るため”にあることを伝え、「本当に必要なのは優しさ」だとミアの背中を押し、イクタルにとってマーギアーとディーヴァがどんな存在であるかを印象づける。そんなケラの言葉を受け、「国を守りたい」と意気込むティアの歌唱でいざ訓練へ……。しかし、うまく力を操れないミアはその場に倒れ込んでしまう。そんなティアとミアを見て、2人を立派な女王へと育てることを誓ったケラとマーブル。そうして、“始まりの物語”が動き出すのだった。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。

歌が物語の世界へと誘うオープニング

「魔法歌劇アルマギア」の魅力を語るならば、まずはキャストたちによる歌唱に触れたい。プロジェクト発足以降、物語を紡いできた数々の楽曲が、舞台版のキャストによって新たな色が付けられているさまは、これまで「アルマギア-Project-」に触れてきたファンにもぜひ楽しんでもらいたいポイントだ。そしてオープニングで歌われるのが、「アルマギア-Project-」最初の楽曲である「アルマギア」。ディーヴァ、マーギアー問わず11人のキャストとアンサンブルが、次々と登場し歌唱とダンスで楽曲を完成させる様子は圧巻で、キャスト全員の息の合った合唱が観客を一気に物語の世界へと誘う。

バジスのディーヴァ・ラミノーズが初登場

イクタルの征服を目論む帝国側のストーリーでは、バジス・バジス、ククル・マイド、マツリカ・オーナメント、そして舞台版で初登場となるディーヴァのラミノーズを軸に物語が展開される。イクタルサイドとは打って変わって、コミカルなやり取りから始まった4人の会話。マンガ版では反乱軍として帝国と対峙することとなるバジスたちの、かつての生活が明かされるシーンだ。しかし、それも束の間、バジスが「帝国のイクタル侵攻」に関する話題を口にすると、4人に緊張が走る。ディーヴァを軍事利用する帝国のやり方に疑問を持つバジス、強敵との戦いを望みつつも心に引っかかるものがあるククル。会話の中からもそれぞれの考え方が見て取れ、今後彼女たちがどういった動きを見せていくのか、序盤からストーリーに引き込まれる。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。左からバジス・バジス、ラミノーズ、ククル・マイド、マツリカ・オーナメント。

野本ほたるは成熟した考えを持ち皆を引っ張るバジスを好演。そんなバジスを言葉数少なめに支えるラミノーズを反田葉月が可憐に演じ、フェミニンな声ながらも物怖じしない性格のククルは星守紗凪がまさにハマり役。そんなククルと時には一緒になって笑い、時には考えることを促すマツリカ役の岡田夢以は持ち前の歌唱力でも煌めきを見せた。イクタルと帝国、2つの国のディーヴァとマーギアーが描かれたところで物語は戦争へと突入していく。

ディーヴァとマーギアーのハーモニーが作り出す戦闘シーン

戦闘シーンでは舞台の演出にも力が入る。ケラが力強く歌う「Brain maze」に合わせた、ステージ全体を彩る映像を使った演出とアンサンブルによるダンスが観客の目を引く。歌が続く中、ステージ中央からは大きな双剣を手にしたマーブルが現れ、激しい殺陣を披露。マーブルの歌唱も入り、ディーヴァとマーギアーによるハモリは、強い絆で結ばれたディーヴァとマーギアーの関係を感じさせた。明音亜弥演じる帝国のガノイン大佐の強襲を受け、戦うことを決めたミアも、ティアの歌を受け立ち上がる。決意を確かめ合うように2人で歌う「Calling in fight」は徐々に歌声が強くなり、2人が決意を固めていく様子が伝わってきた。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。
舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より、ガノイン。

また戦闘訓練のシーンでは、2人のディーヴァが同時に歌い競うような、さながら“歌合戦”と言える光景も。音が混ざり合う中、きれいな歌声を響かせ続けるティアとケラの歌唱は見事。ミアとマーブルによる戦闘も、歌の力を本当に受け取っているかのように、歌の盛り上がりに合わせて激しさを増していくように感じた。

物語も中盤に差し掛かった頃、姿を見せたのがこの物語の最大の敵であるクラウンテール。浜浦彩乃演じるアカネ・パークライドと同じ、人工ディーヴァとして生み出された彼女は、マーギアーの素質を持たない人にも魔力を与える力を持った存在だ。開発者も「危険すぎる」と忌避し、完成を遅らせていたが、ガノインによって強制的に目覚めさせられてしまう。演じる花奈澪はあえて感情を入れないセリフ回しで、人間の感情を理解できないクラウンテールの恐ろしさを演出。クラウンテールの歌う「狂気 Requiem」をバックに、兵士たちが傀儡のように戦わされるさまは、彼女の中世の貴族を思わせるドレスと相まって舞踏会のように映り、クラウンテールの不気味さをさらに際立出せていた。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より、アカネ・パークライド。
舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より、クラウンテール。

重なり合う歌と殺陣、ヒーロー登場に沸く会場

イクタルで成長を遂げたミアとティアに対して、帝国サイドではククルとマツリカも物語の中で大きな成長を見せる。戦場の凄惨さを目にし、ガノインのむごたらしい言葉も聞き、自らの進む道が定まった2人は意を決して、ガノインに反抗したことで捕らえられていたバジスを救出。その後の戦闘では、マツリカが晴れやかな表情で「fighting love heart」を伸びやかに歌い上げる。激しさのあるこの楽曲をククルもともに熱唱。歌の力を受けたククルの戦闘は圧倒的で、大技で敵を一掃するなど、これまで葛藤を抱えてきた2人が暴れまわる姿は帝国の悪行でもやもやしていた心をスカッとさせる場面でもあった。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。
舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。

満を持してマーギアーとしての力を見せつけるバジスのシーンはカッコよさの詰め合わせ。ラミノーズの「思いっきり暴れちゃって!」の言葉をきっかけに、イントロが鳴り始めるとヒーローの登場にはうってつけのアップテンポなオリジナル曲「justice in song」がスタート。ラミノーズが明るい歌声と笑顔で客席へ届ける。「正義を示すために戦うのなら 立ち向かうんだ きっと大丈夫 ひとりじゃない」という歌詞は、まさに正義感の強いバジスと彼女を支えるラミノーズのことを歌っているよう。さらにディーヴァの力を受けて変身したバジスの力強い歌声が、楽曲に新たな魅力を与える。二丁の銃を手にしたバジスは、客席まで縦横無尽に使いながら敵を蹴散らし、観客からの大きな拍手を受けてラミノーズとともに打倒帝国へと走り出した。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。

戦いを決めたのは“歌の力”、しかし犠牲も大きく……

ディーヴァとマーギアーがなんのために存在するのか、そんな「始まりの物語」にふさわしいテーマを描いてきた舞台もついに最終盤へ。志を同じくし、国を越えて集ったティア、ミア、ケラ、マーブル、マツリカ、ククル、ラミノーズ、バジスの8人。そんな彼女たちに立ちはだかるのが、クラウンテールの力を受けたガノイン。クラウンテールの命令で動く物言わぬ人形のような状態へと変わり果ててしまったガノインとの戦いは熾烈を極め、ついにはマーギアーたちが全員退けられてしまう。そんな状況を救ったのはやはり歌の力だ。ティアの言葉をきっかけに、4人のディーヴァによって歌われる楽曲は「アルマギア」。最終局面での楽曲の再登場に胸が熱くなる。続々と立ち上がるマーギアーたち。そして、バジスの一撃でガノインを討ったかに思ったところで、ラミノーズがガノインの凶刃に倒れてしまう……。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。
舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。

ノイズ混じりの歌声で、ゾンビのように何度でも兵士たちを立ち上がらせるクラウンテール。絶望的な状況の中、クラウンテールの暴走を止めるためアカネが現れる。純白の衣装で、澄み切った歌声を響かせるアカネは救世主そのもの。ダンサーたちを引き連れステージ中央で堂々と歌う姿はアカネの謎めいたキャラクターと相まって神秘的に映った。アカネの「喪失のPrinciple」を聴いた帝国の兵士たちは動きが鈍くなり、一方でバジスをはじめとしたマーギアーたちに力がみなぎっていく。死闘と呼ぶにふさわしい戦いは、アカネの歌声が決め手となり、バジスたちに軍配が上がった。

舞台「魔法歌劇アルマギア~Episode.0~」より。

そして物語は続いていく

ガノイン、クラウンテールという強敵を退けたバジスたちだったが、帝国の侵攻を止められたわけではなかった。みんなを逃がすために、1人戦艦で特攻したケラをラミノーズに続いて失い、ティアたちはイクタルを離れることに。そして月日は経ち、彼女たちは反乱軍・アルマギアを組織。決して下を向かない彼女たちは、アカネの奪還、さらにラミノーズ、マーブルと再び会えることを信じて新たに歩き始める……。「アルマギア-Project-」はこれからも続いていく、愛すべきキャラクターたちを新たに生み出した「魔法歌劇アルマギア」を大切にするとともに、ラミノーズたちとこれから紡がれる物語で再び出会える日を楽しみに待つとしよう。