取材で変な草を食べたり
及川 「Dr.STONE」って取材によく行かれているイメージがあるんですけど、どのくらい行っているんですか?
稲垣 劇中に新しいギミックだったり道具が出てきたときに、取材先が見つかれば行くっていう感じですね。全部が全部行けるわけではないですけど、近場で取材できるところがあればなるたけ行ったほうがいいので。最近だと気球はインパクトありましたね。気球って乗る箱がすごいちっちゃくて、高さも今目の前にあるこの机よりもうちょっと高いくらいしかないんです。飛行機とかヘリコプターだと外部を包まれているから安心感がありますけど、気球だとちょっと僕の気が向いて担当さんを「うえーい」って押したら死ぬんだなって思ったりして(笑)。「アラタプライマル」は何か取材をしてるんですか?
村瀬 連載が始まる前に一度サバイバル体験で千葉の奥地の方に行って、火をつけてみたりナイフ1本で紐を作ってみたりとかやってみたんですけど、楽しかったですね。インストラクターの方が「こういうところの水は飲める」とか教えてくれて。
及川 変な草を食べさせられたりしましたよね。
村瀬 あれは嫌だったな(笑)。あと自衛隊に行ったりもしましたね。自衛隊って「こういう事態になったらこう行動する」っていう動きがけっこう決まっているんです。いい加減に描いていたら自衛隊マニアの方にツッコまれそうだなと思って、元陸上幕僚長の火箱(芳文)さんという方のところに話を聞きに行きました。
稲垣 自衛隊の人、最初のほうで何人か死んじゃってるよね(笑)。
村瀬 「あんな偉い人に取材しておいてこんなあっさり死なせちゃっていいのか?」っていうのはちょっとドキドキしました。でも連載が始まってからは取材する時間が取れてないですね。
及川 毎週「次はこれをやろう」ってなってから急いで調べたりしている感じです。
村瀬 正直、僕は調べ物とかはやりたくないので、僕からすると一番めんどくさいところを任せてしまって、楽しいところだけいただいているという感じがありますね(笑)。ただストーリーに関しては外から見ていて「こうしたら面白くなりそうだからどう?」みたいなのがあれば提案したりしますけど。
及川 今も同じ仕事場で仕事をしているので、そういう連携は割とスムーズですね。逆に作画の面で背景とかナイフの角度だったりみたいな細かいニュアンスを伝えるのに「説明するより自分が描いたほうが速いな」って、下書きまで描いちゃったりすることもあります。
シナリオより演出を重要視する時代
稲垣 原作と作画が同じ仕事場にいて、どっちも補完しあってるって珍しいスタイルだね。
──稲垣先生はBoichi先生とはそんなに顔を合わせて話すことはないですか?
稲垣 ほとんどないですね。会ったのも数回くらい。「Dr.STONE」は僕がネームまで切って、それを担当さんにFAXで送ってそこからBoichi先生に送るっていうごくごく普通のやり方だと思います。「アラタプライマル」は文章原作を村瀬くんに渡しているの?
及川 そうですね。稲垣さんはネームまで切ってますけど、そっちのほうがやりやすいですか?
稲垣 うん。今って演出がすごい大事な時代になっているんじゃないかと思ってまして。昔だったらシナリオありきでそれに合わせてどう演出するかを考えていたんですけど、例えば「このページのめくりに合わせていい演出を持ってくる」みたいな感じで、演出のほうをはるかに重要視しているんです。凝った演出をしたいときにも、文章原作だと作画の先生との間に「これ文量多すぎるんじゃないの」的な齟齬が発生して「原作変えなきゃ無理」みたいなことにもなりかねないので、別々でやっていると文章原作よりはネーム原作のほうが伝えやすいんじゃないかなと。もちろん作画の先生も僕がやったネームをそのまま描くわけじゃないんですけどね。逆に言うと村瀬くんのところは、2人が同じ仕事場でやっているから文章原作でも問題なく進行できそうだよね。
村瀬 まさにおっしゃる通りで、「ここのページ、めくりを考えるとちょっと変えたほうがいいんじゃない」みたいな相談はよくしますね。
稲垣 仕事場が離れているとそういう相談ができないからね。同じ職場でやっていて、文章で原作を渡すことの障害を取っ払えているっていうのはちょっと面白いなって思いました。
「アラタプライマル」1巻の見どころは毛?
及川 「Dr.STONE」で演出的にこだわっているのって、やっぱり科学のアイテムの部分ですか?
稲垣 そうですね。Boichi先生は動きもうまいんですけど、科学的なものを描かせたら右に出るものはいないんじゃないかなっていうくらいSFの素養がすごくある方なんです。だからそこを見せ場にしなくてどうすんねんという話で、回を重ねるごとにそういうところをよりバーンと見せようとシフトしていっています。
──ちなみに「Dr.STONE」は何かしらの科学的なアイテムが先にあって、それを使って何かをしようという形で話作りをするんですか? それともストーリーに当てはめていく形で科学的なアイテムを登場させるんでしょうか。
稲垣 どっちかっていうと後者ですね。キャラクターの目的に到達するために何が必要かってなったときに「これだ!」ってアイデアを出すんですが、つまらないとその案は没に。「じゃあ到達するのに必要でかつ面白いものはなんだろう」って代替案を考えて、すり合わせていく形ですね。それが決まったら「こういうのってできる?」って監修の先生に聞いて。どうしてもできないとパーになるんですけど、大体はなんとかしてくれます。
及川 そういう作り方なんですね。
稲垣 具体的にパーになったものもいくつかあるんですけど、この先使うかもしれないのでここでは伏せておきます(笑)。
──では最後に両作品の読者にメッセージをお願いします。まずは「Dr.STONE」からいただけますか。
稲垣 ジャンプ本誌の方ではちょうど新シリーズに入ってまして、これから全然違うことが始まると思います。とにかく同じパターンは使わないようにしていくというのと、着々とゴールに向かっていますので。7月から始まるTVアニメと併せて楽しんでいただけると。
及川 「アラタプライマル」3話目の新太が火をつけるところは、自分でも描いていてカタルシスを感じる部分だったので、1話から読んでいただけるとうれしいです。あと個人的には、単行本のおまけページでサバイバル知識に関する解説ページを描いているので、そちらも併せて読んでみてください。
村瀬 及川くんが言ったように、新太が火をつけるところが作画的にも派手なのでぜひ見てほしいですね。あとはサーベルタイガーですかね。
稲垣 やっぱり毛?(笑)
村瀬 サーベルタイガーは1巻ではあまり出てこないんですけどね。もう1個手がパンパンになって描いたものに虫もあるんですけど、あまり虫の作画を推すのもどうかと思うので(笑)。1巻はこれからどうなっていくかの入口になるので、ワクワクしていただければ!
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- 及川大輔(オイカワダイスケ)
- 岩手県出身。2007年、集英社が主催する新人マンガ家の登竜門・第73回手塚賞に準入選。「トリコ」のアシスタントを経て、2019年に少年ジャンプ+にて「アラタプライマル」で原作者として連載デビュー。
- 村瀬克俊(ムラセカツトシ)
- 神奈川県出身。週刊少年ジャンプにて「K.O.SEN」「DOIS SOL」、週刊ヤングジャンプ(ともに集英社)にて「モングレル」、少年ジャンプ+にて「カラダ探し」「カラダ探し解」を連載。「カラダ探し」シリーズは累計250万部を突破するヒット作となった。2019年より少年ジャンプ+にて「アラタプライマル」を連載する。
- 稲垣理一郎(イナガキリイチロウ)
- 1976年生まれ。週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)および同誌の増刊にて読切を発表した後、週刊少年ジャンプ(集英社)の主催による第7回ストーリーキングのネーム部門に「アイシールド21」を投稿し同賞史上初となる大賞を受賞する。村田雄介を作画に迎え週刊少年ジャンプにて2002年から2009年まで連載された同作は、アニメ化やゲーム化などさまざまなメディア展開が行われるヒット作となった。2017年からはBoichi作画による「Dr.STONE」を週刊少年ジャンプにて連載しており、第64回小学館漫画賞の少年向け部門を受賞。同作は2019年7月よりTVアニメが放送されることも決定している。