「アラタプライマル」及川大輔(原作)・村瀬克俊(漫画)×「Dr.STONE」稲垣理一郎(原作)座談会|“サバイバル”を共通項に集った3作家、キャラや物語の作り方などそれぞれの創作論を丸裸に

このキャラクター大丈夫?

村瀬 僕、新太のキャラクターを見たときに最初「このキャラクター大丈夫? 嫌われない?」と思ったんですよね(笑)。

「アラタプライマル」より。仲間が欲しかった新太は、まったく必要のない場面で火をつけようと空回りしてしまう。

稲垣 僕も新太に関してはすげえ主人公をぶつけてきたなと思いましたね。あんまり見たことないタイプ。

──新太は「電化製品に近づくと動かなくなってしまう」という体質のせいで幼い頃から周囲に疎まれ集団生活をうまく送れていなかったことから、序盤は周囲のキャラクターとうまくコミュニケーションが取れていませんでしたね。

及川 そんな新太が変化していく部分を見てほしいと思ったんですよね。お話が進んでいくにしたがって成長が待っているので、そこを引き出す意味でもマイナスの部分も見せているというか。

村瀬 最終的に成長した新太の魅力が見せられればいいなっていうね。個人的には親目線になってしまうというか、作中で新太がほかのキャラクターに邪険にされていたりすると、「この子はホントはいい子なんだよ」って思っちゃったりして(笑)。盲目になりすぎるのも良くないので、そういう部分はあまり出さないようにしないといけないですし、読者に本格的に嫌われなければいいなと思っているんですけど。

左から稲垣理一郎、村瀬克俊、及川大輔。

稲垣 ただキャラクターって読者に何かしらの感情を呼び起こさせることが重要で、何も思われなかったらそこに人がいないのと一緒なんだよね。僕は新太のことは嫌いじゃないけど、それこそ新太に対して現段階で「変な奴」と思う読者がいたとしたら、それはキャラクターとして成功だと思うんです。ただの紙に描いてある絵なのに、読者に「こいつ好き」とか「こいついないでほしい」とかっていう感情を抱かせたということは、そこに人がいるということだから。それができている時点で、何も思われないより100億倍いいわけで、そういう意味で新太にはすごく注目してますよ。

千空は阿含を演じた役者が演じている

及川 稲垣先生は「Dr.STONE」の千空をどうやって作ったんですか?

阿含が表紙に登場した「アイシールド21」22巻。

稲垣 僕、人の気持ちを慮らないでズケズケと本質論を言うキャラクターってけっこう好きなんですよね。僕自身もそうしたいと考えている部分があるんですけど、社会人なのでそうしきれないところもあって(笑)。そんな中で前に僕が描いていた「アイシールド21」というアメフトマンガの中で、気に入って筆が乗って描いていたキャラクターの1人に阿含(あごん)っていう悪役がおりまして。

──「100年に1人の天才」と言われ、頭脳にも身体能力にも恵まれたキャラクターですね。

稲垣 阿含は自分の欲望中心に動いて、人の気持ちを考えずにズケズケと口汚いことを言う奴なんですが、僕の好きなキャラクターなんですよね。「Dr.STONE」の主人公が理系になるのは間違いなかったので「阿含が理系の天才だったらおもしれえな」と思って。自分の中のどこかに住んでいる阿含の役者さんに「前回の『アイシールド』では君の悪いところをすべて出して演技をしてもらったと思うけど、今回は君のいいところを全部出して好きに演技してください」って言って演技してもらっているみたいな気持ちでいます。

──そうなんですね。読んでいると同じく「アイシールド21」に出てくるヒル魔に似ている部分があるのかなとも思っていたのですが。

「Dr.STONE」より。大切な友人の1人である獅子王司を自らの手でコールドスリープさせることになった千空は、彼が眠りに落ちるまで他愛ない話を続ける。

稲垣 それはおそらく造形に引っ張られているところがあると思うんですよ。ヒル魔は千空ほどウェットじゃないので、ヒル魔の役者さんにこの演技はできないかもですね。

村瀬 役者とか演技っていうのはどういう考え方なんですか?

稲垣 マンガ家としてはキャラクターの人格っていっぱい持っておかないといけないじゃないですか。ただ僕らは超人ではないので無限には出ないし、せいぜい抱えられる人格って数十人とかになっちゃうので、その中で使い回していくしかない。でも被っちゃってもつまらないから、自分の中で役者っていう設定にして、出てきてもらうたびに違う演技プランを伝えると、同じ人格でも違う部分がちょっと出てくるんです。自分の中でそういう仮設定を作って描いている感じですね。

──及川先生はキャラを肉付けするときにどのように作っているんでしょう。

及川 僕の場合はそのとき主人公が置かれているシチュエーションでどう動いたらキャラクターが立つかな、面白いかなって考えながら作っています。もちろんキャラクター性に則ってですけど。それで動かしていると自分の中にはないものがいきなり出てきたりするので、そこがハマったときは「やったな」って思います。

サバイバルものの大変なところは2つ

──「アラタプライマル」と「Dr.STONE」はいずれもサバイバル要素を含んだ作品という共通点がありますが、描いていて大変なのはどんな部分でしょう?

「Dr.STONE」より。千空と大樹はゼロから文明を作り出すことを決意する。

稲垣 僕はサバイバルものって大変なところと、大変じゃないところがはっきり分かれているジャンルだと思うんですよ。大変じゃないのは主人公のモチベーションに必ず共感できるところ。なぜなら人は必ず生きたいから、ピンチになったとき、不快な居住環境に陥ったときにそれを改善したいっていうのは誰もが思うじゃないですか。普通はキャラクターのモチベーションのレールに読者を乗せるのに一苦労なんですけどサバイバルものは組み立てやすい。

──確かに、例えばアメフトの大会で優勝したいというのは、誰もが共感できるモチベーションではないかもしれないですね。

稲垣 逆につらいところは大きく2カ所だと思うんですけど、ひとつは嘘がつきづらい。ファンタジーマンガに比べて、すごくインチキがしづらいところがあって。それこそ「Dr.STONE」だったら石化するっていうのはファンタジーなんですけど、それ以外のところに関してはマンガ的な誇張は許されても、ファンタジーは許されてないと思うんですよね。160kmの球を打ち返すキャラがいるのはいいけど、銃弾を指で止めるようなキャラや超能力を使うキャラが出てきたらダメだろうと。

「アラタプライマル」のカラーカット。

村瀬 確かに「アラタプライマル」もそういう部分はありますね。タイムトラベルの要素は入っているんですけど、それ以外の部分はどこかリアリティを感じさせるような幅でやっていきたいなというか。すごいド派手なシーンがありつつも、あり得そうだっていうのを感じさせるレベルのことをやっていきたいなと。

稲垣 そうだよね。そしてもう1点は、生き残りたい、快適な環境になりたいっていうレールに読者のモチベーションを乗せるのは簡単なんですけど、逆に生き残れることが確定していくに従って、そのモチベーションを維持させるのが難しくなっていく。「そこもうクリアしてるじゃん」となっちゃうので。最終目標をどこに置くのか、主人公は何がしたい人なのかっていうところを組み立ててゴールに向かっていくのが難しいジャンルなんじゃないかなと思います。

及川 すごい、もう全部言っていただいた感じですね(笑)。

稲垣 作画の面で大変なのはどういうところなの?

「アラタプライマル」では原始時代の動物や昆虫が緻密に描き込まれている。

村瀬 「アラタプライマル」で言えば、やっぱり動物とか虫ですかね。骨の一部しか見つかってないような動物が多くて、それっぽく見えればいいですし、模様とか毛の長さはいじり放題で個人的には遊べるポイントではあるんです。ただサーベルタイガーをはじめ動物の毛は1本1本描き込んでますし、昆虫も「どこから足生えているんだ」みたいなことを調べながら描き込んでいるので、手がパンパンになりますね(笑)。

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及川大輔(オイカワダイスケ)
及川大輔
岩手県出身。2007年、集英社が主催する新人マンガ家の登竜門・第73回手塚賞に準入選。「トリコ」のアシスタントを経て、2019年に少年ジャンプ+にて「アラタプライマル」で原作者として連載デビュー。
村瀬克俊(ムラセカツトシ)
村瀬克俊
神奈川県出身。週刊少年ジャンプにて「K.O.SEN」「DOIS SOL」、週刊ヤングジャンプ(ともに集英社)にて「モングレル」、少年ジャンプ+にて「カラダ探し」「カラダ探し解」を連載。「カラダ探し」シリーズは累計250万部を突破するヒット作となった。2019年より少年ジャンプ+にて「アラタプライマル」を連載する。
稲垣理一郎(イナガキリイチロウ)
稲垣理一郎
1976年生まれ。週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)および同誌の増刊にて読切を発表した後、週刊少年ジャンプ(集英社)の主催による第7回ストーリーキングのネーム部門に「アイシールド21」を投稿し同賞史上初となる大賞を受賞する。村田雄介を作画に迎え週刊少年ジャンプにて2002年から2009年まで連載された同作は、アニメ化やゲーム化などさまざまなメディア展開が行われるヒット作となった。2017年からはBoichi作画による「Dr.STONE」を週刊少年ジャンプにて連載しており、第64回小学館漫画賞の少年向け部門を受賞。同作は2019年7月よりTVアニメが放送されることも決定している。